3拍子系曲種の基本とファンダンゴ・デ・ウエルバ(Fandango de Huelva)【フラメンコ音楽論19】

フラメンコ音楽論では12拍子系形式、変拍子系形式の解説を終え、今回からファンダンゴを中心とした3拍子系の曲種の解説入ります。

「3拍子」というとシンプルにきこえますが、この系統も12拍子に負けず劣らず奥深いものがあります。

ファンダンゴ系形式の分類

フラメンコの3拍子は主にファンダンゴのリズムを起源としています。

ファンダンゴはアンダルシア地方の民謡ですが、かなり初期の段階からフラメンコに採り入れられて歌われてきました。

ファンダンゴ系の形式は、もともとはハッキリした3拍子のリズムでしたが、徐々にバリエーションが増えて、カンテの技巧を競う自由リズム形式としても発展していきます。

ファンダンゴ系の形式をコンパス面から大雑把に分類すると、以下の3種に分けられます。

  • ウエルバ系
  • アバンドラオ系
  • リブレ系

ウエルバ系

ファンダンゴ・デ・ウエルバに代表される軽いノリの3拍子です。

特徴としては、ベースリズムは3拍子ですがフレーズは2拍で進行したりするのでポリリズムの様相になっています。

踊りの初心者向け形式の代表であるセビジャーナスもこの系統のコンパスです。

この系統のリズムの特殊性は、フラメンコのソレア系コンパスからの影響もあると思いますが、フラメンコ化されていない土着のファンダンゴ・デ・ウエルバやセビジャーナスも同じようなリズムなので、アンダルシア西部に民衆レベルで根付いている感覚なのでしょう。

アバンドラオ系

ベルディアーレスやロンデーニャなどに代表されるリズムです。

アンダルシア中部から東部のファンダンゴはこのコンパスで演奏される事が多く、ウエルバ系より重厚な印象です。

フレーズは頭からきっちり3拍子で入ることが多いので、そこはウエルバ系より分かりやすいかもしれません。

このコンパスで演奏されるファンダンゴ全般をファンダンゴ・アバンドラオと呼びます。

リブレ系

リブレ(自由リズム)系形式は、ファンダンゴのメロディをリズムを崩して自由に歌うものです。

リブレ系のファンダンゴは、カフェ・カンタンテの時代を中心に発展してきたもので、歌い手個人による数々のバリエーションが編み出されました。

代表的な形式としてはマラゲーニャやグラナイーナなどがあります。

フラメンコの自由リズム形式はファンダンゴだけというわけではなく、シギリージャ系や2拍子系を崩して歌うものもありますが、形式数としてはファンダンゴ系が圧倒的に多いです。

リブレのファンダンゴのうち、アンダルシア東部のアルメリアや、隣接地域のカルタヘナ、ムルシアなどの鉱山地帯を中心に発展した「カンテレバンテ」と呼ばれる独特の節回しの歌も、かなり大きなグループです。

――このように、フラメンコの3拍子系形式はファンダンゴ系形式だけでもかなりの数にのぼりますが、今回はこれらの中からファンダンゴ・デ・ウエルバをとりあげます。

ファンダンゴ・デ・ウエルバ形式概要

単数形:Fandango de Huelva
複数形:
Fandangos de Huelva
主な調性:
ポルアリーバ(Eスパニッシュ調)
テンポ:
130BPMから180BPM

ファンダンゴ・デ・ウエルバは、アンダルシアの西側に位置するウエルバ地方のファンダンゴで、軽快な3拍子が特徴です。

アンダルシア東側のファンダンゴ・アバンドラオとともに、民謡としてのファンダンゴの原型を色濃く残していて、ファンダンゴ系形式を学ぶうえでは基本になる形式です。

現在でもウエルバでは民族舞踊としてのファンダンゴのコンクールやイベントが頻繁に開催されています。

ファンダンゴ・デ・ウエルバのキー

ファンダンゴ・デ・ウエルバは普通はポルアリーバで演奏されます。

歌の本体部分はCメジャーキーが中心になることが多いですが、平行調のAマイナーキーや、そのさらに同主調のAメジャーキーで歌われることもあります。

そんなふうに途中は色んなキーに行きますが、最後のオチはF→Eが来てミの旋法へ戻っていくのが特徴です。

カポの位置はソレアよりやや低めで、女性歌手なら6カポ(実音B♭スパニッシュ)、男性歌手は3カポ(実音Gスパニッシュ)くらいが中心です。

ファンダンゴ・デ・ウエルバのコンパス

ファンダンゴ・デ・ウエルバのコンパスのベースは頭の拍が強いシンプルな3拍子ですが、フレージングに癖があります(後述)。

テンポは速めの場合が多いですが結構幅があって、概ね130BPMから180BPMくらいです。

ファンダンゴ・デ・ウエルバのコンパスのカウント

ファンダンゴ・デ・ウエルバのコンパスカウント方法は、コンパスの頭を1からカウントするのが普通ですが、踊りの場合ブレリアの振りからの流用も多いため、ブレリアに当てはめてコンパスの頭を12または6としてカウントする場合もあります。

基本は12拍で1コンパスですが、メディオコンパスも非常に多いです。

以下にファンダンゴ・デ・ウエルバの基本コンパスを表にしてみます(○が付いた数字がアクセント拍)。

頭拍を1からカウントする場合
① 2 3 ④ 5 6 ⑦ 8 9 ⑩ ⑪ 12

頭拍を12としてカウントする場合
⑫ 1 2 ③ 4 5 ⑥ 7 8 ⑨ ⑩ 11

ファンダンゴ・デ・ウエルバは、後ろから2拍目が締めくくりの拍で、1からのカウントだと11拍目、12からのカウントだとブレリアと同じ10拍目です。

12からのカウントのほうがブレリアと互換性があるので、人によってはそのほうが分かりやすいかもしれません。

メディオコンパスでのとらえかた

実際の運用上は、ファンダンゴやセビジャーナスは12拍でとらえるより6拍でとらえたほうが単純化できて楽です。

ファンダンゴ系の3拍子はブレリアほどリズムバリエーションがないため、以下の2つだけ意識できれば大丈夫です。

ここでは1から6のカウントで解説していきます。

通常コンパス
① 2 3 ④ 5 6

締めくくりのコンパス(5拍目で終わる)
① 2 3 ④ ⑤ 6

12拍カウントよりも、こちらのメディオコンパスでのとりかたがシンプルで融通がきくので、以後このカウントで解説します。

なお、自分が提唱する「コンパス=サイクル理論」では、ファンダンゴ系3拍子と12拍子系と3.3.2.2.2型コンパスを全て同じ「6サイクル」で捉える方法、というのを解説していますので、是非そちらもご一読下さい。

ファンダンゴ・デ・ウエルバのフレージング

以上のようにファンダンゴ・デ・ウエルバのコンパス自体はシンプルですが、その上に乗っかるフレージングが曲者です。

ファンダンゴ・デ・ウエルバやセビジャーナスのフレージングは1拍目から入って5拍目に向かうものが基本ですが、2拍単位で進行するものが多いです。

コンパスは3拍×2で6拍、フレーズは2拍×3で6拍となって、3拍目と4拍目にズレが生じます。以下に図示します。

コンパス ① 2 3 ④ 5 6
フレーズ ① 2 ③ 4 ⑤ 6

普通の3拍子は小節の頭である4拍目でコードが変わりますが、ファンダンゴ・デ・ウエルバの場合は、コードもフレーズに合わせて3拍目で変わるパターンが多いです。

このポリリズムがファンダンゴ・デ・ウエルバ系コンパスのミソでしょう。

ブレリアでも似たようなとりかたがあるし、フラメンコ(この場合、汎アンダルシアか)の基本的感覚なんだと思います。

2拍食って入るフレージング

今書いた「2拍で進行するフレージング」ということの関連になりますが、ファンダンゴ・デ・ウエルバ系でもう一つ特徴的なのが「前のコンパスから2拍食って入るフレージング」です。

メディオの6拍カウントでいうと、前のコンパスの5から入るんですが、とくにギターのファルセータは昔からこれが多用されます。

慣用句ということで長年演奏するうちに慣れましたが、最初は「何故ここから?」みたいな違和感があったのをおぼえています。

3拍単位フレーズと2拍単位フレーズの混合

セビジャーナスを含むファンダンゴ・デ・ウエルバ系の曲種は、今言ったような2拍単位のフレージングだけでなく、普通の3拍単位のフレージングも使います。

曲中でそれらが微妙に混じったり、前のコンパスから2、3拍食って入ったりするのが難しいところで、「初心者向け形式」とされていますが、実は相当マニアックで惑わされやすいリズムだと思います。

ファンダンゴ・デ・ウエルバのマルカール

以下にファンダンゴ・デ・ウエルバで弾かれるギターのマルカールパターンを図示します。

1小節3拍、1段で12拍=1コンパス、○はコードチェンジ無しの拍です。ポルアリーバ=Eスパニッシュで書きます。

|E ○ Am|○ ○ ○|G F E|○ ○ ○|

基本パターンはこの12拍サイクルですが、このパターンがすでに2拍単位フレージングを内包していて、6カウントでいう3拍目でコードチェンジするのがポイントです。

ファンダンゴ・デ・ウエルバの歌

ファンダンゴ・デ・ウエルバの歌は、もともとが皆で踊るための民謡ということがあるので、定型サイズが決まっています。

ただし、フラメンコのファンダンゴ・デ・ウエルバは6拍単位での伸び縮みもあって、とくに踊りが入らない場合は、歌い手の裁量で自由に伸縮させる傾向です。

以下、もっとも一般的なCメジャーベースの歌の進行を書いておきます。

1小節3拍、1段で12拍=1コンパス、○はコードチェンジ無しの拍。ポルアリーバ=Eスパニッシュで書きます。

|C(G7)○ ○|○ ○ ○|○ ○ C|○ ○ ○|
|C ○ ○|○ ○ ○|C7 ○ F|○ ○ ○|
|○ ○ G7|○ ○ ○|○ ○ C|○ ○ ○|
|○ ○ ○|○ ○ ○|○ ○ G7|○ ○ ○|
|○ ○ ○|○ ○ ○|○ ○ C|○ ○ ○|
|C7 ○ F|○ ○ ○|G  F  E|○ ○ ○|

基本はこの6コンパスで、これをベースに上記の通り6拍単位で伸縮します。

このコード進行はアバンドラオ系やリブレ系を含む、全てのファンダンゴ系の歌の基礎になるものです。

ディグリー表記版

|♭Ⅵ(♭Ⅲ7)○ ○|○ ○ ○|○ ○ ♭Ⅵ|○ ○ ○|
|♭Ⅵ ○ ○|○ ○ ○|♭Ⅵ7 ○ ♭Ⅱ|○ ○ ○|
|○ ○ ♭Ⅲ7|○ ○ ○|○ ○ ♭Ⅵ|○ ○ ○|
|○ ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ♭Ⅲ7|○ ○ ○|
|○ ○ ○|○ ○ ○|○ ○ ♭Ⅵ|○ ○ ○|
|♭Ⅵ7 ○ ♭Ⅱ|○ ○ ○|♭Ⅲ ♭Ⅱ Ⅰ|○ ○ ○|

――次回は、歌としてはファンダンゴ系から外れますが、ファンダンゴ・デ・ウエルバと共通のコンパスをもつ関連形式として、踊りの入門曲のセビジャーナスを解説してみようと思います。

フラメンコ音楽論 前回

シギリージャ(Siguiriya)とその関連形式【フラメンコ音楽論18】
フラメンコ音楽論第18回は、フラメンコの形式の中で最も古い歴史を持ち、最も難解なコンパスを持つと言われるシギリージャ系形式の解説です。

フラメンコ音楽論 次回

セビジャーナス(Sevillanas)【フラメンコ音楽論20】
フラメンコ音楽論第20回は、踊りの入門形式であるセビジャーナスを解説します。踊りから見ると入門用ですが、音楽的にはイレギュラーで難解な面もある形式です。

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