前回、フラメンコのリズム形式の概要をやりました。
今回から個別形式解説に入る予定でしたが、少し下書きをしたところ、一つの記事が膨大な量になってしまい、予定を変更することにしました。
今回はフラメンコギターの特殊なコードの話です
前々回までコードやスケールの話をしていましたが、形式別解説記事の下書きの結果、コード関係の話が各形式解説の3割ほどを占めています。
しかも同じ調の形式では話が被ったりしているので、まずコード関係の話を調性ごとにまとめてやっておこうと思います。
今回はフラメンコギターのコードボイシング(和音の構成)の話が中心になりますが、前々回までにやったことを踏まえつつ、フラメンコ的なコードボイシングについて解説しようと思います。
フラメンコ独特の特殊コードは、ポルアリーバ、ポルメディオ、ポルタラントといった『ミの旋法』系の調性に集中しています。
メジャーキー、マイナーキーでは特殊コードの使用は比較的少ないですが、例えばCメジャー・Aマイナーの形式の中で平行調ポルアリーバの特殊コードが登場してくる場合はあります。
以下にフラメンコギターでよく使われる特徴的なコードボイシングの例を列挙していきます。
ここでは、add9コード、sus4コード、一般的なテンションコードなど、一般音楽でも多用されるものは省きます。
半音ぶつかり・異弦同音系のボイシング
『ミの旋法』 のをやったときに、半音ぶつかり系のフラメンコ音楽独特のテンションノート使いがあることに触れました。
フラメンコギターでは、使用可能であれば積極的にストレッチフォームや開放弦利用をして半音ぶつかりや異弦同音を作りにいきます。
ギターの特性をいかした微妙な響きになります。
そしてそれはフラメンコ音楽の一つの重要な個性となっています。
ポルアリーバの半音ぶつかり・異弦同音コード
E7(♭9)~半音ぶつかりを得るためにわざわざハイポジションやストレッチコードフォームと開放弦を使い、異弦同音も絡めたりします。
FM7~開放弦を絡めて2弦6フレットFと1弦開放Eの半音ぶつかり。
F(♯11)~解放弦を使って♯11とP5のぶつかりを作ります。
F(♯9,♯11)またはFm系コード~上のコードのG♯音入りのもの。
♭Ⅱコード上でⅠスパニッシュスケールのM3音(この場合G♯音)が鳴ると、♭Ⅱ7(♯9)もしくは♭Ⅱm7,♭ⅡmM7といったコードが考えられ、F7系ではなくFm系コードととらえることもできます。
これに関しては後で少し補足します。
CM7(onE)~Em系コードの変化っぽいんですがm6、♭13を含みます。
この音はマイナーコードではコードトーンにもテンションにもならない音なので、転回形のコードとしてとらえたほうがいいと思います。
そう考えるとコードネームはCM7(onE)になります。
こういう六度絡みの半音ぶつかりコードがモデルノ系では常用されますが、大抵ベース音はルートではないです。
FM7(onA)~ストレッチによる半音ぶつかりコードです。
感覚的にAmのバリエーションとして演奏されてると思いますが、F音が含まれていて、Aからみるとm6、♭13にあたります。
上のCM7(onE)と同様ですね。
コード理論的にはFM7(onA)ということになると思います。
G7(11,13)~M3と11の半音ぶつかり。
F7(onG♯)~これは経過的にしか使われませんが、フラメンコ的慣用句でFコードの一部をおさえたままベースラインをつけていくテクニックがあり、そのなかでG♯音とA音の半音ぶつかりを強調することがあります。
コード理論的にはF7(♯9)でベース音が♯9とM3の半音ぶつかりになる、という無茶なことになりますが、EスパニッシュのM3をF上でベースラインに使用した結果こうなっているもので、テンションコードというよりは、クリシェに近いと思います。
ポルメディオの半音ぶつかり・異弦同音コード
A(onB♭)~♭9をベースに持ってきてルートと半音でぶつけるという、普通の音楽ではやってはいけないボイシングなんですが、フラメンコではストレッチしてまでこの形を使ったりします。
ポルアリーバのE(♭9)と同様に異弦同音も絡めたりします。
Ⅰコードはとくに微妙な響きにこだわります。
B♭ベースではないけどA7(♭9)系コードボイシングでこういうのもあります。
A(♭9,♭13)~5弦開放でルートを鳴らしながら3フレット半セーハ(1弦は開けて開放)でやる形。
1弦は5fでもok。
B♭7(♯9,13)~低音弦で♯9のC♯音とM3のD音をぶつけたりします。
一般のコードボイシングではNGですが、フラメンコギターでやるとかっこいいです。
B♭7(onC♯)~上で紹介したF(onG♯)のポルメディオ版です。
こちらはおさえかたが特殊で5弦4フレットを中指を交差させておさえます。
ポルタラントの半音ぶつかり・異弦同音コード
F♯(♭9,♯11)~タラント・タランタの基本ルートコードです。
1~3弦を開放弦にしてテンションノートを出します。
どちらも半音ぶつかりを含みます。
F♯7系はいろいろバリエーションがあって、開放弦を絡めて半音ぶつかりを作ります。
GM7(13)~解放を使ってM7とルートを半音ぶつかりにします。
1弦まで出すとメジャー13thコードになります。
GM7(onB)~Bmの三弦を開放弦にしたものです。
上のポルアリーバで紹介したFM7(onA)の転調版です。
感覚的にはBmのバリエーションとして演奏されてると思うんですが、三弦開放G音はB♭からみると、m6、♭13にあたります。
コード理論的にはGM7(onB)ということになると思います。
DM7(onF♯) ~上のポルアリーバで紹介したFM7(onA)のオープンコード版です。
F♯m系のコードの変化に思えますが、D音を含むのでコード理論的にはDM7(onF♯)です。
Eメジャーの半音ぶつかり・異弦同音コード
EM7~1弦開放と2弦4fの半音ぶつかり。
ルートコードでよく使うボイシング。
A7(♯11)~ビセンテ・アミーゴなんかが多用します。
♯11とP5の半音ぶつかりコード。
G♯7(♭9)~G♯コードに5弦解放を絡めたもの。ルートと♭9の半音ぶつかり。
EメジャーのⅢ7またはEメジャー平行調のG♯スパニッシュのⅠとして使用されます。
Eメジャー、Aメジャーなどの半音ぶつかり・異弦同音コード
C♯7(♭9)~C♯コードの4弦解放を絡めたものです。
ルートと♭9の半音ぶつかりです。
EメジャーのⅥ7、AメジャーのⅢ7、Aメジャー平行調のC♯スパニッシュのⅠとして使用されます。
高音弦を解放にしたテンション・異弦同音コード
フラメンコギターでは普通のコードを弾くときも、高音弦の解放音(1弦=E、2弦=B、3弦=G)を絡めてテンション・異弦同音コードにすることがあります。
- ポルアリーバ、ポルタラント、Gメジャーとその平行調→1弦、2弦、3弦が使用可能
- ポルメディオとその平行調であれば→1弦、3弦が使用可能
- Eメジャー、Aメジャーとその平行調で→1弦、2弦が使用可能
フラメンコで使われる調性はこういったことが考慮されて設定されています。
これ以外のキーの対応はカポタストで、ということですね。
――このあたりがよく使う半音ぶつかり・異弦同音系コードですが、これらに限らずフラメンコギターではコード単体の微妙な響きを重視します。
その他のフラメンコで使う特殊なコード
半音ぶつかり・異弦同音系以外でもフラメンコでは特徴的なコードを使います。
伝統的なフラメンコギターには慣用句的な特殊定型コードがありますが、モデルノ系でも習慣的によく使われる特殊なコードがあります。
スタンダードなものをあげていきます。
こちらも調性ごとにまとめます。
ポルアリーバ
F7(♭5)~Eへの進行で使います。♭5の音は♯11と考えることもできますね。
Fm,Fm7,FmM7~Fm系コードはEスパニッシュに含まれるG♯音(=A♭)をFコード上で使った結果です。
G♯音を♯9にとれば上でやったF7(♯9)ですが
フレージングやボイシング、前後の流れで解釈が変わってきます。
ポルメディオ
A7(onG)~普段使いコードとして多用します。
ラスゲアードなどで6弦も一緒に鳴らしたとき、開放のE音より7thであるG音のほうが音がしまって聴こえるためです。
B♭6(onG)~これも上と同じで、6弦まで鳴らした時の響きで選択されてると思います。
B♭からみるとG音は6thなので、Gm7としたほうがコード理論的にはスッキリしますが、♭Ⅱとして使われてる感じが強いのでB♭6(onG)としました。
1fのB♭コードを押さえた状態から中指でベースのG音を押さえます。
B♭9~1fで押さえます。モデルノ系の常套句です
B♭7(onA♭),B♭7(♭5)(onA♭)~Aに行くときによく使う7度ベースの形。
C♯~これ、モデルノ系でよく出てくるんですが、C♯コードをB♭7代理のような形で使うことがあります。
コードネームはB♭7(♯9)のほうがいいかもしれません。
ポルタラント
Gm~オープンGから3度の音を半音下げたものです。
スパニッシュスケールのM3音が♭Ⅱ上で使われたものです。
フラメンコ式ドミナントモーション
コードトーン的には普通ですが、フラメンコギターではドミナントモーションをかけるときに3度、5度、7度がベース音になった7thコードを多用します。
3度、5度がベースになる場合
例えばD7→Gの進行ですが以下のように弾きます。
- オープンGにいく場合は三度ベースのD7(onF♯)から入る
- 3fのセーハのGに行くときは3fセーハのまま五度ベースのD7(onA)から入る。この形は1弦まで鳴らすとD11になる
7度がベースになる場合
ミの旋法上で♭Ⅶm7→Ⅰの上行解決パターンに7度がベースになった♭Ⅱ7が挟まることが多いです。
ポルアリーバの場合
Dm7からベースを半音上げてF7(onE♭)に。
1f半セーハのF7(onE♭)もありますが、これは普通の形ですよね。
ポルメディオの場合
Gm7からベースを半音上げてB♭7(onA♭)に。
この形は1弦まで鳴らすとB♭13になります。
ポルタラントの場合
Em7からベースを半音上げてG7(onF)に。
ポルメディオと同じ形ですが3フレット下にズレてセーハではなくオープンコードになります。
こういったコードを作ってベース音を半音上行させてⅠに持っていきます。
sus2コード=add9(omit3)
呼び名はadd9(omit3)でもいいです。
とくにポルメディオで多用されます。
3度の音が2度の音に変化したもので、ロックなどで使ういわゆるパワーコードに9thが入ったもので、敢えて調性感を弱くして硬質な響きにしたいときにやります。
例 Csus2
――以上、フラメンコで多用される特殊コードについて
思いつく範囲で書きましたが、まだまだあると思いますので、必要に応じて加筆するか、個別形式解説で補足しようと思います。
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