ルンバとサンブラ【フラメンコ音楽論31】

フラメンコ音楽論では、2拍子系形式の2大カテゴリーであるタンゴ系北部起源系の形式を解説してきました。

今回はタンゴ系・北部起源系以外の「その他の2拍子系コンパス」の代表としてルンバとサンブラをご紹介します。

サンブラに関してはタンゴの派生形式という側面もありますが、他のタンゴ系と異なるリズム的特徴があるので、番外編的にここで取り扱います。

ルンバ

単数形:Rumba
複数形:
Rumbas(あまり使わない)
テンポ:
150BPMから240BPM

フラメンコの多くの形式が、基になった歌があって成立していますが、ルンバ形式はリズムパターンから成立している形式です。

ですので、他の形式のように特定の歌やコード進行、慣用句があるわけではなく、様々なものをルンバのリズムにのせて演奏して、それをルンバ形式としています。

要するに、特定のリズムパターンを使っていれば何でもルンバと呼べるわけで、そのリズムパターンもかなり幅があったりして、実体が掴みにくい形式かもしれません。

今回は、実例をあげながらルンバのリズムバリエーションを解説していきます。

ルンバのリズムパターンも色々ありますが、まずはそれら全てに共通する特徴をあげていきます。

ルンバの拍子

ルンバのリズムは一般的な4拍子です。

ルンバに関しては、何拍で1コンパスだとかメディオコンパスというような概念も希薄なので、普通の音楽のように4拍子の小節単位で出来ているという認識で大丈夫です。

ルンバのテンポ

ルンバのテンポは速い場合が多く、だいたい150BPMから240BPMくらいが中心です。

ルンバの基本的リズムパターン

ルンバの基本になるリズムパターンはラテン音楽のルンバと同じで、符点4分音符2つ+4分音符1つで1小節です。

8分音符に分解して書くと下のようなアクセントになります。

●○○●○○●○
●=強拍、○=弱拍

譜面で書くとこのようになります。

ルンバ基本パターン

これが全てのルンバのリズムパターンのベースになります。

では、実例とともにルンバのリズムバリエーションを見ていきます。

伝統的なルンバ・フラメンカ

伝統的なルンバ・フラメンカ(フラメンコのルンバ)は、ほぼ基本アクセントそのまま演奏する場合が多いです。

フラメンコギターだとこんなパターンになります。

ルンバ スタンダード※4拍目にミュートのアタックを入れたりする

1970年代までのパコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)なども、このパターンで演奏しています。

ジフシーキングスが広めたジプシールンバ

これは厳密にはフラメンコではありませんが、ジフシーキングスの世界的ヒットによりメジャーになったリズムで、「ジプシールンバ」などと呼ばれているリズムパターンがあって、フラメンコのアーティストも逆輸入して演奏したりします。

ジプシールンバは、上記の伝統的ルンバ・フラメンカのパターンをベースにバックビートを強調したパターンも多用していきます。

こんな感じです。○1つが8分音符です。

○○●●○○●●
●=強拍、○=弱拍

譜面で書くとこうなります。

ジプシールンバ

1拍目や3拍目の頭にゴルペというか、指の先や手のひらでボディを叩く音を入れたりします。

このリズムパターンはEDM系のアレンジとも相性が良かったりして、非常にキャッチーな説得力があるので「お手軽に他ジャンルにフラメンコのカラーを入れたい」という時に多用されて、今や世界中に広まっています。

モダンスタイルのルンバ

1980年代後半頃からパコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)、トマティート(Tomatito)といったアーティストが演奏して広まったノリで、1990年代以降は若い世代のフラメンコ側のアーティストはルンバと言えばほぼこちらのリズムで演奏しています。

ケタマ(KETAMA)やバルベリア(Barberia del Sur)などのフラメンコバンドもこのリズムをベースにして多くのヒット曲を書いています。

自分がフラメンコを始めたころ、このリズムを習得したかったのですが、当時、日本にはこのリズムはまだ伝わっておらず、教えてくれる人もいなかったので、スペインに行って真っ先に教わったのはこれだったりします。

具体的にはこんな感じのシンコペーションリズムです。

  • 1拍目や3拍目の頭を出さない
  • 4拍目を強調して
  • コードも4拍目の表か裏で変わる

図にすると下のようなリズムですが、・の部分はあまり音を出しません

・○○●・○●●

譜面で書くとこのようになります。

モダンスタイル ルンバ

伝統的なルンバ・フラメンカの基本パターンと同様に、4拍目にミュートでアタックを入れたりもしますが、そのまま親指で4拍目の裏を弾いて次の1拍目頭はスキップ、というふうに弾きます。

慣れないと安定して弾くのが難しいリズムパターンですが、はまると凄く気持ちいいです。

このリズムパターンは、ボサノバ・サンバカッティング的な爪弾き奏法と併用されたりして、ジプシールンバ系のガシガシしたノリに比べて、全体に洒落た印象になります。

ルンバタンゴ

1990年代以降のフラメンコのCD作品の多くで、テンポが速いタイプのタンゴは形式名はタンゴになってますが、リズムはモダンスタイルのルンバでやってるものが多いです。

カマロン(Camaron)以降の、ポティート(Potito)、ドゥケンデ(Duquende)、ディエゴ・エル・シガーラ(Diego el Cigala)とかはみんなそんな感じです。

ルンバのコンパスもタンゴのバリエーションというふうにも考えられるし、この2つの形式はリズムを基準にして厳密に分けられるものでなく、タンゴの語法の歌を歌っていれば、リズムがルンバっぽくても形式は「タンゴ」ということになります。

こういうものを自分は「ルンバタンゴ」と呼んでいますが、一般的な呼称かは分かりません。

ルンバとタンゴのコンパス的な違いは以下のようなものだと思います。

  • 2拍目の裏を強く弾くか弾かないか
  • 1サイクルが4拍か8拍か
  • 7拍目でハッキリ止まるようなレマーテやジャマーダがあるか

ですが、ルンバとタンゴよ中間的なノリもあったりするし「ここからルンバ」みたいなハッキリとした線引きはないんじゃないでしょうか?

ルンバタンゴの場合、テンポはスタンダードなタンゴより速く180BPMから230BPMくらいになり、レマーテなんかの締めくくりは、7拍目ではなく8拍目の表裏で締めるパターンが多いのも特徴です。

コロンビアーナ

単数形:Colombiana
複数形:
Colombianas
テンポ:
150BPMから240BPM
主な調性:
Aメジャーキー

グアヒーラのときに触れましたが、逆輸入系メロディーを持つ2拍子形式のコロンビアーナも、歌の音源やギター曲ではルンバのリズムパターンが採用される場合が多いです。

踊りに入る場合はタンゴのコンパスのほうがやりやすいのでタンゴ寄りの弾き方が多いですが。

コロンビアーナのキーはグアヒーラと同じAメジャーが多いですが、他のメジャーキーでも演奏されます。

1990年代に一時、変則チューニングでのコロンビアーナが流行しました。

コロンビアーナの歌のメロディーラインやギターのフレージングは、グアヒーラを2拍子にしたような趣きです。

サンブラ

単数形:Zambra
複数形:
Zambras(あまり使われない)
テンポ:
130BPMから170BPM
主な調性:
ポルメディオ(Aスパニッシュ調)、ポルアリーバ(Eスパニッシュ調)

サンブラはグラナダを中心に歌われてきたタンゴの一種ですが、リズムのニュアンスが一般のタンゴ系と異なります(タンゴのコンパスで演奏される場合もあります)。

サンブラはグラナダ周辺の古い民謡がルーツになっていると言われています。

サンブラは、主に婚礼の際に歌い踊られてきましたが、その音楽的な特徴は「アラブ音楽のフラメンコ的解釈」というような趣きです。ナスル朝最後の砦グラナダらしい形式ですよね。

一般的なタンゴより少しゆっくり演奏されますが、粘ったりしないイーブンテンポで、アクセントもわりと均等です。

一時、ギターソロ曲としてサンブラが流行したことがあって、開放弦をドローン(通低音)のように鳴らしながら、アラブ音楽風のフレーズを弾いていったりします。

このようにギターソロ曲は特徴的なものがありますが、歌のコード進行は一般的なタンゴ(ミの旋法)とそんなに変わりません。

具体的には、Ⅳmからの下降進行・5度進行やⅠと♭Ⅱの循環進行などが骨組みになっています。

近年、サンブラ形式のリバイバルがあり、エストレージャ・モレンテ(Estrella Morente)の歌唱が話題になりました。

それをきっかけに、サンブラ形式への踊りの振り付けも盛んに行われるようになりました。

次回からの内容について

今回でフラメンコの形式解説は一通り終わりました。

これでフラメンコの全てを網羅出来てるとはとても思えないし、まだ解説していないマイナー形式もありますが、あまり歴史学・分類学的な展開はこの企画の趣旨から離れていってしまうので、基本を押さえるのに止めておこうと思います。

次回からは、また「演奏する」ということに立ち戻って執筆していきたいと思います。

今回、ルンバの解説で現代のフラメンコの実践的な内容にも触れましたが、今後はそういう現代のフラメンコと、自分の長年の研究テーマでもある「フラメンコと他の音楽のフュージョン」「フラメンコ音楽の新たな可能性」といった事にフォーカスしていこうと思います!

フラメンコ音楽論 前回

タラント(Taranto)【フラメンコ音楽論30】
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フラメンコ音楽論 次回

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