パルマのリズムパターン【フラメンコ音楽論44】

フラメンコ音楽論では、直近数回に渡って「コンパス=サイクル理論」の提唱、そして「フラメンコ独特のリズムのニュアンス」「リズムアンサンブルの方法」など、フラメンコのリズム面にフォーカスした内容をやってきました。

今回はフラメンコのリズムアンサンブルの中で鍵となるパルマ(手拍子)のリズムパターンについて学習します。

フラメンコでは担当パートが何であれ、基本的なパルマのパターンを理解していないとリズムアンサンブルに支障をきたすことになるので非常に重要なポイントです。

2種類のパルマの叩き方

パルマの叩き方には、大雑把に言って下記の2つの傾向があります。

  1. コンパスの抑揚を表現する叩きかた
  2. 演奏サポートのためのメトロノームのような叩きかた

歌やギターのCDなどで聴かれるパターンは1.のほうに寄っています。

これは現場でのリズムアンサンブルのしやすさよりも、音楽作品として聴いたときの完成度を優先しているためですが、レコーディングではBPMキープのためにクリック音を使いますので、それで問題無いのです。

それに対して、ライブでは2.のパターンも多用されます。

パルマは表のみ、または表裏分担で均等に叩いて、アクセントは足で踏んでコンパスサイクルを共有します。

これら2つのパターンは、ハッキリと分けられるものでもなく、中間的な叩き方もありますので、「パルマの叩き方には、大雑把に2つの方向性がある」ということだけ意識しておいてください。

今回扱うパルマのパターンについて

パルマのパターンは、他の打楽器の演奏パターンと同じように沢山ありますが、ここでは一般的によく使われるベーシックなパターンを「コンパス=サイクル理論」も使って解説していきます。

今回使う記号は以下の通りです。

●はパルマ(強)
◯はパルマ(弱)
・は無音か足のみの拍

実際はパルマは複数人でやることが多いので、裏拍でオカズが入ってきたり、違うパターン同士を複合させたりしますが、ここではベースとなる表拍のパターンに限定します。

今回は形式ごとの解説はせずに、サイクルパターンの種別を基準にしてパルマの基本パターンの解説をしていきます。

4サイクル、6サイクル等の「コンパス=サイクル理論」の用語については、本講座の第39回から第42回を参照してください。

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セコとバホ(ソルダ)について

パルマの叩き方には「セコ」と「バホ」(ソルダ)の2種類があって、それぞれ音質が違います。

セコ
ピンと伸ばした手の平の上半分(指の部分)くらいを使って、もう片方の手の平の下半分あたりを打って、パーンという高い音を出すパルマ。

バホ(ソルダ)
手の平を少し丸めて空気が入るスペースを作り、もう片方の手と縦横に組み合わせるような形で打つパルマ。ボソボソと低い音が出る。

一般的にはセコのほうが強い音になりますが、では、アクセント拍だけをセコで打つのか?というと、普通はそういう細かい叩き分けはせずに(意図的にやる場合もある)、一定区間をセコならセコ、バホならバホで通して、曲展開に合わせてメリハリをつけるような使い分けをします。

セコとバホの使い分けは、盛り上げたいセクションをセコで、というのが一般的ですが、厳密な使い分けのルールがあるわけではなく、最終的には叩く人のセンス次第です。

ちなみに、コンパスのアクセント拍を強く出したかったら足を踏んで出し、強弱をつけたかったらセコ/バホの切り替えではなく、音量で調整するのが普通です。

ですので、以下に表記する記号の◯(弱い音)と●(強い音)は、セコとバホの叩き分けという事とは関係ありません。

●と◯の叩き分けについて

●(強い音)と◯(弱い音)の叩き分けについては、以下のようになります。

  1. 足を使わずパルマの音量差で強弱表現する
  2. 手のほうは平坦に叩いて●の拍でパルマと同時に足を踏む

これらを用途によって使い分けますが、両方併用の場合もあります。

サイクルの頭を強調するパルマのパターン

まずは、サイクルの頭やコンパスのアクセントを強く叩く(または足を踏む)パルマのパターンを解説します。

フラメンコのリズム表現はサイクルの頭の音を抜くことも多いですが、パルマはアンサンブルの中でサイクルキーパーの役割を負う場面が多いため、パルマに関してはサイクルの頭拍を含めたアクセント拍を強く出すパターンも多用されます。

とくにシギリージャ系、3.3.2.2.2型などは、こういうパターンが多用されますが、それ以外の形式もテンポが遅くなるに従って、このパターンが増える傾向です。

頭を強調する4サイクル

4拍パターン
●◯◯◯

2拍パターン
●◯●◯

頭を強調する6サイクル

12拍子は6拍目・12拍目から、3拍子は1拍目から入ります。

6拍パターン
●◯◯◯◯◯

3拍×2パターン
●◯◯●◯◯

2拍×3パターン
●◯●◯●◯

フレーズの締めくくりに使う6サイクル

2拍×3 バリエーション(12拍子用)
◯●●◯●◯

頭のアクセントが1拍後ろにずれて頭のアクセントが無くなりすが、12拍子の12拍目・6拍目から入って、上でやった頭を強調する6サイクルと組み合わせて使われます。

2拍×3 バリエーション(3拍子用)
●◯◯●●○
3拍目のアクセントが1拍後ろにずれます。

頭を強調する複合6サイクル(12拍)

シギリージャ系
●◯●◯●◯◯●◯◯●◯

シギリージャ系バリエーション
●◯●◯●◯◯●◯◯◯●
最後のアクセントが1つ後ろにずれて、次のコンパスの頭をプッシュするパターン。

3.3.2.2.2系
●◯◯●◯◯●◯●◯●◯

サイクルの頭を抜くパルマのパターン

今度は、サイクルの頭を抜いて叩くパルマのパターンを解説します。

このパターンはミドルテンポ(130BPM)以上のテンポ帯で多用されます。

・の所は足を踏むことが多いです。

パルマを打つ拍は全部弱拍の◯で書きましたが、強弱をつけることもあります。

頭抜き4サイクル

4拍パターン
・◯◯◯

2拍パターン
・◯・◯

頭抜き6サイクル

12拍子は6拍目・12拍目から、3拍子は1拍目から入る

頭抜き6拍パターン
・◯◯◯◯◯

頭抜き3拍×2パターン
・◯◯・◯◯

頭抜き2拍×3パターン
・◯・◯・◯

バックビート強調型のパルマのパターン

サイクル・コンパスの「頭の1拍後ろの拍を強調する」パルマの叩きかたで、最初に分類したもののうち「1.コンパスの抑揚を表現する叩きかた」に属します。

現在は、カンテやギターのCDなどで聴かれるのはこのパターンが主流で、フラメンコの代表的リズムパターンと言っていいと思います。

ミドルテンポ以上の速いBPMの場合(主にタンゴとブレリア)に使われることが多く、12拍子の場合は強拍スタート(12拍目からはじまる)になります。

サイクルの頭は足を踏むこともありますが、基本的にあまり強い音を出しません。

4サイクルと6サイクルは4拍目までが共通のパターンで、6サイクルは4サイクルの後ろに2拍付け足す感じになります。

バックビート強調4サイクル

◯●◯●

バックビート強調6サイクル

◯●◯●◯◯
12拍子の6拍目・12拍目から入る

バックビート強調パターンのポイントは、2拍目と4拍目のアクセントのうち、4拍目のほうに1番強いアクセントをつけることです。これは4サイクルも6サイクルも共通です。

一般的なコンパスの数え方で言うと、タンゴ(4サイクル)なら4拍目・8拍目を、ブレリア(6サイクル)なら3拍目・9拍目を1番強く出します。

弱拍スタート6サイクルのパルマのパターン

12拍子では12拍目から入るパターンと1拍目から入るパターンがあるのはコンパス=サイクル理論の6サイクルをやった時に解説しましたが、今まで解説したパルマのパターンは、12拍子の場合は12拍目から入る「強拍スタート」のものでした。

そこで、12拍子の1拍目から入る「弱拍スタート」のパターンにも触れておきます。

このパターンはミドルテンポ以下の12拍子、要するにソレア系のコンパスに適用されますが12拍子の1拍目・7拍目から入ります。

弱拍スタート12拍子の場合は、パルマを叩く時、サイクルの頭=12拍子の1拍目で足を踏むことは少ないです。

弱拍スタート3拍×2パターン
◯◯●◯◯●

弱拍スタート2拍×3パターン
◯●◯●◯●

弱拍スタート12拍パターン
◯◯●○○○/●●◯●○●(12拍子の1拍目から入る)

――今回は基本的なパルマのパターンを学習しましたが、実際にはパルマは複数人で叩くのが普通で、複数のパターンが複合したり、裏打ちなどのオカズが入ったりして、色々変化します。

そして、パルマが出すベースリズムの上で、ギター・踊り・カホン等はまた違ったリズムパターンで演奏されます。

フラメンコは、そういう異なったリズムパターンの重なりを楽しむジャンルとも言えますが、それこそ無限の組み合わせがあるので、言語化は不可能な領域かもしれません。

ですが、今回やったような基本パターンが分かっていると、一見複雑で理解しにくいリズムパターンも、パルマの出すベースパターンに集中することによって体に入りやすくなると思います。

フラメンコ音楽論 前回

フラメンコのリズムのニュアンスとアンサンブル【フラメンコ音楽論43】
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フラメンコ音楽論 次回

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