2拍子系形式の基礎とタンゴ(Tango)【フラメンコ音楽論24】

フラメンコ音楽論ではこれまで、12拍子系、変拍子系、3拍子系、リブレ系、と形式の解説をしてきましたが、これらは全て3拍子系のリズム感覚がベースになっているものでした。

元来、フラメンコの音楽は3拍子系の感覚で生み出されたものであり、現在でも半分以上は3拍子系の形式なのですが、世界的にスタンダードなリズム感覚である2拍子・4拍子系のフラメンコ形式も存在します。

今回からは、2拍子がベースになったフラメンコ形式について考察していきましょう。

2拍子系形式の成立

2拍子系の形式はカディス港に入ってきた中南米の音楽がフラメンコに取り入れられて成立したものと考えられていますが、一体いつ頃から歌われているものなのでしょうか?

まずは、カンテフラメンコの歴史をざっくりとおさらいしてみましょう。

①原初のカンテ「トナ」の成立

②シギリージャ系とソレア系に分化

③民謡もとり入れながらカンテフラメンコの基本的なバリエーションが成立

④カフェカンタンテの時代と、その後の発展期で現在の主要形式が揃う

2拍子系の形式がいつ頃成立したのか?というのは、はっきり分かっていないのですが、上記の③の段階(19世紀後半頃)では、すでにカディスあたりのヒターノの間で2拍子のカンテ=タンゴフラメンコが歌われていたようですので、少なくともファンダンゴ系のリブレ形式等より古くから存在していたのではないでしょうか。

19世紀後半頃にカディスで発生した2拍子のコンパスは、その後数十年でアンダルシア全域に伝播し、フラメンコ形式の中で一大グループを形成するに至ったと推測できます。

2拍子系形式の大分類

フラメンコの2拍子系形式は大別すると以下の3種類があります。

  • タンゴ系
    ヒターノの間で純粋なフラメンコとして歌われて発展してきた形式群。今回紹介するタンゴ形式が原形で、バリエーションとして、ティエント、タンゴ・デ・マラガ、タンギージョなどがある
  • 北部起源系
    スペイン北部(ガリシア地方など)の民謡のメロディーやリズムがフラメンコにとり入れられたもの。このリズムを持つ形式にガロティン、ファルーカ、タラントがある
  • その他の2拍子系
    その他の系統の2拍子系形式。逆輸入系だとルンバやコロンビアーナ。その他にグラナダ民謡のサンブラなど

今回は、タンゴ系形式の根幹を成すタンゴ(単体形式)を解説します。

タンゴ形式概要

単数形:Tango
複数形:
Tangos
主な調性:
ポルメディオ(Aスパニッシュ調)
テンポ:
130BPMから180BPM

タンゴは、全ての2拍子系形式の原型となっている基本的な形式です。

タンゴフラメンコの起源については不明な点が多いのですが、中南米からの引き上げ移民によって港町カディスに伝えられた2拍子のリズムにソレア系の旋律がミックスされて成立したという説が有力です。

タンゴという呼称は、アルゼンチンタンゴをイメージされる方も多いと思いますが、フラメンコのタンゴ形式が成立した頃、スペインでは中南米産の2拍子の音楽を「タンゴ」と総称していました。

それら中南米由来のリズムを取り入れたカンテを「タンゴフラメンコ」と呼ぶようになったということで、タンゴフラメンコとアルゼンチンタンゴは全く関連が無いわけではないと思われますが、音楽的には全くの別物です。

タンゴの調性

タンゴは主にポルメディオ(Aスパニッシュ調)で演奏されますが、ポルアリーバ(Eスパニッシュ調)、ポルタラント(F♯スパニッシュ調)などで演奏される場合もあります。

また、タンゴ・デ・マラガやタンゴ・デ・トリアーナなどに代表されるように、マイナーキー・メジャーキーで歌われる場合もあって、実際の演奏では1曲の中で複数の調性が入り雑じる事も珍しくありません。

例えば、ポルメディオならAマイナーキーやAメジャーキーが、ポルアリーバならEマイナーキーやEメジャーキーが混合されることが多々あります。

ポルメディオの場合、カポタストの位置はブレリア等と同じくらいで、女性歌手なら4カポ(実音C♯スパニッシュ)、男性歌手なら1カポ(B♭スパニッシュ)あたりです。

タンゴのコンパス

タンゴのコンパスは「2拍子系」と言われていますが、8拍または4拍で進行するので実質は4/4拍子です。

8拍で1コンパスですが、メディオコンパス(4拍)も多用されます。

タンゴの基本リズムパターンは、バックビート(2拍目、4拍目)が強い4拍子です。

締めくくりの拍は1コンパスを8拍で数えた場合は7拍目で、ジャマーダも7拍目で止まるのが基本です。

以下にタンゴの基本コンパスを図示します。4拍子で記載、○が付いた数字がアクセント拍です。

通常コンパス
|1 ② 3 ④|5 ⑥ 7 ⑧|

終止(7拍目)が入るコンパス
|1 ② 3 ④|5 ⑥ ⑦ 8|

スタンダードなタンゴのテンポは130BPMから180BPMくらいです。

なお、歌のCDなどでは形式名はタンゴになっているけれど、ルンバのコンパスで演奏されているものも多く、そういったものを自分は「ルンバタンゴ」と呼んでいます。ルンバタンゴに関してはこちらのルンバの記事をご覧下さい。

タンゴを含めた2拍子系コンパスの捉え方をこちらの「コンパス=サイクル理論」の記事で詳細解説していますので、是非ご一読下さい。

ギターのマルカール

タンゴ形式のギターのマルカール(通常のリズム弾き)は8拍(1コンパス)単位で演奏されます。

コードはB♭、Aの2コードが基本で、たまに変化をつけるのにCやGm7を代理で入れる程度です。

コードの変わり目は、4拍子の小節の頭で変わるので非常にわかりやすいです。下に具体例を2つ挙げておきます。

1コンパスパターン
|B♭|A|

2コンパスパターン
|B♭|C|B♭|A|

タンゴの基本的なバリエーション

タンゴの歌にはスタンダードな基本形がいくつかありますが、ソレアやファンダンゴほど決まったパターンはありません。

タンゴ形式はカディスで成立した後、セビージャ、ヘレス、マラガ、グラナダなどに伝播して発展していった歴史があり、多くの地方バリエーションが存在しますが、ここでは最もポピュラーな以下の4種を解説します。

  • タンゴ・デ・カディス
  • タンゴ・デ・トリアーナ
  • タンゴ・デ・グラナダ
  • タンゴス・エストレメーニョス

なお、タンゴ・デ・マラガに関しては、独自のスタイルがあるので、別形式として取り上げます。

タンゴ・デ・カディス

単数形:Tango de Cadiz
複数形:Tangos de Cadiz

タンゴフラメンコ発祥の地は、アンダルシア西端の港町カディスだといいます。

カディスのタンゴは、後述するタンゴ・デ・トリアーナやティエントの元ネタになったもので、主にポルメディオで演奏されます。

Dmコードからの下降進行または5度進行(DmコードはE7コードに変化することもある)を多用するのが特徴で、ティエントや一部のタンゴ・デ・トリアーナと同様のメロディー・コード進行です。

タンゴフラメンコのカディス発祥説をとるならば、まずはカディスで原形が作られ、それがセビージャに伝わってアレンジされたものがタンゴ・デ・トリアーナに。

そのタンゴ・デ・トリアーナのうち、メジャー・マイナーキーで歌われるものがマラガに伝播してタンゴ・デ・マラガに。

一方、原形に近い形でグラナダに伝わったタンゴが地元の民謡等とミックスされて成立したのがタンゴ・デ・グラナダ、という流れが推測されます。

タンゴ・デ・カディスのコード進行例

以下に、代表的なタンゴ・デ・カディスのコード進行を挙げておきます。コード進行表の書式は次の通り。

  • 4拍子(1小節4拍)で記載
  • 1行で1コンパス(8拍)
  • 複数のコードの可能性があるところは「,」で区切る
  • キーはポルメディオ(Aスパニッシュ調)で記載
  • コンテスタシオン(合いの手)は歌が休みになる部分で、普通は0コンパス(コンテスタシオン無し)から2コンパス
  • ※マークが付いている行は省略されることもある
  • 半コンパス(4拍)単位でサイズが変わる事がある

|B♭|A|
|B♭|A|

コンテスタシオン

|A|Dm,E7|
|G7|C|

エストリビージョ
|C7|F|
|B♭|A|
|C7|F|※
|B♭|A|※

ディグリー(度数)表記版

|♭Ⅱ|Ⅰ|
|♭Ⅱ|Ⅰ|

コンテスタシオン

|Ⅰ|Ⅳm,Ⅴ7|
|♭Ⅶ7|♭Ⅲ|

エストリビージョ
|♭Ⅲ7|♭Ⅵ|
|♭Ⅱ|Ⅰ|
|♭Ⅲ7|♭Ⅵ|※
|♭Ⅱ|Ⅰ|※

タンゴ・デ・トリアーナ

単数形:Tango de Triana
複数形:Tangos de Triana

タンゴ・デ・トリアーナは、カディスのタンゴがセビージャに伝わって、主にトリアーナ地区のヒターノ達の間で歌われてきたものです。

タンゴ・デ・トリアーナには、タンゴ・デ・カディスに近いポルメディオで歌われるものと、タンゴ・デ・マラガに近いAマイナー/Aメジャー混合調で歌われるものがあります。

タンゴ・デ・カディスに準じた歌

タンゴ・デ・トリアーナの有名な歌に「Triana Triana,Que bonita esta Triana」という歌詞で始まるものがあります。ティエントの後歌でも良く歌われますよね。

このタイプの歌は、主にポルメディオで演奏され、上で紹介したタンゴ・デ・カディスとほぼ同様のメロディー・コード進行を持っています。

メジャー・マイナー混合調の歌

タンゴ・デ・トリアーナのもう1つの大きなグループに、マイナー・メジャー混合調の歌があり、主にAマイナー・Aメジャーで演奏されますが、さらにポルメディオがクロスされる場合もあります。

このタイプの歌は、メロディーやコード進行がタンゴ・デ・マラガに近く、伴奏の付け方もタンゴ・デ・マラガに準じます。

タンゴ・デ・グラナダ

単数形:Tango de Granada
複数形:Tangos de Granada

タンゴ・デ・グラナダはグラナダで歌い継がれてきたタンゴですが、地元民謡のメロディーラインも反映されたりして、シンプルで土臭いものが多いです。

グラナダ民謡がべースになったサンブラソロンゴ(2拍子でやる場合)等もタンゴ・デ・グラナダの亜流と言えるかもしれませんね。

タンゴ・デ・グラナダのコード進行例

ここでは、典型的なタンゴ・デ・グラナダの進行をご紹介します。コード進行表の書式は上で書いたタンゴ・デ・カディスのものと同様です。

|B♭|B♭,A|
|B♭|A|

コンテスタシオン

|B♭|B♭,A|
|B♭|A|

エストリビージョ
|B♭,C7,G7|C,F|
|B♭|A|
|B♭,C7,G7|C,F|※
|B♭|A|※

ディグリー(度数)表記版

|♭Ⅱ|♭Ⅱ,Ⅰ|
|♭Ⅱ|Ⅰ|

コンテスタシオン

|♭Ⅱ|♭Ⅱ,Ⅰ|
|♭Ⅱ|Ⅰ|

エストリビージョ
|♭Ⅱ,♭Ⅲ7,♭Ⅶ7|♭Ⅲ,♭Ⅵ|
|♭Ⅱ|Ⅰ|
|♭Ⅱ,♭Ⅲ7,♭Ⅶ7|♭Ⅲ,♭Ⅵ|※
|♭Ⅱ|Ⅰ|※

このタイプの歌は、エストリビージョの後に下記のような進行の締め歌が追加されることが多いです。

|Dm,B♭|C|B♭|A|

なお、タンゴ・デ・グラナダは、タラントの後歌に使われる場合が多く、その場合はF♯スパニッシュ調で演奏します。

タンゴス・エストレメーニョス

単数形:あまり使われない
複数形:
Tangos Extremeños

タンゴス・エストレメーニョスは、エストレマドゥーラ地方で歌われるタンゴで、タンゴ・デ・エストレマドゥーラ(Tango de Extremadura)ともいいます。

エストレマドゥーラ地方の歌というと、ブレリアの解説のときに関連形式として紹介したハレオス(Jaleos)がありますよね。

エストレマドゥーラ地方では地元の民謡をフラメンコ化したものが歌われていますが、これをブレリアにのせて歌ったものがハレオス、タンゴにのせて歌ったものがタンゴス・エストレメーニョスということになります。

ですので、歌のラインもコード進行もハレオスとの共通点が多いです。

タンゴス・エストレメーニョスのコード進行

タンゴス・エストレメーニョスのコード進行は下のような5度進行(ポルメディオ=Aスパニッシュ調で記載)がベースです。

Dm→G7→C→F→B♭→A(Ⅳm→♭Ⅶ7→♭Ⅲ→♭Ⅵ→♭Ⅱ→Ⅰ)

この進行のDmから入ることもあれば、途中のG7、C7といったコードから入ることもあります。

また、当然ながら5度進行以外の進行も出てきますが、スタンダードなタンゴと同じようにB♭から入ってAとかCに順次進行したり、Dm→C→B♭のような下降進行や、その逆パターンでA→B♭→Cのような上行進行などが多用されます。

タンゴス・エストレメーニョスはメディオコンパスで伸縮

タンゴス・エストレメーニョスの歌が入る部分は、基本的にメディオコンパス(4拍)単位で演奏します。

タンゴス・エストレメーニョスは各セクションごとに自由に伸縮させながら歌われるので、それにリアルタイムで対応するために半コンパス単位で伴奏を付けるわけですね。

ちなみに、ハレオスならこれを6拍単位(ブレリアのメディオコンパス)で演奏することになります。

――次回は、タンゴ・デ・カディスを「タメ」を付けて歌った形式であるティエントを解説します。

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