ファルーカ(Farruca)【フラメンコ音楽論29】

フラメンコ音楽論では前回、北部起源系2拍子の概要とガロティン形式の紹介をしました。

今回は、同じ北部起源系2拍子のファルーカをご紹介します。

ファルーカ形式概要

単数形:Farruca
複数形:
普通は使わない
主な調性:
Aマイナーキー
テンポ(踊り):70BPMから90BPM
テンポ(ギターソロ):70BPMから160BPM

ファルーカはガリシア地方の民謡が起源と言われています。

形式名の語源であるファルーコ(Farruco)・ファルーカ(Farruca)というのは、ガリシアからアンダルシアへの移民・出稼ぎ労働者をさしています。

踊りに関しては、フランシスコ・メンドサ・リオス“ファイーコ”(Francisco Mendoza Rios “El primer Faíco”)という踊り手がギターのラモン・モントージャ(Ramon Montoya)と組んでガロティンとファルーカを舞踊化したのは前回も触れました。

ファルーカに関しては、歌もファイーコ自身がガリシアの詩集を基に、独自に創作したといいます。

成立の過程から考えてガロティンとファルーカは兄弟のような形式と言えますが、ファルーカは短調を中心に演奏され、曲調も歌詞もガロティンよりシリアスなものです。

ファルーカの踊りは男性向けのものとされていて、重厚感・悲壮感が強調されます。

また、ファルーカはギターソロ曲として好んで演奏される形式ですが、逆にカンテソロの演奏頻度は低いです。

ファルーカのコンパス

ファルーカのコンパスですが、基本はガロティンと同様の北部起源系の粘らない均等なリズムで、8拍で1コンパスです。

踊りのレトラのテンポは一般的にガロティンよりゆっくりで、70BPMから90BPMくらいが多いです。

ギターソロ曲に関してはテンポはまちまちで、昔のサビーカスなどのスタイルはかなり速いテンポ(130BPMから160BPM)で演奏されていましたが、近年のものは踊りのレトラに近いゆっくりしたものも多いです。

ファルーカのコンパスで特徴的な事として、メディオコンパスの頭である1拍目、5拍目を強調する傾向があります。

① 2 3 4 ⑤ 6 7 8
※○がついた数式がアクセント拍

この点がタンゴ系と異なっていて、重々しいリズムになりますが、悲劇的な雰囲気・曲調を強調した結果と思われます。

ファルーカのジャマーダ

ファルーカのコンパスで特に注意すべきはジャマーダです。

踊りの場合、ファルーカのジャマーダは倍速になるのが普通です。

例えば75BPMで演奏していてジャマーダが入って静止する場合、ジャマーダの頭から150BPMのタンゴでカウントします。

ティエント、タンゴ・デ・マラガ、ガロティン、タラントなどのゆっくりの2拍子形式は、踊りのサパテアードの途中やジャマーダで倍テンポのタンゴに切り替わることがある、ということをティエントの紹介記事の中でお話ししました。

ファルーカの場合はジャマーダで倍速のタンゴに切り替わるのが「普通」です。

そして、ジャマーダのコード進行はⅣmから入ります。

Aマイナーなら以下のような2コンパスのパターンになります。

Dm→Am→E7→Am(Ⅳm→Ⅰm→Ⅴ7→Ⅰm)

締めくくりは「タンゴのテンポで数えて7拍目」です。

ファルーカの調性

ファルーカはAマイナーキーでの演奏が一番多いですが、ギターソロでは響きのバリエーションを求めて色んなキーで演奏されていて、EマイナーキーやDマイナーキーのものもあります。

歌は同主調のメジャーキー(主調がAマイナーキーならAメジャーキー)の音が混じったりしますが、ほとんどがトニックコードの変化でⅠmコードがⅠコードに変化するものです。

カポタストの位置は、女性歌手なら3カポから4カポ(実音CマイナーキーからC♯マイナーキー)男性なら、カポ無しから1カポ(実音AマイナーキーからB♭マイナーキー)くらいが中心です。

ファルーカのマルカール

ファルーカのマルカールの弾きかたは、他の2拍子系形式と同じで、Ⅴ7→Ⅰmを4拍ずつ弾きます。

Aマイナーの場合「E7→Am」となり、これで1コンパスです。

上に書いた通り、1拍目5拍目を強調して重々しい感じで演奏されることが多いです。

ファルーカの歌

ファルーカの歌は、種類こそ多くありませんが、とてもドラマチックで聴きごたえがあります。

リフレインはDm(Ⅳm)から入るのが特徴ですが、下記の2パターンあります。

  1. 同主調間を行ったり来たりするタイプ
  2. 5度進行するタイプ

以下にスタンダードなファルーカの歌のコード進行を書いておきます。

Aマイナーキー、1段で1コンパス、コードネーム1つにつき4拍=1小節ですが、1小節に2つコードが入る場合は「/」で区切っています。

リフレインで同主調に行くパターン

E7 Am
Am E7

リフレイン
Dm A
E7 Am/A7
Dm A
E7 Am

ディグリー(度数)表記版

Ⅴ7 Ⅰm
Ⅰm Ⅴ7

リフレイン
Ⅳm Ⅰ
Ⅴ7 Ⅰm/Ⅰ7
Ⅳm Ⅰ
Ⅴ7 Ⅰm

リフレインが5度進行のパターン

こちらはリフレインが5度進行するタイプの歌です。

E7 Am
Am E7

リフレイン
Dm/G7 C/F
Bm7♭5/E7 Am/A7
Dm/G7 C/F
Bm7♭5/E7 Am

ディグリー(度数)表記版

Ⅴ7 Ⅰm
Ⅰm Ⅴ7

リフレイン
Ⅳm/♭Ⅶ7 ♭Ⅲ/♭Ⅵ
Ⅱm7♭5/Ⅴ7 Ⅰm/Ⅰ7
Ⅳm/♭Ⅶ7 ♭Ⅲ/♭Ⅵ
Ⅱm7♭5/Ⅴ7 Ⅰm

ファルーカとタンゴ・デ・マラガの弾き分け

タンゴ・デ・マラガ解説のときにも少し触れていますが、ファルーカとタンゴ・デ・マラガは、Aマイナーでゆっくりテンポの2拍子ということで、ギターに関しては高い互換性があります。

タンゴ・デ・マラガ形式解説

タンゴ・デ・マラガ(Tango de Malaga)【フラメンコ音楽論26】
フラメンコ音楽論第26回はタンゴ・デ・マラガをご紹介します。マラガで発展したマイナーキーのタンゴですが、踊りが入るとゆっくりのテンポで演奏されます。

ファルセータに限って言えば、実用上はほぼタンゴ・デ・マラガとファルーカは完全互換です。

タンゴ・デ・マラガとファルーカとの弾き分けは、主にマルカールとか歌伴奏部分のニュアンスでしょうか。

タンゴ・デ・マラガのほうが少し軽いニュアンスもあって、ティエントぽく粘る音型も入れていったり。

以下に、この2つの形式の違いと弾き分けかたを一覧にまとめてみます。

タンゴ・デ・マラガの特徴

  • ギターソロ曲は少ない。ほとんどがファルーカとして演奏される
  • バイレでは女性向けの形式とされていて、振り付けも曲線的で優美なものが多い
  • タンゴ系なので頭をあまり強く弾かない
  • リズムはティエントのように粘ることがある
  • ジャマーダは倍速にはならないのが普通(倍速になる場合もある)

ファルーカの特徴

  • ギターと踊り中心の形式
  • バイレでは男性向けの形式とされ、振り付けも直線的でマッチョなものが多い
  • 頭を強く弾いて重さを強調
  • リズムは粘らせずにイーブンに弾くことが多い
  • ジャマーダは倍速になってDmから入る

こんな感じですが、フィーリング的にはタンゴ・デ・マラガのほうがやや軽く柔らかい感じで、ファルーカのほうはガーンとした悲壮感というか、とにかく重いですね。

ファルーカの重さは現実的というか、シギリージャの宗教色を帯びた重さとはまた違うものがあります。

実際のところ踊りが入ると、ティエント、タンゴ・デ・マラガ、ファルーカ、ガロティン、タラントの各形式は、ほぼ同じようなリズム型になることが多いですが、形式ごとの特徴や雰囲気の違いを追及するなら、このへんもこだわってみると良いと思います。

次回は北部起源系2拍子で最も難解と思われるタラント形式を解説いたします!

フラメンコ音楽論 前回

北部起源系2拍子の基本とガロティン(Garrotin)【フラメンコ音楽論28】
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フラメンコ音楽論 次回

タラント(Taranto)【フラメンコ音楽論30】
フラメンコ音楽論第30回は、2拍子系の中でも色んな意味で特殊な形式であるタラントです。2拍単位の字余りや独自の展開があるので、そのあたりを解説していきます。

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