バイレのコンテンツ化【フラメンコ音楽論53】

今、フラメンコ音楽論では「フラメンコの裾野を広げるコンテンツ戦略」という考察をしていますが、前回までで「フラメンコのポップ化・フュージョン化」「フラメンコギターのギター音楽化」というテーマをお話してきました。

今までお話してきた内容は「フラメンコの音楽面を充実させていく」という面が強かったのですが、ここで日本のフラメンコ業界において最大の人口を抱えるバイレ(踊り)にスポットを当てて「バイレのコンテンツ化」という事にも触れておきたいです。

自分はギタリストですので、バイレの技術面や演出面に関して専門的な事は言えないのですが、制作や運用に関しては一定の提案が出来ると思います。

また、専門外ゆえに客観視出来る面もあると思うので、今回はそういう切り口で書いてみようかと。

新規ファン獲得のためのバイレコンテンツ

バイレのコンテンツというと、やはり動画が中心となりますが、ビデオテープの時代からバイレの動画コンテンツは数多く存在しています。

フランシスコ・ロビラ・ベレータの『バルセロナ物語』(1963年)、カルロス・サウラの『カルメン』(1983年)『フラメンコ』(1995年)など、最初から独立した映像作品として作られたものもありましたが、多くは舞台公演やライブを映像に収めたものをそのまま使っているサブコンテンツ的なものでした。

そして、現在のバイレの動画コンテンツも、基本的にはビデオテープ時代のライブ動画の延長線上にあるものが主流であるように思います。

そういうライブの動画は学習にも役立ちますし、フラメンコの発展に一定の役割を果たして来た事は間違いありませんが、今の時代に新規のファン層獲得を狙っていくのなら、もっと適したコンテンツがあるのではないでしょうか?

その「もっと適したコンテンツ」として、今回ご提案するのが、YouTube等の動画サイト向けコンテンツです。

この連載でも再三言っている事ではありますが、「これから個人が自分のコンテンツを多くの人に届けて、新たなファン層を獲得していく」という事を考えると、拡散力・コスト面などからインターネットメディアが最有力なものでしょう。

そのインターネットメディアで供給されるコンテンツの中でも動画サイト向けコンテンツは最も需要が高いものなので、今回はそこを重点的に考察していこうと思います。

現在の動画コンテンツの特徴とニーズ

現在、動画サイトでニーズのある動画の特徴としては、以下のようなものがあると思います。

  • コンテンツの魅力が短い尺に要約されている
  • 高画質なのはもちろん、音声も高音質で聴きやすい
  • 単発ではなくシリーズ化されて定期的に公開される

動画サイトの視聴者は、最初の数秒を見てテンポが悪かったり、画質や音質が悪かったりすると離脱して他の動画に行ってしまう、ということは意識しておくべきでしょう。

そして、クオリティーの高い動画を作ったとしても、1本の動画に手間と予算がかかりすぎるようだとコンスタントな投稿が出来ず、発信チャンネルの長期的な成長が難しくなるので、動画サイトに最適化したコンテンツを効率良く作っていく事が重要になってきます。

では、動画サイトに最適化させたバイレコンテンツとはどのようなものが考えられるでしょうか?6パターンほど挙げてみます。

  1. 高音質録音・編集されたライブ動画
  2. PV(プロモーションビデオ)
  3. HowTo系・レッスン動画などの教材・啓発コンテンツ
  4. 音楽コンテンツとのコラボレーション
  5. フラメンコ版「踊ってみた」動画
  6. ライブ配信コンテンツ

以下、一つずつ解説していきますが、こうやって書いてみると、バイレのコンテンツに限らず、ギター・カンテの音楽系コンテンツもほとんど同様のパターンになりそうだし、バイレ以外の方にも動画サイト向けコンテンツを作る際の参考にしていただけたらと思います。

高音質録音・編集されたライブ動画

ライブ演奏を収録した動画は以前からバイレのメインコンテンツとなっているものと思いますが、動画サイトに最適化させるには各動画サイトの特性に合わせた編集を施す事が重要に思います。

不要な部分をカットしたり、場面ごとにチャプターを付けたり、テロップを入れたり、冒頭にハイライトシーンを入れたり、サムネイルを工夫したり、そういった事で随分変わって来るのではないでしょうか。

音質に関しては、PAミキサー直結で音を収録するのがベストですが、それが出来なくてもPCMレコーダー等で収録しておいて、後でマスタリング等の処理をしてから映像と同期させるようにすれば、かなりクオリティーを上げる事が出来ます。

PV(プロモーションビデオ)

アーティスト個人や教室、イベントなどのPVも比較的よく作られるものと思います。

内容的にはアイデア次第で様々な演出が考えられるので一般化して論ずるのは難しいのですが、動画サイトに最適化する方向性はライブ動画とほぼ同様ではないでしょうか。

つまり「コンパクトにまとめる」「冒頭にハイライトシーンを持ってくる」「サムネイルを工夫する」「音質も重視する」というような事ですね。

PVは十分に成長した発信チャンネルで公開すれば大きな集客効果が望めますが、それ単体で発信チャンネルを成長させる性質のものでは無いと思うので、他のコンテンツで発信チャンネルを成長させておく事も大切です。

HowTo系・教則動画

HowToものや教則動画は常に一定の需要があり、動画サイトとの相性も良好です(TikTokなどのショート動画だと短かすぎて適しませんが)。

HowTo系・教則動画も基本的な最適化の方向性としてはライブ動画やPVと同様ですが、それらと比べて喋りやテロップの重要度が高くなります。

テンポ良い動画にするには、簡単なもので良いので台本を作ってから撮影に臨むのが良いでしょう。

音楽コンテンツとのコラボレーション

今回、新機軸としてのご提案するものの一つは、MV(ミュージックビデオ)などの音楽コンテンツのビジュアルとしてバイレを入れるというアイデアです。

逆にバイレをメインに作れば「作り込まれた楽曲が付いたバイレ動画」という事になりますね。

サパテアードの音もレコーディングして音楽にミキシングすれば、迫力ある音声になるのではないでしょうか。

この形態なら、3分なり5分なりの曲のサイズでフラメンコの魅力を凝縮する作り方が出来るし、音楽ファンとダンスファンの両方にリーチ出来る魅力的なコンテンツが出来ると思うのですが。

内容的には、オリジナルな楽曲で音楽コンテンツ寄りに作っても良いし、通常の「三位一体」の演奏フォーマットをアレンジしても良いと思います。

このタイプのコンテンツはスペインでもまだあまり作られていないと思うし、自分も是非作ってみたいです。

フラメンコ版「踊ってみた」動画

2000年代後半から「踊ってみた」「歌ってみた」「弾いてみた」というようなカバー演奏動画が動画サイトで大流行し、現在では人気コンテンツの一つとして定着していますが、これのバイレフラメンコ版をやったらどうなるか?というアイデアです。

ギターなら前回解説した「弾いてみた」動画、カンテなら「歌ってみた」動画になりますが、バイレなら「踊ってみた」動画というわけですね。

内容的には、ソロコンパスやフラメンコのCDを流して踊るのも良いですが、動画サイトでウケているのは有名曲・流行曲に振り付けをして踊るものです。

フラメンコで有名曲・流行曲の「踊ってみた」動画をやっている人はあまり見たことが無いし、やってみたら面白いのではないかと。

ライブ配信コンテンツ

ライブ配信コンテンツと言っても様々な形態があって、現在フラメンコ業界で主流なのは、通常のライブ演奏を撮影してリアルタイム配信、もしくは録画として後からインターネットで配信するというもので、有料配信の場合が多いです。

しかし、この形態は昨今のコロナ禍によって減った集客を補うという目的がメインで、新規ファンの獲得という事に主眼を置いているものではありません。

そこで、今回ここで提案するのは上記のようなリアルライブの代替ではなく、個人で行う新規ファンの獲得を目的としたライブ配信コンテンツです。

バイレのアーティストや練習生が自宅や練習スタジオからライブ配信をやるとしたら、例えばですが、ミニライブや「踊ってみた」をトークを交えながら配信するとか、体験レッスン的な事をやってみるとか、舞台メイク講座だとか、色々考えられますよね。

現在は様々なライブ配信用プラットフォームが整備されており、スマートフォン1台で始める事が出来る上、「投げ銭」などのシステムによって収益化もしやすいという特徴があります。

ただ、こういう形のライブ配信で視聴者の心を掴んでいくには、配信中のリアルタイムなコミュニケーションが必須となるので、ライブ配信に適した機材やコミュニケーション方法というのも研究する必要があるのではないでしょうか。

――前回はギターの、今回はバイレのコンテンツ戦略という事を考えてみましたが、前回と今回で挙げた個々のアイデアはギターとかバイレに限定せず、様々な形態に応用可能だと思いますので、カンテや他の楽器の奏者、さらにはフラメンコ以外のジャンルの方にも参考にしていただけたら嬉しいです。

次回は、コンテンツ戦略の総まとめとして「メディアミックス」というテーマをお話したいと思います。どうぞお楽しみに!

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