今まで、ソレア及びソレア・ポル・ブレリア、アレグリアスを含むカンティーニャス系、そしてブレリアと、代表的な12拍子形式をやってきました。
今までやってきた形式は、いろいろなものの影響はあるにしろ、フラメンコのオリジナルなものです。
これらフラメンコオリジナルな形式以外にも12拍子で演奏される形式はあるんですが、その多くは土着の民謡などがフラメンコ化したものです。
今回はそうした民謡系12拍子形式の一つであるカーニャをご紹介します。
カーニャ形式概要
単数形 Caña,La Caña
カーニャは複数形は使わないですね。
定冠詞をつけて、ラ・カーニャとも呼ばれます。
ラメントといわれるリフレインが最大の特徴です。
カーニャの起源は古く、もともとはロンダからマラガあたりの民謡だったのが、フラメンコに取り込まれてソレアやファンダンゴのコンパスで歌われるようになったようです。
ギターのフレージングはソレアと共通部分が多いですが、カーニャのような民謡系の12拍子派生形式は、民謡のメロディーをカンテ化したものにソレアやブレリアの伴奏パターンを後付けする形で演奏されるようになったものと考えられます。
カーニャは19世紀中に最盛期を迎えた後に一旦下火になります。
そのあと、コンクールを中心に再び歌われるようになり、カルメン・アマジャが踊りのレパートリーとして確立して以降は、踊り曲としてメジャーな形式に返り咲いています。
カーニャのキー
キーは主にポル・アリーバで演奏され、カポの位置はソレアと同じか、やや低いくらいです。
女性 6~7カポ(実音B♭~Bスパニッシュ)
男性 3~4カポ(実音G~G♯スパニッシュ)
カーニャのコンパス
コンパスは速めのソレアからソレポルくらい(100~160BPMくらい)で演奏されることが多く、リズムパターンはソレア・ソレポルと同様です。
ラメント部分だけテンポを落としたりしますが、ラメントについては後述します。
カーニャの伴奏パターン
カーニャのギター伴奏はソレアのパターンも使われますが、ソレアやソレポルでは出てこないカーニャ独自の慣用句がいくつかあります。
- ラメントをコード弾きにアレンジしたレマーテ
E F G F E……という進行で、イントロや区切りのレマーテに使われる - Eコードでミ ファ ミ ファから始まるエスコビージャ伴奏パターン
カーニャとポロ(後述)のラインがミックスされている - CとG7の2コードのエスコビージャ伴奏パターン
平行調Cメジャーに寄る。最後E7に落とす以外はカラコレスと共通で、ポロのラインがベース
カーニャの歌の構成
カーニャの歌の基本展開は数種類しかないですが、細かいサイズはかなり変化します。
メディオコンパスもよく出てきます。
踊りの後歌のブレリアはCメジャーから入るものも多いんですが、カーニャはソレアに比べると全体にCメジャーキーに寄っています。
ずっとCメジャーで回って最後だけF→Eみたいなパターンが多いです。
ラメントについて
カーニャの最大の特徴であるラメントですが、E→F→G→F→Eの音程で演奏されるリフレイン部分です。
ソレアでいう1拍目から入って6拍でひとかたまりですが、繰返し回数は踊り手と歌い手がやりたい長さになるので、6拍単位で伸び縮みします。
ラメント部分はテンポを落としたり、自由リズムになったりしますが、それまでの歌のテンポのまま演奏することもあります。
ポロについて
カーニャに類似した『ポロ』という歌があります。
ポロは独立した形式の歌ですが、カーニャとポロはセットで演奏されることが多いです。
ラメント後半にポロのセクションがついた場合、ラメントがひきのばされてロングバージョンになる感じです。
カーニャの歌のコード進行
1節目でAmにいく最も一般的なものです。
ソレアでいう1拍目を頭にした3拍子で記載、1段が1コンパスになります。
○はコードチェンジ無し拍です。
キーはポル・アリーバ=Eスパニッシュ調で書きます。
|E7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Am ○ ○|(1コンパス半~2コンパスかけて歌う場合もある)
コンテスタシオン(無い場合もある)
|○ ○ D7|○ ○ ○|○ ○ ○|G ○ ○|(1コンパス半~2コンパスかけて歌う場合もある)
コンテスタシオン(無い場合もある)
|○ ○ D7|○ ○ ○|○ ○ ○|G ○ ○|(1コンパス半~2コンパスかけて歌う場合や、無い場合もある)
コンテスタシオン(無い場合もある)
|○ ○ D7|○ ○ G|○ ○ ○|F ○ ○|
|○ ○ F|○ ○ ○|○ ○ ○|E ○ ○|
|○ ○ F|○ ○ ○|○ ○ ○|E ○ ○|(最後の延ばしは無い場合もある)
ラメント
|E F G|F E ○|E F G|F E ○|
|E F G|F ○ ○|F (E) C7|F ○ ○|
|F (E) C7|F ○ ○|Am G F|E ○ ○|(この段はメディオコンパスの場合もある)
こんな感じで歌本体部分は長さがかなり変化します。
ディグリー(度数)表記版
|Ⅰ7 ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅳm ○ ○|(1コンパス半~2コンパスかけて歌う場合もある)
コンテスタシオン(無い場合もある)
|○ ○ ♭Ⅶ7|○ ○ ○|○ ○ ○|♭Ⅲ ○ ○|(1コンパス半~2コンパスかけて歌う場合もある)
コンテスタシオン(無い場合もある)
|○ ○ ♭Ⅶ7|○ ○ ○|○ ○ ○|♭Ⅲ ○ ○|(1コンパス半~2コンパスかけて歌う場合や、無い場合もある)
コンテスタシオン(無い場合もある)
|○ ○ ♭Ⅶ7|○ ○ ♭Ⅲ|○ ○ ○|♭Ⅱ ○ ○|
|○ ○ ♭Ⅱ|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ ○ ○|
|○ ○ ♭Ⅱ|○ ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ ○ ○|(最後の延ばしは無い場合もある)
ラメント
|Ⅰ ♭Ⅱ ♭Ⅲ|♭Ⅱ Ⅰ ○|Ⅰ ♭Ⅱ ♭Ⅲ|♭Ⅱ Ⅰ ○|
|Ⅰ ♭Ⅱ ♭Ⅲ|♭Ⅱ ○ ○|♭Ⅱ (Ⅰ) ♭Ⅵ7|♭Ⅱ ○ ○|
|♭Ⅱ (Ⅰ) ♭Ⅵ7|♭Ⅱ ○ ○|Ⅳm ♭Ⅲ ♭Ⅱ|Ⅰ ○ ○|(この段はメディオコンパスの場合もある)
カーニャの歌のバリエーション
カーニャの歌は上記のほかにいくつかのバリエーションがあります。
- 最初AmでなくCに行くパターン
このパターンは途中でAmの中締めが入ったりする - AmやCを経由せずに最初からGに行くパターン
次回はカーニャと同じ民謡系12拍子形式のバンベーラを取り上げようと思います。
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