現役世代の踊り手【フラメンコ音楽論36】

今、フラメンコ音楽論では「フラメンコ音楽現代史」として現役世代のアーティストを紹介しています。

前回と前々回では現役世代のギタリストと歌い手を紹介してきました。今回は現役世代の踊り手を紹介いたします。

本稿では音楽を主に扱っているのですが、フラメンコの場合、踊りは打楽器的な役割も兼ねていて音楽と密接な関係にあります。

フラメンコの音楽は伴奏を主体に発展してきたし、踊りが音楽に与える影響も大きなものだと思います。

アントニオ・カナーレス(Antonio Canales)

1961年生まれのアントニオ・カナーレスは、長年「若手男性舞踊手筆頭」のような扱いでしたが、そんな彼ももう還暦に近い年齢なんですね。

カナーレスはスペイン国立バレエ団でキャリアをスタートさせ、その後独立、1996年の作品「トレロ」でその評価を磐石なものとします。

自分がカナーレスを初めて見たのは1992年、当時、天才ギター少年と言われていたヘロニモ・マジャ(Jeronimo Maya)と共に来日したときでしたが、カナーレスの踊りに圧倒されました。

ぶっちゃけ、自分はそれまで男性の踊りとか、ほとんど興味を持っていなかったのですが、その公演は自分が男性のバイレに興味を持ったキッカケになりました。

長年、カナーレスの伴奏はホセ・ヒメネス=ビエヒン(Jose Jimenez “El Viejin”)、ラモン・ヒメネス(Ramon Jimenez)、ヘスス・ヒメネス=ヘスス・デ・ロサリオ(Jesus de Rosario)らのヒメネス一家が務めていました。

ファルキート(Farruquito)

ファルキートは1982年生まれで、セビージャのヒターノ社会のドンとも言われたファルーコ(Farruco)の孫で、血筋も人気も実力も、最も恵まれたダンサーです。

そのダイナミックなスタイルのバイレは子供の時から話題になり、多くのフォロワーを生みました。

ファルキートは、現在最も影響力のある男性舞踊手と思われます。

ちなみに弟のファルー(Farru)も優れた踊り手です。

ホアキン・コルテス(Joaquin Cortes)

ホアキン・コルテスは、1990年代に一世を風靡したアイドル的ダンサーでしたが、近年はあまり名前をきかなくなりました。

とはいえ、世界中のフラメンコをやっていない人達にまで、その名前が知られたフラメンコダンサーはカルメン・アマジャ(Carmen Amaya)と彼くらいではないでしょうか?

ホアキン・コルテスも最初はスペイン国立バレエ団からキャリアをスタートさせています。まさに登竜門ですね。国立バレエ団。

マリオ・マジャとベレン・マジャ(Mario Maya,Belen Maya)

マリオ・マジャとベレン・マジャの父娘はヒターノの名門、マジャ家の踊り手です。

父のマリオはアントニオ・ガデス(Antonio Gades)らと同年代の第3世代、娘のベレンは第4世代に属するアーティストです。

マリオ・マジャはスペイン本国で非常に評価が高く、崇拝の対象にすらなっていたカリスマ的な踊り手です。

ベレン・マジャは、父よりも数段モダンな表現で芸風が全然違うように見えますが、注意深くみると、そのDNAはしっかり受け継がれていると感じます。

なお、一族にはギタリストのファン・マジャ”マローテ”(Juan Maya “Marote”)、踊り手のマノレーテ(Manolete)などがいます。

マヌエラ・カラス(Manuela Carrasco)

マヌエラ・カラスコは1954年生まれの3.5世代アーティストですが、10歳でデビューして以来ずっと一線で活躍する超ベテラン舞踊手です。

なんと15歳で自分の舞踊団を立ち上げています。

マヌエラ・カラスコのスタイルは正統派、王道といえる堂々としたもので、長年「フラメンコの女王」と言われるようなポジションにいる人です。

ホアキン・グリロ(Joaquin Grilo)

ホアキン・グリロは1968年生まれ、ヘレスの出身です。

13歳のときに劇場公演デビューをしていますが、1990年代前半にパコ・デ・ルシアのグループのメンバーとして世界中を回ったことで、知名度が一気に上がりました。

それからは、ずっと第一線で息の長い活動をしています。

ホアキン・グリロの踊りは、なんと言ってもそのコンパス感がウリと思います。

全身パーカッションみたいな事になっていて、強烈にコンパスを打ち出します。

ファナ・アマジャ(Juana Amaya)

ファナ・アマジャは1968年生まれ、セビージャ近郊のモロン出身で、子供時代からプロ活動し、数々のコンクールに入賞。1980年代は上で紹介したマリオ・マジャの舞踊団に在籍していました。

1990年代から日本にも来るようになり、以後、頻繁に来日しているので、日本での知名度と人気は非常に高いです。

ファナ・アマジャは基本的には正統派に属する踊り手ですが、即興性が高く変幻自在、ヒターナらしい奔放な舞踊スタイルが魅力です。

サラ・バラス(Sara Baras)

サラ・バラス1971年カディス生まれで、1990年代後半あたりから急速に頭角をあらわしたダンサーです。

2000年前後から度々来日するようになり、当時、何回か彼女の舞台を見ましたが、印象深かったのでよくおぼえています。

サラ・バラスの表現スタイルは「音楽との融合」というか、音楽と合わせた総合的な完成度というのを一番に考えて振り付けしているんではないかと。

自分もそういうアプローチはツボを突かれるところなんですよね。

イスラエル・ガルバン(Israel Galvan)

イスラエル・ガルバンは1973年セビージャ生まれ。父のホセ・ガルバンは大の親日家で、昔から頻繁に来日していて日本でもお馴染みの踊り手です。

そういう縁があり、息子のイスラエルも以前からよく来日していましたが、現在は第4世代を代表する踊り手に成長しています。

細かい高速なサパテアードが彼のトレードマークですが、徐々に表現が先鋭化し、現在では前衛派バイレの牽引役となっています。

妹のパストーラ・ガルバン(Pastora Galvan)も実力派の踊り手です。

ロシオ・モリーナ Rocio Molina

ロシオ・モリーナは1984年、マラガ生まれの女性舞踊手です。

今「若手の踊り手の中で誰で1人」ときかれば自分はこの人でしょうか。

なんというか、才気と野心に充ちあふれたアーティストですよね。

20歳くらいから自らの名義で作品発表、公演を継続しています。

ロシオ・モリーナはタレント・ファッションリーダー的な側面もあり、奇抜、スタイリッシュ、みたいなイメージが強いですが、伝統的なフラメンコも一流のレベルです。

このフラメンコというジャンルは、伝統的フラメンコをマスターしている人でないと、何をやっても「フラメンコベースの芸術」として成立しえないものなので、一流の「フラメンコをベースに独自表現をするアーティスト」というのは、皆、伝統的フラメンコをやらせても、やはり一流なのです。

今回紹介しきれなかった踊り手

今回は現役世代のダンサーを紹介してきましたが、他にも紹介したかった実力者が沢山います。

男性舞踊手
エル・グイト(El Guit)
ファン・ラミレス(Juan Ramirez)
ハビエル・バロン(Javier Baron)
ハビエル・ラトーレ(Javier Ratorre)
ラファエル・アマルゴ(Rafael Amargo)
ラファエル・カンパージョ(Rafael Campallo)
ファン・デ・ファン(Juan de Juan)

女性舞踊手
クリスティーナ・オジョス(Cristina Hoyos)
マティルデ・コラル(Matilde Coral)
ミラグロス・メンヒバル(Milagros Mengibar)
メルチェ・エスメラルダ(Merche Esmeralda)
ラファエラ・カラスコ(Rafaela Carrasco)
イサベル・バジョン(Isabel Bayon)
アイーダ・ゴメス(Aida Gomez)
エバ・ジェルバブエナ(Eva Yerbabuena)
ベアトリス・マルティン(Beatriz Martin)

この記事を書くとき、最初に自分が馴染みのあるダンサーの中で特に知名度が高そうな人を書き出してみましたが、すぐに30人くらいになってしまい、全部だとバランス的に多過ぎるように感じたので(本稿は音楽がメインですので)、今回はその中から厳選して紹介しました。

次回からはフラメンコポップ、フラメンコフュージョン、ギター以外のフラメンコ系楽器奏者などを紹介したいと思います。

そのあたりのジャンルは専門的に解説しているサイトもあまり無いですし、少し力を入れて解説する予定です!

フラメンコ音楽論 前回

現役世代の歌い手【フラメンコ音楽論35】
フラメンコ音楽論第35回は「フラメンコ音楽現代史その4」として、現役世代の歌い手の紹介をします。前回同様、第3世代と第4世代をまとめての解説です。

フラメンコ音楽論 次回

フラメンコポップとフラメンコフュージョン【フラメンコ音楽論37】
今回のフラメンコ音楽論は、1970年代以降新しく成立したフラメンコ周辺ジャンルであるフラメンコポップ、フラメンコフュージョンに属するアーティストを紹介をします。

コメント