現役世代のギタリスト【フラメンコ音楽論34】

今、フラメンコ音楽論では「フラメンコ音楽現代史」というテーマで執筆中です。

前回までで1980年あたりを境にフラメンコ音楽が変化していったことを書いてきましたが、これ以降に登場するアーティストによってフラメンコの変化・発展はさらに推し進められます。

いわゆる「フラメンコ・モデルノ」と言われる新しい表現が浸透し、「フラメンコ・フュージョン」「フラメンコ・ロック」「フラメンコ・ポップ」などのフラメンコと他のジャンルが融合したジャンルも出現してきます。

今回から、現役で活躍する第4世代アーティスト(今50歳代から下の世代)を紹介していきたいですが、前回の第3世代アーティストの紹介が6人のみと、十分ではなかったように思います。

ですので、1980年代以降に活躍したアーティストということで、第3世代に属するアーティストも含めて紹介していこうと思います。

今回はギタリスト編です。

フラメンコギタリストも色んな人がいて「伴奏しかやらない」「録音はしたことがない」という人の中にも名手が多いのがフラメンコの面白いところでもありますが、ここでは、音源が入手しやすい比較的「音楽寄り」の活動をしているギタリストを中心に紹介します。

トマティート(Tomatito)

トマティートはそのキャリアの初期では、パコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)のセカンドギタリストとしてカマロン(Camaron)の伴奏をしていました。

10代の頃からカマロンに気に入られ、1977年頃からカマロンの死まで伴奏者として寄り添いました。

トマティートは世代的にも実績的にも第3世代と第4世代の架け橋的な役割を担った人と思います。

トマティートの持ち味は、ヒターノらしい抜群のコンパス感です。

彼は1987年に1stアルバム『Rosas del Amor』を出していますが、そのギタープレイはすでに円熟・完成の域に達していて、若手ギタリスト筆頭と呼ぶに相応しいものでした。

ビセンテ・アミーゴ(Vicente Amigo)

ビセンテ・アミーゴは1991年に『De Mi Corazon al Aire』でソロデビューして以来、ポスト・パコ・デ・ルシアとしてスターダムに上り詰めた人です。マノロ・サンルーカル(Manolo Sanlucar)に師事していました。

ビセンテはソロでの活動が中心ですが、初期はエル・ペレ(El Pele)などの歌の伴奏をしていました。

自分が彼のプレイをはじめて聴いたのは、カマロンのアルバム『Soy Gitano』(1989年)でした。

エル・ペレの1986年のアルバム(タンゴから始まるやつ。ビセンテの事実上のデビュー盤?)でも初期のプレイが聴けます。

ビセンテは奏法とフレージングが非常に特徴的です。

奏法的には右手のアポヤンド比率が高く、左手はストレッチを使った修飾音を多用します。

フレージングの音の選び方も特徴がありますが、使用するコードフォームも特徴的です。

わざわざ難しい押さえかたをしてまで半音ぶつかりや異弦同音を作りにいくものが多く、コードボイシングとギターでの響かせかたに尋常でない拘りを感じられます。

そういった個性的な奏法から繰り出される音楽は無二のものです。

モライート・チコ(Moraito Chico)

モライート・チコは1956年生まれのヘレスのヒターノで、世代的には3.5世代ですが、やや遅咲きで、最も活躍したのは1990年代です。そして残念ながら2011年に鬼籍に入ってしまいました。

1992年に1stソロアルバムを出していますが、1990年代を中心に歌い手のCD録音やライブに引っ張り凧だった人です。

彼のギタープレイは独特で、ヘレスのエッセンスは当然あるんですが、モライート独自の要素が強いと思います。

リズムのノリかたと音の出し方が特色があるので、聴くとすぐに分かります。

  • リズムのノリかた
    一般的なモデルノ系ギタリストより表リズムが多い。一風変わった場所でリズムをずらして弾くのが上手い。そしてそれを何回かリピートしたりする
  • 音の出しかた
    スタッカート気味の太い音

この独自スタイルは息子のディエゴにもしっかりと引き継がれています。

ディエゴ・デル・モラオ(Diego del Marao)

モライート・チコを紹介したので、続けて息子のディエゴも紹介いたします。

ディエゴ・デル・モラオは2000年代は「若手二大ギタリスト」としてニーニョ・ホセレと人気を二分していました。

モライート・チコと同じファルセータも弾いたりするんですが、やはり感覚が一回り若いですよね。

若い世代らしく、フラメンコ以外のコンテンポラリー・ミュージックの素養もあり、それが父から受け継いだものとミックスされたものがディエゴの持ち味です。

ディエゴに習った友人によると、父のファルセータではなくビセンテ・アミーゴのファルセータを嬉々として弾いていたらしいですが(笑)

ニーニョ・ホセレ(Niño Josele)

ニーニョ・ホセレはトマティートの甥で、若手の中でもフュージョン、コンテンポラリー色が強いギタリストです。

マルチ楽器奏者・音楽プロデューサーのハビエル・リモン(Javier Limon)と組んで制作活動を行ったのを皮切りに、どんどんキューバ音楽やジャズ・フュージョン系の表現に傾いていきました。

こういう方向性は、フラメンコギタリストとしては賛否両論なのかもしれませんが、本人はそんなの関係なく、やりたいことをやっている、ということなんでしょう。素晴らしいと思います。

伝統を守っていれば批判は少ないと思いますが、フロンティア的に広げていくオピニオンリーダーは絶対に必要と思いますから。

ニーニョ・ホセレの才能は音源作品で最大に発揮されます。

これは盟友であるディエゴ・エル・シガーラ(Diego el Cigala)も同様ですが、自己プロデュース力、制作力、作品を仕上げるバランス感覚が優れているということで、現代のアーティストには最も重要な才能の一つだと思います。

ラファエル・リケーニ(Rafael Riqueni)

ラファエル・リケーニは、1961年生まれのセビージャ出身のギタリストです。

ニーニョ・リカルド(Niño Ricardo)やパコ・デ・ルシアに影響を受け、マノロ・サンルーカルに師事。1986年にデビューアルバムを発表しています。

リケーニはソロ志向のギタリストで、CD作品で独自の世界を展開しています。

その演奏スタイルは1990年代はビセンテ・アミーゴと対比されて「コンパスのビセンテ・アミーゴ、和音のラファエル・リケーニ」と言われていたほど、コードワークや作曲技法が凝っています。

リケーニは1997年頃から活動を休止していましたが、近年復帰したようです。

ヘラルド・ヌニェス(Gerardo Nuñez)

ソロギター活動を中心にした超絶技巧系のギタリストで、CD作品を多数リリースしています。

伴奏はあまり積極的にやりませんが、奥様が踊り手のカルメン・コルテス(Carmen Cortes)だし、昔は名だたる歌い手・踊り手の伴奏でならしていて、カンテのCDでの伴奏録音も多数やっているので、伴奏も相当得意なのは間違いありません。

ちなみにヘラルドはヘレス出身ですが、一般的にイメージされるようなヘレスっぽさは希薄です。

音の出し方が非常に丁寧で、粒の揃った整ったタッチで端正な演奏をするスタイルです。

アビチュエラ系のギタリスト

グラナダのヒターノの名門、アビチュエラ=カルモナ一家は多くの優れたギタリストを輩出しています。

第3世代だとファン・アビチュエラ(Juan Habichuela)とペペ・アビチュエラ(Pepe Habichuela)の兄弟が有名ですが、第4世代にはケタマ(KETAMA)のファン&アントニオのカルモナ兄弟、ホセミことホセ・ミゲル・カルモナ(Josemi Carmona)、歌い手のペペ・ルイス・カルモナ(Pepe Luis Carmona)などがいます。

アビチュエラ=カルモナ一家にかぎらず、ヒターノの一族は親戚同士で婚姻を繰り返すので、家系が複雑に入り組んでいて、しかも近縁者と同じ名前を名乗ったりするので、誰が誰だかよく分からないですよね。

なお、第1世代のカディス出身の有名ギタリストでファン・ガンドゥージャ・アビチュエラ(Juan Gandulla Habichuela)という親指奏法の名手がいますが、グラナダのアビチュエラ一家とは血縁は無いみたいですね。

バルセロナ勢

第4世代で特徴的なのは、バルセロナ出身のアーティストの活躍がめざましいことです。

バルセロナのアーティストは総じて、繊細で整ったフラメンコを演奏するイメージです。

ギターだと、カニサーレス(Juan Manuel Cañizares)、チクエロ(Chicuelo)、ホセ・ルイス・モントン(Jose Luis Monton)が有名です。

ちなみにバルセロナ出身の歌手はモンセ・コルテス(Monse Cortes)、ミゲル・ポベーダ(Miguel Poveda)、マイテ・マルティン(Mayte Martin)などがいます。

カニサーレス(Juan Manuel Cañizares)

ファン・マヌエル・カニサーレスは、正確にはバルセロナ近郊のサバデルの出身で、パコ・デ・ルシアの2ndギタリストとして頭角をあらわした人で、パコも驚くほどの技巧の持ち主です。

1990年代は歌のCDを買うと高確率でカニサーレスが伴奏していたんですが、特徴ある変態的なコードワークとフレージングで凄くインパクトがあって、すぐに彼の演奏だと分かりました。

業界では有名な話ですが、ちょうど自分が出入りしていた頃(1993年から1997年頃)、学生フラメンコで活動していた小倉真理子さんと結婚されています。

最初この話をきいたときは仰天しましたが、あれから20年くらい経過した現在もお二人は仲が良さそうですね!

チクエロ(Chicuelo)

チクエロは1968年生まれで、1990年代から活躍している超売れっ子のギタリストです。本名はファン・ゴメス(Juan Gomez)。

マノロ・サンルーカルに師事しています。マノロ・サンルーカル、本当に大先生ですね。

彼はギタープレイもさることながら、そのプロデュース能力、作曲能力が素晴らしく、とくにカンテのCD録音には欠かせない人材となっています。

自分がチクエロを初めて見たのは、1994年だったと思いますが、新宿エル・フラメンコ(現ガルロチ)に踊りの伴奏で来ていた時で、そのプレイに度肝を抜かれた記憶があります。

チクエロはまだモデルノ系フラメンコギターの情報が少なかった時代に詳細な教則ビデオを出したりしていて、その教則ビデオは自分もかなりお世話になりました。

ホセ・ルイス・モントン(Jose Luis Monton)

ホセ・ルイス・モントンは1962年バルセロナ生まれのギタリスト・作曲家です。

彼も傾向としてはチクエロと似ていて、プロデュース・作曲能力に秀でたギタリストですが、チクエロよりソロ志向が強く、フラメンコベースのインストゥルメンタル音楽を中心にやっている印象です。

現在までに10枚以上のアルバム作品を発表していますが、やはり彼の持ち味は曲作りで、メロディーとコードワークのセンスが素晴らしいです。

若手世代のギタリスト

今まで紹介してきたギタリストは現役世代の中ではベテランから中堅が中心ですが、次に若手世代のギタリストをご紹介いたします。

アントニオ・レイ(Antonio Rey Navas)

アントニオ・レイは1981年マドリード生まれのギタリストで、若手の旗手として注目されています。

一時スペイン国内のギターコンクールを総なめにした完璧な技巧と端正な音楽性を持っています。

現在はソロを中心に活動中ですが、以前は歌や踊りの伴奏をかなりやっていて、名だたるアーティストと共演しています。

ダニ・デ・モロン(Dani de Moron)

ダニ・デ・モロンは1981年生まれのギタリストで、ずっと地元のモロン・デ・ラ・フロンテラで活動していた隠れた名手でした。

それでも、その演奏は徐々に話題となり、パコ・デ・ルシアのセカンドツアーギタリストに誘われたりしていたようです。

そして2012年にソロCDを出したあたりから急激に名声が高まって、いろんな所で名前を目にするようになりました。

そのギタープレイは、伝統的な感性とフレージングをベースに、彼しかやらないような独特の両手の技巧(凄く細かいハンマリング・プリングとか、ラスゲアードも独特のものがある)を強靭なコンパス感で紡いでいくスタイルです。

コードボイシングとか転調とか、そういう理論的構成ではなく、もっと直感的に弾いている感じがします。

アントニオ・レイと対極のスタイルですが、どちらも素晴らしいですよね。

ダニエル・カサーレス(Daniel Casares)

ダニエル・カサーレスは1980年マラガ生まれで、映画音楽の作曲なども手掛けています。

フラメンコギタリストとしては1999年のソロデビュー以降、精力的に音源作品を発表しています。

ダニエル・カサーレスの演奏スタイルはパコ・デ・ルシアやヘラルド・ヌニェスの流れを汲む「正統派ソリスタ」だと思います。

若い世代らしくコンテンポラリーな音楽も取り込んでいますが、今の世代のフラメンコギターとしては、どちらかというと明快でわかりやすいものです。

ペペ・フェルナンデス(Pepe Fernandez)

スペイン系のフランス人(スウェーデン人という説も)のギタリストですが、コンパス感とコードワークが凄く良いので、今一番注目している若手ギタリストの一人です。

自分も最近になってYouTubeでそのギタープレイを知りましたが、なんと言うか、フラメンコ音楽の進化と可能性を感じる演奏をします。

――次回は、現役世代の歌い手の紹介をします!

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