左手の基本【Webで学ぶフラメンコギター09】

『Webで学ぶフラメンコギター』では、前回までフラメンコギター奏法の右手のテクニックを中心にやってきました。

今回からはフラメンコギターの左手のテクニックに移っていきます。

左手のテクニックに関しては、純粋な技術的なことだけでなく、コードやスケールの運指法なども含まれてくるので、かなり多岐に渡ることになりますが、文章で伝えられる限りの事をまとめておきたいと思います。

フラメンコギター演奏の基本的発想

フラメンコギターの基本は、踊りや歌に対してコンパスを提供しつつ、歌が入ったらコードを歌に合わせ、踊りのサパテアードが入れば最適な伴奏パターンを繰り出し、イントロや間奏ではファルセータを弾く、というものです。

ファルセータは一般の音楽のイントロパートやソロパートみたいなものですが、普通の音楽のソロパートと違い、コード進行やサイズ(は指定される場合もあるし、4~8コンパスが無難)も自由に弾いて良いものです。

ファルセータに関しては、作曲したものを用意するか、基本のラインだけ決めておいて細かいところは即興で処理する、といったやりかたが主流です。

ジャズみたいな完全な即興はあまりやりません。

独奏に関しては、完全にギタリストの自由にやって良いものですが、今書いたように、フラメンコギターは『伴奏+ファルセータ』という発展の仕方をしてきたため、独奏も伴奏用ファルセータの集合体+αというようなスタイルが大半です。

このあたりの事は、以前『フラメンコ音楽論』で詳しく書いていますので、ご参照ください。

フラメンコの演奏フォーマット【フラメンコ音楽論03】
フラメンコ音楽論 第3回です。フラメンコには独自の演奏フォーマットがありますが、今回は他の音楽ジャンルと発想が異なっている部分を重点解説します。

左手の運指に関しても、こうした伴奏楽器としての要求に即したものとなっていて、ファルセータや独奏と言えども、フラメンコ特有の運指法をベースにして作るのが基本です。

今回はこの『フラメンコギターの運指法』ということを考えます。

他ジャンルとの運指法の違い

まずは『他ジャンルのギターをやっていてフラメンコギターに挑戦したい』という方にも分かりやすいように、他のジャンルのギターとフラメンコギターの運指法の違いを書いてみます。

クラシックギターとの違い

譜面使用が前提の独奏楽器として発達したクラシックギターと、即応性が求められる伴奏楽器として発展してきたフラメンコギターでは、運指の考え方が根本的に異なります。

クラシックギターは『譜面に書かれた音を少しでも効率良く弾く』という運指なので、コードフォームというのはあまり意識されず、全てケースバイケースの運指になります。

それに対して、フラメンコギターは即興性・対応力を重視した結果、コードフォームをベースに、ある程度パターン化された運指となります。

フォークギターとの違い

次に、フラメンコと同じくコード伴奏主体に発展したフォークギターと比較してみましょう。

フォークギターは弾き語りのスタイルが多く、あくまで歌と歌詞が主役で、ギターはそれを効果的に聴かせるための伴奏に徹しています。

コードフォーム等は歌いながら押さえられるシンプルなものが中心になり、イントロや間奏もシンプルな演奏で済ます場合がほとんどです。

それに対して、フラメンコギターは歌とギターが分業されていて、ギターはより複雑な演奏を求められるし、特殊なコードの響きやギターの技巧を聴かせる度合いが高いです。

ですので、フラメンコギターはフォークギターに比べると、メロディー+ベース音という処理が増えるし、一般的なコードフォームから外れた特殊な動きも多くなります。

ただし、フォークギター(鉄弦アコギ)を使用すると言っても、近年の鉄弦ソロギタースタイル(トミー・エマニュエルとか、押尾コータローとか)は、遥かに複雑化していているので別物と思ってください。

鉄弦ソロギターは、奏者によるスタイルの違いが大きいため、一般化して比較解説するのは難しいです。

エレキギターとの違い

ここで言うエレキギターは、一般的なロックやポップスでのプレイを想定していますが、バッキング(コードカッティング、リフ、アルペジオ)とソロ(単音プレイ)が完全に別物として捉えられることが多く、コードフォームを押さえたままメロディーを弾くという発想も薄いので(クリシェということになる)、これもフラメンコギターの運指とは全く異なります。

ディストーションさせて音を歪ませている場合は、バッキングは5度コードや省略コードが多く、ソロになるとほぼスケールのみの意識になって、完全に旋律楽器の感覚で弾かれます。

クリーントーンのプレイでは、フルコードやテンションコードの使用も増えますが『定形パターンでのバッキング+スケールでのソロ』という基本的発想はディストーションさせている時とそんなに変わりません。

そして、コード進行もソロのサイズもアレンジとして明確に決められているのが普通です。

このあたりは、音楽ジャンルや奏者でかなり変わるので、やや乱暴な言い方かもしれませんが、状況を見ながらリアルタイムで伴奏パターンやファルセータを切り替えていくのが標準になっているフラメンコギターとはプレイの発想や運指法が異なります。

ジャズギターとの違い

ジャズギターはエレキギターのクリーントーンのプレイが中心で、バンド編成ではソロとバッキングが明確に分かれる事が多いですが、トリオ以下の少人数の場合など、ソロギター的なスタイルに近くなることもあります。

ジャズギターはロックやポップスほどパターン処理的では無くて、即興でコードとメロディーを同時に弾いたりして、コード進行も即興でリハーモナイズしたりするので、客観的にはフラメンコに近い演奏フォーマットかな?とも思えます。

でも、実際には使うフレーズやコードボイシング(ジャズギターは普通3~4和音)や、コードチェンジの間隔(ジャズのほうが細かい)や、右手のテクニックも全く違うので、弾いている感覚はかけ離れたものです。

リハーモナイズに関しても、ジャズの場合はスタンダード曲などの、あらかじめ決められた基本進行サイズの範囲内でやりますが、フラメンコの伴奏の場合は、歌のロングトーンの伸ばし具合とか、踊りの足のパターンの入り具合で咄嗟に変えたり、そもそもの目的や考え方が違います。

――今解説したような事はあくまでも一般論で、個別の例外は沢山あるのですが、フラメンコギターと他ジャンルの発想の違いと、その結果生じる運指法の違いがなんとなく見えてきたのではないでしょうか。

少し前置きが長くなってしまいましたが、ここからフラメンコギターの左手のテクニックの具体的な話をしていきます。

フラメンコ奏法 左手の特徴

フラメンコギターの左手に関して、メカニカルな事は右手ほど特殊なものはありませんが、運指はフラメンコ特有の傾向があると思うので列挙していきます。

コードフォームがベースになった動き

フラメンコギターは伴奏楽器として発展してきた、ということがあり、周囲の変化に即応するために、シンプルなコードフォームをベースにした運指で演奏されてきました。

メロディーを弾く場合もコードフォームを押さえながら弾く場合が多いのが最大の特徴です。

セーハフォームの多用

今言った通り、フラメンコギターはコードフォームやベース音を押さえたままメロディーを弾くことが多いので、必然的にセーハフォームが多くなります。

フラメンコギターがクラシックギター等より弦高が低く作られているのは、セーハのしやすさというのも一つの理由だと思います。

解放弦・オープンコードの多用

フラメンコギターは伴奏での即応性を追及した結果、ポジション移動無しで咄嗟にコードチェンジできるオープンコードフォームを使う場面が多くなっています。

ピカードなども解放弦を絡めることで左手でフレットを押さえる回数が減らせて、そのぶんスピードを上げることができるので、オープンコードフォームをベースにしたスケールが好んで使われます。

ただ、この解放弦入りのスケールフォームはエレキギターの速弾きに慣れていると、逆に難しく感じるということがあって、自分も慣れるまで苦労しました。

解放弦が活用しやすいキー

解放弦を多用するということは、必然的に使用されるキーも限定されてきます。

フラメンコで良く使われるキーは以下の通りです。

6弦解放を活用
Eメジャー、Eマイナー、ポル・アリーバ(Eスパニッシュ)

5弦解放を活用
Aメジャー、Aマイナー、ポル・メディオ(Aスパニッシュ)

平行調系(上記6つのキーの平行調)
Cメジャー、Gメジャー、C♯スパニッシュ、G♯スパニッシュなど

その他よく使われるキー
ポル・タラント(F♯スパニッシュ)

スパニッシュ調(ミの旋法)に関してはフラメンコ音楽論 第4回講座を参考にしてください。

フラメンコで使われる音階とコード【フラメンコ音楽論04】
フラメンコ音楽論 第4回はフラメンコ音楽で使われる音階(スケール・モード)と和音(コード)の基本です。フラメンコ独特の『ミの旋法』を中心にやります。

コードの一部を押さえたままベースラインを動かす

ポルアリーバやポルメディオの♭Ⅱ→Ⅰコードの解決の時よく出てくる常套フレーズに、FやB♭コードの一部を押さえたままベースを動かしてメロディーを弾く、という動きが多くあります。

よくやるのが、アルペジオやアルサプアを組み合わせて右手親指でメロディーラインを出すパターンです。

これは特殊な押さえ方になるし、コードネームも変なオンコードになるし、他のジャンルではあまりやらないと思いますが、フラメンコでは物凄く多用されるものです。

ポル・メディオで使われる形
左手奏法 ポルメディオ

ポル・アリーバで使われる形
左手奏法 ポル・アリーバ

ストレッチフォームの多用

左手の指を大きく開くストレッチフォームですが、フラメンコではコードフォームでセーハしたままピカードやアルペジオやアルサプアでラインを付けたりするし、半音ぶつかりの『フラメンコテンション』を作るときなど、頻繁に左手をストレッチします。

次に、これらを実現するための具体的なテクニックやコツについて書いていきます。

左手の基本フォーム

フラメンコギターの左手はかなりハードな動きが要求されるのをご理解いただけたと思いますが、それをスムーズに弾くためには『脱力しながらも、しっかりセーハ・ストレッチできるフォーム』が必須になります。

左手のフォームは基本的にはクラシックギターと同様で、フレットに対して平行に指を構えて、裏からはネックの中心線あたりに軽く親指を添えます。

親指と中指が向き合っているのが基本の位置で、小さいポジション移動なら親指を動かさずに行います。

基本フォーム正面
基本フォーム正面

基本フォーム上から
基本フォーム上から

基本フォーム裏側
基本フォーム裏側

親指は強く押し付けたりするとポジション移動がスムーズにできないので、あくまで軽く添えるだけです。

極力この形と脱力状態を保ちながら、音が出にくいところだけピンポイントで力を入れていく感じですね。

一般的にフラメンコ奏法の左手で難しいのは、セーハとストレッチだと思いますので、次にその二つについて重点解説しておきます。

セーハのコツ

セーハ(バレー)は、一般的には音が出にくい初心者殺しの押さえ方とされています。
よく、Fコード(1フレットセーハ)で挫折しやすい、とか言われていますよね。

セーハのコツは左手人差し指の真正面ではなく、少しだけかたむけて、親指側の面を当てるようにすると押さえやすいです。

真っすぐ押えたセーハ
真っすぐ押えたセーハ

少し傾けて押えたセーハ
少し傾けて押えたセーハ

傾け方ですが、左の肘を少し胴体側に引き寄せるようにすると左手首が回転して、テコの原理で人差し指の親指側を使って効率的にセーハすることができます。

半セーハ

フラメンコギターでは、6弦全部ではなくて3~5本の弦をセーハして、セーハしない弦は解放弦で鳴らす『半セーハ』(メディアセーハ)というテクニックを多用します。

半セーハは低音弦側を空ける場合はフルセーハより簡単なんですが、高音弦側を空けるときは指を反らせるようにしないといけないので、指の柔軟性が求められます。

1~4弦の半セーハ
1~4弦の半セーハ

ミニセーハ

自分は『ミニセーハ』と呼んでいますが、指を少し寝かせて、1本の指で弦を2~3本同時に押さえるのもよくやります。

フルセーハや半セーハは基本的に人差し指でやりますが、ミニセーハは他の指でもやります。

コードの一部をミニセーハする場合など、他の弦をミュートしてしまわないようにするには指を反らせないといけないので、これも指の柔軟性が必要になります。

小指でミニセーハした状態 G7(♭9♭13)
小指でミニセーハした状態 G7(♭9♭13)

ストレッチのコツ

ストレッチフォームは、セーハと逆に左手の小指側に力を入れないと音が出にくいです。
左手親指は基本フォームより下側に下がって、ネックの下端を支える感じです。

ストレッチフォーム上から
ストレッチフォーム上から

ストレッチフォーム裏から
ストレッチフォーム裏から

ちょっとしたコツとしては、セーハのときと逆に左の肘を胴体から少し離すように動かすと小指側に力が入れやすくなります。

ただ、フラメンコギターの場合、セーハしたままストレッチしなければならない場面が多いので、そういうときは気合いというか、ある程度の握力と指の柔軟性が必要になってきます。

自分も手が小さいので、どうやっても綺麗な音が出せないフレーズもあって、悩みの種なんですが、以下の三択で解決しています。

  1. カポをつける
  2. ストレッチせずに弦移動で弾く
  3. メロディーを変える

コードフォームをベースにした運指

これは、次回からのテーマになりますが、フラメンコギターではセーハしたまま、またはベース音を押さえたままメロディーラインを弾く、という動きに慣れるのが重要なので、コードフォームとスケールフォームを一組にしておぼえて、コードプレイをしている時もいつでも即興でメロディーラインを繰り出せるという状態を目指します。
そうすればメロディーを弾いたときも、コードフォームを意識できるので、今、コードの中の何度の音を出しているか?というのも簡単に把握できるようになります。

次回から、具体的なコードフォームとスケールフォームを学習していきます。

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