ルンバ・コロンビアーナ・サンブラ【フラメンコ音楽論31】

フラメンコ音楽論では、2拍子系形式の2大カテゴリーであるタンゴ系北部起源系の形式を解説してきました。

今回は、タンゴ系・北部起源系以外の「その他の2拍子系コンパス」の代表としてルンバ・コロンビアーナ・サンブラの3形式をご紹介します。

ルンバ

単数形:Rumba
複数形:
Rumbas(あまり使わない)
テンポ:
160BPMから240BPM

フラメンコ形式の多くは固有の歌がもとになって成立していますが、ルンバ形式はリズムパターンから成立しているもので、他の形式のように特定の歌・コード進行・慣用句があるわけではありません。

要するに、特定のリズムパターンを使っていれば何でもルンバ形式と呼べるわけで、実体が掴みにくい形式かもしれませんね。

ルンバのリズムパターンにも色々なものがありますが、まずはそれら全てに共通する特徴をあげていきましょう。

ルンバの拍子とテンポ

ルンバのリズムは「一般的な4拍子」です。

ルンバに関しては、何拍で1コンパスだとかメディオコンパスというような概念も希薄なので、普通の音楽のように4拍子の小節単位で出来ているという認識で大丈夫です。

テンポは速い場合が多く、だいたい160BPMから240BPMくらいが中心です。

ルンバの基本的リズムパターン

ルンバの基本になるリズムパターンはラテン音楽のルンバと同じで、符点4分音符2つ+4分音符1つで1小節となります。

ルンバ基本パターン

これが全てのルンバのリズムパターンのベースとなりますが、以下、バリエーションの実例を見ていきましょう。

伝統的なルンバ・フラメンカ

伝統的なルンバ・フラメンカ(フラメンコのルンバ)は、ほぼ基本アクセントそのまま演奏する場合が多く、具体的には下の譜面ようなパターンです。

なお、今回の譜面は全て単音で記載しましたが、ギター等で弾く場合は、歌に合わせたコードプレイになります。

ルンバ スタンダード
※4拍目(アクセント記号のあるところ)にミュートのアタックを入れる事もある

1970年代までのパコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)なども、このパターンで演奏していますよね。

ジプシールンバ

厳密にはフラメンコのアーティストではありませんが、ジフシーキングスの世界的ヒットによりメジャーになったリズムで、「ジプシールンバ」などと呼ばれているリズムパターンです。

ジプシールンバのリズムは、上記の伝統的ルンバ・フラメンカのパターンをベースに、さらにバックビート(2拍目と4拍目)を強調したような感じになります。

ジプシールンバ
※1拍目や3拍目の頭にゴルペや、指先・掌でボディを叩く打撃音を入れる事もある

このリズムパターンは様々なアレンジと相性が良く、非常にキャッチーな説得力があるので世界中に広まっていて、フラメンコのアーティストも逆輸入して演奏していたりします。

モダンスタイルのルンバ

モダンスタイルのルンバは、1980年代後半頃からパコ・デ・ルシア、トマティート(Tomatito)といったアーティストが演奏して広まったリズムパターンで、1990年代以降、若い世代のフラメンコのアーティストは、ルンバと言えばほぼこちらのリズムで演奏しています。

自分がフラメンコを始めた頃、このリズムを習得したかったのですが、当時、日本にはこのリズムはまだ伝わっておらず、教えてくれる人もいなかったので、スペインに行って真っ先に教わったのはこれだったりします。

具体的には、上で紹介した伝統的なルンバフラメンカを発展させたもので、以下のようなシンコペーションリズムです。

モダンスタイル ルンバ

このリズムの特徴は以下の通り。

  • 1拍目や3拍目の頭を出さない
  • 4拍目を強調する
  • コードも4拍目の表か裏で変わる

ギターで弾く場合は、伝統的なルンバ・フラメンカの基本パターンと同様に、4拍目にミュートでアタックを入れたりもしますが、そのまま親指で4拍目の裏を弾いて次の1拍目頭はスキップ、というような弾き方になります。

このリズムパターンは、ボサノバのサンバカッティング的な爪弾き奏法と併用されたりして、ジプシールンバ系のガシガシしたノリに比べると、全体に洒落て洗練された印象です。

ルンバタンゴ

1990年代以降のフラメンコのCD作品に収録されているテンポが速いタイプのタンゴは、モダンスタイルのルンバのリズムでやってるものが多いですよね。

CDのインデックスに書いてある曲名(形式名)を見てみると、リズムがルンバでもタンゴの語法の歌を歌っていれば、形式名は「タンゴ」と表記してある場合のほうが多い印象です。

こういうルンバとタンゴのハイブリッドの曲を、自分は「ルンバタンゴ」と呼んでいますが、一般的な呼称なのか?は分かりません。

なお、ルンバとタンゴのコンパス的な違いは以下のようなものだと考えられます。

  • ルンバは2拍目の裏を強く弾くが、タンゴは弾かない
  • 1サイクルがルンバは4拍、タンゴは8拍
  • タンゴのジャマーダは7拍目で止まるがルンバはジャマーダの概念自体が希薄
  • ルンバのほうがテンポが速い

自分はこんな認識なのですが、ルンバのコンパスもタンゴのバリエーションであると考えることも出来るし、コンパス的に「ここからルンバ」みたいなハッキリとした線引きは出来ないのではないでしょうか。

コロンビアーナ

単数形:Colombiana
複数形:
Colombianas
テンポ:
150BPMから200BPM
主な調性:
Aメジャーキー

コロンビアーナは、グアヒーラと同様の逆輸入系メロディーを持つ2拍子形式ですが、歌の録音用アレンジやギター曲ではルンバのリズムパターンが使用される事が多く、伝統的なギターのマルカールも「符点4分音符2つ+4分音符1つ」というルンバ的なパターンで弾かれます。

ただし、踊りが入る場合(グアヒーラの後歌を2拍子のコロンビアーナでやることもある)は、大抵はタンゴの振り付けを流用するため、それに合わせる形でタンゴのコンパスに寄ったりしますが。

コロンビアーナの調性は、グアヒーラと同じAメジャーキーが主流ですが、他のメジャーキーでも演奏され、ギターソロ曲などでは変則チューニングが使われることもあります。

コロンビアーナの歌のメロディーやギターの演奏は「2拍子版グアヒーラ」といったような趣きですが、グアヒーラの時に紹介したスタンダードな歌に比べるとⅣコード(AメジャーキーならDコード)の活用比率が高くなるのが特徴です。

なお、グアヒーラの形式解説はこちらをご覧下さい。

サンブラ

単数形:Zambra
複数形:
Zambras(あまり使われない)
テンポ:
100BPMから150BPM
主な調性:
ポルアリーバ(Eスパニッシュ調)、Dスパニッシュ調(変則調弦)など

サンブラは、グラナダ発祥のアラブ音楽的な雰囲気を持つ2拍子形式で、婚礼の際に歌い踊られてきた古い民謡がルーツになっていると言われています。

サンブラはタンゴの一種と捉えられる事もありますが、一般のタンゴ系と異なるニュアンスのコンパスで演奏される場合がありますので(とくにギターソロやファルセータ)、ここでは「その他の2拍子系形式」に含めて紹介いたします。

近年、エストレージャ・モレンテ(Estrella Morente)の歌唱が話題になり、サンブラ形式がリバイバルしましたよね。

それをきっかけに、サンブラ形式での踊りの振り付けも盛んに行われるようになりましたが、現代のサンブラの踊りは、レトラ部分(サンブラとされているメロディーが歌われる)とファルセータ(アラブ音楽風)に特徴がある以外は、ほぼタンゴです。

現在、フラメンコでサンブラと呼ばれているものには、大雑把に言って3種類のスタイルがあると思われます。

  1. グラナダ民謡をタンゴに乗せたスタイル
  2. マノロ・カラコールの歌唱によるスタイル
  3. アラブ音楽風のギターソロ

1.が本来のサンブラで「メロディーが少し変わったタンゴ・デ・グラナダ」という感じですが、コンパスは一般的なタンゴより若干ゆっくり演奏される事が多く、粘ったりしないイーブンテンポで、タンゴのようにバックビートにアクセントを付ける度合いが少ない、というような傾向があります。

歌のコード進行は、Ⅳmからの下降進行やⅠ・♭Ⅱ中心の循環進行を中心とした動きです。

2.は、往年の名カンタオール、マノロ・カラコールが創唱したスタイルです。

内容的には、グラナダ民謡からインスパイアされた彼の独自創作だと思われ、本来のサンブラとは異なるのですが、現代の歌手がサンブラ形式としてマノロ・カラコールのスタイルを踏襲する事も多く、この形式を語る上で重要なものとなっています。

3.については、サビーカスなどが活躍した時代に、ギターソロ曲としてサンブラが流行した事がありました。

ギターソロのサンブラは「Danza Mora」と呼ばれる事もあり、開放弦をドローン(持続低音)のように鳴らしながらアラブ音楽風のフレーズを弾いていくような特異なスタイルです。

良く知られるサビ―カスのスタイルは、6弦をD音に下げたチューニングによるDスパニッシュ調で演奏されていました。この流れで、踊りや歌の伴奏でもこのキーが使われる事があります。

――3.のギターソロだけはやや特殊なスタイルなのですが、現在、一般的にサンブラ形式といえば、1.と2.のスタイルをもとにした歌、という認識で良いのではないかと思います。

形式解説あとがき

今回でフラメンコの形式解説を一通り終える事が出来ました。

これでフラメンコの全てを網羅出来てるとはとても思えないし、まだ解説していないマイナー形式も沢山あるのですが、あまり歴史学・分類学的な展開は「フランメコ音楽論」の趣旨から離れていってしまう感じがするので、ここでは基本を押さえるのに止めておこうかと。

今回、ルンバの解説で現代のフラメンコの実践的な内容にも触れましたが、次回からは、そういう現代のフラメンコと、自分の長年の研究テーマでもある「フラメンコと他の音楽のフュージョン」「フラメンコ音楽の新たな可能性」といった事にフォーカスしていこうと思います!

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