フラメンコのリズム形式【フラメンコ音楽論08】

フラメンコ音楽論では、ここしばらくコード・スケールといった音程に関わる話を掘り下げていましたが、今回からフラメンコの音楽を理解する上で最重要になる「リズム形式」(パロ)の解説に入りたいと思います。

フラメンコにおける曲目、曲名などの扱い

フラメンコ音楽論第3回でフラメンコの音楽単位について触れていますが、フラメンコの曲目は原則的にリズム形式をあらわす「形式名」で示されます。

形式名はスペイン語だと「パロ」や「ヌメロ」と呼ばれますが、最近は「パロ」が一般的です。

個別の歌や踊りの振り付け、ギターのファルセータや基本パターン、それら全てが、この「リズム形式」ごとに分類されます。

ソレアならソレア、アレグリアスならアレグリアスの、それぞれの持ちネタを組み合わせてフラメンコのアンサンブルは作られていきます。

歌やギターのCDには固有の「曲名」がついていたりしますが、一般の音楽ジャンルとは扱いがかなり違います。

フラメンコの音楽単位は、歌い手やギタリストのリズム形式別に持っている持ちネタに由来しています。

そのため、一般の音楽のように曲単位でまるごと作曲という場合はむしろ少数派で、その曲で使われるリズム形式の持ちネタを繋ぎ合わせて作られる場合が多く、ネタの使い回しもあります。

そんな理由から、個別の「曲」としての意味合いは一般の音楽よりかなり薄いのです。

フラメンコ音楽のオリジナリティに関する考え方

楽曲の「オリジナリティ」ということに関しても、フラメンコはもともと作者不詳の歌詞や定型フレーズも多い世界です。

フラメンコでは伝統的に「誰かが作ったものを共有して引き継いでいく」というような考えが強いので、そのへんも一般音楽ジャンルと発想が異なります。

もちろん、自分で1曲全部もしくはテーマとかサビを作詞・作曲して固有の曲名をつけるという一般的な発想もあり、とくに商業的に自分のCDを売りたいような歌やギターのアーティストはそういう方向でやっている人が多いですが、一般の音楽に比べて「オリジナリティ」ということの優先度は低いのではないか?と感じます。

「リズム形式」の起源

フラメンコの「曲」はリズム形式をベースとして、それにアーティスト各自のオリジナルなものが乗っている、ということがお分かりいただけたかと思います。

そして、フラメンコのリズム形式ですが、これもまたカンテから発生しています。

「ある特定のリズムと節回しの古い歌」それがフラメンコのリズム形式の原型です。

初期のカンテは主にソレア系とシギリージャ系のものでした。

この2つの系統がフラメンコを学ぶ上でもっとも難解だと思いますが、ギターや踊りが付くずっと前から、本当に最初から、あの変態的リズムでやっていたわけですね。

こうした発生学的なことからもわかるように、フラメンコの個性の根元は12拍子系のコンパスです。

シギリージャやグアヒーラなどの変拍子系も、基本的には12拍子のバリエーションです。

フラメンコのリズム形式の大分類

まずは「リズム形式」を大雑把に分類してみます。

12拍子系形式

12拍子系の形式はフラメンコのリズム形式の中でも、最もガラパゴス的に発展している形式群です。

「フラメンコの母」と言われるソレアから派生したものが中心になりますが、フラメンコリズムのガラパゴス的発展の頂点であるブレリアは、ソレアの原型をとどめないほどバリエーションが発展しています。

この系統のリズムに慣れることが、フラメンコを勉強するうえで重要な第1歩になります。

ソレア系・カンティーニャ系・ブレリア系がこれにあたります。

変拍子系形式

フラメンコの変拍子は、基本的には12拍子の拍のとりかたをずらしたものですが、ソレア系とは違ったフレーズの乗せかたをします。

ソレアと並ぶ古い形式であるシギリージャの系統(2.2.3.3.2型)と、グアヒーラ、ペテネーラなどのブレリアに近い系統(3.3.2.2.2型)があります。

3拍子系形式

ファンダンゴをはじめたとしたアンダルシア民謡も古くからフラメンコに取り入れられ、カンテ・アンダルスと呼ばれていました。

多くのアンダルシア民謡は3拍子ですので、その系統の形式は、3拍子もしくは3拍子の感覚のリブレ(自由リズム)となります。

アンダルシア民謡が元になったフラメンコの3拍子形式は、実はかなり変態的なリズムで、3/4拍子と3/2拍子のポリリズムの様相を呈しています。

ベースは3拍子なんですが、メロディーやコードが2拍単位で動いたり2拍食って入ったりするのが特徴です。

3拍子形式には、ファンダンゴ・デ・ウエルバ、ファンダンゴ・アバンドラオ、セビジャーナスなどがあります。

セビジャーナスは、振りが固定で教えやすい・覚えやすい・踊りの基本的動作が盛り込まれている、という理由で踊りの初心者向けの形式とされていますが、リズムは結構難解だと思うんですよね……。

ファンダンゴ系のリブレ形式

リブレ(自由リズム)形式は、主にファンダンゴ系の歌の地方や歌手個人によるバリエーションで、カフェ・カンタンテの時代を中心にカンテの技巧を競ううちにリズムを崩して歌うようになったものです。

ファンダンゴ・リブレの地方バリエーションとして、マラゲーニャ(マラガ)、グラナイーナ(グラナダ)などがあります。

またアルメリア地方の鉱山労働者を中心に発展した「カンテ・レバンテ」と呼ばれる形式群があり、独特の複雑な節回しと不協和音的な響きを多用します。

タランタ(タラントの元になった歌)、ミネーラ、カルタヘネーラなどがこれにあたります。

リブレ形式は、基本的にカンテのための形式群ですが、踊りの中でも演出の一つとして部分的に自由リズムのセクションがよく使われ、そういう部分を「リブレで」と表現したりします。

また、リブレ形式はギターソロでもよく弾かれます。

2拍子系形式

4拍子を含む2拍子系のリズムは、世界で最もスタンダードなリズム感覚であり、フラメンコにも存在します。

フラメンコの2拍子系形式の起源はカディス港に到着した南米からの引き上げ移民がもたらした中南米起源の音楽と言われていますが、定かではありません。

2拍子系の形式は、カンテ・ヒターノとしてアンダルシアのヒターノのコミュニティで発展してきタンゴ系統と、スペイン北部地方が起源の系統(ファルーカやガロディン、タラントもタランタにこのリズムがついたもの)の2つが主なものです。

フラメンコリズム形式の一覧

ここで一旦まとめましょう。

上で解説した通り、フラメンコの曲種をリズム的な特徴で大雑把に分けると以下の5種類になります。

  • 12拍子系
  • 変拍子系(12拍子系の一種)
  • 3拍子系
  • リブレ系(3拍子系から派生)
  • 2拍子系

ここから調性やテンポ、または歌単体を指す細かい分類によってさらに細かく枝分かれします。

次の章で、現在一般的に演奏される形式を書き出して一覧にします。

フラメンコ形式は単数形で呼ばれる場合と複数形で呼ばれる場合があり、単数形はその「曲」そのものを、複数形は「形式名」を指していると思われますが、実用上はどちらでも良いと思います。

ここでは原則として単数形で書きますが、複数形の呼び名ほうが一般的な形式は複数形で書いています。

大まかな特徴がわかるように、一般的によく演奏される調性とテンポも書いておきます。

演奏頻度が高い重要形式は末尾に★マークをつけてみましたが、ここではギターと踊り伴奏主体に判断しています。歌伴奏だと★のついてない形式でも重要なものもあります。

調性に関しては以下の呼び名で表記します。

  • Eスパニッシュ調=ポルアリーバ
  • Aスパニッシュ調=ポルメディオ
  • F♯スパニッシュ調=ポルタラント

調性は最も一般的な調を書きますが、他の調で演奏される場合もあります。

形式名をクリックすると、個別形式解説ページへ行けるようにしましたので、このページをブックマークして学習のスタートページとすると便利だと思います。

ソレア系の12拍子形式

「フラメンコの母」ソレアを起源とするフラメンコの根幹をなす形式群です。

カンティーニャ系の12拍子形式

ソレア系のコンパスにメジャーキーの明るい歌を組み合わせた形式群です。

その他の12拍子形式

主に民謡を起源とする歌に12拍子のコンパスが付けられた形式群です。

3.3.2.2.2型の変拍子系形式

ブレリアに類似する変拍子で演奏される形式群です。

  • グアヒーラ
    Aメジャーキー、テンポ遅/中(逆輸入系)★
  • ペテネーラ
    ポルアリーバ/Aマイナーキー、テンポ遅/中 ★

2.2.3.3.2型の変拍子系形式

ソレアと並ぶ古いリズム形式で、唯一無二のリズムサイクルを持ちます。

民謡系3拍子形式

ファンダンゴやセビジャーナスなどの3拍子の民謡や舞曲がもとになった形式群です。

ファンダンゴ系のリブレ形式

ファンダンゴのリズムを崩して歌ったものが起源となった自由リズムの形式群です。

タンゴ系2拍子形式

2拍子系の形式のうち、カンテヒターノとしてヒターノのコミュニティで発展したタンゴ系統の形式群です。

北部起源系の2拍子形式

2拍子系の形式のうち、ガリシア地方など北部地方の民謡のリズムをとりいれた形式群です。

  • ガロティン
    Gメジャーキー、テンポ遅 ★
  • ファルーカ
    Aマイナーキー、テンポ遅 ★
  • タラント
    ポルタラント、テンポ遅(ファンダンゴ系のタランタを2拍子化したもの)★

その他の2拍子系形式

タンゴ系、北部起源系のどちらにも属しない2拍子系の形式群です。

  • ルンバ
    テンポ速(逆輸入系) ★
  • コロンビアーナ
    Aメジャーキー、テンポ中/速(逆輸入系)
  • ミロンガ
    マイナーキー/メジャーキー(逆輸入系。同主調転調が入る)
  • サンブラ
    テンポ中(アラブ音楽風のグラナダ民謡。一時期流行してフラメンコ形式として定着)
  • サパテアード
    メジャーキー、テンポ速(タンギージョに類似したリズム。完全に6/8拍子な場合も多い)
  • マリアーナ
    テンポ遅(ティエントに類似した感覚で演奏される民謡系形式)

宗教歌・土着民謡系

これはオマケですがフラメンコ形式の中に宗教歌(カトリック)や土着の民謡が題材になったものがあるので、主だったものをまとめておきます。

  • サエタ
    無伴奏(セマナ・サンタで歌われる宗教歌。シギリージャ系のリズムがベース)
  • カンパニジェーロス
    マイナーキー、3拍子(クリスマスソング)
  • ビジャンシーコ
    マイナーキー、2拍子(クリスマスソング)
  • ナナ
    無伴奏(アンダルシア地方で歌われていた子守唄が起源)
  • ソロンゴ
    ポルアリーバ/ポルメディオ(グラナダの民謡で、フラメンコでやる場合はタンゴやソレポルのリズムで演奏される)

この他にも、マイナー形式は多数ありますが、プロのアーティストでも全部は知らなかったりします。

マイナー形式を発掘してレパートリーに加えるアーティストも多く、有名なアーティストに取り上げられた(または創作された)形式が注目を集めて定着する、という現象もよくあります。

そういうマイナー形式や歌単体を指すものを全部挙げて行くと物凄い数になりそうですが、音楽的特徴や発生学的に明確に分類・系統付けできるものは、上記一覧が一般的な範囲だと思います。

フラメンコ音楽論 前回

フラメンコギターで使う特殊なコード【フラメンコ音楽論07】
フラメンコ音楽論第7回は、フラメンコギターで使う特殊なコード(和音)をまとめます。自分は「フラメンコテンションコード」と呼んでいるものです。

フラメンコ音楽論 次回

ソレア(Solea)【フラメンコ音楽論09】
フラメンコ音楽論では、今回から個別形式の解説に入ります。今回は「フラメンコの母」と言われるソレア形式。基本リズムパターンや歌のコード進行などを分析しています。

コメント