フラメンコ音楽論では、今回から個別形式の解説に入ります。
まずはフラメンコのリズムの根幹を形成する12拍子系からいきますが、今回は全ての12拍子系形式のベースとなっているソレアです。
ソレア形式概要
単数形:Solea
複数形:Soleares
主な調性:ポルアリーバ(Eスパニッシュ調)
テンポ(踊り):70BPMから100BPM
テンポ(カンテ):90BPMから130BPM
ソレアは、フラメンコの母と呼ばれる12拍子の根幹形式です。
フラメンコの曲種の中でも、シギリージャと並んで最も古く格調の高い形式です。
ソレアの調性
調性は伝統的にポルアリーバ(Eスパニッシュ調)で演奏されます。
ポルアリーバの場合は、女性歌手なら7カポ(実音はBスパニッシュ)、男性歌手なら4カポ(実音はG♯スパニッシュ)あたりのキーになりますが、女性の歌い手の場合7フレットあたりにカポタストをつけることになって、ギターで使える音域はかなり限られます。
そのため、ソレアの伴奏用ファルセータはカポタスト無しの状態で5フレットポジションくらいまで(高音側は8フレットくらいまで)で作っていないと演奏が難しくなります。カッタウェイ付きのギターならもっと上まで使えますが……。
こういう事情があるため、女性の歌い手の場合は2カポか3カポのポルメディオ(Aスパニッシュ調)で演奏されることもあります。
あとは6弦をB音まで下げて、グラナイーナのキー(Bスパニッシュ)でやったり。これだとちょうど7カポ相当です。
ソレアのテンポ
テンポは踊りが入る場合、70BPMから100BPM、踊りが入らない場合は、90BPMから130BPMと、かなりの幅があってリズムの乗り方も変わってきます。
踊りが入らない場合のテンポ
歌伴奏・ギターソロの場合は、ソレア・ポル・ブレリアに近いようなテンポになったりしますが、昔、踊りが入る以前はそういう速めのテンポで演奏されていました。
ティエント、ガロティン、タンゴ・デ・マラガ、シギリージャ、グアヒーラなども同じ傾向があり、踊りが入る場合は入らない場合に比べて、かなりゆっくりのテンポになります。
これは踊りの展開をよりドラマチックにするために緩急をつけてきた結果だと思います。
踊りが入る場合のテンポ
踊りの場合、歌の入る部分(歌振り、レトラなどと言います)はゆっくり、70BPMから100BPMくらいです。
踊りの足技のパート(サパテアード)は様々なテンポで演奏され、最後はテンポアップしてブレリアになるのが一般的です。
歌のソロやギターソロの場合、テンポを揺らして部分的に自由リズム的になる場合もあります。
ソレアのコンパス
凄く大雑把にですが、ソレアのコンパスの捉え方を大別すると4種類あると思います。
- 伝統的な歌伴奏のコンパス
- 踊り伴奏用のゆっくりしたコンパス
- 3拍目が強い3拍子
- ブレリア2コンパスでソレアの1コンパスにするノリかた
以下、1つずつ解説していきます。
伝統的な歌伴奏のコンパス
フラメンコ入門書などにのっているものです。
下のように、1拍目から入って3、6、8、10、12拍目にアクセントがきます。
1 2 ③ 4 5 ⑥ 7 ⑧ 9 ⑩ 11 ⑫
※○の付いた数字がアクセント拍
6のアクセントを7に変えたりもしますが、そうすると、やや軽快な感じになってソレア・ポル・ブレリアに接近します。
1 2 ③ 4 5 6 ⑦ ⑧ 9 ⑩ 11 ⑫
踊り用のゆっくりしたコンパス
踊りのテンポは伝統的な歌のテンポの半分くらいの速度だったりして、慣れないと全く別のリズムに感じるかもしれません。
歌が入るレトラの部分は伝統的なソレアの雰囲気を重視して歌伴奏の遅回しバージョン、といった感じのコンパスで演奏することが多いですが、テンポが倍近く違うとやはりいろいろ変わってきます。
踊り伴奏のテンポのソレアは、伝統的歌伴奏の雰囲気をベースにしながらも、倍タイムの16分音符が構成単位になっていて、コントラ・ティエンポ(シンコペーション)も16分音符単位が中心になります。
3拍目が強い3拍子
ソレアのコンパスのとりかたでもう1つ特徴的なものがあります。
3、6、9、12拍目にアクセントを感じるもので、要するに3拍目が強い3拍子です。
1 2 ③ 4 5 ⑥ 7 8 ⑨ 10 11 ⑫
フレーズは1から入って10に解決することが多いので、10にも潜在的にアクセントがあります。
これは踊りのサパテアードの基本パターンの1つですが、ギターのファルセータや伴奏フレーズもこのリズムで作られているものが多いです。
このとりかたは3拍ずつ綺麗に区切れるので、ファルセータは3拍子で作ったフレーズがそのまま適用可能です。
ブレリア2コンパスでソレアの1コンパスにするノリかた
踊りのテンポでもサパテアードが入ると、よりリズミックなコンパス表現になってきます。
具体的には「ソレアの1コンパスにブレリアが2コンパス分入るようなノリ」が多いです。
ブレリア1コンパスでソレアのメディオコンパスになるわけですが、このとりかたを使うと、ブレリアのフレーズを半速のソレアに使うことが出来ます。
ブレリアについてはこちらの記事を参照して下さい。
このように、レトラやマルカール以外の部分はブレリアの発想が入ってきたりするのでアクセントもかなり自由に変化します。
ファルセータでのコンパス
ソレアの場合、ファルセータも伝統的速度でやるのと、踊り伴奏用のゆっくりテンポだと符割りの細かさやノリが違います。
伝統的速度では3連符や16分音符も多用しますが、シンコペーションは8分音符単位が多いです。
踊り伴奏用テンポのファルセータだとコンパスのバリエーションはかなり幅があり、伝統的スタイルのファルセータの符割りを細かくしてやっているようなものから、先ほど解説した「ブレリア2コンパスでソレアの1コンパスとするようなノリ」のものまで、様々です。
12拍子系コンパス種別の境目
ソレアを含めて12拍子系の形式はテンポが速くなるにつれて、12拍目の比重が増してブレリアに寄っていく傾向があります。
ですが、きっちり「ここまでがソレアのコンパス」「ここからがブレリアのコンパス」と分けられるものではなく連続的なもので、そのあたりが難しいと同時に面白いところでもあります。
「ソレポルに近いソレア」とか「ブレリアに近いアレグリアス」とか、中間的なノリも非常に多いです。
ソレアの歌について
ソレアの歌は、ほぼ型が決まっていて現代の歌手もこの形式は伝統的な歌い方の範囲で収めるのがほとんどです。
代表的な歌のスタイルには以下のようなものがあります。
- ソレア・デ・アルカラ
- ソレア・デ・トリアーナ
- ソレア・デ・ウトレーラ
- ソレア・デ・カディス
ソレアの歌のコード進行
ソレアの歌の構成やサイズを把握するために、コード進行を書いておきます。
1拍目を頭にした3拍子で記載、1段1コンパス、○の拍はコードチェンジが無い拍です。キーはポルアリーバ=Eスパニッシュ調で書きます。
1節目でAmかFに行くタイプ
|E7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Am(F)○ ○|
|Am G F|(E7)○ ○|F(E F)|E7 ○ ○|
コンテスタシオン(0コンパスから2コンパス)
|E7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Am(F)○ ○|
|Am G F|(E7)○ ○|F(E F)|E7 ○ ○|(この段が無い場合もある)
エストリビージョ(サビ)
|E7(D7)G7|○ ○ ○|○ ○ ○|C ○ ○|
|Am G F|(E7)○ ○|F(E F)|E7 ○ ○|
|E7(D7)G7|○ ○ ○|○ ○ ○|C ○ ○|
|Am G F|(E7)○ ○|F(E F)|E7 ○ ○|
ディグリー(度数)表記版
|Ⅰ7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅳm(♭Ⅱ)○ ○|
|Ⅳm ♭Ⅲ ♭Ⅱ|(Ⅰ7)○ ○|♭Ⅱ(Ⅰ ♭Ⅱ)|Ⅰ7 ○ ○|
コンテスタシオン(0コンパスから2コンパス)
|Ⅰ7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅳm(♭Ⅱ)○ ○|
|Ⅳm ♭Ⅲ ♭Ⅱ|(Ⅰ7)○ ○|♭Ⅱ(Ⅰ ♭Ⅱ)|Ⅰ7 ○ ○|(この段が無い場合もある)
エストリビージョ(サビ)
|Ⅰ7(♭Ⅶ7)♭Ⅲ7|○ ○ ○|○ ○ ○|♭Ⅵ ○ ○|
|Ⅳm ♭Ⅲ ♭Ⅱ|(Ⅰ7)○ ○|♭Ⅱ(Ⅰ ♭Ⅱ)|Ⅰ7 ○ ○|
|Ⅰ7(♭Ⅶ7)♭Ⅲ7|○ ○ ○|○ ○ ○|♭Ⅵ ○ ○|
|Ⅳm ♭Ⅲ ♭Ⅱ|(Ⅰ7)○ ○|♭Ⅱ(Ⅰ ♭Ⅱ)|Ⅰ7 ○ ○|
1節目でAmに行かないタイプ
|E7 ○ ○|○ ○ ○|(F E F)|E7 ○ ○|
コンテスタシオン(0コンパスから2コンパス)
|E7 ○ ○|○ ○ ○|(F E F)|E7 ○ ○|(この段が無い場合もある)
エストリビージョ(サビ)
|E7(D7)G7|○ ○ ○|○ ○ ○|C ○ ○|
|Am G F|(E7) ○ ○|F(E F)|E7 ○ ○|
|E7(D7)G7|○ ○ ○|○ ○ ○|C ○ ○|
|Am G F|(E7)○ ○|F(E F)|E7 ○ ○|
ディグリー(度数)表記版
|Ⅰ7 ○ ○|○ ○ ○|♭Ⅱ(Ⅰ ♭Ⅱ)|Ⅰ7 ○ ○|
コンテスタシオン(0コンパスから2コンパス)
|Ⅰ7 ○ ○|○ ○ ○|(♭Ⅱ Ⅰ ♭Ⅱ)|Ⅰ7 ○ ○|(この段が無い場合もある)
エストリビージョ(サビ)
|Ⅰ7(♭Ⅶ7)♭Ⅲ7|○ ○ ○|○ ○ ○|♭Ⅵ ○ ○|
|Ⅳm ♭Ⅲ ♭Ⅱ|(Ⅰ7)○ ○|♭Ⅱ(Ⅰ ♭Ⅱ)|Ⅰ7 ○ ○|
|Ⅰ7(♭Ⅶ7)♭Ⅲ7|○ ○ ○|○ ○ ○|♭Ⅵ ○ ○|
|Ⅳm ♭Ⅲ ♭Ⅱ|(Ⅰ7)○ ○|♭Ⅱ(Ⅰ ♭Ⅱ)|Ⅰ7 ○ ○|
ソレアで使用するギターのコード
伝統的なソレアで使用するギターのコードはシンプルでE、F、G、Am、Cの5つのコードで成立し、Eコードに解決していきます。
伝統的に使われるテンションコードにFadd9やE(♭9)があります。
Fadd9
ソレアの代表的な定型フレーズのコード進行
ソレアの代表的なマルカールのパターンは以下のようなものです。
- Fadd9→C→F→E
- Am→C→F→E
- E→F→F→E
- F→G→F→E
2つ目のコードにGではなく、Cを持ってくるのが他の形式にはない特徴です。
モダンコードの使用について
ソレア形式でのギター演奏に関して、モデルノ系の演奏やギターソロ曲だと積極的に複雑な響きを使っていく傾向が強いですが、前々回やったポルアリーバの項目にあるようなコードを活用していきます。
ソレアの演奏では、ファルセータや足の伴奏ではそうやってモダンなコードを使っていたとしても、歌が入ったら伝統的な雰囲気や歌いやすさを重視してシンプルなコードで伴奏するケースが多いです。
コード進行の変わり目
フラメンコの音楽はコード進行の変わり目が特殊で、他ジャンルのプレイヤーはそこで戸惑うことが多いと思います。
これは、実は明確には決まっておらず、昔から弾かれている「基本パターン」や、歌が元になった慣用句として処理されるため、かなりイレギュラーなものが多いです。
ここでは、一定の文章化が出来そうなものに絞って解説してみます。
1拍目と10拍のコードチェンジポイント
ソレアのフレージングで、一番よくあるのが1拍目からコード進行がはじまって10拍目に解決していくものです。
ですので、1拍目と10拍目はコードチェンジポイントになります。
そして、10、11、12の3拍は10で解決したコードが維持されるのが普通です。
フレーズの途中でのコードチェンジポイント
フレーズの途中でもコードが変わる可能性があるタイミングがいくつかありますが、場面によってリズムの取り方が変化するので、それに合わせてコードの変わり目も変わってきますが、全てに共通するのは、3拍目でコードが変わることが多いことです。
あとはテンポやフレーズによりますが、4拍目、6拍目、7拍目あたりにもコードチェンジポイントがあります。
歌伴奏は、歌の音程が変わったら直近のチェンジポイントでコードを追随させるんですが、ソレアの場合、歌のコード進行のバリエーションがそんなに無いので、一度基本形をおぼえてしまえば難しくはないと思います。
ファルセータのコードチェンジポイント
ファルセータ上のコードチェンジポイントですが、ファルセータの作り次第で、どこでもコードが変わるので、複雑なファルセータに即興で伴奏をつけるのは至難と思われ、そのへんは要打ち合わせとなります。
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