ペテネーラ(Petenera)【フラメンコ音楽論17】

フラメンコ音楽論では前回、3.3.2.2.2型コンパスの概要と、その代表形式であるグアヒーラの解説をしましたが、今回は3.3.2.2.2型コンパスの形式をもう一つご紹介します。

今回解説するのは、踊りの形式としてはややマイナーですが、とても美しくドラマチックな節回しをもつペテネーラです。

ペテネーラ形式概要

単数形:Petenera
複数形:
Peteneras
主な調性:
ポルアリーバ(Eスパニッシュ調)
テンポ:
90BPMから150BPM

ペテネーラは、ヒターノの間では「不幸を招く歌」として敬遠されている曰く付きの歌です。

ペテネーラの起源は古く、18世紀頃にペテルナ・デ・リベラ(カディス県)出身のラ・ペテネーラという女性歌手によって創唱されたと言われていますが、彼女は美人で非常にモテたようで、嫉妬に狂った彼氏に殺されてしまう、という亡くなり方をしたと伝えられています。

その他にも、この曲を歌った後、不幸に見舞われるという事例が何度も重なったそうで、そういった数々のエピソードがヒターノ社会で根強く残る忌避感を生んでいるのですが、同時に、この形式の神秘性を高めているという事もあるのではないでしょうか。

とても良い歌なので、そういう先入観によって演奏や発展の機会が奪われているのはもったいないとは思いますが……。

ペテネーラは3.3.2.2.2型のコンパスで演奏され、テンポはグアヒーラよりゆっくりなイメージがありますが、スタイルによってはかなり速いテンポの演奏もあり、概ね90BPMから150BPMくらいの範囲です。

カンテソロの場合、最後のリフレイン以外の部分は自由リズムにして歌うことが多いです。

録音に残っている初期のスタイルでは、ニーニャ・デ・ロス・ペイネス(La Niña de los Peines)の歌唱が有名ですが、いつ頃から3.3.2.2.2型のコンパスで歌われるようになったか?などの詳細は不明です。

ペテネーラの調性

ペテネーラの演奏キーはポルアリーバ(Eスパニッシュ調)です。

ただし、曲の部分部分でルートコードがAmやCに移り変わっているような印象で、そのあたりは民謡系12拍子のカーニャバンベーラなどと同様でしょうか。

カポタストの位置は、歌によって結構音域が違うようで、女性歌手は4カポ(実音G♯スパニッシュ調)から6カポ(実音B♭スパニッシュ調)、男性歌手はカポ無し(Eスパニッシュ調)から2カポ(実音F♯スパニッシュ調)あたりが中心です。

ペテネーラのコードワーク

ギターのマルカールは、以下のような2コンパスサイクルの進行がベースとなります。1小節3拍、1行で1コンパス(12拍)です。

|E7|E7|Am|Am|
|G|F|E7|E7|

バイレでは、ソレアソレア・ポル・ブレリアの振り付けやサパテアードパターンが流用されたりするので、伴奏もソレアなどと同様のパターンが使われる事もありますが、要所要所で上記の2コンパスパターンを入れることでペテネーラ形式であることが強調されます。

ペテネーラの歌

歌の構成は、以下に示す通り4つのセクションに分けられ、1つのセクションは3コンパスのサイズですが、歌い方によってはメディオコンパス単位の伸縮があります。

  1. 前フリ(1コンパス)
  2. Aメロ(3コンパス)
    メインメロディーの提示部。最後のリフレインよりサラッと歌われる
  3. Bメロ(3コンパス)
    Cメジャーキーから入る展開パート。カンテソロの場合、ファンダンゴのような感じの自由リズムになる事もある
  4. リフレイン(3コンパス)
    Aメロよりハッキリしたコンパスでメインメロディーを歌う

ペテネーラの歌のコード進行

ペテネーラの歌伴奏は同じメロディーでもギタリストによってコード付けが異なる事もありますが、ここでは最も一般的な進行をご紹介します。コード進行表の書式は以下の通り。

  • 変則5拍子の1拍目=12拍子でいう12拍目を頭にした3拍子で記載
  • 1行でメディオコンパス(6拍)
  • ○はコードチェンジ無しの拍
  • 複数よ可能性のあるコードは「,」で区切る
  • キーはポルアリーバ(Eスパニッシュ調)で記載
  • コンテスタシオン(合いの手)は歌が休みになる部分で、普通は0コンパス(コンテスタシオン無し)から2コンパス
  • メディオコンパス単位で長さが変化することがある

前フリ
|F ○ ○|○ ○ ○|
|E ○ ○|○ ○ ○|

コンテスタシオン

Aメロ(メインメロディ提示)
|Am ○ ○|E7 ○ ○|
|Am ○ ○|○ ○ ○|

|Am ○ ○|D7 ○ ○|
|G ○ ○|○ ○ ○|

|G ○ ○|F ○ ○|
|E ○ ○|○ ○ ○|

Bメロ(リブレになることもある)
|C ○ ○|G ○ ○|
|C ○ ○|○ ○ ○|

|Am ○ ○|G ○ ○|
|F ○ ○|E ○ ○|

|G ○ ○|F ○ ○|
|E ○ ○|○ ○ ○|

リフレイン
|Am ○ ○|E7 ○ ○|
|Am ○ ○|○ ○ ○|

|Am ○ ○|D7 ○ ○|
|G ○ ○|○ ○ ○|

|G ○ ○|F ○ ○|
|E ○ ○|○ ○ ○|

ディグリー(度数)表記版

前フリ
|♭Ⅱ ○ ○|○ ○ ○|
|Ⅰ ○ ○|○ ○ ○|

コンテスタシオン

Aメロ(メインメロディ提示)
|Ⅳm ○ ○|Ⅰ7 ○ ○|
|Ⅳm ○ ○|○ ○ ○|

|Ⅳm ○ ○|♭Ⅶ7 ○ ○|
|♭Ⅲ ○ ○|○ ○ ○|

|♭Ⅲ ○ ○|♭Ⅱ ○ ○|
|Ⅰ ○ ○|○ ○ ○|

Bメロ(リブレになることもある)
|♭Ⅵ ○ ○|♭Ⅲ ○ ○|
|♭Ⅵ ○ ○|○ ○ ○|

|Ⅳm ○ ○|♭Ⅲ ○ ○|
|♭Ⅱ ○ ○|Ⅰ ○ ○|

|♭Ⅲ ○ ○|♭Ⅱ ○ ○|
|Ⅰ ○ ○|○ ○ ○|

リフレイン
|Ⅳm ○ ○|Ⅰ ○ ○|
|Ⅳm ○ ○|○ ○ ○|

|Ⅳm ○ ○|♭Ⅶ7 ○ ○|
|♭Ⅲ ○ ○|○ ○ ○|

|♭Ⅲ ○ ○|♭Ⅱ ○ ○|
|Ⅰ ○ ○|○ ○ ○|

別パターンの歌

ペテネーラの歌はいくつかのバリエーションがありますが、上の進行の他に良く歌われるもののコード進行を書いておきます。

Aメロのバリエーションとして、以下の2つのパターンが良く歌われます。1小節3拍、1行1コンパス(12拍)です。

パターン1
|Am|F|E|E|
|E|D7|G|G|
|G|F|E|E|

パターン2
|Am|G|C|F|
|E|E|(メディオコンパス)
|G|F|E|E|

また、リフレインのバリエーションとして以下のようなものがあります。

|Am|F|E|E|
|C|G|G|C|
|G|F|E|E|

これらのバリエーションも、演者によってサイズやコード付けが異なってくるので注意して下さい。

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