音楽理論ライブラリーでは前回までで、3和音・4和音の基本コード、さらに5和音以上のテンションコードを学習しました。
コードの響きにバリエーションを持たせる方法として、テンションコードの他に以下のようなものがあります。
- オンコード
- 転回形コード
- 分数コード
- 4度堆積コード
このうち、オンコード・転回形コード・分数コードの3つは、分数表記や(onC)など、ベース音指定表記されるコードです。
これら分数系のコードは使い方が混同されてたり、解釈が難しいものがあったりしますので、少し詳しく解説しておきます。
オンコード(ベース音指定コード)
ベース音をルート音以外の音で鳴らすコードをオンコードといいます。
コードネームのあとに(onA)などの表記がついてベース音が指定されます。
また、オンコードは分数で表記されたり、スラッシュで区切って表記されたりもして、下で紹介する分数コードと混同されがちですが、オンコードの場合は分母は単音となります。
しかし、実運用上は鍵盤楽器以外では純粋な分数コードを出すのは難しいです。
ギターなどでは分数表記のコードは、ほとんどオンコードとして演奏されるし、そのあたりの事情もオンコードと分数コードの境界を曖昧にしています。
転回形コード
オンコードの中でベース音がコードトーン(3、5、6、7度)のものを転回形コードといいます。
例えばCメジャーコードなら、音程の低いほうからC、E、Gの並びですが、これがE、G、CやG、C、Eとなっても、構成音は同じであるため同一のコードと見なされるということです。
転回形コードの場合、特にC(onG)とかAm(onC)とかのベース指定表記が付かない場合もありますが、転回形のベース音を指定したい場合は、オンコード表記して明示します。
転回形コードは以下のように種別されて呼ばれる場合もあります。
- 3度音がベース→第1転回形
- 5度音がベース→第2転回形
- 6度音もしくは7度音がベース→第3転回形
ちなみにベース音がルートの場合、ベース音以外の音の積みかたの順番がどのように変わったとしても、わざわざ転回形とは呼ばないのが一般的です。
厳密にはルート音を最低音(ベース音)にして3度堆積になっていなければ、それは転回形なんですが、ギターのコードなどは、ほとんどがそんな感じなので、普通はわざわざ区別しません。
転回形以外のオンコード
転回形以外のオンコードは様々なものがありますが、ベースライン絡みだったり、ドミナント機能・サブドミナント機能の代理コードで、Ⅳ(onⅤ)、Ⅱm(onⅤ)などの慣用句的なものもあります。
オンコードは解釈が難しいものも沢山あるので、そういうものは作曲した人に直接意図をきかないと本当のところはわからなかったりしますが、よくあるのが下記のパターンです。
- コードやフレーズを固定したままベース音を動かした結果オンコードが発生
- 逆にベース音を固定したままコードやフレーズを動かした結果オンコードが発生
分数コード
分数コードは、分母・分子という分数の形で表記されるコードです。
上で解説したオンコード(分母は単音)も分数表記される場合もあるので、この2つは混同されがちですが、正式な分数コードは分母も和音になります。
アッパーストラクチャートライアド
アッパーストラクチャートライアドは、分数コードのうち一番使用頻度が高いものです。
特徴は分子が3和音=トライアドになっており、分母のコードからみると分子のトライアドがテンションノートになっています。
例えばD/C7なら、Dトライアドは分母のC7コードの9th、♯11th、13thということになります。
沢山テンションがつくと表記がごちゃごちゃになるし、とくに鍵盤プレイヤーはテンションをアッパーストラクチャートライアドとして捉えたほうが理解しやすい、という事情もあり、テンションコードを分母・分子に分割して記載することが多いです。
ポリコード的な分数コード
分数コードはオンコードの省略表記か、アッパーストラクチャートライアドの場合が大半ですが、例外もあります。
そういう例外的な分数コードは、2つの協和しないコードが同時に鳴るということになり、いわゆるポリコードの範疇になってきます。
ポリコード的分数コードは、作曲者が最初から意図して作る場合もありますが、即興演奏や感覚で作ったものにコードネームを付ける際、他の解釈が難しいために分数コードで表現した、という場合もあります。
即興演奏で鍵盤で両手でそれぞれ違うコードを鳴らしたり、バンド演奏で、あるコードが鳴ってる上でコードプレイをして半音ずつズラしたりすると、ポリコード状態になります。
ポリコード的分数コードはコード単体でみると非常に複雑な響きになり、コード機能的にも扱いが難しいので、作曲で意図的に使うのは結構テクニックがいると思います。
4度堆積コード
音楽理論ライブラリー第3回でコードの基礎を解説した際、3度堆積以外のコードも存在するということを書きましたが、その代表が4度堆積コードです。
4度堆積(4thインターバルビルド)コードはルートから完全4度、もしくは増4度の音程で音を積み上げます。
4度堆積コードを一般的な調性やモードの中で使う場合は、ルート以外のコードトーンは同ルートの3度堆積コードの4th(11th)、7th、3rd、6th、2nd(9th)……という形で積んでいくことになります。
4度堆積コードのコードネームですが、4度堆積コード専用のコードネームというのが考案されたりもしましたが、普及しておらず、同ルートの3度堆積コード+テンションという形に変換されて表記されるのが一般的です。
例えばCをベースにした完全4度堆積コードなら、Cm11(♯5)などになります。
4度堆積コードはコード機能的にフラットなので、アドリブ演奏などでコード機能を気にせずに即興でハーモナイズしたいときなどに便利です。
また、完全4度に増4度音程を混ぜることで、その時のキーの構成音に合わせれば、臨時記号を出すことなく、そのキーの響きにマッチさせることができます。
作編曲においては、4度堆積コード独特の硬質でフラットな響きが欲しいときに使われます。
4度堆積コードをベースに作曲された楽曲もありますが、多くの場合は普通の3度堆積コードをベースとする音楽上で、表現の幅を広げるために使われます。
――今回まででコードの構造的なことを一通り学習しましたので、次回からはコードがどのように音楽・調性を構成しているのか?ということを解説していきます。
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