シギリージャ系サイクル【フラメンコ音楽論42】

フラメンコ音楽論では、フラメンコのコンパスを直感的に把握する方法として「コンパス=サイクル理論」を展開していますが、これまでに「4サイクル」と「6サイクル」について解説しました。

4サイクルと6サイクルが身につけば、ほぼ全てのコンパスに対応可能なのですが、一つだけ例外があります。

それが、今回扱うシギリージャ系のコンパスです。

シギリージャ系形式には、多くの古い歌のレパートリーがありますが、シギリージャ系のカンテ伴奏はテンポを揺らして演奏することが多く、シビアなBPMキープが求められるのは主に踊り伴奏です。

シギリージャ系のコンパスは6サイクルでもとれないことはないのですが、フレーズとのシンクロ感がイマイチな場合が多いので、これだけは別枠で考えています。

シギリージャ系コンパスの特徴

シギリージャ系の形式には、シギリージャ、マルティネーテ、カバーレス、リビアーナ、セラーナなどがあり、原初のカンテであるトナやデブラも内在的にシギリージャのコンパスを持っています。

そして、シギリージャ系形式のコンパスサイクルは「2.2.3.3.2」という変則的なものです。

詳しくはシギリージャ形式の解説記事をご覧ください。

こちらの形式解説の中でも触れていますが、実際にシギリージャ系形式を演奏する上でポイントになりそうなことをもう少し詳しく解説しておきます。

シギリージャのフレーズの解決拍

シギリージャのフレージングの特徴として、フレーズの解決拍が変則5拍子で数えたときの4拍目に来る、ということが挙げられます。

●○●◯●◯◯●◯◯●○
1・2・3・・4・・5・

この変則5拍子のカウントでいうと「4」のところですね。

ですが、ジャマーダなどでの締めくくりの拍は、変則5拍子でいう5拍目なので、フレーズ解決→締めくくり、と2段階になってるのがミソです。

最初の「2.2.」を出さないフレージング

シギリージャ系の形式には、変則5拍子でいう1拍目、2拍目を音を出さずに、3拍目から入るフレージングがあります。

2.2.3.3.2の、最初の「2.2.」を出さない、ということです。

そのままコンパスを回し続けると3.3.2.2.2型みたいに聴こえますが、フレーズの解決拍が3.3.2.2.2型の5拍子カウントで言うところの2拍目(シギリージャカウントだと4拍目)になることで、シギリージャの感覚をキープします。

シギリージャ系コンパスに使うサイクルパターン

シギリージャ系のサイクルは、1コンパスを12拍として、シギリージャのコンパスの持つアクセントを、そのままサイクルパターンとして使います。

●は足を踏む拍、◯は足は踏まずに頭の中で感じるだけの拍です。

● ◯ ● ◯ ● ◯ ◯ ● ◯ ◯ ● ◯
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

これをシギリージャサイクルと呼ぶことにします。

シギリージャサイクルで難しいのは、2拍の長さと3拍の長さを正確にとれないとBPMが崩れやすいことです。

6サイクルの複合型でも同じことが言えますが、2拍の長さと3拍の長さを正確にするというのは、フラメンコを演奏する上ではかなり重要なポイントです。

BPM重視のとりかた

シギリージャ系でBPMのキープを重視する場合、全拍ベタ踏みでとります。

全拍ベタのシギリージャサイクル
●●●●●●●●●●●●

こうなりますが、頭の中で2.2.3.3.2のアクセントを感じながら足で全拍踏むことになります。

これなら常に2拍の長さと3拍の長さを正確にとることが出来ますが、共演者等にアクセントの位置が伝えずらくなります。

シギリージャ系への6サイクル適用

上のほうでシギリージャ系を6サイクルでとる場合もあると言いましたが、6サイクルでとる場合は全拍ベタのシギリージャサイクルと同様に、BPM重視のとりかたになります。

BPMキープを優先したいけれど、全拍ベタ踏みがしんどいテンポの場合に、強拍スタート2拍×3パターンの6サイクルを適用します。

2拍×3の6サイクル2回でシギリージャの1コンパスになりますが、並べて比較してみると下のようになります。

●◯●◯●◯/●◯●◯●◯(6サイクル×2)
●◯●◯●◯/◯●◯◯●◯(シギリージャのコンパス)

シギリージャで重要になる解決拍(変則5拍子の4拍目、シギリージャサイクルで言うと8拍目)が、6サイクルでとると2サイクル目の2拍目という、とりずらい位置にきて、フレーズによってサイクルが分断される感じになります。

このとりかたは、速いテンポでもBPMを安定させやすいですが、フレージング的には少しとりにくくなるため慣れが必要です。

また、このサイクルのとりかたで即興をすると、どうしてもブレリアに寄っていってしまう傾向があります。

――シギリージャ系の形式で使うサイクルパターンは以上です。

以下、テンポごとにシギリージャサイクルの運用を解説していきますが、シギリージャ系はテンポが変わっても構造的にそんなに変化しないのが特徴です。

スローテンポのシギリージャ系

テンポ:90BPMから130BPMくらい
サイクルパターン:全拍ベタのシギリージャサイクル、シギリージャサイクル
適合する形式:シギリージャの踊り歌(遅め)

シギリージャ系のコンパスは1コンパス=12拍でとった場合、100BPM程度でも凄くゆっくりなので、このテンポより遅くなることはほとんど無いです。

ですので、超スローテンポは割愛しました。

このテンポなら、全拍ベタ踏みのほうが安定しますが、アクセントをハッキリさせたいなら、シギリージャサイクルを使います。

ミドルテンポのシギリージャ系

テンポ:130BPMから180BPMくらい
サイクルパターン:シギリージャサイクル、全拍ベタのシギリージャサイクル
適合する形式:シギリージャのカンテソロ、シギリージャの踊り歌(速め)、マルティネーテなど

カンテソロや速めの踊りのレトラ、エスコビージャなどで良く出てくるシギリージャの中心的なテンポ帯です。

足でサイクルをとるならシギリージャサイクルが基本ですが、BPMをシビアにキープしたいときは全拍ベタ踏みを併用します。

ハイテンポのシギリージャ系

テンポ:190BPMから250BPMくらい
サイクルパターン:シギリージャサイクル、2拍×3の6サイクル
適合する形式:シギリージャのエスコビージャなど

シギリージャ系形式化では、主に踊りのエスコビージャで出てくるテンポです。

使用するサイクルは、基本的にはシギリージャサイクルですが、場合によって2拍×3の6サイクルでとるのもありです。

超ハイテンポのシギリージャ系

テンポ:250BPM以上
サイクルパターン:シギリージャサイクル、2拍×3の6サイクル
適合する形式:シギリージャのマチョなど

250BPM以上のテンポで、エスコビージャのスビーダ部分やマチョの部分がこのテンポになることがあります。

使用サイクルはシギリージャサイクルが基本ですが、2拍×3の6サイクルも使います。

他の形式も踊りのマチョはテンポが上がるものですが、とくにシギリージャのマチョは超ハイテンポの領域までテンポが上がる頻度が高いです。

他の音楽ジャンルでこのテンポで演奏することはほとんど無いと思うので、最初は頭と体がついてこないと思いますが、例えばギターなら150BPMで16分音符のカッティングが出来れば物理的には300BPMで8分音符の刻みができるはずなので、あとはコンパスサイクルを意識できればできるはずです。

コンパス=サイクル理論まとめ

これまでコンパス=サイクル理論の実践方法として、4サイクル、6サイクル、シギリージャサイクルでのフラメンコのコンパスのとりかたを解説してきましたが、これはフラメンコのリズムをマスターするための一つの提案として自分の考え方を言語化してみたものであって、「こうしなければならない」というものではありません。

そして、コンパスの構造を理解してコンパスから外れないように演奏できるようになったとして、そこがスタートラインなんだと思います。

フラメンコのリズムのニュアンスは独特なので、そこから先が本当に難しいのですが、次回はそういうフラメンコのリズム特性を掘り下げてみたいと思います。

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