フラメンコギターのギター音楽化【フラメンコ音楽論52】

現在、フラメンコ音楽論では「フラメンコの裾野を広げるコンテンツ戦略」というテーマで書いていますが、前回はギター・カンテの人口を増やし、音楽面を充実させていくための提案として「フラメンコのポップ化・フュージョン化」という内容をお話しました。

今回は「フラメンコギターのギター音楽化」ということで、自分の専門でもあるギターにテーマを絞って書いてみようと思います。

ギターが好きな日本人

日本人はとてもギターが好きな国民性で、過去に何回もギターブームがありました。

今回「日本人に向けたギター音楽」というコンテンツを考えるに当たって、まずは、我が国で起きたギターブームを振り返ってみましょう。

①古賀メロディー・ギター演歌ブーム(戦後1960年代頃まで)
終戦後、古賀政男(ギタリスト出身の作曲家)の楽曲をギターで奏でるのがブームになりました。同じ頃、演歌などの伴奏でもギターが活躍し、夜の街にはギター弾き語りの「流し」が多数出現。

②エレキギターブーム(1960年代後半)
1965年のザ・ベンチャーズの来日公演がきっかけになってエレキギターブームが起こりました。映画『エレキの若大将』が大ヒットし、寺内タケシなどが活躍。すぐ後に起こったグループサウンズブームと合流して大いに盛り上がりました。

③フォークギターブーム(1970年代)
1960年代後半から1970年代にかけてフォークギター(スチール弦のアコースティックギター)1本で歌うシンガーソングライターが人気を集め、エレキギターブームと入れ替わる形でフォークギターブームが起こりました。

④バンドブーム(1980年代後半から1990年代初頭)
1987年頃から空前のバンドブームがありました。中心になったジャンルはハードロックやビートロックなどの大音量のロック音楽で、バンドの中でもギターは最も人気が高い楽器だったため、実質的に「第二次エレキブーム」の様相を呈していました。

⑤ソロギターブーム(2000年代後半から2010年代前半)
ギター1本でインスト音楽を演奏するソロギターというスタイルは、マイケル・ヘッジスや(Michael Hedges)トミー・エマニュエル(Tommy Emmanuel)らが切り拓いたものですが、日本では2003年の押尾コータローのメジャーデビューをきっかけに脚光を浴びるようになりました。その後、動画サイトを中心にしたソロギターブームがあり、現在でもかなりの再正数を集めるジャンルとなっています。

⑥アニメ・ゲームからの楽器ブーム(2010年代)
これはギターブームと呼べるか微妙ですが、近年『けいおん!』(2009年にアニメ化されてヒットした漫画)や『BamG Dream!(バンドリ!)』(原作は2015年の漫画だが、2017年頃からアニメ・ゲームアプリなどでメディアミックス展開して大ヒットした)などに触発された若い世代の楽器演奏ブームがあり、その時もギターは人気の中心となった楽器でした。

⑦コロナ禍でギターブーム?(2020年から)
昨今のコロナ禍で在宅時間が増えた事で、趣味としてギターを始める人が増えているらしく、それが定着してくれれば大きなギターブームに発展する可能性もあります。

――このように日本人はギターが大好きで、どの世代にもギターファンと呼べるような層が存在します。日本のフラメンコギタリストもこういう一般のギターファン層から移行してきた人が多いのではないでしょうか。

前置きが長くなりましたが、今回のテーマは、こうした国内のギターファン層に向けて「ギター音楽」としてフラメンコギターを発信していく道を探ろう、というものです。

フラメンコギターのギター音楽化とは?

伝統的なフラメンコギターでもソロのスタイルもあったりするし、ギターをメインで聴かせるものなら「ギター音楽」という捉え方も出来ますよね。

ただ、そういう純フラメンコギターだと「フラメンコギターを聴きたい人」にしか聴いてもらえない可能性が高いので、ここで言う「ギター音楽」は、もっと幅広い層にリーチ出来るようなものを想定しています。

ちなみに、前回解説した「フラメンコフュージョン」の中でギターが主体になったものも、今回想定している「ギター音楽」の範疇に含まれます。

パコ・デ・ルシア、トマティート、ビセンテ・アミーゴ、ニーニョ・ホセレ、ホセ・ルイス・モントン、アントニオ・レイなどは一般のギターファンにリーチ出来るような音楽をやっていますが、彼らの音楽をもってしても、日本では一部のマニア層にしか聴かれていないのが実情だと思います。

なんとか日本のギターファンに、もっとフラメンコギターというものを認知して欲しいものですよね。

ここからは、フラメンコギターを日本人向けのギター音楽として発信するにはどうしたら良いのか?という事を考えてみましょう。

幅広い層に聴いてもらうために

今の時代、どういうコンテンツがウケるのか?という事を一般化して論ずるのは難しくなってきていますが、ここでは「日本でのフラメンコ系ギター音楽」という対象に絞って、自分の思うところを書かせていただこうと思います。

まずは、作曲・編曲(アレンジ)についてです。

フラメンコギターの楽曲の中でも、純フラメンコに近いものは伴奏に使うファルセータを繋ぎ合わせて作るのが主流ですが、それだと、一般の音楽リスナーの印象に残りにくいのではないでしょうか。

パコ・デ・ルシアにしても、有名曲は大体キャッチーなテーマメロディーやリフなどがあって、曲中でそれが何回か繰り返されたりして、印象を強めるようなアレンジがされていますよね。

前回、フラメンコフュージョンを解説した時も言いましたが、沢山ある音楽の中で視聴者の印象に残るためには、インスト音楽の場合、①演奏自体にエッジ(インパクトと独自性)があるか、②印象的なテーマを効果的なアレンジで聴かせるように作ってあるか、のどちらか(または両方)だと思うし、ギター音楽も例外ではありません。

フラメンコギタリストがギター音楽で新規のファン層を開拓しようとする場合、テクニックやコンパス感などの演奏自体のエッジに加えて、作曲やアレンジの技法も洗練させていく必要があるでしょう。

カバー演奏という可能性

もう一つ、自分がギター音楽の可能性として興味を持っているのが、動画サイトでの既存曲カバー演奏で、いわゆる「弾いてみた動画」といわれるジャンルです。

まず現実問題として、無名のギタリストがYouTubeなどにオリジナル曲を投稿しても、普通はほとんど聴いてもらえません。

そこで、有名曲などをカバー演奏することで、曲自体の知名度を利用して新規リスナーを獲得しようというわけですね。

2000年代からのソロギターブームでも、有名になったプレイヤーのほとんどが動画サイトでの有名曲のカバー演奏をきっかけにして、再正数とフォロワー数を伸ばしてきました。

これは動画サイトの利用が浸透した現在ならではの活動形態ですが、フラメンコギターではまだまだ未開拓の領域だし、フラメンコギターが持つエッジを生かして取り組めば、凄く可能性が広がる分野ではないでしょうか。

ただ、この「弾いてみた動画」には、既に他ジャンルの楽器プレイヤーが多数参入していて、一般的な人気曲などは物凄い数の演奏がアップされてくるので、闇雲にやっても埋もれてしまうでしょう。

現在、この問題を打破する方法を考えているのですが、自分は、①ブランディング②エッジとクオリティーの確保③発信チャンネルの成長、という3点が重要だと考えています。

以下、一つずつ解説していきますが、これらの事は、動画サイトでの「弾いてみた動画」に限らずインターネットでのコンテンツ発信全般に応用出来る内容ですので、ギタリスト以外の方も参考にしてみて下さい。

①ブランディング

カバー演奏のテーマを絞って特定ジャンルに特化することで、その特定ジャンル周辺のリスナーを集中的に取り込む、というのはとても有効な戦略だと思います。

テーマは色々なものが考えられますが、それなりに人が集まりそうで、かつ自分自身がある程度詳しいジャンルを扱うのが良いでしょう。

ちなみに、自分は「ゲーム音楽」のカバー演奏活動をやっていて、YouTubeでは本職のフラメンコギターチャンネルの2倍以上のアクセス数と登録者数を稼いでいます。

ジャンルを絞ったブランディングで大事なのは、提供するコンテンツに、その特定ジャンルのファン層が食い付くだけの深度と熱量がある事だと思います。

②エッジとクオリティーの確保

これはカバー演奏に限った事ではありませんが、コンテンツのエッジとクオリティーの確保は非常に重要です。

低クオリティーなものを出してしまうと、その1本の動画のせいで活動全体の評価が下がってしまったりする怖さもありますし。

逆に、1回視聴すれば釘付けになるような圧倒的なエッジとクオリティーのある動画が1本でもあれば、見た人が勝手に拡散してくれてリスナー増加の突破口になったりもします。

カバー演奏での「エッジとクオリティー」とは、要するに「演奏力+アレンジ力+コンテンツ制作力」という事になると思いますが、この3つについては「フラメンコ音楽論」のみならず、このブログ全体のテーマです。

演奏力については「Webで学ぶフラメンコギター」、コンテンツ制作力については「DTM・機材解説」、また、アレンジについては、ゲーム音楽演奏ブログの「ゲーム音楽を弾こう!」といった文章コンテンツも参考にして下さい。

③発信チャンネルの成長

動画サイトに動画をアップしたとしても、最初はなかなか再生数が伸びないと思いますが、動画サイト・SNS・ブログといった発信チャンネルを成長させる事で、徐々にですが再生数が伸びるようになっていくでしょう。

とくに、こういうカバー演奏のような活動の成功はインターネット発信チャンネルの成長にかかっているといっても過言ではありません。

上記①②も、長期的には発信チャンネルの評価を高めて成長させていく条件となります。

発信チャンネルを積極的に成長させていく方法論は、新たに始めた「マイノリティのWeb戦略」という連載で個別に扱っていますので、是非そちらもお読みになって下さい。

――今回はギタリストのためのコンテンツ戦略として「フラメンコギターのギター音楽化」というテーマを考えてみましたが、次回はバイレのコンテンツ化というテーマでお話したいと思います。どうぞお楽しみに!

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