オーディオインターフェイスについて【低予算で実現するコンテンツ制作01】

最近、宅録用のオーディオ・インターフェイスを更新しました。

自分は録音エンジニア・制作ディレクター的な仕事も請け負ったりしますが、これから当ブログの企画の一つとして、DTM(デスクトップミュージック、自宅のPCで行う音楽制作)関連の機材やソフトなど技術的な内容も発信していこうと思います。

今の時代は技術の進歩により、それほどおカネをかけずにハイクオリティな音楽制作が可能になってきています。

自分自身も常々「なるべくローコストでハイクオリティな音を」という事を考えていますが、「ローコストで」となると、それなりの勉強と調査が必要になります。

まぁ、結局は技術と知識が無いと単純におカネをかけて良い機材を揃えただけでは、なかなか良い音は作れませんが。

そこで「ローコストで音源や動画などのコンテンツを制作したい同志の助けになれば」と思い、こういう企画もやっていこうかと。

今回はオーディオ・インターフェイスについて書きます。

オーディオインターフェイスとは?

オーディオインターフェイスはマイクやラインの音をPCに取り込んだり、PCの音をモニタースピーカーに送ったりする機材で、PCでの音楽制作では要となるものです。

自分は1990年代からMTR(マルチトラックレコーダー)で自宅録音・音楽制作をしてきましたが、2005年にPCを購入して制作のベースをPCに移行させました。

それ以来、様々なオーディオインターフェイスを試してきました。

オーディオインターフェイスの音質への影響

オーディオインターフェイスの良し悪しで録音・再生の音質が「ある程度」左右されます。

「ある程度」と付けた理由を説明しましょう。

一昔前はオーディオインターフェイスの品質にばらつきがあって、良いものと良くないもので大変な音質差がありましたが、現在では2万円以下の安いものでも音質が全体に底上げされていて、インターフェイスによる録音品質の差は小さくなってきています。

生音収録ということでいうと音質に与える影響は下のようなイメージになります。

録音技術≧マイク品質>>>インターフェイス品質

このように、現在では録音技術(マイクの選び方、マイクの立てかた、レベル調整、エフェクトやEQなどの録音後の処理)とマイク品質のほうが遥かに重要ですが、インターフェイスでもノイズレベルや歪みで差が出る事は確かなので、それらの性能が良いものを使うに越したことはありません。

オーディオインターフェイスにはマイクプリアンプが入っていて、インターフェイスの録音性能は、要するにこのマイクプリアンプの品質とADコンバーターの性能次第ということになります。

外部マイクプリアンプを使うのでなければ、インターフェイス内蔵のプリアンプを使うことになり、メーカーや機種によって音のキャラクターも変わってきます。

プリアンプの音質に関しては、マイクや音源との相性や好みなどの主観的要素が大きいので、正直、使ってみないとわかりませんが、S/N比や歪率、周波数特性である程度の客観的評価は出来ます。

オーディオインターフェイスの再生品質

オーディオインターフェイスの機能で、もう1つ重要なのが再生品質とヘッドホンアンプの品質です。

音の解像度が悪いとまともなミキシングが出来ませんので、自宅PCでミキシング・マスタリングをする場合、これはかなり重要です。

再生品質への影響に関しては下のようなイメージです。

モニタースピーカー品質・ヘッドフォン品質>インターフェイス品質

自分の体感では録音品質に比べてインターフェイスの影響が大きいように感じます。

インターフェイス自体の再生能力はDAコンバーター性能とアナログ回路品質に左右されます。

そして、ヘッドホンを使用する場合にかなり重要になるヘッドホンアンプの品質はRMAA(後述)にも反映しないし、安価なオーディオインターフェイスではコストカットされて差が出やすい部分です。

オーディオインターフェイスの性能の見方

オーディオインターフェイスは「音」という目に見えないものを扱うため、主観的な部分が多く、最終的には音の好み、ということになってきますが、一応、目に見える指標となるものもあります。

RMAAでの実測

オーディオインターフェイスの音質性能を実際に測定できるRMAA(Right Mark Audio Analyzer)というソフトがあります。

メーカーのオーディオ性能公称値は測定指標がメーカーによってバラバラなので単純比較できず、やはりユーザーがRMAAで実測したものが一番参考になります。

RMAAは自分も使いますが、ネットにも測定結果が上がっているので、機種名+RMAAで画像検索するとメジャー機種なら出てきます。

RMAAはインターフェイスの入力と出力をループ接続して測定しますが、再生性能(出力)と録音性能(入力)のうち、低い方の値が出てきます。

RMAAで得られる指標のうち、特に重要なのが以下の3つですが、この3つが良い値なら、大抵は他の数値も優秀です。

ダイナミックレンジ

ダイナミックレンジは、録音・再生できる最も小さい音と最も大きい音の差で、一般にこれが大きいとノイズや歪みを少なくできるので音質的に有利になります。

昔の機種だと、これが90dB以下のものもありましたが、現在はエントリークラスのものでも100dB前後出ます。

高音質の定評があるRMEのBabyfacePROやUCXのダイナミックレンジは110dB前後です。

THD+N

THD+Nは、音の歪み成分(THD)とノイズ(N)を合わせた値で、低いほど源音に近いクリアな音になります。

RMAAの比較的新しいバージョンはdBの単位で測定値が出ます。

エントリークラスだと-80dBから-90dBくらいのものが多いですが、この値が-95dB以下だとかなり高音質といえます。

BabyfacePROやUCXのTHD+Nの値は-95dBから-98dBくらいです。

周波数特性

RMAAだと周波数特性がグラフで出てきますが、なるべく真っ平らなのが理想です。

これがでこぼこしていると、音が変わってしまうということですので。

最近の製品で真っ平らでないものは無くなってきましたが、高域の減衰は結構差が出るので、そこに注目します。

デジタル録音ではサンプリング周波数44.1kHzの、いわゆるCD音質だと、20Hzから20kHzの音しか再生しないので、20kHz以下の数値を見ますが、減衰し始めるタイミングが早いと、広域の伸びが無いこもった音になります。

自分の音楽機材に対する考え方

自分は前述のように2005年からPCでの音楽制作を始めて、2006年から2007年にかけて自分のグループ「Galeria Rosada」のCDや舞台音楽などの制作をしました。

2008年頃からは他のアーティストの依頼を受けて録音エンジニア・制作ディレクター的な仕事もするようになりました。

しかし、2009年頃からギターの活動を縮小したのと同時にエンジニアとしての活動も縮小せざるを得ない状況があり、その時点から本格的な機材の更新をしていませんでした。

こうした現状を踏まえての、音楽機材全般に対する自分の方針なんですが、ブランド力で値段が高くても売れてしまうような機材は極力使っていません。

まず、自分は業務使用もあるといっても、現状はそんなに頻繁にあるわけでないので、一つの機材で10万円単位の桁の投資というのは回収が難しいです。

それから、価格やブランドと音質は必ずしも比例しない、というのも実感しているし、限られた資金の中で本当に必要なところにお金を回したいからです。

そういう理由でRMEのインターフェイスやノイマンのマイクなどは自腹では買っていません。

そういう経験から「なるべくコストをかけずに良い音が欲しい」という人の参考になればと思い、この記事を書いてみました。

業務使用が日常化するようなら、レコスタ機材等との互換性の問題があるので、自分も定番機材を使うようになると思います。

「業務上必要で、調べる時間もないから、定番ブランドのハイグレードのものを買っておけば間違いない」という考えも理解できますが、そういう需要があるがために定番ブランド製品は割高になっているし、限られた資金でなんとかしようと勉強して得られる知識・経験こそが重要なんだと感じています。

自分が所有しているオーディオインターフェイス

自分は今まで、10台くらいのオーディオインターフェイスを試していると思いますが、現在、手元に残ってるのが写真に写っている5台です。
※これを下書きしてからアップする間に1台減ったので今4台です。

オーディオインターフェイス

一番下が今回新調した「Focusrite Clarett 2PRE USB」です。

「Focusrite Clarett 2PRE USB」については後程詳しくレビューしますが、一番上から順に紹介していきます。

Focusrite Scarlett 2i2 Gen3

一番上は少し前に購入して、今回の更新のきっかけになった「Focusrite Scarlett 2i2 Gen3」です。

Clarettの廉価版のような小型インターフェイスですが、しばらく使ってみてその録音品質の良さ(というか、フラメンコギターとの相性の良さ)を確認して、上位機種のClarettの購入となりました。

フォーカスライトのScarlettシリーズは1世代前のGen2の段階から気になっていましたが、Gen2はダイナミックレンジ公称106dB、実測102dB前後、THD+Nが実測で-95dBくらい、ということで「惜しい!もうひとこえ」と思ってましたが、公称ダイナミックレンジ111dBのGen3が出てきたので、「これは!」と、ポチってみたわけです。

RMAAは未測定ですが、Gen3は公称値が111dBなので実測値で107dB前後は出ていると思われ、体感でもそれくらいの感じです。

この機種は今年(2019年)の7月に出たばかりのものですが、実際に使ってみるとフラメンコギターとの相性も抜群で「エントリークラスのバスパワーインターフェイスもついにここまで来たかー」という感じで衝撃的でした。

重量がClarettの半分以下でバスパワー駆動、何よりもClarettに似た音で録音できるため、モバイル用として重宝しそうです。

サウンドハウスで購入
FOCUSRITE / Scarlett 2i2 (gen. 3)
FOCUSRITE / Scarlett 2i2 (gen. 3)

Steinberg UR22

上から2番目は少し前まで普段使い用のサブ機だった「Steinberg UR22」です。

初期のゲーム音楽演奏動画はこれで録っています。

2013年頃にOSをWindowsXP→8に更新したんですが、その時普段使いしていたインターフェイスが動かなくなったため、USBバスパワーで動く手軽なインターフェイスが欲しくて、安価だったこれを買いました。

音質のほうは、RMAA数値はそんなに良いわけでないですが、パワー感のある太い音で録れます。

ちなみにUR22は、この記事作ってる途中で里子に出してしまって、もうウチにありませんけど。

Terratec Phase X24

上から3番目は2007年から現在まで12年間に渡ってメインを努めた「Terratec Phase X24」。価格対性能が驚異的な機種でした。

ダイナミックレンジが実測で108dB前後出ていて、歪率が非常に低く(THD+Nが-98dBくらい)、当時プロ用機材として主流だったRMEのFireface400(頻繁に使う機会があった)などと比べても音質は同等以上に感じました。

ですが、この機種は接続がFirewireだし、ドライバも公式なものは更新終了しているため、あれやこれや工夫して何とか動かしていましたが、そろそろ限界を感じていました。

保守用の予備機も古いものしか手に入りませんし。

YAMAHA GO46

上から4番目は「YAMAHA GO46」です。

この機種は上の「Terratec Phase X24」のOEM版で販売元がYAMAHAになってデザイン等違いますが、中身はX24とほぼ同じものです。

一発勝負のライブ録音などではバックアップ用に2台のPCで同時に録音したりするので、予備機として購入したものです。

本当はPhase X24がもう1台欲しかったのですが、たまたまこちらがオークションに安く出ていたので買っておきました。

Focusrite Clarett 2PRE USB

そして一番下が今回導入した「Focusrite Clarett 2PRE USB」です。

Clarettはサンダーボルト接続のものが2015年に出て(最初は7.5万円くらいしてた)、その後USB接続のものが2018年に出ています。

フォーカスライトはもともとマイクプリアンプなどのメーカーで、マイクプリの品質が売りとのことで、RMAA実測値の驚異的な数字とともに以前から注目していました。

ちなみにネットに上がっているRMAAは、ダイナミックレンジが実測値で115dB前後、THD+Nが-100dB以下というもので、RMEの10万円以上の現行機種を凌ぐ数値です。

ただ、Windows環境ではドライバが不安定という話もあるし、フラメンコギターとの相性もわからないし、購入を様子見していました。

そんなタイミングで出てきたのが、廉価版Clarettといえる「Forcusrite Scarlett 2i2 Gen3」です。

2i2G3を使ってみた感想は上に書きましたが、体感でPhaseX24と同等の録音品質が得られ、本体の小ささや扱いの楽さを考えるともうこれがメインでも良いんでは?と思ったくらいです。

1か月くらい使った範囲では、懸案だったドライバの相性も大丈夫そうでした。

でも、さすがにエントリークラスの小型機なので限界もあります。

それは、再生品質とヘッドフォンアンプの品質です。

録音だけなら2i2G3で良いと思いますが、ミキシング・マスタリングもやるとすると、再生解像度がもう少し欲しい、と思いました。

そこで浮上したのが2i2G3の上位機種のClarettなわけですね。

今後、音楽活動を活性化していくと、録音やミキシングの機会も増えて行くわけで、投資の必要性を感じていましたが、やっと機種が決まったわけです。

Focusrite Clarett 2PRE USBのレビュー

では、Forcusrite Clarett 2Pre USBのレビューをしてみます。

まだ1か月も使用していませんが、今までのメインのPhaseX24と比べても全体にスペックが底上げされて、音の分離が抜群に良いのでミキシングもしやすいです。

マイクプリアンプも2i2G3と同様にフラメンコギターの中高音成分を綺麗に録れます。

結構デカイくて重い

Clarett 2Pre USBの欠点としては、思ったよりデカイ、重い、ACアダプター必須(TypeC接続ならバスパワーでもいけるらしい)ということで、モバイルには不向きですが、基本自宅での録音とミキシング・マスタリング用途だし、そこは妥協。

外で録音するときはClarettと2i2G3とPhaseX24を使い分ければいいかな、と。

電源スイッチはポイント高い

Clarettには背面に電源スイッチが付いているので、使用していない時や、PCから音を出したくない時は切っておけるのが個人的にポイント高いです。

オーディオインターフェイスって電源スイッチが無いものが多くて、AC電源のものは基本電源付きっぱなし、バスパワーのものもPCから給電されてる限り付きっぱなしで、夏場など熱で電源回路やコンデンサが劣化しないか心配になるんですよね。

DSPエフェクトはついてない

Clarett 2Pre USBにDSPエフェクトはついていません。

DSPエフェクトとは、オーディオインターフェースの本体にエフェクターを内臓していて、録音時などにCPUへの負荷や音の遅れ無しにエフェクトをかけられるというものです。

例えば、録音時にモニターにだけリバーブをかけてやるとプレイヤーの気分が上がってパフォーマンスが良くなったりということもあるので、DSPエフェクトを必要とするプレイヤーも結構いると思います。

ですが、自分は以前から録音時にリバーブなんて邪魔に感じるし、マイクを繋いだらエフェクトの設定などせずに即録音に入りたいので、基本的には使用しないんですよね。

PhaseX24と同等以上の音質でDSPエフェクト付きとなるとRME Babyface PROあたりになってくるので10万円くらいになりますし。

軽めの出音

次は音質についてです。

これは好みの問題と思いますがフォーカスライトのインターフェイスは全体的に録り音、出音が軽いです。

周波数特性はフラットのはずですが、ややハイ寄りに聴こえます。

自分は高解像度の高音がしっかり立った音(キンキンするのとは違う)が好きだし、ミックスもしやすいので、むしろ良いんですけど、ミキシングでローを強くしすぎないように注意しないと。

AIR機能は自分の用途では微妙

Clarettと2i2G3には、フォーカスライトの名作プリアンプ「ISA」をモデリングしたAIRモードというのがついてますが、自分の用途(主にフラメンコギターの宅録)では微妙でした。

AIRモードをオンにすると、フラメンコギターの生収録だと中高音が強くなりすぎてキンキンします。

AIRモードは切って、そのぶん若干ゲインを上げて録ったほうが太くてバランスのいい音で録れます。

AIRモード、ボーカル収録なら声質によっては合いそうだし、カホンなんかにも良さそうですが。

――以上、Forcusrite Clarettのレビューをお送りしました。

新製品「Clarett+シリーズ」(2021年9月追記)

最近、Clarettの新製品「Clarett+シリーズ」が発売になりました。

株式会社キョーリツコーポレーション
楽器・ケースの製造・販売・輸入代理店キョーリツコーポレーションは良質の楽器で、夢を実現します。

仕様書を読む限り、D/AコンバーターとA/Dコンバーターが改良されたようで、出力のダイナミックレンジと歪率が向上して録音・再生とも音質がさらに向上したようです。

サウンドハウスで購入
FOCUSRITE Clarett+
FOCUSRITE Clarett+

E-MU 0404USBという機種(オマケ)

これは余談になりますが、E-MU 0404USBという機種があります。

この機種はPhaseX24などと同世代の古いものですが、驚異的な音質性能を有していて、最もコスパの高いインターフェイスは?と聞かれれば「0404USBをオークションで買え!」というのが究極の回答になります。

  • ダイナミックレンジ実測値が112dBから113dB
  • THD+Nは実測値-98dBから-100dB
  • お値段はオークションで4000円から8000円(多分これ以上は下がらない?)
  • 有志が作った野良ドライバを入れればWindows10でも(一応)動く

と、このような代物が存在するんですが、実は自分も1台所有して使っていました。

でもこれ、自分の環境との相性なのか、どこか接触不良があるのかわかりませんが、長時間使うと、たまにPCごとフリーズするんですよね。

一度、宅録中にフリーズして録音データが飛んだこともあって、それ以来使うのが怖くなり、オークションで売り飛ばしてしまいました。

こんな事情で0404USBはメインにはなりませんでしたが、出音は素晴らしかったです。

PhaseX24もそうなんですが、こういう古い機材は、Windowsアップデートの度に音が出なくなったりして、今後いつ使えなくなってもおかしくないので、今からのメイン使用、業務使用はちょっとなぁ……というところです。

0404USBは「費用を極限まで抑えたい!PCはある程度強いよ!半田付けとか得意で自分で修理できます!」という人には究極の選択肢になると思います。

――以上、今回はオーディオインターフェイスの更新という機会があったので、機材について思うところを書いてみました。

今後、こういうエンジニア的な視点の記事も増やしていこうと思います。

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