フラメンコ音楽論では、前回から個別形式の解説に入っていて、前回は「フラメンコの母」ソレア形式の解説をしました。
今回は、ソレアからの派生形式の一つであるソレア・ポル・ブレリア(通称ソレポル)という形式を解説いたします。
ソレア・ポル・ブレリア形式概要
単数形:Solea Por Buleria
複数形:あまり使われません
主な調性:ポルメディオ(Aスパニッシュ調)
テンポ:130BPMから170BPM
形式名からわかる通り、ソレアとブレリアの中間的なテンポの形式です。
別名ブレリア・ポル・ソレアとも言われますが、名称の使用頻度はソレア・ポル・ブレリアが多いです。
日本では略して「ソレポル」という通称で呼ばれたりもします。
ソレア・ポル・ブレリアのコンパス
ソレア・ポル・ブレリアのコンパスは次回取りあげる予定のカンティーニャ・アレグリアス系の形式とほぼ同様のものですが、強いて言うなら、カンティーニャス系と比べて硬質・男性的なコンパスで演奏される印象です。
テンポは130BPMから170BPMくらいです。
もともとソレアの歌は今のソレア・ポル・ブレリアに近いテンポでしたが、踊りが入るようになってから、だんだんゆっくりしたテンポでも歌われるようになってきました。
それと逆に、昔のソレアのテンポをもう少し軽快にしてリズムのキレの良さを強調したのがソレア・ポル・ブレリアというわけですね。
ソレアはリズムを揺らして演奏されることも多いですが、ソレア・ポル・ブレリアはインテンポでカッチリと演奏されます。
ソレア・ポル・ブレリアの調性
ソレア・ポル・ブレリアは主にポルメディオ(Aスパニッシュ調)で演奏されます。
ポルアリーバ(Eスパニッシュ調)は重厚さやギターコードの微妙な響きを表現するのに適していますが、ポルメディオはより軽快なリズムプレイに適しています。
同じ形式でもポルアリーバでやるのとポルメディオでやるのでは、コードボイシングやフレージングも変わってくるので雰囲気がかなり変わります。
ソレア・ポル・ブレリアをポルメディオでやる場合のカポの位置は、女性歌手なら4カポ(実音はC♯スパニッシュ)、男性歌手ならカポ無し(Aスパニッシュ)くらいが多いです。
ソレア・ポル・ブレリアはポルアリーバで演奏されることもあります。
ちなみに、カーニャやバンベーラはテンポにもよりますが、歌や固有フレーズ以外の部分は「ほぼポルアリーバのソレア・ポル・ブレリア」というのが実態です。
ソレア・ポル・ブレリアのフレージングとコンパス
ソレア・ポル・ブレリアはテンポの速いソレアに他なりませんが、実際のコンパス感やフレージングはソレアとは少し変わってきます。
コンパスの特徴はソレアと比べて8拍目のアクセントがはっきりしていて、12拍目の比重がやや高くなります。
パルマは3、7、8、10、12拍目にアクセントをつける場合が多く、このリズムは中くらいのテンポの12拍子系では共通のものです。以下のようになります。
1 2 ③ 4 5 6 ⑦ ⑧ 9 ⑩ 11 ⑫
※○の付いた数字がアクセント拍
歌やギターのフレージングは1拍目から入って10拍目に解決していく、という基本はソレアと同様ですが、コントラティエンポ(裏リズム)や細かい音符を多用してテクニカルな印象を強調するものが多いです。
ギターのファルセータでは、ソレアと同様の「3拍目にアクセントがついた3拍子」でとるものから、ブレリアに近いノリで12拍目からのったほうがやりやすいようなものまで様々なバリエーションがあります。
ソレア・ポル・ブレリアの歌について
ソレア・ポル・ブレリアの歌は基本的にはソレアをポルメディオでやったものですが、ソレアと比べると変化が多いく、コード進行もややブレリアに寄りになります。
最初の節でⅣm(Dm)や♭Ⅱ(B♭)ばかりではなく、Ⅴ7(E7)や♭Ⅲ(C)に行くパターンがソレアよりも増えます。
エストリビージョのC7→F→B♭→Aに関してはほぼ固定なんですが、そこまでの持っていき方が伝統的なソレアよりバリエーションが多いということです。
ですので、伴奏は歌をよく聴いて、その場での判断が求められることになり、このあたりもソレアとブレリアの中間という感じです。
歌のⅠコードに下がっていく「下りフレーズ」のところは、習慣的に表拍で1、2、3拍目を強調するリズムになる場合が多いです。
こういう1拍目の表が強いリズムパターンはブレリアに寄りがちな(12拍目を頭に感じる)コンパスをソレア側に引き戻す効果があります。
踊り歌の場合、ソレアに比べると最初の節が2コンパスある長いタイプの歌が多い印象です。
踊りの歌振りとしては全部で5コンパスとか6コンパスだと、テンポ的に考えて短すぎるんだと思います。
ソレア・ポル・ブレリアの歌のコード進行
ソレア・ポル・ブレリアの歌のうち、ここではオーソドックスなソレアがベースになったもののコード進行をやります。
ソレアのコンパスでいう1拍目を頭にした3拍子で記載、1段1コンパス、○はコードチェンジ無しの拍、複数コードの可能性があるものは「,」で区切ってあります。
キーはポルメディオ(Aスパニッシュ調)で書きます。
1節目でI以外のコードに行くタイプ
|A7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Dm,B♭,E7,C ○ ○|
|(Dm)(C)B♭|○ ○ ○|○ ○ ○|A7 ○ ○|(この段が無い場合もある)
コンテスタシオン(0コンパスから2コンパス)
|A7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Dm,B♭,E7,C ○ ○|(この段が無い場合もある)
|(Dm)(C)B♭|○ ○ ○|○ ○ ○|A7 ○ ○|(この段が無い場合もある)
エストリビージョ(サビ)
|(A7)○ C7|○ ○ ○|○ ○ ○|F ○ ○|
|(Dm)(C)B♭|○ ○ ○|○ ○ ○|A7 ○ ○|
|(A7)○ C7|○ ○ ○|○ ○ ○|F ○ ○|
|(Dm)(C)B♭|○ ○ ○|○ ○ ○|A7 ○ ○|
ディグリー(度数)表記版
|Ⅰ7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅳm,♭Ⅱ,Ⅴ7,♭Ⅲ ○ ○|
|(Ⅳm)(♭Ⅲ)♭Ⅱ|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ7 ○ ○|(この段が無い場合もある)
コンテスタシオン(0コンパスから2コンパス)
|Ⅰ7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅳm,♭Ⅱ,Ⅴ7,♭Ⅲ ○ ○|(この段が無い場合もある)
|(Ⅳm)(♭Ⅲ)♭Ⅱ|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ7 ○ ○|(この段が無い場合もある)
エストリビージョ(サビ)
|(Ⅰ7)○ ♭Ⅲ7|○ ○ ○|○ ○ ○|♭Ⅵ ○ ○|
|(Ⅳm)(♭Ⅲ)♭Ⅱ|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ7 ○ ○|
|(Ⅰ7)○ ♭Ⅲ7|○ ○ ○|○ ○ ○|♭Ⅵ ○ ○|
|(Ⅳm)(♭Ⅲ)♭Ⅱ|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ7 ○ ○|
1節目がⅠコードに留まるタイプ
|A7 ○ ○|○ ○ ○|B♭○ ○|A7 ○ ○|
|(Dm)(C)B♭|○ ○ ○|○ ○ ○|A7 ○ ○|(この段が無い場合もある)
コンテスタシオン(0コンパスから2コンパス)
|A7 ○ ○|○ ○ ○|B♭ ○ ○|A7 ○ ○|(この段が無い場合もある)
|(Dm)(C)B♭|○ ○ ○|○ ○ ○|A7 ○ ○|(この段が無い場合もある)
エストリビージョ(サビ)
|(A7)○ C7|○ ○ ○|○ ○ ○|F ○ ○|
|(Dm)(C)B♭|○ ○ ○|○ ○ ○|A7 ○ ○|
|(A7)○ C7|○ ○ ○|○ ○ ○|F ○ ○|
|(Dm)(C)B♭|○ ○ ○|○ ○ ○|A7 ○ ○|
ディグリー(度数)表記版
|Ⅰ7 ○ ○|○ ○ ○|♭Ⅱ ○ ○|Ⅰ7 ○ ○|
|(Ⅳm)(♭Ⅲ)♭Ⅱ|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ7 ○ ○|(この段が無い場合もある)
コンテスタシオン(0コンパスから2コンパス)
|Ⅰ7 ○ ○|○ ○ ○|♭Ⅱ ○ ○|Ⅰ7 ○ ○|(この段が無い場合もある)
|(Ⅳm)(♭Ⅲ)♭Ⅱ|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ7 ○ ○|(この段が無い場合もある)
エストリビージョ、サビ部分
|(Ⅰ7)○ ♭Ⅲ7|○ ○ ○|○ ○ ○|♭Ⅵ ○ ○|
|(Ⅳm)(♭Ⅲ)♭Ⅱ|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ7 ○ ○|
|(Ⅰ7)○ ♭Ⅲ7|○ ○ ○|○ ○ ○|♭Ⅵ ○ ○|
|(Ⅳm)(♭Ⅲ)♭Ⅱ|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ7 ○ ○|
ソレア・ポル・ブレリアの歌は、ソレアに比べてコンパス数、コード進行ともに変化が多いですが、踊り歌の場合、コンテスタシオン1コンパス入れて7コンパスか9コンパスという、ソレアと同様のサイズが標準的です。
なお、上記のソレアベースのもの以外にブレリアの歌をソレポル化したようなものもあって、そういう歌も入れると相当数のバリエーションがあります。
踊りの最後に付くブレリアについて
踊りの最後につくブレリアの部分は、最初にソレアベースのブレリアが歌われる場合が多いですが、そうしなければならないわけではなく、違うパターンのブレリアが来ることもあります。
ソレア・ポル・ブレリアのハケ歌は最初に♭Ⅲ(C)に行くパターンが多いように思います。
ソレア・ポル・ブレリア形式でのギターコード
ソレア・ポル・ブレリアで使用するコードですが、ギターソロや伴奏のファルセータ部分はモダンな印象を強調したコードワークが多いです。
歌部分も伝統的なポルメディオのコード使いを基本にしつつ、比較的挑戦的なコードワークも多めな印象です。
ポルメディオでのオンコード使用
ソレア・ポル・ブレリアの他、ブレリア、シギリージャ、タンゴ、ティエントなどがポルメディオで演奏されますが、このキーはベース音をルートで出してしまうと6弦が使えなかったりして重さや厚みが無くなってしまいます。
ですので、ポルメディオの調では習慣的にベース音をルート以外の音に組み換えて演奏します。
ポルメディオで使用される代表的なオンコードには以下のようなものがあります。
これらのコードはフラメンコ音楽論07で解説したものが多いので、具体的なコードフォームなどはこちらを参照してください。
- A7(onG)
フラメンコ音楽論07で解説済 - B♭6(onG)
フラメンコ音楽論07で解説済 - B♭7(onA♭)
フラメンコ音楽論07で解説済 - B♭(onF)
フラメンコ音楽論07で解説済のものに6弦F音を加えたもの - C9(onG)
一般的なC9に6弦のG音を加えたもの - Dm(onF)
一般的なオープンDmに5弦A音と6弦F音を加えたもの
重さが欲しいときや、ラスゲアードなどで全弦鳴らすときはこういうオンコードを使います。
ソレア・ポル・ブレリアで使うギターの慣用句
ソレア・ポル・ブレリアで使うギターの定番フレーズをいくつか紹介いたします。
マルカールや伴奏パターンの定番進行
ソレア・ポル・ブレリアのマルカールでは以下のようなパターンが多いですが、同じポルメディオ形式であるブレリアやタンゴなどにも共通のパターンです。
- B♭→A
- B♭→C→B♭→A
ソレアと同じⅣm(Dm)や♭Ⅵ(F)を含んだ進行もやらないわけではありませんが、ポルメディオのソレポルでは♭Ⅱ(B♭)と♭Ⅲ(C)を組み合わせて伴奏することのほうが多いです。適宜、上で解説したベース音組み換えコードを使っていきます。
3フレット半セーハでトップノートを動かす
3フレットを半セーハしたまま音階を弾いていくのはポルメディオ形式に共通の動きですが、5弦解放をならしながらやったりするので、B♭(またはGm)のコードトーンとA音がぶつかって微妙な響きになります。
B♭コードを押さえたまま低音弦でベースラインを弾く
ポルメディオ形式では、B♭のコードトーンである2弦D音(小指)と3弦B♭音(薬指)を押さえたまま、人差し指と中指でベースラインを弾いていく弾きかたがあります。
アルペジオやアルサプアと組み合わせるのが普通で、これもブレリア、シギリージャ、タンゴなど、他のポルメディオ形式と共通の慣用句です。
これらの他に、半音ぶつかり系のボイシングも多用しますが、詳しくはフラメンコ音楽論07のポルメディオの各項目を参照してください。
コメント