スペイン北部起源系2拍子として、ガロティンとファルーカを紹介しましたが、今回はいろんな意味で特殊な形式であるタラントを解説いたします。
タラント形式概要
単数形 Taranto
複数形 Tarantos
少し前にファンダンゴ系の形式を解説しましたが、そのなかで自由リズム形式のタランタという形式があったのをおぼえていますか?
タランタはいわゆるカンテ・レバンテの中で最もメジャーな形式です。
カンテ・レバンテとタランタの解説

タランタとタラントの関係
元々は3拍子系のファンダンゴの一種であるタランタの節を2拍子に当てはめて演奏されたのが、今回とりあげるタラントです。
2拍子のタラント形式がいつ頃から存在するのか、いまいちハッキリしないんですが、踊り(バイレ)に関してはカルメン・アマジャがレパートリーに採り入れて舞踊化したことでメジャーな形式として確立しました。
カルメン・アマジャ以前は
- 3拍子の感覚が強い自由リズム→タランタ
- 2拍子の感覚が強い自由リズム→タラント
くらいの感覚で曖昧だったと思われます。
タラントもタランタがベースである以上はファンダンゴのバリエーションということになります。
まあ、ファンダンゴ・デ・ウェルバとタラントを聴くと、共通項を探すほうが難しいくらいかけ離れたモノに聴こえますが……
タラントのコンパス
タラントのコンパスには北部起源系の2拍子が採用されています。
何故ファンダンゴで一般的な3拍子アバンドラオのリズムではないのか?というのは自分も謎に思うんですが、ちょっと考えてみます。
- ファンダンゴ系のメロディーは元々2拍単位のフレージングが多い
- カンテレバンテ系は地元民謡のカラーが強く、なかには2拍子系のものもあった
この二点が考えられるんですが、フラメンコらしく『遊びから発生した』という可能性は大いにあると思います。
何故タンゴ系でなく北部起源系なのか?
では2拍子化したとして、何故タンゴ系にしなかったか?ということを考察してみましょう。
タラントの歌はリブレの感覚が濃厚に残っています。
この歌をインテンポに乗せるには、メディオ・コンパスのさらに半分の2拍単位で伸縮させる必要があった、というのが最大要因と思います。
そこでタンゴ系よりも単純で細分化しやすい北部起源系コンパスが採用された、と考えられます。
タラントの歌は4拍子ではなく純粋な2拍子
上記のようなことがあり、他のタンゴ系が実質は4拍子なのに対して、タラントだけは『純粋な2拍子』で、2拍単位での伸縮があります。
つまり、6拍や10拍で1単位になることもあるわけです。
ただし、2拍での伸縮が出て来るところはだいたい決まっています。
- カンテソロの本歌部分
- 踊りのレトラ部分
- カルメン・アマジャがやり始めた踊りの足とギターの合わせフレーズ
これ以外の部分は、他の2拍子系と同じく4拍子ベースになります。
- 踊りの普通のサパテアードやジャマーダの部分
- 踊りの中で弾かれるファルセータ部分
- 曲の最後のほうに付けられるタンゴ
こういう部分は他の2拍子系形式と変わりません。
ちなみに、そういう部分に関しては、ティエント、タンマラ、ガロティン、タラントあたりの形式はコンパス的な違いはそんなにありません。
形式ごとのコンパスの特徴が出るのは主に歌の部分と形式固有の慣用句の部分です。
タラントの調性
カンテ・レバンテはF♯スパニッシュ(ポル・タラント)という特殊な調性で演奏されるんですが、タラントもそれと同じキーになります。
ルートコードに開放弦が絡んでF♯7(♭9,11)というテンションコードになりますが、これが『基本』です。
これ以降、コードネームでF♯7と表記されているところは全てF♯7(♭9,11)で鳴らすと思ってください。
タラントの歌のカポの位置は
女性~5カポ(Bスパニッシュ)
男性~1カポ(Gスパニッシュ)
あたりが中心です。
タラントのマルカール
マルカールは普通に8拍単位です
1小節4拍、1段で1コンパスです。
G F♯
と、シンプルですが、独自の『それっぽい解決フレーズ』があるので、それらしく弾くにはそういう引き出しを持っている必要があります。
タラントのコードワーク
ルートコードの構成に象徴されるように、ギターの開放弦を絡めた半音ぶつかりのボイシングを多用します。
コードボイシングについては、フラメンコ音楽論07で詳しく書いていますので、そちらも参照してください。

タラントの歌の構成
タラントの歌は『リブレの歌を2拍で区切って伴奏をつけている』という感覚で、長さはランダム、と思っておいたほうがいいです。
踊りのタラントはカルメン・アマジャがやっていたものをベースに独自の発展をしていて、この形式のためだけに覚えなければならないことが多いです。
レトラ部分の展開は以下のようになります。
- 前フリ
- コンテスタシオン
- Aメロ1
- コンテスタシオン
- Aメロ2
- レマーテ(歌はアーイーとかで伸ばして、踊りの足を入れたりする)
- Bメロ・落ち
2回挟まるコンテスタシオンはDメジャーコードで演奏しますが、これは一般的なポルアリーバのファンダンゴの歌のなかのCコードの合いの手部分に該当します。
カルタヘネーラを除くカンテ・レバンテ系全般そうなんてすが、平行調メジャーキー(F♯スパニッシュならDメジャー)に落ちる部分を歌わないことで、カンテ・レバンテ独特の、ほの暗い雰囲気を出しています。
そして3つ目の区切りのレマーテですが、ここはD7コードで踊りの足がだ~っと入ったりします。
歌い手はそこは『アーイー』とかで伸ばしてレマーテが終わるのを待ちます。
そして締めのBメロに入りますが、ここはファンダンゴでいうと最後のG→F→Eの部分をめちゃめちゃ引き延ばして歌ってる感じです。
このようにファンダンゴをベースとしながらも、原型をとどめないようなアレンジがされているわけです。
タラントの歌のコード進行
以下に一般的なタラントの踊り歌のコード進行を書きます。
サイズは不定形なので、大まかな進行のみになります。
前フリ
D7 G
コンテスタシオン
D
Aメロ1
(D7)E7 A
D7 G
コンテスタシオン
D
Aメロ2
E7 A
D7 G
レマーテ(踊りの足を入れたりする)
D7
Bメロ・落ち
G G
G A/G
F♯7
ディグリー(度数)表記版
キーはF♯スパニッシュ
前フリ
♭Ⅵ7 ♭Ⅱ
コンテスタシオン
♭Ⅵ
Aメロ1
(♭Ⅵ7)♭Ⅶ7 ♭Ⅲ
♭Ⅵ7 ♭Ⅱ
コンテスタシオン
♭Ⅵ
Aメロ2
♭Ⅶ7
♭Ⅲ♭Ⅵ7 ♭Ⅱ
レマーテ(踊りの足を入れたりする)
♭Ⅵ7
Bメロ・落ち
♭Ⅱ ♭Ⅱ
♭Ⅱ ♭Ⅲ/♭Ⅱ
Ⅰ7
タラント形式内で歌われるレバンテ系の歌
タラントの形式内でタランタ以外のカンテレバンテを2拍子化して歌うこともあります。
そのなかで最もよく歌われるのがミネーラのF♯7→Bmからの五度進行メロディーで、踊り伴唱でよく出てくるので覚えておいたほうがいいです。
タラント内で出てくるミネーラの進行
前フリ
D7 G
コンテスタシオン
D
Aメロ1
F♯7 Bm E7 A
D7 G
コンテスタシオン
D
Aメロ2
F♯7 Bm E7 A
D7 G
このあとのレマーテからBメロ以下の展開は、普通のタラントとだいだい一緒です。
ディグリー表記版
キーはF♯スパニッシュ
前フリ
♭Ⅵ7 ♭Ⅱ
コンテスタシオン
♭Ⅵ
Aメロ1
Ⅰ7 Ⅳm ♭Ⅶ7 ♭Ⅲ
♭Ⅵ7 ♭Ⅱ
コンテスタシオン
♭Ⅵ
Aメロ2
Ⅰ7 Ⅳm ♭Ⅶ7 ♭Ⅲ
♭Ⅵ7 ♭Ⅱ
このあとのレマーテからBメロ以下の展開は、普通のタラントとだいだい一緒。
タラントの後歌につくタンゴ
タラントの後歌に付けられるタンゴはタンゴ・デ・グラナダが好んで歌われる傾向があります。
他の形式も最後に付けるタンゴやブレリアは一定の決まったネタがあったり、好んで歌われる歌がだいたい決まっているので、それを覚えておく必要があります。
――次回はタンゴ系・北部起源系以外の『その他の2拍子系』をやろうと思います!
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