メディアミックス【フラメンコ音楽論54】

フラメンコ音楽論では、直近数回に渡って「フラメンコの裾野を広げるコンテンツ戦略」というテーマを扱ってきました。

今回は、コンテンツ戦略のまとめとして「メディアミックス」というテーマをお話しようと思います。

メディアミックスとは?

メディアミックスという言葉は、元々は広告業界で使われていた和製英語で、一つのコンテンツをTV・ラジオ・新聞・雑誌など異種のメディアを組み合わせてPRする広告手法を指していましたが、1980年代頃からは「一つのコンテンツを様々な形に作り変えて、より広い客層を取り込む」というマーケティング手法としても認識されるようになりました。

例えば、1980年代に『機動戦士ガンダム』というTVアニメがありました。初代ガンダムの初回放送時は視聴率に恵まれず打ち切りになったのが、後にプラモデル、ゲームソフト、テーマソングやサントラCD、映画、漫画、小説など、あらゆるメディアに乗って膨大な数のファンを生み出していったという事例が典型的です。

今回は、これをフラメンコの普及に応用出来ないものか考えてみましょう。

以下、フラメンコの普及・発展に役立ちそうなコンテンツと発信メディアについて考察しますが、混乱を避けるためにコンテンツ(作品形態)とメディア(視聴形態)は別々に解説します。

コンテンツ(作品形態)

まずは、フラメンコの普及に役立てられそうなアイデアをコンテンツ種別ごとにまとめてみましょう。

①音源コンテンツ

音源コンテンツは主に音楽やトークなど、音声のみのコンテンツです。

音声のみの音源コンテンツは、今までミュージシャンにとって主力となるものでしたが、現在は動画コンテンツに押されて需要が細りつつあります。

これから音楽CDを作るなら、その音源を素材としてMV(ミュージックビデオ)化するなりして、メディアミックスを考えるべきでしょう。

②動画コンテンツ

動画コンテンツは、映画・アニメ・TV番組・TVCM・ミュージックビデオ・ライブDVDなど、動画を主体としたコンテンツです。

現在、フラメンコ系の動画コンテンツで主流になっているのは、ライブ演奏を収録した動画や、ギターやカンテの音源に映像を付けたMV、教則ビデオ、あとは昔からある『カルメン』や『バルセロナ物語』のような映像作品でしょうか。

一方、まだフラメンコ系のコンテンツが少なくて、かつ日本で人気がある動画コンテンツという事を考えると、アニメが最も訴求力がある気がします。

フラメンコをテーマにしたアニメ、日本ならではの新しい形態として面白いのではないかと。

作品中で本格的なフラメンコ音楽を使ったり、啓発的な内容も入れたり、フラメンコを良く分かっている人が監修して作れば、最強の普及コンテンツになるのではないでしょうか。

③文章・静止画コンテンツ

文章・静止画コンテンツは、文章・楽譜・写真・絵画・漫画など、主に書籍メディアで供給されていたものです。

このカテゴリーでフラメンコに関連が深いのは、文章・楽譜・写真ですが、一般的に人気を伸ばしているのは漫画だと思います。

その漫画ですが、近年はpixiv・Twitterなど個人がインターネットで発表した作品が人気化して出版社と契約するというパターンが急増しています。音楽と全く同じ構造になってきていますよね。

フラメンコをテーマにした漫画がヒットしたら、若い世代にもかなり刺さるのではないでしょうか?

『けいおん!』(4コマ漫画が2009年にアニメ化されて大ヒット)『BanG Dream!(バンドリ!)』(これも漫画からアニメ・ゲームにメディアミックス展開して大ヒット)みたいにフラメンコ練習生の生活を可愛いらしい絵で描くとか。

④ビデオゲームコンテンツ

ビデオゲームコンテンツは、1980年代のファミコンブームをきっかけに浸透した比較的新しいコンテンツですが、今や生活に密着した巨大産業ですよね。

これをフラメンコの普及に活用できないものでしょうか?

例えば、『ビートマニア』や『太鼓の達人』などの音楽ゲームのフラメンコ版とかどうでしょう。

プレイヤーキャラをバイレ(サパテアード)とギターから選べるとか、セビジャーナスから始まって、レベルアップするとプレイできる形式が増えていくとか……。面白そうじゃないですか?微妙?

現在はゲーム制作の敷居も低くなって、ある程度の知識があれば、個人でスマホ向けのアプリを作って配信出来る時代ですし、フラメンコ系コンテンツの出現も期待したいところです。

⑤直接パフォーマンス

演奏・舞踊・トーク・レッスンなどの直接パフォーマンスもコンテンツの一形態と考えられます。

フラメンコはずっとこの形態で営まれてきたものだし、現在でも最重要なものですよね。

これを供給するには、原則として会場への直接集客活動が必要となりますが、パフォーマンスを録音・録画・ネット配信などで動画コンテンツや音源コンテンツに変換することで、直接集客以外のメディアでの供給が可能になります。例としては、ライブDVD、ライブのインターネット配信、教則ビデオ、オンラインレッスンなどです。

⑥電子化出来ない現物アイテム

このカテゴリーは、電子化できない現物アイテムを売ってフラメンコの普及に役立てられないか?というアイデアです。

例えば、アパレル・ファッション関連、文具・おもちゃ等、様々なものが考えられますが、「電子化不可なアイテム」ということなので、店舗・イベントへの直接集客やECサイト等での供給ということになるでしょう。

フラメンコ業界は女性が多い業界ということで、フラメンコをテーマにしたファッションブランドとか、コスメブランドなんかどうでしょうか?

イメージ戦略がうまくハマって、若い女性に「フラメンコ=エモい・可愛い」と認識させる事が出来れば、日本のフラメンコ人口は一気に若返るのではないでしょうか。

発信メディア(視聴形態)

次に発信メディア、視聴形態について考察してみましょう。発信メディアは5つのカテゴリーに分けてみました。

①現物記録メディア

CD・DVDなどの現物記録メディアは音源・動画・ゲームなどの幅広いコンテンツを扱うことが出来ますが、近年はインターネット配信に移行しつつあり、CD・DVDのプレイヤーを持たない人も増えているし、衰退メディアの一つであることは否めません。

一方で、歌手や楽器奏者が自分のCDを作る事で、ジャケットなども含めて「名刺」の役割を果たしてくれるというメリットは未だに大きなものだと思います。

もう一つ、CD・DVDは「安価な現物メディア」という特徴を生かして、書籍等に添付したりライブやイベントで配布・販売する宣材といった形で生き残るのではないでしょうか。

②書籍メディア

単行本・雑誌・新聞などの書籍メディアはCD・DVDと同様、電子化してインターネット配信する形に移行しつつありますが、現物書籍には「再生装置不要」という強みがあります。

今後も「情報を現物所有する」という需要は一定量存在し続けると思うので、書籍メディアも存在し続けるでしょう。

③放送メディア(TV・ラジオ・有線放送など)

TVなどの放送メディアは、周知力という面で未だに大きな影響力を保持していますが、一般人が発信に利用するには敷居が高いものです。

ただ、近年は動画サイトで人気化したものをTV等がとり上げるという構図も出来つつあり、ここでも年々インターネットの影響が大きくなっています。

ラジオについては、地味ながら一定需要に支えられた成熟メディアですので、今後も現在の地位を保っていくと予想しますが、インターネットラジオ化は進むかもしれませんね。

④直接集客

このカテゴリーは、ライブ会場・教室・店舗・映画館などへ直接集客してコンテンツ提供や物品販売を行うというもので、これもアナログメディアの一つと考えられます。

フラメンコ業界においても、ライブや教室などの活動は常に中心的な役割を果たしてきましたし、「会場での直接体験」というのは他に変えがたいものなので、今後もその価値は揺るがないでしょう。

しかし、コロナ禍の影響で人々の行動様式が変化して来ているのも事実で、今後、コロナ前の状態に戻れるという保証はありません。

そこで、代替・補助として浸透してきているのが、ライブのインターネット配信やオンラインレッスン、ECサイトなどです。

これらはライブ・教室・店舗などの集客減に対抗する有効な手段になっていますが、今後は配信等で積み上げられた録画を加工して動画コンテンツとして再供給する動きも増えてくるのではないでしょうか。

⑤インターネットメディア

最後になりましたが、インターネットはほぼ全ての種類のコンテンツの配信が可能なメディアです。

上記の①現物記録メディア②書籍メディア③放送メディアで供給されるコンテンツは全てデータ化してインターネット配信する事が出来ますので、現在はインターネットでの供給が増えてきています。

④の直接集客で供給されるコンテンツにしても、今はインターネットでのPRやECサイトでの販売は不可欠ですし、ライブ演奏の配信やオンラインレッスンなど、直接代替する手段も出てきています。

このように「万能メディア」的な特徴を持つインターネットメディアは今世紀に入ってから急激に普及しましたが、メディアミックスという観点からも、今まで別々のメディアで扱っていた多彩なコンテンツを一元的に扱えるメディアミックスの要となるものなのです。

多彩なインターネットコンテンツを新規ファンの入り口とし、そこから入ってコア化した層がライブや教室に足を運んだり、新たなコンテンツの作り手となって、更にフラメンコというジャンルを盛り上げていく。――そんな循環が、今後のフラメンコ普及・発展の鍵になるのではないでしょうか。

今回はメディアミックスというテーマで広範囲なアイデアを書きましたが、何か一つ優れたコンテンツを作れたなら、それを加工してメディアミックス展開する事で結果が何倍にもなったりするので、常に意識しておきたいところです。

コンテンツ戦略 あとがき

ここまで5回に渡って「フラメンコの裾野を広げるコンテンツ戦略」というテーマで様々なアイデアを書いてきましたが、戦略を立てたなら、次は「実際にコンテンツを作って発信していこう」という事になりますよね。

当初の予定では「フラメンコの裾野を広げるコンテンツ戦略」の実践編として、この後に「個人でのコンテンツ制作」と「インターネットでの発信」というテーマについて書こうと思っていました。

ですが、それらのテーマを長々とやるのは、フラメンコ音楽論の主旨である「音楽」という事から大きく外れた内容となって来てしまうため、検討の末、これら残された2つのテーマについては、当ブログ内の別の連載シリーズで扱っていくことにしました。

まず「個人でのコンテンツ制作」に関しては、「DTM・機材解説」の記事である程度のところまで書いているので、これを拡張する形でやっていこうかと。

「インターネットでの発信」に関しては、当ブログの「近況と活動方針」や、ゲーム音楽演奏ブログの「月例まとめ」で具体的な事を書いていますが、これらをフィードバックした新連載「マイノリティのWeb戦略」にて扱っていきます。

そして、フラメンコ音楽論は「音楽論」という本流に立ち戻って続けたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします!

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