「マイノリティのWeb戦略」は「フラメンコなどのニッチジャンルのアーティストがインターネットを介して新規のファンを獲得していく」というテーマの連載ですが、前回は自分の体験談を中心にお話しました。
今回はインターネットを使って発信活動をしていく上で、おさえておきたい基礎的な知識と心構えについて書きたいと思います。
インターネットメディアの特性
インターネットでの発信を考えるにあたって、まずはインターネットメディアの特性を把握しておきましょう。
コンテンツを発信するためのメディアには、CD・DVD・書籍といった現物メディア、TV・ラジオといった放送メディアなどがあり、会場への直接集客もアナログメディアの一種と考えられます。
これらのメディアの中で、ここ20年間くらいの間に急激に伸びているのがインターネットメディアです。
インターネットメディアの特性やフラメンコ業界への影響について、フラメンコ音楽論第47回「インターネットの影響」で詳しく書いていますので、是非ご一読下さい。
上の記事でも書いている通り、インターネットが他のメディアを圧倒して伸びている理由は、主に以下の特性によるものです。
- 誰でも世界中に発信可能
- 対応できるコンテンツの種類が多い
- コストが安い
- 即時公開出来る圧倒的なスピード
- 拡散力に優れる
さらに、2010年頃からのスマートフォンの普及と2020年からのコロナ禍によって、あらゆる所で急激なIT化が進んだ事が決定的な影響を及ぼしました。
一方で、インターネットメディアには様々な問題点もあります。これも上の「フラメンコ音楽論47」の記事内で詳述していますが、現在の主な問題点は以下の3点だと思います。
①コンテンツの乱立と激烈な競争
インターネットは誰もが自分のコンテンツを発信できる参入障壁の低さが特徴だが、それだけに毎日夥しい数のコンテンツがアップロードされていて、常に激烈な過当競争状態にある。
②環境変化の激しさ
インターネットはまだ新しいメディアで、どんどん環境が変わるので、有効だった手法も数年もすると使えなくなったりする。
③収益化の難しさ
インターネットは無償での共有・拡散がベースとなって発展してきたメディアであるため広告などの収益単価が安く、人が集まりにくいニッチなジャンルでは収益化の難易度が高い。
――自分もそうだったのですが「インターネットの世界に夢を抱いて発信活動を始めてみたものの、なかなか人が集まらずモチベーションが続かない」というケースが非常に多いのです。
本気でアクセスを伸ばそうと思ったら、常に新しい情報を摂取して勉強して行かなければならないし、試行錯誤に時間をとられるのを覚悟しなければなりませんが、なるべく効率良くやりたいものですよね。
収益化に関しては、ライブ配信(有料配信・投げ銭式のもの)やオンラインサロンなどは比較的高い収益を得やすいですが、それらで高い収益をあげられる人は、元々集客力があったり、トークや容姿などのタレント要素が秀でていたり、時間があって高頻度長時間の配信が出来る人だったりと、なかなか敷居が高いものがあります。
自分を含め一般的なニッチジャンルの発信者は、インターネットからの直接収益に過度な期待をせず「ローコストな広告媒体」と割り切って利用する心構えも必要なのではないかと。
課題解決の鍵は発信チャンネルの成長
このようにインターネットでの発信には様々な課題もあるのですが、それを考慮したとしてもインターネット発信チャンネルを育成する事は、新規ファン獲得のための最も有力な選択肢の一つだと思います。
現状では他にインターネット以上の将来性のあるメディアは存在しませんし、発信チャンネルの成長に伴って自分自身の発信力・集客力が向上するのはもちろん、スケールメリットが効いてくることで過当競争や収益化といった課題も徐々に緩和されていくでしょう。
最初はかける労力と得られる利益の釣り合いが全くとれませんが、発信チャンネルを成長させることで、ライブ動員が増えたり、教室の生徒が増えたり、CDの売り上げが伸びたり、といった間接的利益も含め、徐々に投資回収の機会が増えていくという事です。
そういう事を考えると、インターネットでの発信活動における実質的な問題は「発信チャンネルが成長するまでの期間、いかにモチベーションを維持して運営していくか?」という一点に集約されてくるのではないでしょうか。
ニッチジャンルにおけるアクセス数の現状
今回、フラメンコのようなニッチジャンルでコンテンツを作って発信したとして、実際にどれくらいのアクセスが得られるのか?ということをお話しておきましょう。
自分のコンテンツのアクセス数
参考として、自分の発信チャンネルのアクセス数・フォロワー数などを一部公開します。
自分のブログとYouTubeの運営歴は3、4年で、数字はすべて2022年2月時点のものです。
現在のブログPV数(自分のアクセスやボットのアクセスは除外)
フラメンコブログ:月間7000PV
ゲーム音楽ブログ:月間7000PV
YouTube登録者数
フラメンコチャンネル:480人
ゲーム音楽演奏チャンネル:1040人
そしてYouTubeの動画再生数ですが、通常の動画はアップ後数日で100回、1年かけて1000回行くかどうか?というペースです。
自分のYouTube動画は初速が遅いんですが、時間が経つにつれてブログからの援護射撃が効いてきて、時間が経過してもある程度の再生数をキープ出来るという特徴があります。
一般的な基準で考えて、ブログ・YouTube共に決して大きな数字では無いし「え?それだけ?」って思われる方も多いと思いますが、これでもニッチジャンルの発信者としては、そこそこ健闘しているほうだと思います。
他のフラメンコ系コンテンツのアクセス数
では、他のフラメンコ系Webメディアのアクセス状況はどんなものなのでしょうか?
ブログ・ホームページのPVについては、仲間内でたまにそういう話もするのですが、日本語でフラメンコをメインに発信しているような個人ブログや個人ホームページだと、月間1000PVから5000PVくらいが中心だと思われます。
YouTubeに関しては、フラメンコ系のチャンネルはなるべくチェックするようにしているのですが、日本人が個人でやっているチャンネルの場合、登録者数2000人未満がほとんど(9割以上)で、フラメンコ業界トップレベルのYouTuberでも登録者数1万人、単体の動画再正数は自分の数倍、というような数字です。
ちなみに、フラメンコ系の知人がやっているチャンネルで登録者15万人を超えているものもありますが、そのチャンネルの内容はフラメンコではなく、同じ人がやっているフラメンコのチャンネルは登録者数2000人台です。
こうした事実からわかる通り、「ブログで月間10000PV」「YouTube登録者1000人」「一つの動画で年間1000回再生」くらいの数字であっても、フラメンコのようなマイナージャンルではかなり敷居の高いものであり、ザックリ言って人気ジャンルの1/100の数字での戦いを強いられるのが現実です。
こういう事を言うとモチベーションが下がる人もいるかも知れませんが、最初に過度な期待をしてしまうと現実に打ちのめされて永久に足を洗ってしまう気がするので、敢えて現実的な数字をお伝えしておこうかと。
この連載は、こういう厳しい現実を認識した上で「この状況から突破口を見つけてコンテンツへのアクセスを増やして行こう」という趣旨であり、現在進行形の考察もどんどん書いていくつもりでいます。
ここから先の内容は、インターネットでの発信にあたって、これを読んだ方が少しでも無駄な試行錯誤をしなくて済むように、自分が今までの試行錯誤の結果から導き出した基本的な留意事項を書いていきますので、参考にしてみて下さい。
忍耐力と継続が大切
発信スピードに優れるインターネットメディアですが、動画サイト・ブログ・SNSなどの発信チャンネルを育成して自分のコンテンツへのアクセス数を増やしていくのには相当な時間がかかります。
すぐに結果が出なかったとしても、一定のペースで淡々と更新を続けていく忍耐力が大切で、そうやってコンテンツを増やしておくことで、何かキッカケがあった時に大きく飛躍する可能性が上がるのです。
ライブなどと比べて華やかさも無いし、孤独で地道な活動なのですが、農業の種まきみたいなものですよね。
時間配分と割り切り
これは自分自身の悩みでもあるのですが、本気でインターネットでの発信を始めると、とにかく時間をとられて余暇のほとんどがこれに費やされてしまうものです。
コンテンツ制作に時間がかかるのはもちろんのこと、動画サイト・SNSなどは、どんどん新しいプラットフォームが登場してくるので、それらに手を広げていくうちに投稿・管理にかかる手間と時間が膨大になって楽器や踊りの練習時間などを圧迫するようになったりします。
そして、インターネットのアクセス数は時間と手間をかけたからといって思い通りに伸びない事もあるし「頑張ったのに逆効果だった」なんてこともしばしばありますので、何に時間を割くべきか良く考えないと、いくら時間があっても足りなくなりますよね。
この問題については「分析」と「割り切り」が大切だと思います。
作業に優先順位を付け、効果の低い事や将来性の無い事はどんどん切り捨てて、新しい事をやる時間を空ける事は非常に重要で、そのために効果的なのが、以下に紹介する「PDCAサイクル」の応用です。
Web版PDCAサイクル
ビジネスの世界では「PDCAサイクル」という言葉がよく使われていますよね。
これは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(検証)→Act(改善)→Plan(計画)……というサイクルを回転させてビジネスを効率的に進めて行こうというものですが、インターネットの発信にも同じような発想が有効です。
この「Web版PDCAサイクル」は以下のようになります。
①Plan(計画)
今後のコンテンツ制作や、どのプラットフォームでどんな展開をするかを計画。
②Do(実行)
とりあえず、手を広げて色々やってみる。
③Check(検証)
計画したことを一定期間実行するとデータが集まってくるので、それを検証する。データの収集には、動画サイト・SNS・ブログサービス等ならサイトに付属している分析ツールや外部ツールを使用する。ホームページやブログなら「Googleアナリティクス」「Googleサーチコンソール」というようなツールを使って詳細なデータをとることが出来る。
④Act(改善)
検証の結果に基づいて、効果が大きい事や可能性を感じる事に多くの時間を割くようにし、効果が薄いものは放置にして新しい事をやる時間をあける。
そしてまた①に戻って、データにもとづいて計画を修正するわけですが、自分はこれを3か月から1年くらいのサイクルで回しています。
例えばですが「Twitterに毎日投稿しよう」とか「ショート動画を量産してTikTokを攻めてみよう」とか「ブログの過去記事を見直してリライトしてみる」とか、直近で力を入れるテーマを決めたら、それを3カ月とか半年くらいは続けます。
そして、その結果を見て、今後その行動にどれくらいの労力と時間を割くべきか?ということを考えますが、効果が高いからといって一つのプラットフォームに偏重して供給過剰になるほどやってしまうと、視聴ペースが追い付かずにコンテンツ一つ一つの効果が落ちてしまったりするので、適度な更新間隔と全体バランスを考慮することも重要です。
――今回は、自分のコンテンツをインターネットで発信する上での基本的な留意事項についてお話しましたが、次回からはもっと具体的な内容に移っていこうと思います。どうぞお楽しみに!
コメント