カンティーニャス・アレグリアス(Cantiñas,Alegrias)【フラメンコ音楽論11】

今、フラメンコ音楽論ではフラメンコのリズム形式(曲種)の解説をしていますが、まずはフラメンコの根幹を成す12拍子系の形式から学習を進めています。

今回は「フラメンコの母」ソレアから派生した、カンティーニャスという系統の形式群の解説をします。

カンティーニャスは、ソレアのコンパスに明るいメジャーキーの歌を組み合わせたもので、この系統の代表的な形式にアレグリアスがあります。

カンティーニャス系形式の概要

主な調性:Eメジャーキー、Aメジャーキー、Cメジャーキーなど
テンポ:140BPMから180BPM

形式名としてはアレグリアス(Alegrias)が有名ですが、アレグリアスの系統の歌はカンティーニャス(Cantiñas)という歌から派生してきました。

カンティーニャスはアラゴン、バレンシア周辺の民謡・舞踊である「ホタ」の旋律と、ソレアのリズムが組合わさって発生したと言われています。

長調の2コードないし3コードでできた旋律をソレアのコンパスにのせて歌いますが、軽快なテンポで演奏するため、ほぼソレア・ポル・ブレリアと同じようなコンパスになります。

この系統の歌はカディスを中心に発展しました。

タンギージョ・デ・カディスなどもそうですが、カディスでは長調が中心になった形式が発展しています。土地柄でしょうね。

ちなみに、踊りのアレグリアスの最後につくブレリアは通常、ブレリア・デ・カディスが歌われます。

カンティーニャスからの派生

カンティーニャスから派生した形式としてアレグリアスの他に、ミラブラス(Mirabras)、ロメーラス(Romeras)、カラコレス(Caracoles)などがあります。

カンティーニャス系の歌は複数形で呼ばれる事のほうが多いですね。この単数形複数形の使い分けが謎なんですが、言いやすいほうで言ってるだけのような……。

個別形式としてのカンティーニャス

カンティーニャスは単体形式名としても残っているので、そのあたりちょっとわかりにくいかもしれません。

これは自分の解釈ですが、アレグリアスならアレグリアス、ロメーラスならロメーラスで、はっきり分類できる曲は固有の形式名がついていて、分類が微妙な歌を「カンティーニャス」と呼んでいる、という感じではないかと。

現在、カンティーニャスと呼ばれる歌と一部のアレグリアスは、ほとんど同じメロディだったりして、歌い手によっても解釈の別れるところだと思います。

現在の代表形式はアレグリアス

このようにカンティーニャス系はバリエーションも多く、全部の解説は文章量的に厳しいので、ここではカンティーニャス系で一番演奏頻度が高いアレグリアスを中心に扱います。

カンティーニャス系の形式のなかでアレグリアスがメジャーになった要因は、踊りの様式がはっきり確立されていて、レパートリーに加える踊り手が圧倒的に多かった、ということがあります。

踊りの展開・様式がはっきりした形式なので、12拍子系の中では初心者でも取り組みやすい形式とされています。

カンティーニャス系形式のコンパス

カンティーニャス系の曲種のコンパスは、ソレアがベースとなっていますが、ソレアよりかなり速いテンポです。

リズムパターンとしては以下のようになり、テンポもリズムパターンもソレア・ポル・ブレリアとほぼ同様です。

1 2 ③ 4 5 6 ⑦ ⑧ 9 ⑩ 11 ⑫
※○の付いた数字がアクセント拍

ソレア・ポル・ブレリアと比べるとカンティーニャス系のほうがより軽快な感じで、テンポもやや速めの場合が多く、ゆっくりしたブレリアくらいのテンポで演奏されることもあります。

具体的には140BPMから180BPMくらいのテンポです。

カンティーニャ系で使われるキー

アレグリアスはEメジャーキーで演奏されることが多いです。

Eメジャーキーは、メジャーキーの中ではギターの音域が最も広く使えるので、華やかな表現ができる調です。

Eメジャーキーの場合のカポタストの位置は、女性歌手なら4カポ(実音A♭メジャーキー)、男性歌手ならカポ無し(Eメジャーキー)あたりが多いです。

アレグリアスだからといって、必ずEメジャーキーで演奏されるわけではなく、場合によってはAメジャーキーやCメジャーキーを使うこともあります。

他のカンティーニャス系形式のキーは歌によって変わりますが、やはりEメジャーキー、Aメジャーキー、Cメジャーキーが多いです。

ちなみに、カラコレスは伝統的にCメジャーキーで演奏される事が多いですが、歌い手の音域によってGメジャーキーも使います。

そして、歌によっては平行調のミの旋法が入ってきます。例えば以下のような感じです。

  • Eメジャーキー→G♯スパニッシュ調
  • Aメジャーキー→C♯スパニッシュ調
  • Cメジャーキー→Eスパニッシュ調(ポルアリーバ)

アレグリアスの踊りの様式

アレグリアスは踊り曲としても凄くメジャーな形式ですが、スタンダードなアレグリアスの踊りの様式は以下の通りです。

  1. レトラ
    いわゆる歌振り。通常9コンパスか11コンパス。2つくらい入ることが多い
  2. シレンシオ
    踊りの途中で入る静かなパート。踊りのソレアくらいのテンポになってマイナーキーに転調。通常6コンパスか10コンパス
  3. カスティジャーノ
    シレンシオから一転して軽快なテンポに戻る歌。通常4コンパス+ジャマーダ
  4. エスコビージャ
    踊りの足のパート。教室で最初に教えられるのは3連符で1拍目から入る定型フレーズのものが多い。
  5. ブレリア
    エスコビージャの途中からブレリアのコンパスに変化することが多く、ジャマーダで抜けたらブレリア・デ・カディスが歌われる

フラメンコの踊りでは、通常、セクションごとの境目にサパテアード→ジャマーダが入ってきますが、そういうのは省略してあります。

イントロ(サリーダ)やファルセータ部分も省略していますが、レトラが2つある場合は間奏にファルセータが来るパターンが多いです。

なお、これは教室で教えられるような基本的な展開の仕方ですが「こうしなければいけない」ということはなく、シレンシオやカスティジャーノが無い場合もあるし、エスコビージャもいきなりブレリアのテンポから入ってもいいわけです。

アレグリアスの歌のコード進行

アレグリアスの歌のコード進行をみてみましょう。

基本的な形は2コードないし3コードですが、メジャーキーなのでミの旋法系の形式に比べると普通のコード理論を当てはめて代理コードや経過コードを活用しやすいです。

歌によって様々な展開のしかたをしますが、ここでは、最もシンプルな形をご紹介します。歌の展開は大雑把に言って以下の3つのセクションに分けられます。

  1. 前フリ1コンパ(歌詞の2行目を歌う)
  2. 歌の本体4コンパスか6コンパス(1行目から入りなおす)
  3. エストリビージョ(コレティージョ)4コンパス

以上で合計9コンパスか11コンパスの歌が多いです。

では、以下に代表的なコード進行で例を書きます。

ソレアのコンパスでいう1拍目を頭に3拍子で記載、1段1コンパス、○はコードチェンジ無しの拍です。キーはEメジャーキーで書きます。

前フリ
|E ○ ○|B7 ○ ○|○ ○ ○|E ○ ○|

歌本体
|E ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|B7(A)○ ○|
|B7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|E ○ ○|
|E ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|B7(A)○ ○|
|B7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|E ○ ○|
|E ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|B7(A)○ ○|(短い歌はこの段が無い)
|B7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|E ○ ○|(短い歌はこの段が無い)

エストリビージョ(サビ)
|E ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|B7 ○ ○|
|B7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|E ○ ○|
|E ○ ○|(E7)○ ○|○ ○ ○|B7(A)○ ○|
|B7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|E ○ ○|

ディグリー(度数)表記版

前フリ
|Ⅰ ○ ○|Ⅴ7 ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ ○ ○|

歌本体
|Ⅰ ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅴ7(Ⅳ)○ ○|
|Ⅴ7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ ○ ○|
|Ⅰ ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅴ7(Ⅳ)○ ○|
|Ⅴ7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ ○ ○|
|Ⅰ ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅴ7(Ⅳ)○|(短い歌はこの段が無い)
|Ⅴ7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ ○ ○|(短い歌はこの段が無い)

エストリビージョ(サビ)
|Ⅰ ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅴ7 ○ ○|
|Ⅴ7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ ○ ○|
|Ⅰ ○ ○|(Ⅰ7) ○ ○|○ ○ ○|Ⅴ7(Ⅳ)○ ○|
|Ⅴ7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ ○ ○|

アレグリアスの基本パターン(マルカール)

アレグリアスの基本パターン(マルカール)のコード進行は、大きくわけると2種類あります。

1コンパス単位のマルカール

1コンパスで完結する短いマルカールは以下のコード進行で演奏されます。

E→B7→B7→E

これが最も基本的なベースパターンで、3拍目と10拍目でコードが変わります。

2コンパス単位のマルカール

上のパターンが2コンパスに引き伸ばされたロングバージョンで、以下のように演奏されます。

E→E→E→B7
B7→B7→B7→E

コードが変わるタイミングは10拍目です。踊りの伴奏などで2コンパス単位の構成になっている部分に使用されます。

アレグリアスのコードワーク

カンティーニャ系は長調がベースなので、ミの旋法の形式と比べると、コードワークは一般的な音楽に近いです。

伝統的スタイルだと「ⅠとⅤの2コード展開+たまにⅣ」というシンプルなものですが、代理コードやセカンダリードミナントなどは普通に使用可能で、モデルノ系だと代理コードやノンダイアトニックコードを駆使してバリエーションを持たせる傾向が強いです。

モデルノ系のフラメンコギターでは以下のような処理が多用されます。

  • ドミナント系コードにオルタード系テンションを入れる
  • ♭5や♯5といった5度音の変化を使う
  • サブドミナントマイナーのコードを活用する

シレンシオについて

上の方でも触れましたが、踊りの中でグッとテンポが落ちてマイナーキー(メジャーキーの場合もある)になる、シレンシオと呼ばれるギターのファルセータパートがあります。

シレンシオは一定の基本形があって、それを踏襲して演奏されることがほとんどです。一般的には下記のいずれかになります。

  1. マイナーキー6コンパス
  2. マイナーキー6コンパス+メジャーキー4コンパスの計10コンパス

たまに違うサイズのものもありますが、大抵はこのどちらかです。

シレンシオのテンポには幅があって、70BPMから120BPMくらいですが、ほぼソレアのテンポと同じくらいということです。

シレンシオのコード進行

最も基本的なシレンシオのコード進行を書いておきます。

ソレアのコンパスでいう1拍目を頭に3拍子で記載、1段1コンパス、○はコードチェンジ無しの拍です。キーはEマイナーキーで書きます。

マイナー6コンパス
|Em ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|B7 ○ ○|
|B7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Em ○ ○|
|Em ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|B7 ○ ○|
|B7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Em ○ ○|
|Em ○ ○|○ ○ ○|(E7)○ ○|Am ○ ○|
|Am ○ ○|Em ○ ○|B7 ○ ○|Em ○ ○|

メジャー4コンパス
|E ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|B7 ○ ○|
|B7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|E ○ ○|
|E ○ ○|○ ○ ○|(E7)○ ○|A ○ ○|
|A ○ ○|E ○ ○|B7 ○ ○|E ○ ○|

ディグリー(度数)表記版

マイナー6コンパス
|Ⅰm ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅴ7 ○ ○|
|Ⅴ7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰm ○ ○|
|Ⅰm ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅴ7 ○ ○|
|Ⅴ7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰm ○ ○|
|Ⅰm ○ ○|○ ○ ○|(Ⅰ7)○ ○|Ⅳm ○ ○|
|Ⅳm ○ ○|Ⅰm ○ ○|Ⅴ7 ○ ○|Ⅰm ○ ○|

メジャー4コンパス
|Ⅰ ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅴ7 ○ ○|
|Ⅴ7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ ○ ○|
|Ⅰ ○ ○|○ ○ ○|(Ⅰ7)○ ○|Ⅳ ○ ○|
|Ⅳ ○ ○|Ⅰ ○ ○|Ⅴ7 ○ ○|Ⅰ ○ ○|

シレンシオのコード進行を上で紹介した歌のコード進行と見比べてみると、マイナー6コンパス部分はアレグリアスの歌本体部分の進行を同主調でゆっくり演奏したもの、メジャー4コンパス部分はエストリビージョの部分をゆっくり演奏したものになっています。

アレグリアス以外のカンティーニャス系形式について

カンテのCD作品を聴いていると、アレグリアスの形式名がつくものは伝統的なラインにこだわらずに、どんどん創作されていく傾向があります。

かなり以前からアレグリアスはカンティーニャス系の代表形式として頻繁に演奏されてレパートリーが開拓されてきた歴史があります。

それに対して、アレグリアス以外のカンティーニャス形式は伝統的なラインで演奏されることが多いです。

これは、アレグリアス以外のカンティーニャス系の形式の多くは特定の歌を指していて、コード進行も3コードで似通っているし、あまりアレンジしてしまうと形式分けの意味がなくなってくるため、ということだと思います。

ミラブラスとロメーラス

ミラブラスとロメーラスは踊りでも取り上げられます。

踊りに関しては、アレグリアスのレトラの部分がミラブラスやロメーラの歌になるだけ、という場合もありますが、アレグリアスほど決まった様式はありません。

歌の伴奏はメジャー3コードで演奏されますが、コードの回り方が歌によって異なります。

また、歌い手にサイズが変わったりするので、歌詞の位置や音程を聴きながら判断します。

カラコレス

カラコレスはそのキャッチーなメロディーから日本でも踊りの教室用レパートリーとして人気があり、群舞用振り付けの定番曲です。

習慣的にCメジャーで演奏されますが、男性歌手の場合はGメジャーも使います。

カラコレスは1つの歌がかなり長く、サイズもイレギュラーなところがあるので、これも歌詞の位置と音程で判断します。

歌の途中にCメジャー平行調となるポルアリーバ(Eスパニッシュ調)への転調が入ったりします。

アレグリアス・デ・コルドバ

アレグリアス・デ・コルドバ(Alegrias de Cordoba)は、アレグリアスの地方バリエーションですが、マイナキーを主体に演奏されます。

フラメンコ音楽論 前回

ソレア・ポル・ブレリア(Solea Por Buleria)【フラメンコ音楽論10】
フラメンコ音楽論第10回は、ソレアとブレリアの中間的な特徴をもつソレアポルブレリア形式です。リズムパターンやコードワークの解析も行っています。

フラメンコ音楽論 次回

ブレリア(Buleria)【フラメンコ音楽論12】
フラメンコ音楽論第12回はブレリアです。ブレリアは12拍子系の中でも最も自由度が高く理論化は至難ですが、コンパス(リズム)やコードワークの解析に挑戦しました。

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