4サイクルコンパス【フラメンコ音楽論40】

フラメンコ音楽論では前回、フラメンコのリズムの捉え方の一つの考え方として「コンパス=サイクル理論」を紹介しました。

前回はフラメンコのコンパスをサイクル化するために「4サイクル」「6サイクル」「シギリージャサイクル」の3つのサイクルカテゴリーと5つのテンポ帯で15種類のリズムサイクルに分類しました。

今回は3つのサイクルカテゴリーのうち、最も取っつきやすい「4サイクル」について書きます。

4サイクルの基本

4サイクルでとるのは、2拍子系形式です。

感覚的には通常の4拍子に近いので、表・裏・3連などの感覚さえしっかりしていれば、すぐに馴染めると思います。

4サイクルのリズムパターン

サイクルをキープするためのリズムパターンは4拍や6拍が楽にキープできればなんでも良いですが、実用上は演奏しながら足でキープする場合が多いと思うので、間隔が均等になるパターンが望ましいです。

4サイクルを足でキープするのに適したパターンとしては以下の4種類があります。

●は足を踏んだりするアクションをする拍、○は頭の中でカウントする拍です。

全拍ベタ4サイクル
●●●●
テンポがゆっくりの場合は全拍ベタ踏みが安定します。テンポが速い場合でも、テンポ(BPM)のキープを最優先する場合はベタ踏みにします。

1,3強調型4サイクル
●○●○
4サイクルの一番基本的なパターンで、ミドルテンポからハイテンポはこれが最も安定します。非常に分かりやすいパターンですが、演奏のほうは弱起になってサイクルの頭を強く出さないことが多いので、そういう音の隙間を正確にとるために足を踏む感覚です。

2,4強調型4サイクル
○●○●
バックビートである2,4拍目を踏む場合もあります。パルマや演奏も2,4拍目が強いことが多いので、フレーズ的にはマッチしやすいですが、隙間を埋めてテンポキープするという意味では1,3拍目を踏んだほうが良さそうです。

頭強調型4サイクル
●○○○
サイクルの頭だけをとっていきます。4拍のサイクルは最も感じやすいですが、足を踏む間隔が長くなるので、その分テンポキープは難しくなります。ハイテンポから超ハイテンポに適しますが、テンポキープよりもサイクルを大きく感じるのを優先したいときはこのパターンを使います。

足を踏む目的

これはサイクルの種別に関係ない普遍的な話なんですが、サイクルやBPMをキープするのに足を踏む、ということの意味を考えてみます。

一つは自分がサイクルやテンポを感じて演奏しやすくするためです。

でも、それだけなら頭の中でサイクル・テンポを感じて正確にキープできれば、必ずしも足を踏む必要はありません。

足を踏むもう一つの重要な目的が、他者とのサイクルの共有です。

自分が感じているテンポや、今演奏しているフレーズがコンパスに対してどんな入り方をしているか?ということを共演者や聴衆にリアルタイムに伝える手段として、サイクルの節目やコンパスアクセントで足を踏む、というのが有効なわけです。

フラメンコはソロでもできますが、多くの場合はパルマなどを含めたアンサンブルになります。

演奏メンバーのレベルにもよりますが、ある一定以上の複雑な事をやろうと思ったら、足を踏んでコンパスとフレーズの関係を伝えるのが最もシンプルで早い方法です。

では、以下にテンポ別の4サイクルパターンを解説していきます。

超スローテンポの4サイクル

テンポ:65BPMから90BPMくらい
サイクルパターン:全拍ベタ4サイクルが基本
適合する形式:ティエント、タンゴ・デ・マラガ、ガロティン、ファルーカ、タラントなどの、踊りのレトラなど

超スローテンポの4サイクルは、主に踊りのレトラの部分と、レトラテンポのファルセータやサパテアードで使います。

4拍で1サイクル、2サイクルで1コンパスとなります。

このテンポの場合、2倍テンポ(ミドルテンポ)のタンゴの語彙を使うこともよくあり、その場合はタンゴでいう8分音符がこのテンポの16分音符に該当します。

タンゴの語彙をこのテンポに当てはめる場合、コードやフレーズの回りかたが2倍の長さになるので、そこは調整が必要です。

超スローテンポ4サイクルは、多少テンポを揺らして演奏する場合も多いです。

ティエントなどは割りきれない譜割りで粘ったりもしますが、ここまでゆっくりのテンポではティエントといえど、粘らない場合のほうが多いです。

ティエント形式解説

ティエント(Tiento)【フラメンコ音楽論25】
フラメンコ音楽論第25回は、独特のタメの効いたコンパスが特徴のティエント形式です。「タメ」の解析、踊り伴奏時の倍速テンポへの切り替えについても書いています。

スローテンポの4サイクル

テンポ:100BPMから130BPMくらい
サイクルパターン:1,3強調型4サイクルが基本
適合する形式:ティエント、タンゴ・デ・マラガ、ガロティン、ファルーカ、タラントなどのカンテソロのテンポ

使う形式は、上の超スローテンポ4サイクルと同じですが、カンテソロの場合はこちらのテンポで演奏することが多いです。

ティエントの場合は、ほぼ粘るリズムになります。

タンゴ・デ・マラガも粘る割合が増え、ガロティンは超スローで演奏するものより一段軽快な感じになります。

4サイクル、6サイクルともに、ゆっくり歌われる歌は、元々このテンポで演奏されていて、フラメンコの「原型」とも言えるテンポ帯です。

ですので、必然的にカンテソロに使うことが多くなりますが、踊りの場合でもレトラのテンポを速めに設定する場合は、こちらの感覚になります。

ギターソロでもこのテンポは多用されます。

カンテソロ伴奏・ギターソロの場合は、多少テンポを揺らして演奏することも多いです。

このテンポでは倍速テンポの語彙はあまり使いません。

足でサイクルキープする場合は、粘るリズムも入れやすい1,3拍目を踏むパターンが楽です。

ミドルテンポの4サイクル

テンポ:130BPMから180BPMくらい
サイクルパターン:1,3強調型4サイクルが基本
適合する形式:主にタンゴ(2拍子系全形式の後歌に付くタンゴなどを含む)

1超スローテンポの約2倍の速さです。

使う形式は主にタンゴですが、2拍子系形式の踊りは形式問わず後歌やエスコビージャでこのテンポが頻出します。

16分音符と3連符の使い分けや、細かいシンコペーションなど、細かくてテクニカルな表現に適したテンポです。

足でリズムをキープするときは1,3拍目を踏むパターンが基本です。

ハイテンポの4サイクル

テンポ:180BPMから250BPMくらい
サイクルパターン:1,3強調型4サイクルが基本
適合する形式:ルンバ、タンギージョなど

基本的には上のミドルテンポ4サイクルをスピードアップしたものですが、16分音符以上のフレージングは難しいテンポになってくるので、8分音符、3連符が主体の表現になります。

足でのサイクルキープは1,3拍目を踏むのが基本です。

3連符のタンギージョは別枠

ハイテンポ4サイクルで注意すべき形式はタンギージョです。

詳しくはタンギージョ形式解説を見ていただきたいですが、3連符化されたリズムがベースになったものがあり、このテンポだと実質は2拍3連符での演奏になります。

3連符のタンギージョは実際の演奏上は6/8拍子でとったほうがいい場合が多いし、一種のポリリズムの様相なので、これだけは個別のパターンとして練習しておいたほうがいいでしょう。

タンギージョ形式解説

タンギージョ(Tanguillo)【フラメンコ音楽論27】
フラメンコ音楽論第27回はタンゴのバリエーションの一つであるタンギージョを紹介しますが、伝統的なものとモダンスタイルでは全く違うリズムに聴こえる形式です。

超ハイテンポの4サイクル

テンポ:250BPM以上
サイクルパターン:頭強調4サイクル、1,3強調型4サイクル
適合する形式:踊りの追い上げ時など

今回やっている4サイクルだけでなく、全てのコンパスサイクルに当てはまりますが、このテンポになるのは主に踊り伴奏の追い上げ(スビーダ)やマチョのときです。

テンポは250BPM以上になり、300BPMともなると、もう細かいシンコペーションとか気にする余裕もなく、全体のリズムから遅れないように必死な状態になります。

このテンポはサイクル数に関わらず、とにかく速いテンポに慣れておくしかないです。

突然このテンポにされると頭や手がついていかなかったりするので、踊り伴奏を主体にやる奏者なら、定期的に鍛えておくことが必要と感じます。

足でサイクルキープするなら、頭拍のみ踏むパターンか、追い付くなら1,3拍目を踏むパターンです。

――次回は、フラメンコ音楽をやる上で最重要かつ最難関と思われる6サイクルコンパスをやります!

フラメンコ音楽論 前回

コンパス=サイクル理論【フラメンコ音楽論39】
フラメンコ音楽論は今回から新展開。これから、フラメンコを演奏する上で最も難しい部分である「コンパス」を独自の「コンパス=サイクル理論」を用いて攻略していきます。

フラメンコ音楽論 次回

6サイクルコンパス【フラメンコ音楽論41】
今、フラメンコ音楽論では「コンパス=サイクル理論」を展開中ですが、今回はフラメンコを演奏する上で最も重要かつ鬼門となりやすい6サイクル系コンパスを解説します。

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