約4カ月ぶりの連載再開になりますが『フラメンコ音楽論』は今回から新展開です。
これからは、フラメンコの音楽を演奏する上で、より実践的な内容に移っていきます。
『実践編』として、まずフラメンコで最も重要かつ難しい部分であるリズム=コンパスの実践ということを解説していきます。
今までの整理と今後やる内容
今までの内容を整理すると
- 第1~3回 基礎知識
- 第4~7回 コードと音階
- 第8~31回 リズム形式
- 第32~39回 フラメンコ音楽現代史
このような順番でやってきましたが、基礎的な知識が中心で、半分以上はリズム形式の解説に費やしています。
この連載の開始間もない頃に、コードとスケールのところまで書いて、次のリズムを解説する段になって『ああ、これは時間をかけて形式説明から始めないと、無理だろうな』と感じて、一旦、実践的なことは置いておいて、まずは基礎知識を集中的にやりました。
基礎知識解説に1年以上費やしましたが、今までの講座を一通り理解できたなら、フラメンコの音楽を演奏するための基礎的な部分は十分ではないでしょうか。
『フラメンコ音楽論』第4~7回でコードとスケールについては実践的な内容までやっていますので、これから、その続きをやることになります。
そういうことで、改めまして、当初第8回あたりから予定していた『フラメンコのリズムの実践』について、今までの知識をもとに書いてみます。
コンパス=サイクル理論
形式解説で沢山の形式をやりましたが、フラメンコの実際の演奏で感じるリズムサイクルは基本2種類、4拍サイクルと6拍サイクルです。
以下『4サイクル』『6サイクル』と呼ぶことにします。
4サイクルは2拍子系形式に、6サイクルは12拍子系形式(変拍子系含む)と3拍子系形式に適用されます。
シギリージャ系だけは6拍サイクル+αで少し応用になりますが、他の全ての形式は4サイクルか6サイクル、どちらかで感じて演奏します。
振りを覚えたばかりの踊り手さんは、12、1、2とかカウントしたりするんですが、ギターやカンテは声でカウントせず(できない)、足などでリズムをとって、この『4サイクル』『6サイクル』を頼りに演奏します。
こうしてコンパスをブロック化することで、細かくカウントしなくても4拍や6拍のタイム感を基に、直感的な演奏ができるようになります。
このコンパスのブロック化の手法を『コンパス=サイクル理論』と命名することにします。
なんか、めちゃカッコイイかもw
フラメンコで使われるテンポ
フラメンコの実際の演奏ですが、大体やりやすいテンポ(BPM)が決まっていますが、この講座では以下の5段階に分けて解説します。
超スローテンポ
65~90BPM
踊りのソレア、踊りのタラントなど
スローテンポ
90~120BPM
歌のソレア、歌のティエントなど
ミドルテンポ
140~180BPM
ソレポル、カンティーニャ系、タンゴなど
ハイテンポ
180~250BPM
ブレリア、ルンバなど
超ハイテンポ
250BPM以上
踊りの追い上げ、マチョなど
- 超スローテンポとミドルテンポ
- スローテンポとハイテンポ
これらは、それぞれ半速・倍速の関係にあるので、一定の互換性があります。
ギターなら右手の弾きかたは大体同じで、左手のコードやフレーズのサイクルを2倍にすることで半速のコンパスに対応できたりします。
そういうことも考慮すると、テンポ的なバリエーションはそんなに無いです。
フラメンコのフレーズやリズムパターンは演奏しやすいテンポが大体決まっています。
踊りや歌も含めて全員が気持ちいいテンポ感・コンパス感を重視して演奏されるので、大体のテンポ幅が限定されてくるわけです。
15パターンのリズムサイクル
サイクルの種類とテンポ(BPM)によって、フラメンコのリズムサイクルは以下の15パターンに分けられます。
- 超スローテンポの4サイクル
- スローテンポの4サイクル
- ミドルテンポの4サイクル
- ハイテンポの4サイクル
- 超ハイテンポの4サイクル
- 超スローテンポの6サイクル
- スローテンポの6サイクル
- ミドルテンポの6サイクル
- ハイテンポの6サイクル
- 超ハイテンポの6サイクル
- 超スローテンポのシギリージャ系
- スローテンポのシギリージャ系
- ミドルテンポのシギリージャ系
- ハイテンポのシギリージャ系
- 超ハイテンポのシギリージャ系
わざわざ分けて書いたのは、それぞれのサイクルとテンポで、微妙にやり方が違うからで、これから一つずつ解説していきます。
シギリージャ系も6サイクルでとることもありますが、コンパスの頭やフレーズの解決拍などがわかりにくい場合があるので、これだけは別枠にしました。
シギリージャは演奏してみるとわかりますが、12.のスローテンポ(90~130BPM)でも相当ゆっくりなので、11.の超スローテンポ(65~90BPM)はほとんど使われないと思います。
超ハイテンポに関しては、各サイクルとも、ほぼ踊りのマチョでしか使いません。
弱起のリズム
個別解説に入る前に、全パターンに共通の傾向に触れておきたいです。
フラメンコのリズムは、サイクルの頭の音は強く出さない弱起の感覚があります。
通常のマルカールのときなどは、ブレリアの12拍目やタンゴの1拍目などの、サイクルの頭の音はあまり強く出さないことが多いですよね。
フラメンコに限らず、ラテン音楽全般の傾向ではありますが、ロックやクラブミュージックのように、サイクルの頭にベースドラムが入っていたり、というのと逆の感覚です。
特に我々日本人はリズムサイクルの頭をとろうとして、サイクルの頭を強く演奏しがちですが、これだとニュアンスが全然違ってきてしまうので、この点は要注意です。
もちろん、場合によっては意図的にサイクルの頭を強く出すパターンもありますが、弱起になることが多いということは覚えておいてください。
――では、今回の内容を踏まえて、次回から個別に解説していきます!
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