「マイノリティのWeb戦略」は「ニッチジャンルの発信者がインターネットを介して新規の視聴者を獲得していく」というテーマの連載です。
前回は、インターネットで発信していくための基本的な考え方を書きましたが、今回から発信プラットフォーム毎の運用方法の考察に入っていこうと思います。
インターネットの発信プラットフォーム
インターネットメディアの発信プラットフォームの概要は、フラメンコ音楽論第47回「インターネットの影響」で書いていますので、そちらもご一読いただけると、理解が深まると思います。
この記事の中で、インターネットの発信プラットフォームとして①動画サイト②SNS③ライブ配信④オンラインレッスン⑤ブログ⑥ホームページといったものを紹介しました。
これから「マイノリティのWeb戦略」では、これら各プラットフォームの攻略法を研究していきたいと思いますが、今回は①動画サイトと②SNSについて、まずは全プラットフォームに共通する基本的な事を考察しようと思います。
コンテンツ戦略には欠かせない動画サイトとSNS
現在、動画サイトとSNSはコンテンツ発信者にとって主要な拡散ツールとなっていますが、同時にコンテンツの受け手にとっても「コンテンツ発見・共有ツール」として利用される割合が大きくなっていて、これらを無視したコンテンツ戦略など考えられません。
動画サイトやSNSのアカウントを育てる事は、コンテンツ戦略上、非常に重要だと言えるでしょう。
まずは、動画共有がメインとなる、YouTube・ニコニコ動画・TikTokなどのプラットフォームを「動画サイト」として、これらに共通の留意事項をお話しいたします。
動画サイトの攻略
ニッチジャンルの発信者が動画共有サイトでアクセスを伸ばしていくには、とにかくインプレッション(露出)を増やす事と、動画のCTR(クリック率)を上げていく事が重要ですが、動画の再生完了率(動画全体のどのあたりまで視聴されたか?)やエンゲージメント(高評価やコメントなどの反応)も、その動画の評価(評価ランクが上がるとインプレッション数も増える)に大きく影響してきます。
以下に、インプレッション数やエンゲージメント率を高めていくための方法を挙げてみましょう。
人気ジャンルを意識したブランディング
実際のところ、動画チャンネルのアクセス数を左右する最大要因は「需要の多寡」です。
人気ジャンルとニッチジャンルだと、人気ジャンルは競争も激しいですが、それ以上に視聴需要の差が大きいので、同じくらいのクオリティーの動画を投稿したとしても、再正数に大きな差が出るのが現実なのです。
まぁ、これを言ってしまったら「ニッチジャンルでの発信」という、この連載の主旨と矛盾が生じてしまう事になりかねないのですが、ジャンルによる集客効率の差を認識しておくことで、それなりの戦略も立ってくると思うんですよね。
これは逆説的かもしれませんが、ニッチジャンルでの発信において再正数や登録者数の事を考えるなら、人気ジャンルの投稿者の方法論を学び、少しでも多くの視聴者に対して露出出来るように、動画の内容やチャンネルのブランディングを吟味していく必要があるのではないでしょうか。
シンプルなやりかただと、人気曲を素材にした「歌ってみた」「弾いてみた」「踊ってみた」とか、人気投稿者とのコラボレーションなどが考えられますが、無軌道にやり過ぎるとチャンネルのブランディングが曖昧になって評価が上がっていかない、ということもあるので、一貫性のあるテーマを定めて取り組むという事が重要に思います。
動画のクオリティーを高める
普通に考えると、動画のクオリティーというのは一番重要な要素ですよね。
しかし、まずは再生ボタンを押してもらわないとその動画が良いのか悪いのかも分からないし、単純な再生数なら、紹介文に含めるキーワードやハッシュタグの付け方、サムネイルの作り方などのほうが影響が大きいです。
では、サムネイルやタグをはじめとしたテクニックだけで再正数を伸ばせれば動画自体の出来はどうでも良いのか?というと、全くそんな事はありません。
動画のクオリティーは、再生完了率、エンゲージメント率、フォロワー・登録者数の増加数と定着率、チャンネル内の他の動画を見てもらえるリピート率などを決定する最大要因となります。
長期的には、そうした積み重ねがチャンネルの評価を高めることに繋がっていくのです。
一言で動画のクオリティーといっても様々な要素がありますよね。
・画質
・音質
・内容の出来
この中だと「内容の出来」が一番重要なのは言うまでもありませんが、画質と音質も良いに越したことはありません。
画質に関しては、自分は今まであまりこだわっていませんでしたが、音質に関しては既に色々とこだわってやっていて、詳しくは「低予算で実現するコンテンツ制作」の連載で動画ファイルの音声についても書く予定でいます。
今回は、詳しい解説は割愛しますが、YouTubeを始めとした動画サイト向けのお薦め設定を書いてみます。
画質(解像度)
画質について、ここでは解像度設定について言及しておきます。
YouTubeなど動画サイト向け動画の推奨解像度は以下の通りです。
1920×1080ピクセル(横画面)
1080×1920ピクセル(縦画面)
対応解像度がフルHD(1080p)までの動画サイトが多いので、画質と汎用性を考えると、現時点ではフルHD解像度が最もバランスが良いのではないでしょうか。
機材スペックなどによりフルHD画質だとコマ落ちしたりする場合はHD画質(1280×720ピクセル・720×1280ピクセル)でも良いでしょう。ライブ配信では通信速度なども考慮してHD画質までに止めたほうが無難です。
HD画質以下の解像度では画質の粗さが目立つようになるし、逆に4kなどの高解像度だとファイルサイズが巨大化して取り回しが悪くなる上、そもそも動画サイト側が対応していなかったり、ビットレートが追い付かずに画質が悪くなったり、コマ落ちしたり、再生が途中で止まったりと、まだ問題が多い印象です。
音質
動画の音質については色々と解説したいこともあるのですが、今回はエンコード時の音質設定に限定して解説します。
YouTube等にアップロードする動画ファイルはmp4形式が最も汎用性が高く主流となっていますが、その音声は多くの場合AACもしくはmp3形式で圧縮・収納されます。
mp4などの動画ファイルの音声で推奨される設定は以下の通りです。
推奨サンプリングレート
48000Hz
ほとんどの動画サイトの音声は48000Hzで再生されるため、最初から(出来たら録音時から)48000Hzで作った方が音質劣化が少ないです。
推奨ビットレート
160kbps以上
YouTubeを基準にするなら、音声はOpusという形式に変換されて再生されることが多く、そのビットレートは160kbpsと言われています。ですので、アップロードする動画はそれよりも高音質であることが望ましいでしょう。
目安は、AAC形式なら160kbps以上、mp3形式なら192kbps以上です。
サムネイルを作る
動画サイトの視聴者は、動画一覧のサムネイル(縮小表示用の画像。サイトによってはカバー画像などという名称になっている)を見て視聴する動画を決めることが多いため、サムネイルにどんな画像を使って、どんな情報を入れるか?というのは非常に重要になってきます。
サムネイルは、専用の画像をアップロードしない場合は動画の中の一場面を任意に選んで設定されることが多いですが、それだとインパクトや情報が足りず、他の動画に埋もれてしまうことが多いのです。
サムネイルに使う画像はなるべくインパクトがあるものが良いですが、動画の内容と無関係だったりすると、視聴者を混乱させるし、最悪ペナルティー対象になったりチャンネル評価を下げることになってしまいますので、動画中の最もインパクトがある場面を切り取ってベース画像とするのがお薦めです。
次に画像編集ソフトで文字情報やロゴを入れていきますが、まず、動画の内容を表したタイトルは必須ですよね。
そして、一目で同じ投稿者の動画だと分かるように毎回統一したロゴやチャンネル名などを入れるのもブランディング上重要な事です。
あとは、残りのスペースにキャッチフレーズなどを入れたりするのですが、コンテンツの方向性や投稿者の考え方によっては、キャッチフレーズ等は入れずに、デザイン性重視でシンプルにまとめるというのもありかと思います。
今、動画サイトの動画タイトルやサムネイルは視聴を煽るキャッチフレーズで溢れ返っていて、そういう煽りは既にステレオタイプ化している感もあるので、シンプルにしたほうが目立つかも知れませんね。
また、文字の色や大きさも、小さな画面で表示させた時も一目で判読できるように工夫しましょう。
ちなみに、自分は枠付きの文字ってゴチャついてあまり好きではないので、文字の下に黒い薄アミを入れて文字の判読性を上げる作り方をしています。
タイトル・紹介文を工夫する
多くの動画サイトは1000文字以上の長い紹介文を掲載することが出来ます。
そして、ここが重要なのですが、検索エンジンや動画サイト内での検索では、タイトルや紹介文に含まれるキーワードなどによって検索結果に表示される、ということがあります。
ですので、タイトルや紹介文に上手くキーワードが入るように工夫する事はとても重要です。このあたりはブログのSEOと同じですよね。
文中にURLを入れればリンクになるサイトも多いので(TikTokとインスタグラムは不可)、関連したコンテンツや、自分のSNS・ブログ・ホームページなどの紹介もしっかり入れておきましょう。
また、YouTubeでは自分で言語を選んで翻訳文を追加出来たりしますが、それが出来ないサイトでも、英語表記を併記することで、ワールドワイドに再生数を伸ばしていく可能性が広がります。
ハッシュタグについて
ハッシュタグは「#」をつけた単語を関連キーワードとして設定して、検索してもらえるようにする仕組みで、Twitterやインスタグラムによって普及したものですが、現在はほとんどの動画サイトやSNSでハッシュタグが使えます(ニコニコ動画は非対応)ので是非活用しましょう。
ハッシュタグも付けすぎは効果が下がると言われていますが、そのあたりはサイトによって異なります。
一般的には、タイトルや紹介文に入れることができなかった重要キーワードをいくつかハッシュタグとして付けておく、くらいの使い方が一番効率が良いように思います。
また、ハッシュタグにも「人気のタグ」というものがあって、期間限定でバズったりするタグもあるので、コンテンツ内容と合致するのなら、そういうものを狙っていくのも良い戦略ではないでしょうか。
フォロワー数を増やす
フォロワー(登録者)を増やす仕組みはプラットフォームによって異なりますが、動画サイトやSNSへの投稿は、基本的にフォロワーに対して発信されるものなので(動画サイトの場合は検索等からの流入も多いですが)、フォロワーの数を増やすことで1投稿当たりの影響力を増すことが出来ます。
それなりの頻度で投稿していれば、フォロワー数も自然に増えていくものなのですが、もっと早く増やしたければ、他のアカウントをこちらからフォローしたり、他の人の投稿にコメントしたり、気になるアカウントにメッセージを送ったり、といった交流活動が必要になってくるでしょう。
ただ、そういう活動で増やしたフォロワーは、こちらのコンテンツに興味を持ってくれて、というのではなく「義理でフォロー返ししてくれただけ」という場合が多いので、実際にコンテンツを見てくれたり、リアクションしてもらえる確率は低いんですよね。
ですが、そうやってこちらからアクションして出会った人の中からも交流が広がるケースもあるので、やらないよりはやったほうが良いというのも確かな事なのです。
とくにアカウントを作った直後は、そうやってある程度フォロワーを増やしてから本格的な投稿活動を開始したほうが効率が良いのではないでしょうか。
コメントについて
動画サイトも広義のSNSですので、コミュニケーションは重要です。
コメント数やコメント内容も重要なエンゲージメント評価の指標となっていますので、コメントはマメにチェックしましょう。
来たコメントに返信すれば、そこから会話が広がってさらにコメント数が増えるかもしれないし、「このアップ主は返信くれるんだな」とわかれば、常連さんになってくれるかも知れませんし。
また、こちらから他のチャンネルの動画にコメントするようにすれば、そのチャンネルをやっている人やそのチャンネルに来ている人の目に止まって、自分のチャンネルに来てもらえるかも、というのもありますよね。
投稿ペース
動画制作には多くの労力と時間がかかるし、個人個人の状況により投稿できるペースにも限界があります。
自分などは当初は週に1本以上の動画投稿を目指していましたが、状況的にそれだとキツくなってきたので、現在は月に1、2本のペースになっていますし。
動画サイトのアカウントを育てる上で大事なのは、「一定のペースで投稿する」という事です。
短期間にあまり沢山の動画を投稿しても、視聴者のペースが追い付かずに動画一本あたりの効果が下がってしまうし、期間が空きすぎても「もう活動していないのかな?」と思われて離脱されてしまう可能性がありますので。
また、公開の曜日を決めたり、月初に公開とか決めておけば、視聴者も動画公開を把握しやすくなるので再生数にはプラスになるでしょう。
そうはいっても、動画というのはなかなか思うようなペースで作れなかったりしますので「余力がある時に余分に作ってストックしておいて、小出しにしていく」という手法が有効になります。
今までの自分自身の経験から言うと、ある程度チャンネルが育っているなら月に1本程度の投稿頻度でもチャンネルを成長させていけますが、それ以下のペースになると流石に成長速度がかなり鈍くなるかも?といったところです。
SNSの攻略
後半はSNSの攻略法について考察してみましょう。
前述の通り、現在は動画サイトとSNSの境界は曖昧なものになっていますが、ここでは、X(旧Twitter)・Facebook・Instagramなど「必ずしも動画がメインではない交流サイト」をSNSとして扱います。
一般に、SNSは動画サイトよりも幅広い目的で使用され、日記的に使う人・ライブ告知専用の人・コンテンツをひたすら貼る人など千差万別で、攻略法といっても漠然としたものになってしまいそうですよね。
今回は「ニッチジャンル発信者のWeb戦略」の一環として書いていますので、コンテンツ・ライブ・教室などのPR効果を高める、ということを主目的として考察してみようと思います。
なお、上の「動画サイト攻略」で書いた「ハッシュタグについて」と「フォロワー数を増やす」という2点については、SNSも動画サイトの場合と全く同様ですので割愛します。
静止画を添付する
SNSは動画サイトに比べて文章と静止画の果たす役割が大きくなりますが、中でも写真などの静止画を投稿に添付することの効果は非常に高いです。
ブログでいうところの「アイキャッチ画像」の役目をして、読者の目に止まる確率がぐんと上がりますので。
基本的に流し読みされるSNSにおいては、動画を添付すると、そこで閲覧の流れが止まってしまうので、静止画のほうが好まれる傾向すらあると思います。
ですので、SNS投稿のために普段からマメに写真を撮影する癖をつけておくのが良いですよね。自分はめんどくさがりだし、自撮りとか恥ずかしくて苦手ですが(笑)
ブログや動画のURLを紹介する時は、必ずしも写真を用意する必要はありませんが、アイキャッチ画像やサムネイルが表示されるようにしましょう(やりかたは各SNSによって異なります)。
交流に繋がるような投稿内容
SNSに投稿する内容ですが、コンテンツ共有を主目的とする動画サイトと異なり、SNSは「交流」ということが重要視されるので、リアクションが得やすい切り口で投稿する、というのがポイントになると思います。
このあたり、今まで自分は全く出来ていなかったのですが、例えば投稿の中に質問を入れたりすると、回答してくれる人が現れて、そこから交流が広がったりとか。
そういう読んだ人がリアクションしやすい投稿を心がけていけば自然に交流も増えていくものと思いますが、自分からアクションを起こせば、さらに速いスピードで交流が広げることが出来そうです。
具体的には、他の人の投稿に「いいね!」やコメントをして回ったり、直接メッセージを送ってみたり、ということですが、やりすぎると迷惑行為になりかねないし、このへん本当に実社会と同じですよね……。
あとは、これも自分自身の反省からなのですが、SNSにコンテンツのみを投げ続けると、徐々にリアクション率が減って投稿効果が落ちていくように思います。とくに個人のタイムラインとかだとこれが顕著です。
やはり見るほうも人間だし、相手の素顔や思考が見えたほうが、親しみをおぼえてリアクションしてもらえる、ということはあると思うし、自分も最近は「全SNS投稿の半分くらいは日記的なものや、その時の自分の思考を投稿をしたほうが良いのかも?」と考えています。
――以上が「自分が考えるSNS全般に共通する攻略法的なもの」ですが、SNSは動画サイトなどに比べてユーザーの参加目的が幅広いし、交流の直接的効果も未知数なので「何にどれくらい時間を割くべきか」というのが判断しずらいですよね。
自分はそんな理由からSNSでの交流にあまり力を入れて来なかった、というか、コンテンツ供給で手一杯でSNSでの交流まで余力が回っていなかったのですが、これは今後検討すべき課題だと思っています。
今回のまとめ
今回は動画サイト・SNS全般に共通する攻略法を考察しました。
動画サイト・SNSには様々なプラットフォームがありますが、サービスの人気が凋落して過疎化(ミクシィとか)したり、サービス自体が終了(Google+とか)してしまうと、せっかく育てたアカウントが無駄になってしまいます。
ですので、動画サイト・SNSのアカウント育成に労力をかける前に、そのサービスの将来性を良く見極める必要がある、ということは意識しておきましょう。
次回からは、代表的な動画サイト・SNSの紹介やサイトごとの個別攻略法などを書いていこうと思います。
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