タラント(Taranto)【フラメンコ音楽論30】

フラメンコ音楽論の直近の記事で、スペイン北部起源系2拍子としてガロティンとファルーカを紹介しましたが、今回はコンパスとしては北部起源系2拍子に属しているものの、色んな意味で特殊な形式であるタラントを解説いたします。

タラント形式概要

単数形:Taranto
複数形:
Tarantos
主な調性:
ポルタラント(F♯スパニッシュ調)
テンポ(踊り):
65BPMから90BPM
テンポ(歌):
90BPMから120BPM。リブレに近くなる場合も多い

少し前にファンダンゴ系の形式を解説しましたが、そのなかで自由リズム形式のタランタという形式があったのをおぼえていますか?

タランタはいわゆるカンテ・レバンテの中で最もメジャーな形式です。

カンテ・レバンテとタランタの解説

カンテレバンテ(タランタ・ミネーラなど)【フラメンコ音楽論23】
フラメンコ音楽論では前回、自由リズムのファンダンゴ系形式を解説しましたが、今回は他のファンダンゴと雰囲気が違う「カンテレバンテ」と呼ばれる形式群の紹介です。

タランタとタラントの関係

元々は3拍子系のファンダンゴの一種であるタランタの節を2拍子に当てはめて演奏されたのが、今回とりあげるタラントです。

2拍子のタラント形式がいつ頃から存在するのか、今一つハッキリしないんですが、踊り(バイレ)に関してはカルメン・アマジャ(Carmen Amaya)がレパートリーに採り入れて舞踊化したことでメジャーな形式として確立しました。

カルメン・アマジャ以前は、タランタとタラントの歌の違いは、以下のような感じで曖昧なものだったと思われます。

  • 3拍子の感覚が強い自由リズム→タランタ
  • 2拍子の感覚が強い自由リズム→タラント

タラントは2拍子のリズムが付けられていますが、タランタがベースである以上はファンダンゴのバリエーションということになります。

まあ、ファンダンゴ・デ・ウエルバとタラントを聴くと、共通項を探すほうが難しいくらいかけ離れたモノに聴こえますが……。

タラントのコンパス

タラントのコンパスには北部起源系の2拍子が採用されています。

何故ファンダンゴで一般的なアバンドラオのリズムではないのか?というのは自分も謎に思うんですが、ちょっと考えてみましょう。

  • タランタのメロディーは元々2拍単位のフレージングが多い
  • カンテレバンテはファンダンゴより地元民謡のカラーが強く、タラントに分化する際に2拍子系の民謡の影響を受けた

要因として以上の2点が考えられるんですが、フラメンコらしく「遊びから発生した」という可能性も大いにあると思います。

何故タンゴ系でなく北部起源系なのか?

では2拍子化したとして、何故タンゴ系にしなかったか?ということを考察してみましょう。

タラントの歌はリブレの感覚が濃厚に残っています。

この歌をインテンポに乗せるには、メディオコンパスのさらに半分の2拍単位で伸縮させる必要があった、ということが最大要因ではないでしょうか。

これがあったため、タンゴ系よりも単純で細分化しやすい北部起源系コンパスが採用された、と考えられます。

タラントの歌は4拍子ではなく純粋な2拍子

今解説したような事情があるため、他の2拍子系形式が実質は4拍子なのに対して、タラントだけは「純粋な2拍子」となり、2拍単位での伸縮があります。

つまり、1フレーズが6拍や10拍になることも有り得るわけです。

ただし、2拍での伸縮が出て来るところはだいたい決まっていて、以下の通りです。

  • カンテソロの本歌部分
  • 踊りのレトラ部分
  • カルメン・アマジャが創始した踊りの足とギターの合わせフレーズ

これ以外の部分は、他の2拍子系と同じく4拍子ベースになります。例えば以下のような部分は他の2拍子系形式と変わりません。

  • 踊りのサパテアードやジャマーダの部分
  • 踊りの中で弾かれるファルセータ部分
  • 曲の最後のほうに付けられるタンゴ

ちなみに上記のような部分に関しては、タラントに限らず、ティエント、タンゴ・デ・マラガ、ガロティンあたりの形式はコンパス的な違いはほとんど無く、形式ごとのコンパスの特徴が出るのは主に歌の部分と形式固有の慣用句の部分です。

タラントの調性

カンテレバンテはF♯スパニッシュ(ポルタラント)という特殊な調性で演奏されますが、タラントもそれに準じます。

ポルタラントでは、ルートコードに開放弦が絡んでF♯7(♭9,11)というテンションコードになりますが、これ以降、コードネームでF♯7と表記されているところは全てF♯7(♭9,11)で鳴らすと思ってください。

タラントの歌のカポの位置は、女性歌手の場合は5カポ(Bスパニッシュ調)、男性歌手なら1カポ(Gスパニッシュ調)あたりが中心です。

タラントのマルカール

タラントのマルカールは普通に8拍単位で、普通は伸縮しません。

マルカールのコード進行は「G→F♯」と超シンプルですが、独自の「それっぽい解決フレーズ」があるので、それらしく弾くにはそういう引き出しを持っている必要があります。

タラントのコードワーク

ルートコードの構成に象徴されるように、タラントではギターの開放弦を絡めた半音ぶつかりのボイシングを多用します。

コードボイシングについては、フラメンコ音楽論07で詳しく書いていますので、そちらも参照してください。

タラントの歌の構成

タラントの歌は「タランタ(リブレ)の歌を2拍で区切って伴奏をつけている」という感覚で「フレーズの長さはランダム」と思っておいたほうが良いです。

また、踊りのタラントはカルメン・アマジャがやっていたものをベースに独自の発展をしていて、この形式のためだけに覚えなければならない事が多いです。

レトラ部分の展開は以下のようになります。

  1. 前フリ
  2. コンテスタシオン
  3. Aメロ1
  4. コンテスタシオン
  5. Aメロ2
  6. レマーテ(歌はアーイーとかで伸ばして、踊りの足を入れたりする)
  7. Bメロ・落ち

2回挟まるコンテスタシオンはDメジャーコードで演奏しますが、これは一般的なポルアリーバのファンダンゴでいうと、歌の中のCコードの合いの手部分に該当します。

カルタヘネーラを除くカンテレバンテ系全般に言えますが、平行調メジャーキーに落ちる部分(F♯スパニッシュならDメジャーコードの所)を歌わないことで、カンテレバンテ独特の、ほの暗い雰囲気を出しています。

そして3つ目の区切りのレマーテですが、ここはD7コードで踊りの足がだーっと入ったりします。

歌い手はそこは「アーイー」とかで伸ばしてレマーテが終わるのを待ちます。

そして締めのBメロに入りますが、ここはファンダンゴでいうと最後のG→F→Eの部分をめちゃめちゃ引き延ばして歌っている感じです。

このようにファンダンゴをベースとしながらも、原型をとどめないようなアレンジがされているわけです。

タラントの歌のコード進行

以下に一般的なタラントの踊り歌のコード進行を書きますが、サイズは不定形なので、大まかな進行のみになります。

前フリ
D7 G

コンテスタシオン
D

Aメロ1
(D7)E7 A
D7 G

コンテスタシオン
D

Aメロ2
E7 A
D7 G

レマーテ(踊りの足を入れたりする)
D7

Bメロ・落ち
G G
G A/G
F♯7

ディグリー(度数)表記版

前フリ
♭Ⅵ7 ♭Ⅱ

コンテスタシオン
♭Ⅵ

Aメロ1
(♭Ⅵ7)♭Ⅶ7 ♭Ⅲ
♭Ⅵ7 ♭Ⅱ

コンテスタシオン
♭Ⅵ

Aメロ2
♭Ⅶ7
♭Ⅲ♭Ⅵ7 ♭Ⅱ

レマーテ(踊りの足を入れたりする)
♭Ⅵ7

Bメロ・落ち
♭Ⅱ ♭Ⅱ
♭Ⅱ ♭Ⅲ/♭Ⅱ
Ⅰ7

タラント形式内で歌われるレバンテ系の歌

タラントの形式内でタランタ以外のカンテレバンテを2拍子化して歌うこともあります。

そのなかで最もよく歌われるのがミネーラのF♯7→Bmからの5度進行メロディーで、踊り伴唱でよく出てくるので覚えておいたほうが良いでしょう。

タラント内で出てくるミネーラの進行

前フリ
D7 G

コンテスタシオン
D

Aメロ1
F♯7 Bm E7 A
D7 G

コンテスタシオン
D

Aメロ2
F♯7 Bm E7 A
D7 G

この後のレマーテからBメロ以下の展開は、普通のタラントとだいだい一緒です。

ディグリー表記版

前フリ
♭Ⅵ7 ♭Ⅱ

コンテスタシオン
♭Ⅵ

Aメロ1
Ⅰ7 Ⅳm ♭Ⅶ7 ♭Ⅲ
♭Ⅵ7 ♭Ⅱ

コンテスタシオン
♭Ⅵ

Aメロ2
Ⅰ7 Ⅳm ♭Ⅶ7 ♭Ⅲ
♭Ⅵ7 ♭Ⅱ

このあとのレマーテからBメロ以下の展開は、普通のタラントとだいだい一緒。

タラントの後歌に付くタンゴ

タラントの後歌に付けられるタンゴはタンゴ・デ・グラナダが好んで歌われる傾向があります。

他の形式も最後に付けるタンゴやブレリアは一定の決まったネタがあったり、好んで歌われる歌がだいたい決まっているので、それを覚えておく必要があります。

――次回はタンゴ系・北部起源系以外の「その他の2拍子系」をやろうと思います。

フラメンコ音楽論 前回

ファルーカ(Farruca)【フラメンコ音楽論29】
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フラメンコ音楽論 次回

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