タンギージョ(Tanguillo)【フラメンコ音楽論27】

フラメンコ音楽論では、ここ数回に渡ってタンゴ系形式を解説してきましたが、今回はタンゴ系の中でも異色のコンパスを持つタンギージョを解説します。

タンギージョ形式概要

単数形:Tanguillo
複数形:
Tanguillos
主な調性:
ポルメディオ(Aスパニッシュ調)、Aメジャーキー、Aマイナーキー
テンポ:
220BPMから300BPMくらい

タンギージョは形式名から分かる通り、タンゴの派生形式で、タンゴと同じくカディスが発祥の地と言われています。

タンギージョのベースとなるタンゴ形式については、こちらの記事をご覧下さい。

タンギージョの特徴は、その特異なコンパスでしょう。

伝統的なタンギージョのコンパスはタンゴを早回ししたようなものですが、もう一つ、1980年代頃から盛んに演奏されはじめた3連符を基本にしたモダンスタイルのものがあります。

モダンスタイルのタンギージョは、カマロン(Camaron de la Isla)の1983年のアルバム『Calle Real』の1曲目「Romance de la luna」が象徴的ですが、伝統的なタンゴベースのコンパスとは全く別物に聴こえるのではないでしょうか。

さらには、伝統的スタイルとモダンスタイルがミックスされたような中間的なものも存在するので、なかなか一筋縄でいかない形式なのです。

タンギージョの調性

タンギージョはタンゴからの派生なので、本来はミの旋法が主体となる形式ですが、日本でも踊りの入門形式としてよく演奏される伝統的なタンギージョに、タンギージョ・デ・カディスというのがあって、これはAマイナー(あるいはポルアリーバ)とAメジャーの複合調で演奏されます。

日本ではタンギージョといえば、ノーマルなタンゴベースのものではなく、このメジャー・マイナー複合調のタンギージョ・デ・カディスというイメージが強いかもしれませんね。

一方「ミの旋法」の歌をタンギージョで演奏する場合は、ポルメディオ(Aスパニッシュ調)を使うのが一般的です。

カポタストの位置は、タンギージョ・デ・カディスの場合も、ポルメディオの場合も同じくらいで、女性4歌手ならカポ(実音はC♯メジャーキー、C♯マイナーキー、C♯スパニッシュ調)、男性歌手ならカポ無し(Aメジャーキー、Aマイナーキー、Aスパニッシュ調)あたりの高さになります。

タンギージョのコンパス

タンギージョのコンパスについて、まずはタンギージョ・デ・カディス含む伝統的スタイルから解説しましょう。

伝統的なタンギージョは、基本的にはタンゴを早回ししたコンパスですが、テンポは非常に速く、220BPMから300BPMくらいになります。

タンギージョのコンパスカウント

タンギージョのコンパスは、タンゴと同様に8拍で1コンパス、4拍がメディオコンパスで、4拍目・8拍目にアクセントが来るのが特徴です。

1 2 3 ④ 5 6 7 ⑧
※○が付いた数字がアクセント拍

4拍目・8拍目ほど強くありませんが、2拍目・6拍目にもアクセントが付くこともあり、その場合は完全にタンゴの早回しという感じになります。

1 ② 3 ④ 5 ⑥ 7 ⑧

タンゴとの最大の違いはジャマーダの終止拍です。

他のタンゴ系は、通常7拍目で終止しますが、タンギージョの場合は、タンゴと同じ7拍目で終止する場合もありますが、それ以上に5拍目(メディオコンパスの頭)で止まるパターンが多いのです。

ちなみに、タンギージョ・デ・カディスのジャマーダは2コンパスのパターンで以下のように弾きます。1小節4拍、1段1コンパスです。

|D|A|
|E7|A(5拍目で終止)|

伝統的なタンギージョのリズムパターン

タンギージョ・デ・カディスをはじめとした伝統的なタンギージョのリズムパターンは、タラントやガロティンなどの北部起源系のコンパスのような「4分音符1つ+8分音符2つ」という音型を速いテンポで演奏したリズムがベースとなり、4拍目にアクセントが付きます。譜面に書くと以下の通り。

タンギージョ1

タンギージョの譜面表記について

ここで、タンギージョの譜面表記について触れておきましょう。

タンギージョはテンポが非常に速いので、譜面に書く場合、本来のテンポの半速で記載(音符の細かさは倍になる)したほうが譜面がスッキリする、という事情があって半速での記載が主流になっています。

このへんもタンギージョのコンパスを分かりにくくしているポイントでしょうか。

例えば240BPMのタンギージョなら、4分音符1つ+8分音符2つという音型(上に挙げたもの)が、半速記載(テンポは半分の120BPM)の譜面では8分音符1つ+16分音符2つになります。譜面にすると下の通り。

タンギージョ2

以降の解説では、半速の譜面表記を前提にお話しますので、その点を留意しておいて下さい。

3連符への変化

ティエントを解説したときに「粘るリズム」をやりましたが、タンギージョもリズムを粘らせて演奏することが多いです。タンゴを基準にした譜面すると以下の通り。

4分音符1つ+8分音符2つ→2拍3連符に接近タンギージョ3

同じ音型を半速で記譜すると下のようになります。

8分音符1つ+16分音符2つ→3連符に接近タンギージョ4

そして、曲全体を粘った音型(3連符)で演奏することもあれば、部分的に粘ったり正テンポ(8分音符+16分音符2つ)になったりする場合もあり、粘り具合も正テンポと3連符の中間的な微妙な音型になったりと、アバウトな所もあって、カッチリしたリズムに慣れていると逆に掴みづらいのではないでしょうか。

そこで、この粘ったリズムをキッチリした3連符に固定して新しいノリを追及したものとして、以下に解説するモダンスタイルのタンギージョが誕生したものと思われます。

モダンスタイルのタンギージョ

モダンスタイルのタンギージョに関して、発生学的には上記の通り「3連符で出来た2拍子」なのですが、曲の全部を2拍3連符・3連符ベースで演奏されるモダンスタイルのタンギージョは、普通に聴くと6/8拍子、もしくは3拍子系に聴こえるのではないでしょうか。

タンギージョ5
これらは、同じ音型を違う記譜方法で書いたものです。

タンギージョ6
このように3/4拍子で感じるとソレア・ポル・ブレリアとかアレグリアスみたいに聴こえますが、このリズムは3連符の2拍子、もしくは6/8拍子で捉えたほうが本来の2拍子系のサイクルを実感しやすいでしょう。

以下に、タンギージョの基本コンパスを一般的に良く使われる記譜法で書いてみますが、モダンスタイルのタンギージョの場合は「3連符の4拍子」と6/8拍子の2通りの記譜法があることを知っておいてください。

譜面の下にタンゴを基準としたカウントを書きますが、偶数カウントは3連符の間に入ってしまうため書いていません。●はアクセント拍です。

3連符の4拍子

タンギージョ7|1 ○ ○|3 ● ○|5 ○ ○|7 ● ○|

4/4拍子の場合は1小節で1コンパス、タンゴの8拍相当です。

2/4拍子で書いても構いませんが、その場合は1小節で半コンパス(タンゴの4拍相当)になります。

タンギージョを3連符でとらえる場合は、普通は半速表記の記譜を使います。本来のテンポで書くなら、2拍3連符になりますが、それだと譜面が読みずらくなるためです。

6/8拍子

タンギージョ8|1 ○ ◯|3 ● ◯|5 ○ ◯|7 ● ◯|

6/8拍子の場合は1小節で半コンパス(タンゴの8拍相当)、2小節で1コンパス(タンゴの8拍相当)になります。

譜面で理解しようとすると逆に難しいかもしれませんが、上記の2つは同じリズムを記譜法を変えて書いているにすぎません。

タンギージョのコードワーク

タンギージョのコードワークはタンゴに準じますが、メジャーキー・マイナーキー・ミの旋法と3つの可能性があることに注意してください。

マルカールの弾きかたも以下の3パターンがあります。2小節で1コンパス。良く演奏されるA音をルートにしたキーで書きますが、他のキーでも演奏されます。

Aメジャーキー(タンギージョ・デ・カディスの主調)
|E7|A|

Aマイナーキー(タンゴ・デ・マラガ等と同様)
|E7|Am|

ポルメディオ(一般的なタンゴと同様)
|B♭|A|

タンギージョの歌のコード進行

タンギージョの歌のコード進行ですが、ポルメディオの歌ならタンゴ・デ・カディスなどがベースになるし、メジャーキー/マイナーキーの歌ならタンゴ・デ・トリアーナやタンゴ・デ・マラガに似た展開をします。

ですが、テンポが倍くらい違うので、コード回りは倍のサイズとなる事が多く、タンゴの1コンパスのフレーズをタンギージョでは2コンパスかけて歌うような感じになる事に注意して下さい。

ここではコード進行が決まっていて踊りの伴奏でも演奏の機会が多い、伝統的なタンギージョ・デ・カディスのコード進行をご紹介します。書式は以下の通り。

  • 4拍子(1小節4拍)で記載
  • 1行で2コンパス(16拍)
  • 複数の可能性があるコードは「,」で区切って記載
  • キーはAマイナーで記載
  • 半コンパ(4拍)単位でサイズが変わる事がある

Aメロ(Aマイナー)
|Am|Am|G|F|
|E7|E7|E7|E7,F|
|E7|E7|E7|E7|
|A|A|

Bメロ(Aメジャー)
|A|A|E7|E7|
|E7|E7|A|A|
|A|A7|D|D|
|A|A|E7|E7|

Cメロ(Aマイナー)
|Dm|Dm|Am|Am|
|G|F|E7|E7|
|Dm|Dm|Am|Am|
|G|F|E7|E7|

Dメロ(Aメジャー)
|A|A|A|E7|
|E7|E7|E7|A|
|A|A|A7|D|

エストリビージョ
|D|A|E7|A|
|D|A|E7|A|
|D|A|E7|A|

ディグリー(度数)表記版

Aメロ(Aマイナー)
|Ⅰm|Ⅰm|♭Ⅶ|♭Ⅵ|
|Ⅴ7|Ⅴ7|Ⅴ7|Ⅴ7,♭Ⅵ|
|Ⅴ7|Ⅴ7|Ⅴ7|Ⅴ7|
|Ⅰ|Ⅰ|

Bメロ(Aメジャー)
|Ⅰ|Ⅰ|Ⅴ7|Ⅴ7|
|Ⅴ7|Ⅴ7|Ⅰ|Ⅰ|
|Ⅰ|Ⅰ7|Ⅳ|Ⅳ|
|Ⅰ|Ⅰ|Ⅴ7|Ⅴ7|

Cメロ(Aマイナー)
|Ⅳm|Ⅳm|Ⅰm|Ⅰm|
|♭Ⅶ|♭Ⅵ|Ⅴ7|Ⅴ7|
|Ⅳm|Ⅳm|Ⅰm|Ⅰm|
|♭Ⅶ|♭Ⅵ|Ⅴ7|Ⅴ7|

Dメロ(Aメジャー)
|Ⅰ|Ⅰ|Ⅰ|Ⅴ7|
|Ⅴ7|Ⅴ7|Ⅴ7|Ⅰ|
|Ⅰ|Ⅰ|Ⅰ7|Ⅳ|

エストリビージョ
|Ⅳ|Ⅰ|Ⅴ7|Ⅰ|
|Ⅳ|Ⅰ|Ⅴ7|Ⅰ|
|Ⅳ|Ⅰ|Ⅴ7|Ⅰ|

サパテアード形式について

最後に、タンギージョと類似したコンパスを持つ形式として、サパテアード(Zapateado)をご紹介しておきます。

サパテアードは、同名のカディスの民族舞踊がフラメンコ化したものですが、元ネタとなった民族舞踊が6/8拍子のリズムを持っており、モダンスタイルのタンギージョは民族舞踊サパテアードからの影響があって、ああいうリズムになっていった、という可能性が高いのです。

形式名のサパテアードは、踊りの足音の事を意味していますが、フラメンコ形式としては主にギターソロで演奏される形式であり、「踊りの足音、もしくは元ネタの民族舞踊そのもののイメージをギターで表現する」というニュアンスかと。

サパテアードのギターソロは、アルペジオや音階を駆使して均等なリズムで切れ目なく弾いていくのが特徴です。

コンパスの構造的にはタンギージョとほぼ同様で、音型は「8分音符1つ+16分音符2つ」または「3連符」の両方が使用されますが、アクセントについては、タンギージョほど強弱感が無いように思います。

――次回からは、タンゴ系以外の2拍子系形式をとりあげていきます。

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