特殊なスケール・モード奏法【音楽理論ライブラリー11】

音楽理論ライブラリーでは、前々回前回とスケール(音階)の学習をしてきました。

今までやってきたスケールは、西洋音楽をベースとした一般的なメジャーキー・マイナーキーで構成された音楽で使用されるものです。

ですが、音楽は西洋音楽だけではないし、今までやったような一般的な概念で捉えきれないものも存在します。

今回はそういう少し特殊なスケールの使い方を解説します。

特殊スケールの種別

一般的なメジャーキー・マイナーキーの概念から外れるもののうち、代表的なのは以下の4種だと思います。

  • 民族音楽で使う各種民族音階
  • ブルースを起源とするブルーノート系音階
  • 人工的に作られた音階
  • モードスケールの拡張的な使用

今回はこれらを解説しますが、こういうものが登場する場面は、コード進行も特殊な場合が多いです。

民族音階なら、各民族音楽固有の慣用句的進行だったり、ブルーノートなら主要コードが全てドミナント7th化されていたり。

基本的にはこういう特殊スケールは然るべき進行上での使用となりますが、コードトーンとテンションの構成さえ一致すれば、あらゆるコード進行に対してコードスケールとして使う事が可能で、作曲やアドリブ演奏の幅を広げることができます。

民族音楽系のスケール

世界にはたくさんの民族音階が存在します。

例えば、伝統的邦楽・中国伝統音楽・フォルクローレ・フラメンコ・インド音楽・アラブ音楽などで用いられるスケールです。

民族系音階は総じてペンタトニック(5音階)が多いのも特徴です。

民族音楽とその独自音階は数えきれないくらいあるし、それぞれ独自の理論体系が存在するので、本格的にやろうと思うと、それら一つ一つに対してかなりの研究が必要になってきます。

ここではそこまで深入りせず「一般的なコード進行上で少し変わったコードスケールとして使用する」といった用途の解説に止めます。

インド・アラブ・スパニッシュの系統

インド音楽・アラブ音楽・フラメンコ及びアンダルシア民謡では♭2ndを含むフィリジアン系の音階が使われます。

他の民族音階は5音階=ペンタトニックが多いですが、これは西洋と同じ7音階に近いです。

「近い」というのは、経過音、修飾音が多く、アラブ音楽では微分音(半音のさらに半音)を使ったりするので、7音階を基本にしつつも、バリエーションが多いです。

インド音楽とアラブ音楽は異なった系統で、それぞれ独自の理論体系があります。

深入りすると、とんでもない文章量になるので、ここではそこまで突っ込まずフィリジアン系の音階を使ったエスニックな表現ということでまとめさせていただきます。

スパニッシュ=フラメンコの音階についてですが、これもインドを起源としてアラビア経由でスペインまで伝わった音楽の系統です。

ロマ(ジプシー)の移動に伴って数百年かけてインド北部からスペイン・アンダルシアまで到達しています。

フラメンコなどのスペイン音楽で使うスパニッシュ系音階や理論に関しては、当ブログ「フラメンコ音楽論」で詳しく扱っていますので、そちらをご覧下さい。

ちなみにジプシー系の音楽はヨーロッパ各地へと波及していますが、スペイン以外の多くのジプシー音楽は意外と普通のマイナーキーが主体だったりします。

和音階系

日本の作曲家が日本古来の音階をとり入れて曲を書くことは良くあることです。

坂本龍一さん、久石譲さんなどはそういう曲を沢山書いていますし、J-POPでも日本古来の音階をうまく取り入れてヒットした曲はたくさんありますよね。

和音階は主に5音階(ペンタトニック)で、下記のようなものがあります。

  • 陽音階=陽旋、半音を含まない和音階
  • 陰音階=陰旋、半音を含む和音階
  • ヨナヌキ音階=メジャー・マイナースケールから4thと7thを抜いた民謡・演歌系の音階

ペンタトニックといっても、次にとりあげるロックやブルースで使われるブルーノートペンタトニック、マイナーペンタトニックとは構成が異なります。

ブルーノート系のスケール

アメリカを中心に、黒人霊歌からブルース、ジャズへと進化していった音楽系統があり、ブルーノートという独特の音使いをします。

ブルーノート系の音使いは源流はアメリカ黒人の故郷であるアフリカがルーツですが、カントリーやブルーグラスといった白人系のトラディショナルな音楽ジャンルとも密接な関係にあります。

また、ブルーノートはロック・ソウル・R&Bなど、アメリカルーツの音楽全般で欠かせない要素です。

ブルーノートとは直訳で「憂鬱な音」ですが、メジャースケールに対して(正確にはM7は経過的にしか使わないのでミクソリディアンのほうが近い)♭3と3の中間音、♭5、♭7などが混ぜて使われるのが特徴です。

伝統的なブルースで使用されるコードは、Ⅰ7・Ⅳ7・Ⅴ7というドミナント7th化された3コードがベースになります。

ブルーノート系の音階には以下のようなものがあります。

  • ブルースメジャー(1,2,m3,M3,4,♭5,5,M6,m7)
  • ブルーノートペンタトニック=マイナーペンタトニック(1,m3,4,5,m7)
  • メジャーペンタトニック(1,2,M3,5,6)

ブルースメジャースケールはブルースで使われる全ての音が内包されたスケールですが、その省略形として3種のペンタトニックスケールがあります。

さらにフレージングによってドリアン、ミクソリディアンなどがミックスされて使われます。

ブルーノート系音楽の特徴としてコードが変わっても、Ⅰのブルーノート系スケール一発で通すこともできます。

もちろんコードごとにブルーノート系スケールを当てはめることも可能で、どちらでもいけるようになっているのがブルーノート系音楽の特徴です。

ブルースの発展形としてのモダンジャズ

モダンジャズはザックリ言うと、ブルースがスイングジャズなどを通して複雑化してきたもので、チャーリー・パーカーを創始者とするビバップ以降、様々なインプロヒゼーセョンの手法が編み出されて先鋭化していきます。

一般的にモダンジャズのインプロビゼーション手法は以下のようなものです。

  • ブルーノート
  • 半音でのアプローチ
  • 細かいリハーモナイズ(コードの付け替え)
  • オルタードやコンディミなどの活用
  • 拡張的なモード奏法(下で解説)

これらを駆使していくと、使える音的にはなんでもありの様相になってきますが、フレージングなどの基本的発想はブルースから発展してきたものです。

機械的に並べられた音階

ある特定の法則で音を並べて作られた人工的なスケールもありますが、使われ方としては一般的な西洋音楽の体系の中で、特殊なテンション感が欲しくて使用される場合が多いです。

以下に代表的なものをご紹介します。

  • ディミニッシュスケール(1,2,m3,4,♭5,♯5,M6,M7)
    ルートから、全音、半音、全音、半音……という並びで作られている8音階。ディミニッシュコードと1音上のディミニッシュコードを組み合わせたもの。ディミニッシュコードに適用される
  • コンビネーションオブディミニッシュ(1,♭2,♯2,M3,♯4,5,M6,m7)
    ルートから、半音、全音、半音、全音……という並びで作られている8音階。ディミニッシュコードと半音上のディミニッシュコードを組み合わせたもの。ディミニッシュスケールの転回形でドミナント7thコードに適用される
  • ホールトーン(1,2,M3,♯4,♯5,m7)
    全て全音(長2度)で構成される6音階。ドミナント7thコードにも適用できるが、オーギュメント7th系のコードにマッチする
  • クロマチックスケール
    全て半音(短2度)で構成されるスケールで12音階。平均律の12の音全てを含むので、平均律の楽器で表現出来る全てのスケールを内包した究極の音階。逆にいえば、何の特徴も無いフラットな音階

モードスケールの拡張的な使い方

今まで、モードスケールはダイアトニックコードに当てはめるためのコードスケールとして扱ってきましたが、拡張的なモード活用法として、Ⅰ・Ⅰmコードに対して、イオニアン(=メジャースケール)・エオリアン(=ナチュラルマイナースケール)以外のモードスケールを当てはめることがあります。

Ⅰコードに対してリディアンを使ったり、Ⅰmコードに対してドリアンやフィリジアンを使ったりする場合です。

Ⅰコードに対してイオニアン・エオリアン以外のモードを使うと、それぞれ独特な雰囲気になりますよね。

例えば、Ⅰコードに対してドリアンやミクソリディアンを適用すると、フレージングによってはブルーノートぽくなるし、フィリジアンを使うとスパニッシュ・アラブぽくなったりして。

こうしたモードの拡張的解釈は1960年代にマイルス・デイヴィスらのジャズミュージシャンによってインプロビゼーションの一つの方法論として推し進められ、そうしたモードスケールの響きを利用した奏法を「モード奏法」と呼ぶこともあります。

ちなみに、こういうイレギュラーなモードスケールの使用は単純に「転調している」と捉えることもできます。

「転調」なのか、Ⅰコードにモードを適用させた「モードチェンジ」なのかは、曲の作りにもよるし、解釈のしかたでも変わってきます。

――今回でスケールの学習は終了です。次回からは、今までにやった、調性・コード・スケールといった基礎知識を活用して応用的な内容に移っていきたいと思います。

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