「低予算で実現するコンテンツ制作」では前回、DTM(デクストップミュージック、自宅でのPCを使った音楽制作)に適したPC環境ということを考察しましたが、今回はPCで動かすソフトウェアの中でも音楽制作の中核を担う「DAW」について解説します。
DAWとは?
DAWはデジタル・オーディオ・ワークステーションの略語で、PC上で動く音楽制作ソフトウェアの事を指します。
1990年代まではPCで動かす音楽制作ソフトといえば、①打ち込みに使うMIDIシーケンスソフト、②レコーディングに使う録音ソフト、③音の波形を編集する波形編集ソフトなどに別れていましたが、2000年前後から急激に高機能化・多機能化して、各ソフトが統合され、現在のような総合音楽制作ソフトへと進化してきました。
DAWでできる作業は、録音・音源編集・打ち込み・ミキシング・マスタリングと、音楽制作に必要な工程は全て網羅されています。
さらに最近は、動画配信ニーズの増大に対応すべく動画編集機能も統合されていたり、作曲やアレンジをサポートしてくれる機能が充実していたりと、その進化は凄まじいものがあります。
DAWの選び方
現在使われている代表的なDAWには、Cubase、Logic、Ableton Live、Studio One、Pro Tools、FL Studio、Ability、Cakewalkなどがあり、MacにはGarage BandというDAWが最初から入っています。
これから、どのDAWを選択したら良いのか?という話をしますが、最初に言っておくと今回紹介するような主流になっているDAWで出来ることはほぼ同じで、ソフトによって音質が変わるとか基本的な機能が無い、ということはありません(Garage Bandは他より制約が多いですが)。
ソフトによって作業行程や操作体系は違いますが、最終的に同じようなクオリティーの音源を作ることができます。
ですが、DAWの値段は無料から5万円以上とかなり差があるし、有料のものはバージョンアップにもお金を取られる場合が多いので、1年から数年おきに数万円の出費になったりして、ランニングコストにかなりの差がありますよね。
では、何が違うのか?というと、使い勝手だったり、独自機能だったり、付属するプラグインやソフト音源だったりするわけです。
使い勝手や機能については、何か画期的なシステムが搭載されたDAWが出て人気が出ると、他社もこぞって似たような機能を付けて追従しあうので、結局今は何を使ってもそんなに変わらないですが。
ただ、DAWは多機能なソフトなので、操作を覚えるのにも時間がかかるし、一度習熟したソフトは長期で使うものです。
最初にどのDAWを選ぶかで、その後の作業の快適性やランニングコストが全く変わってきますので、ソフト選びは良く考えるべきだと思います。
無料のDAWもある
DAWはかつては高価なソフトでしたが、競争によって低価格化が進み、現在では無料で利用できるものもあります。
MacならGarage Bandが最初から付属しているし、WindowsにはCakewalkという最強の無料ソフトがあります。Studio Oneの無償版でもかなりのことが出来ますよね。
それから、オーディオインターフェイスを買うと有料DAWの機能制限版が付属していることがありますか、機能制限版でも同時編集可能なトラック数が減らされているだけだったりするので、トラック数が少なくて済むジャンルの音楽ならそれで十分だったり。
個人的には、将来的に基本的なDAWの機能は無料で利用できるのが標準になって、プラグインや追加機能にお金を払うという形になる、と予測していますが、現在は過渡期に当たり、使用DAWによるコスト差が大きくなっている時期かと思います。
ちなみに自分はSONARを使っていたこともあって、SONARが無料化されたCakewalk(後で紹介します)を使っていますが、何も困ることはありません。
代表的なDAW
では、代表的なDAWを紹介していきます。
Cubase
CubaseはASIOドライバを開発したSteinberg社のDAWで、現在はYAMAHAが買い取って販売しています。
最先端の機能をいち早く搭載することで知られるDAWですが、WindowsとMac両方で使えることもあり、世界トップシェアを誇ります。
自分はCubase4からCubase7の頃に少し使っていましたが、7で新しく搭載された独自機能の「コードトラック」はかなり気に入りました。
作曲するときにコード進行を管理しやすく、DAWがコードを提案してくれたりするものです。
自分がCubaseをメイン使用としなかったのは、①USBドングルキーが鬱陶しかったのと、②譜面打ち込みのやりずらさと、③マルチディスプレイ時のウインドウの設置がやりにくかったこと(全てCubase7の時点の話)が減点要素となりました。
YAMAHAがSOL(後述)の譜面入力をCubaseにそのまま移植してくれれば、メインDAWになっていたと思いますが。
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STEINBERG / Cubase
Logic
LogicはMacの主流DAWです。
当初はWindows版もあったようですが、Apple傘下になってからはMac専用ソフトになっています。
元々はドイツのC-Lab(Emagic)社が作っていた譜面制作ソフトが母体になって、Mac向けのDAWとして開発されるようになり、2002年にEmagic社がApple傘下に入ってからはApple純正DAWとして「Garage Bandの上位版」のような位置付けになっています。
現在はダウンロード販売のみで、有料DAWとしては安めの価格に設定されています。
Garage Band
Garage BandはApple社謹製のDAWで、MacOSに最初から同梱されています。
初版は2004年。Logicの開発スタッフが開発に関わっていて、Logicの体験版的なものになっています。
Garage Bandをあまり高機能にしてしまうとLogicが売れなくなる、という事情があると思うので、あまり機能アップは望めないかもしれませんね。
自分は実際に使ったことがないので詳しくはわかりませんが、Garage Band単体でも専用の組み込みプラグインを使ってソコソコのことはできるようですね。
Pro Tools
ProToolsは長年に渡って、プロ向けの業界スタンダードの地位を占めてきたDAW/レコーディングシステムです。開発はAvid社で、WindowsとMacの両対応。
ProToolsはSound Designerという波形編集ソフトが母体になっていて、インターフェイスなどを含めたプロ向け音楽制作システムとして開発されていました。
ProToolsが業界スタンダードとなった理由は、他のDAWが普及する以前の1990年代からプロユースのスタジオ向けシステムとして販売されてきたため、音楽制作スタジオを中心にいち早く浸透し、個人向けのDTMが本格的に普及する段階でスタジオユースは既にPro Toolsの独占状態にあった、という事情があります。
ですので、2010年くらいまではスタジオ作業との互換性から「プロミュージシャンはProTools!」みたいな空気がありました。
現在では音楽制作スタジオにもCubaseやLogicが浸透していますが、ProToolsもまだまだ高いシェアがあるし、主流DAWの一つという地位は揺るがないと思います。
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AVID / Pro Tools
Ableton Live
Liveは2000年代に入ってから開発されたDAWで、MacとWindows両対応です。
Liveは従来のDAWと異なり、ループパターンを繋ぎ合わせて制作するスタイルに特化しているという特徴があります。
従来のDAWと同様の使い方もできますが、ループ編集に特化したセッションビューという画面が売りで、とくにEDMなどループパターンで作曲する層に支持されています。
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ABLETON / Live
Studio One
Studio Oneは2009年頃から出てきた新興のDAWです。
DTM機器メーカーとしても有名なPreSonus社が開発していて、MacとWindowsの両対応。
Studio Oneには高機能な無償版があり、とくに若い世代や初心者層を中心に支持を集めています。
Studio Oneの最大の特徴は直感的に操作できるように設計された画面構成ですが、「Studio One」というネーミングは「一画面で完結できる」という設計思想が表表れていますよね。
また、タブレットを子機として使えたり、先進的な機能を積極的に採用するのも人気の要因かと。
Studio Oneは全体として手間をかけずにスピーディーに曲を仕上げられるような設計で、ノートPCなど画面が小さい環境にも適していると思います。
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PRESONUS / Studio One
FL Studio
FL Studioは、ベルギーのImage-Line社が開発しているWindows専用DAWですが、その歴史は古く、初版が出たのは1997年のことです。
元々はステップシーケンサーをベースに開発されたMIDIシーケンスソフトでしたが、徐々に多機能化して代表的なDAWの一つへと進化しました。
FL StudioはLiveと同じくループ系の制作を得意としていて、とくに海外のEDM系のアーティストに支持されていますが、Liveと比べて一般的なDAWに近い操作系なので、操作性の好みで選ぶと良いと思います。
価格は安めの設定の上、一度購入すると恒久的に無償アップデートを受けることができるので、ランニングコストを安く抑えられます。
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IMAGE-LINE / FL Studio
――DAWはこの他にも色々とありますが、Cakewalk(SONAR)とAbility(Singer Song Writer)については、以下に書く「自分が使ってきたDAW」で紹介します。
自分が使ってきたDAW
今まで自分が使ってきたDAWをその使用感とともに紹介します。
仕事で使う場合もあるので、互換性の問題から一応CubaseやProTools、Liveも所持はしていますが、自分がメインで使ってきたDAWは主流から少し外れたものです。
YAMSHA SOL2
現在、YAMAHAはSteinbergを買収してCubaseを販売していますが、SOLはその前に自社開発していたWindows用のDAWです。
その昔、YAMAHAはXG音源というMIDI音源規格を開発・推進していて、1990年代にXGworksというMIDIシーケンスソフトを販売していましたが、それを多機能化してDAWにしたのがSOLです。
そしてVSTプラグインに対応した改良版のSOL2が2003年に発売されました。
自分は2005年にPCを買ってしばらく経った頃に、バンドのメンバーからSOL2を譲り受けたのがきっかけで、8年間ほどメイン使用してきました。
SOL2は自分が初めて使ったDAWですが、なぜこんなに長期間メイン使用したか?というと、MIDIの譜面打ち込みと組み込みのプラグインが優秀で、他のDAWでは無理な体になってしまったからです。
他のDAWに音質で劣るということもなかったし、一通りのことは出来たので、そのままずっと使っていました。
SOL2を使わなくなった理由は、WindowsXPがサポート終了ということで2013年にWindows8に更新したのですが、そしたらSOL2がまともに動作しなくなったため、仕方なくメインDAWを乗り換えることにしたんですよね。
でも、譜面MIDI入力に関しては未だにSOL2を超えるソフトは無いので、現在でも仮想環境でWindowsXPを動かして、譜面打ち込みだけSOL2でやったりしています。
SONAR
SONARはCakewalk社が開発したWindows用のDAWで、日本ではローランドが2001年より販売していました。
Windowsで動くDAWとしては、2000年代からつい最近までCubaseと人気を二分する主流派のDAWでした。
Cakewalk社は2013年にTASCAM・ギブソン(レスポールとか作ってる楽器メーカー)に買収されて、その後、ギブソンの経営不振に巻き込まれる形で2017年に開発終了になるのですが、シンガポールのBandLab社が買い取って開発が継続され、翌2018年には無料DAWの「Cakewalk by BandLab」として復活して現在に至ります。
自分はSOL2と平行してSONAR5、SONAR8をサブのDAWとして使用していて、SOL2よりオーディオ編集やミックスダウン機能が優れていたので仕上げはSONARでやることも多かったのです。
そして上に書いた通り、2013年にメインDAWをSOL2から乗り換える必要が出てきたので、その時に色々なDAWを試して検討しました。
その結果、それなりに使い慣れていてオーディオ機能が優れるSONARをメインにすることにして、その時最新版だったSONAR X3を5年間ほどメインDAWとして使用していましたが、2018年にCakewalk by BandLabとして無料化されて以降はBandLab版を使っています。
Cakewalk by BandLab
2018年にSONARを無料化してリリースされたCakewalk by BandLabですが、機能的には最上位グレードのSONARと同じものです。
今まで数万円払っていたのが何だったの?というか、BandLabが太っ腹すぎますよね。
さすがにSONAR上位版にバンドルされていたプラグインは付属しませんが、SONAR X3に入っていたものは全てそのまま使えるので何の問題もありませんでした。
現在も年に数回、機能追加も含めたアップデートされています。
このDAWは無料としては本当に素晴らしいので、もっと普及しても良さそうなものですが、無料ということでPRに資金を割いていないために知らない人が多いだけでしょうか。BandLab社は何か思惑があるのかもしれませんが。
Cakewalkはネットの情報も少な目で、日本語サポートも期待できませんが、過去のSONARの情報はほぼそのまま適用できるし、自分で調べられる人はかなりコストを削減出来るDAWだと思います。
Singer Song Writer・Ability
Singer Song Writerは、株式会社インターネットが開発する純国産DAWで、現在はAbilityという名前になって開発・販売されています。
これも元々はSOLと同じくMIDIシーケンスソフトが母体になっているDAWなので、MIDIの譜面打ち込み機能に優れていて、SOL2の譜面入力の代替になるのはこれ以外無い、ということで打ち込みのためにSinger Song Writer10を買いました。
譜面打ち込みはSONARもCubaseも使いづらかったので。
買った当初はメインDAWとしての使用も視野に入れて使い倒すつもりでしたが、オーディオ機能はSONARのほうが良いと感じたし、肝心の譜面打ち込みも、結局は一から覚え直しになるのでSOL2ほどには快適に使いこなせず、どうにも中途半端であまり出番がありませんでした。
後から色々試して気が付いた事ですが、MIDI打ち込みだけならPCの負荷もほとんど無い作業なので、仮想環境のWindowsXPで動かすSOL2で全然出来てしまうんですよね。
とはいえ、一般的にAbilityはWindowsで動く現行DAWでは譜面入力最強ソフトだと思うので、ピアノロールより譜面で打ち込みしたい人はこれを試してみると良いのではないでしょうか。
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INTERNET / Ability
リンク
――この他、Cubase・ProTools・Live等も所持はしていますが、今はほとんど使っていませんので割愛します。
DAWの選び方 まとめ
今回は色んなDAWを紹介しました。
こうしてみると代表的なものだけでも種類が多くて迷いますよね。
最後に「自分だったらこうやって選ぶかな」という、DAWの選び方をまとめておきます。
Macの人
Grage Bandで不満が出たらLogicやCubaseに乗り換え
Windowsを使っていてコストを抑えたい人
Cakewalk、Studio One無償版
先進的な機能をいち早く使いたい人
Cubase、Studio One
正統派の操作系が良い人
Cubase、Logic、ProTools、FL Studio、Cakewalk
直感的な操作系が良い人
Live、Studio One
ループ中心の制作スタイルの人
Live、FL Studio
譜面で打ち込みしたい人
Ability、Logic
――今回はDAWの紹介と選び方を解説しましたが、今後、DAWの使い方やテクニック、プラグインや音源の解説、DAW以外のソフトウェアなど、DTM関連記事を作成して行きたいと思います!
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