フラメンコ音楽論では前回、3拍子系形式の概要と「ウエルバ系コンパス」の代表形式としてファンダンゴ・デ・ウエルバをやりました。
今回は、歌の起源としてはファンダンゴ系から一旦外れますが、ファンダンゴ・デ・ウエルバに類似したコンパスを持つセビジャーナスをご紹介します。
セビジャーナスは、フラメンコの踊りを習いに行くと最初に教わる初心者向けの曲種として知られていますが、音楽面ではかなりマニアックなところもある形式です。
セビジャーナス形式概要
単数形:Sevillana
複数形:Sevillanas
テンポ:130BPMから200BPM
セビジャーナスは、セビージャ(Sevilla、セビリア、アンダルシアの州都)のフェリア(春祭り)で歌い、踊られる民俗舞踊で、厳密にはフラメンコではありません。
良く盆踊りに例えられますが、セビージャではまさにそんな感じで、大衆的なものなのです。
セビジャーナスは、現在でも毎年新曲が出てくるし、基本様式さえ守っていれば自由に創作出来るため、キーやコード進行は何でもありです。
一方、歌のサイズや踊りの振り付けは固定化されているため、共通化しやすく教えやすいということで、フラメンコ教室の入門曲として定着しています。
踊りについては、基本的に皆が踊れるように作ってあるので、難しい技巧も無く初心者に適していますが、音楽面では独自ルールが多く、難解な面もあると思いますので、今回はセビジャーナスの音楽面を解説していきます。
セビジャーナスのコンパス
セビジャーナスのコンパスはファンダンゴ・デ・ウエルバと同様のものです。
下にコンパスのリズムパターンを図示しますが、ファンダンゴ・デ・ウエルバのコンパスと同様、1からのカウントで6拍子で書きます。○が付いた数字がアクセント拍です。
通常コンパス
① 2 3 ④ 5 6
締めくくりのコンパス(5拍目で終止)
① 2 3 ④ ⑤ 6
この2つは前回書いたファンダンゴ・デ・ウエルバのメディオコンパスと全く同一なのですが、セビジャーナスの場合、12拍サイクルという感覚は希薄なので、原則的に1コンパス=6拍と考えて下さい。
テンポは歌やアレンジによってまちまちですが、概ね130BPMから200BPMくらいです。
セビジャーナスのフレージング
セビジャーナスはフレージングもファンダンゴ・デ・ウエルバと同様で、下に図示する通り、ベースリズムは3拍子ですが、2拍単位のフレージングを多用するという特徴があります。
コンパス ① 2 3 ④ 5 6
フレーズ ① 2 ③ 4 ⑤ 6
コードの変わり目は1拍目に次いで3拍目が多く、それもファンダンゴ・デ・ウエルバと同様です。
歌の入り方は、前のコンパスから1、2拍食って入るフレーズが多いです。
セビジャーナスの曲構成
セビジャーナスは曲構成が完全に決まっています。
セビジャーナスは1つの歌が3セクション構成になっていて「A→A→A’」「A→A→B」のいずれかになります。
これを「1番」として、通常は4番まで(昔は6番まであった)連続して歌われます。
1番から4番まで同じメロディーが歌われて歌詞が変わるだけの場合もあるし、違う歌が歌われる場合もあるので、事前に歌い手と伴奏者で打ち合わせておきましょう。
以下に、一般的なセビジャーナスの構成を示します。1コンパス=6拍。用語は後述。
- 前奏
パソ・デ・セビジャーナと同じ弾きかた。4拍目か1拍目から入って、コンパス数(リピート回数)は状況によって変わる - 歌のサリーダ
2コンパス。Aメロ後半部分が歌われる - 間奏(パソ・デ・セビジャーナ)
1コンパス - Aメロ
5コンパス - 間奏(パソ・デ・セビジャーナ)
1コンパス - Aメロ
5コンパス - 間奏(パソ・デ・セビジャーナ)
1コンパス - Bメロ(またはA’)
5コンパスやったら5コンパス目の4拍目で止まる - 1.から8.をを4回繰り返す
このような構成になっていて、前奏は6拍単位で伸縮しますが、歌のサリーダが入ったら後は固定サイズです。
フラメンコをやっていると展開を丸々記憶してしまって、何も考えずに演奏したりしていますが、一般的な音楽からするとかなりイレギュラーな構成ですよね。
以下、用語とともに各セクションの解説をします。
パソ・デ・セビジャーナ(間奏)
パソ・デ・セビジャーナは、歌の小休止に入る短い間奏部分で、一般的なフラメンコ形式のマルカールにあたる部分です。
パソ・デ・セビジャーナのサイズは6拍で、普通は下記のようなパターンで演奏します。一行で1コンパス=6拍の3拍子で記載。○はコードチェンジしない拍です。
メジャー・マイナーキー
|Ⅴ7 ○ Ⅰ(Ⅰm)|○ ○ ○|
ミの旋法
|♭Ⅱ ○ Ⅰ|○ ○ ○|
例によって、コードは1拍目と3拍目(普通の3拍子より1拍早い)で変わるのがミソですね。
前奏について
前奏は、基本的にはパソ・デ・セビジャーナと同じ弾き方で必要な長さだけ繰り返して歌が入るのを待ちますが、前奏の出だしには以下の2パターンがあります。
- コンパスの頭から入る場合
- 3拍食って前のコンパスの4拍目から入る場合
3拍食うのは、そこでギターがテンポを出して、伴奏者全員でコンパスの頭から入るための仕掛けです。
最後の締めくくりについて
最後の締めくくりですが、4拍目の頭という普通の音楽からすると中途半端に思えるところで止まります。
フラメンコをずっとやっていると体に入って憶えてしまうのですが、最初は前触れもなく急に終わる感じがして違和感があるかもしれません。
歌が無い場合のセビジャーナス伴奏
これは余談なのですが、自分がフラメンコを始めた頃、歌い手が居ない状態でセビジャーナスの踊り伴奏を頼まれる事があったのですが、コードだけで漫然と伴奏していると、時々サイズが分からなくなってしまうことがありました。
歌無しでやる場合、ブレリアとかソレアのほうが、歌振り・ジャマーダ・エスコビージャなどの展開が分かりやすいので楽だったりするんですよね。
歌無しでのセビジャーナスの踊り伴奏は、歌のメロディーをギターで弾くようにアレンジしたり、セビジャーナスサイズで作ってあるファルセータで伴奏するほうが良いでしょう。
――次回はまたファンダンゴに戻って、ファンダンゴ・アバンドラオをやりたいと思います。
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