ティエント(Tiento)【フラメンコ音楽論25】

フラメンコ音楽論では前回、2拍子系形式の基本としてタンゴ形式をやりました。

今回はタンゴをベースにして、独特のタメをつけて歌われるティエントをご紹介いたします。

ティエント形式概要

単数形:Tiento
複数形:
Tientos
主な調性:
ポルメディオ(Aスパニッシュ調)
テンポ(歌):
100BPMから130BPM
テンポ(踊り):70BPMから100BPM

ティエントはタンゴをゆっくり演奏したものですが、リズムのタメかたに特徴があります。

ティエントはタンゴ・デ・カディスのバリエーションとしてカディスで始まった形式で、その後セビージャ周辺に伝わり、エンリケ・エル・メジーソ(Enrique el Mellizo)がレパートリーにして普及させました。

ですので、歌はタンゴ・デ・カディスのメロディーを踏襲しています。

踊りの場合、ティエントは女性が踊る形式とされていますので、この形式の男性の踊りは少ないです。

また、歌でも踊りでもティエントの後歌にはタンゴを付けるのが普通ですが、タンゴ・デ・カディスの他、タンゴ・デ・トリアーナのうちポルメディオで演奏するタイプのものも歌われます。

なお、スペインの古典オルガン音楽にも「ティエント」と呼ばれるものがありますが、フラメンコのティエントとの関連性はありません。

ティエントのコンパス

ティエントのコンパスはタンゴをゆっくり演奏したもので、8拍で1コンパスです。

テンポはタンゴの半速くらいから、タンゴを少しゆっくりやったくらいまで幅があります。

傾向としては踊りが入るとゆっくり、カンテのみの場合は速めになることが多いです。

具体的には、踊り伴奏が70BPMから100BPM、歌伴奏が100BPMから130BPMくらいです。

タンゴと同様、コンパスの締め括りは7拍目です。

フレーズやコードの変わり目は1拍目と5拍目が多く、これは4拍子の頭拍なので非常に分かりやすいです。

タンゴは2,4,6,8拍目(いわゆるバックビート)にアクセントがありますが、ティエントはわりと均等です。

ティエントの独特のタメ

最初に書いた通り、ティエントのコンパス最大の特徴はリズムのタメです。

2拍の間に8分音符が本来なら4つ入るところを3つにして、最後の3つ目の音を後ろに詰めて弾く感じです。

このタメを譜面で書くと、2拍5連符(2分音符を5等分したもの)を2:2:1で演奏します。

最初の2つの音をためて、最後の音が後ろにズレるんですが、このタメかたも結構幅があって、奏者のクセや、その時の気分で変わります。

以下に近い感じの符割りを列挙してみます。タメ具合がわかりやすいように、音の長さ比率を100分率で書きます。2拍で100となります。

  1. 2拍3連(33:33:33)
  2. 8分音符+4分音符+8分音符(25:50:25)
  3. 4分音符1つ+8分音符2つ(50:25:25)北部起源系と同じ弾き方
  4. 符点8分音符2つと8分音符1つ(37.5:37.5:25)
  5. 2拍5連を2:2:1で割ったもの(40:40:20)

5.が正しいとされていますが、4.も結構近い感じです。

4.のリズムは一般の音楽でも使われるので、これをもう少しだけタメて最後の3つ目の音を短くしたもの、と考えると捉えやすいかも知れません。

5.を基本にしつつ、その時その時で他の4つのパターンに接近したりするので、まさにティエントの語源「探る、惑わす」という感じになります。

タンゴ系コンパスの「タメ」

ティエントに限らず、タンゴ系形式全般的に、崩すというか粘るというか、そういうノリを内包していていると思うんですが、この傾向はティエントとタンギージョが最も顕著です。

ちなみにタンギージョはテンポが速いために2拍3連に寄りやすく、このノリが3連系のタンギージョの原形になっています。

ティエントの踊り伴奏について

以上のようにティエントの特徴はタメの効いたクセのあるコンパスなんですが、踊り伴奏になると少し様相が異なります。

踊り伴奏の場合、レトラの部分はティエント本来の雰囲気を尊重してタメて演奏したりするんですが、サパテアード部分は原則として均等なリズムで演奏します。

タメの入ったコンパスでは、コントラティエンポ(裏拍)や3連符とぶつかって合わせづらいためです。

同様にファルセータも踊りの合間に弾くものは均等なリズムのものが多めです。

ただし、イントロ用のものや、あまりリズム的に踊りと絡まないようなものは、タメの効いたコンパスを使うこともあります。

踊り伴奏時の倍テンポのタンゴ

ティエントの踊り伴奏では、倍テンポのタンゴのコンパスもミックスされてきます。

とくにサパテアードをファルセータ的に伴奏する時などはタンゴのシーケンスを入れたりすることが多いです。

ソレアのとき、倍テンポのブレリアをソレアの1コンパスに2つ入れるやりかたを紹介しましたが、それの2拍子版です。

参考記事:ソレアでの倍速どりについて

ソレア(Solea)【フラメンコ音楽論09】
フラメンコ音楽論では、今回から個別形式の解説に入ります。今回は「フラメンコの母」と言われるソレア形式。基本リズムパターンや歌のコード進行などを分析しています。

ファルセータの場合はマルカールやリズム弾きほど「倍速になっているか?」ということが明確でないことが多いので、ギタリストの裁量で伴奏の中にタンゴのフレーズを入れていくのはよくあるシチュエーションです。

「タンゴカウントのファルセータは必ず偶数コンパスで弾く」という事を意識してやればサイズ的には大丈夫ですが、やっている本人がカウントで混乱しないようにしないといけませんよね。

同じフレーズを同じテンポで弾く場合も、カウントは下のように変化します(○が付いた数字がアクセント拍)。

ティエントでカウント
①○②○③○④○⑤○⑥○⑦○⑧○

タンゴでカウント
①②③④⑤⑥⑦⑧①②③④⑤⑥⑦⑧

このような「踊りの曲中の倍速テンポへの切り替え」はティエントだけでなく、タンゴ・デ・マラガ、ガロティン、ファルーカ、タラントなど、ゆっくりテンポの2拍子系形式共通のもので、サパテアードの途中やジャマーダから突然倍速のタンゴに切り替わることがあります。

「ここはタンゴになってるかな?」と思ったら、どちらでやったらいいか踊り手さんに確認したほうがいいですが、踊り手さん本人も分からずにやっている場合があるので、その場合、両方やってみてマッチするほうでやるといいでしょう。

該当部分のコンパス数が偶数なら、結果として拍数は合いますが、倍速タンゴのカウントではコードの回りかたも倍速になるので雰囲気がだいぶ変わるし、終止が入る場合は「ティエントカウントの7拍目」なのか?「タンゴカウントの7拍目」なのか?という問題が発生します。

ティエントのコードワーク

ティエントは基本的にタンゴ・デ・カディスがベースなっているのでキーはポルメディオが主流です。

コードワークもタンゴと共通ですが、ポルメディオの形式はだいたい似たようなコードやフレージングなので互換性が高いです。

形式名でいうと、タンゴ、ティエント、ソレポル、ブレリア、シギリージャなどですが、これらはコンパスが変わるだけで、フレージングやコードボイシングは共通のものが多いです。

ティエントの歌

ティエントの歌のコード進行は、タンゴ・デ・トリアーナ(ポルメディオのもの)、タンゴ・デ・カディスと同様の展開をします。

踊り伴唱でよく歌われるメロディーは「Dmに行く長いタイプ」「Dmに行かない短いタイプ」の2種類です。

以下に具体的なコード進行を書いていきます。

コードネームひとつで4拍=1小節、1小節に複数のコードが入る場合は「/」で区切って記載します。1段で1コンパス、キーはポルメディオです。

Dmにいく長いタイプ

長いタイプの歌は、コンテスタシオン込みで9コンパスです。

B♭ A
B♭ A

コンテスタシオン(無い場合もある)

A7 Dm
Dm/G7 C

エストリビージョ
C7 F
B♭ A
C7 F
B♭ A

これは前回紹介したポルメディオのタンゴ・デ・トリアーナと全く同じコード進行ですね。

ディグリー(度数)表記版

♭Ⅱ Ⅰ
♭Ⅱ Ⅰ

コンテスタシオン(無い場合もある)

Ⅰ7 Ⅳm
Ⅳm/♭Ⅶ7 ♭Ⅲ

エストリビージョ
♭Ⅲ7 ♭Ⅵ
♭Ⅱ Ⅰ
♭Ⅲ7 ♭Ⅵ
♭Ⅱ Ⅰ

Dmに行かない短いタイプ

こちらはコンテスタシオン込みで7コンパスの短いタイプの歌です。

B♭ A

コンテスタシオン(無い場合もある)

B♭ A

エストリビージョ
C7 F
B♭ A
C7 F
B♭ A

ディグリー表記版

♭Ⅱ Ⅰ

コンテスタシオン(無い場合もある)

♭Ⅱ Ⅰ

エストリビージョ
♭Ⅲ7 ♭Ⅵ
♭Ⅱ Ⅰ
♭Ⅲ7 ♭Ⅵ
♭Ⅱ Ⅰ

踊り伴唱では上の2つがほとんどですが、カンテソロでは他のタイプのタンゴをティエント化して歌ったりもします。

マリアーナス

ティエントの関連形式として、マリアーナスを紹介しておきます。

単数形:Mariana
複数形:Marianas

コンパスはティエントに準じます。

マリアーナは、現在では歌われることも少なくなったマイナー形式ですが、ティエントと同様の伴奏を付けて、ティエントのバリエーションのような形で歌われることが多い形式です。

マリアーナスの起源は民謡系なので、ティエントとは根本的に異なるのですが、カンテ風の歌唱法+ティエント風のギター伴奏で演奏すると、ティエントのバリエーションと言われても違和感はありません。

フラメンコ音楽論 前回

2拍子系形式の分類とタンゴ(Tango)【フラメンコ音楽論24】
フラメンコ音楽論では、今回から2拍子系形式の解説に入ります。今回は2拍子系形式全体の概要と、その根幹形式であるタンゴの解説をします。

フラメンコ音楽論 次回

タンゴ・デ・マラガ(Tango de Malaga)【フラメンコ音楽論26】
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