機材解説シリーズは今回で2回目です。
他にやりたい記事が沢山あって1年くらい空いてしまいましたが、今は新型コロナでステイホームを強いられて自宅でコンテンツを作って発信したい人は増えているだろうし、こうした音楽制作機材やソフトウェアの知識の需要が高まっていると思われます。ですので、このシリーズも再開して、積極的に企画していこうと思います。
前回は、録音や音楽制作の要となる『オーディオインターフェース』についてお話しました。

自分の方針として、最小の投資で必要十分の効果を得ることを目指しています。
今は昔に比べると安くて良い機材がたくさんあって、調べる手間さえ惜しまなければ低コストで高いクオリティーの音楽制作が可能なので、ここではそういう『DTMの裏道』を紹介していきます。
今回は、録音やミキシングの時に使う音楽制作用ヘッドホンについて考えてみます。
モニターヘッドホンとは?
まず、モニターヘッドホンとはどういうものか?というところから解説します。
モニターヘッドホンは、自宅でやるにしろ、スタジオでやるにしろ、音楽制作には絶対必要なものですが、用途は大きく分けて二つあります。
録音モニター用途と、ミキシング・マスタリング用途です。
用途ごとに見ていきましょう。
録音モニター用のヘッドホン
PCで自宅録音したり、スタジオで録音する場合も、レコーディングというのは、バックトラックやクリック音をヘッドホンで聴きながらマイクに向かって演奏します。
その際にヘッドホンから音が漏れてしまったりすると、それをマイクで拾ってしまって、ミキシング時に音の濁りの要因になってしまいます。
従って、録音モニターに適したヘッドホンはの条件は以下の通りです。
- 解像度が高くて、自分の演奏・バックトラック・クリック音が聴きやすい
- 音漏れが少ない
なお、ここで言う『解像度』とは、音の分解能のことで、解像度が高いというのは、各パートがしっかり分離してハッキリ聴こえる、という意味です。
ミキシング・マスタリング用のヘッドホン
本来、ミキシング・マスタリングはスピーカーでしっかり音を出してやるべきものなんですが、まともなミックスやマスタリングができるほどの音量でスピーカーをならすのって日本の住宅事情は厳しいものがあるし、深夜の時間帯で音が出せない状態で音源を仕上げなければならない場合もあるので、普通の住宅でミキシング・マスタリングをする場合、ヘッドホンは必須と言えます。
超高音(10kHz~)と超低音(~100Hz)に関してはスピーカーよりヘッドホンのほうが圧倒的に聴きやすいし、スピーカーではわからないような細かい音やノイズを聴くのにもヘッドホンは重宝します。
あとは、今の音楽再生環境って、とくに日本だとスマホ+イヤホンとか、PC+ヘッドホンが多いので、音作りにおいて、ヘッドホン・イヤホンでどう聴こえるか?というのは昔より重要度が上がってると思います。
ミキシング・マスタリング用途のヘッドホンに求められるのは
- 上から下まで全帯域が偏りなく聴ける
- 定位がしっかりしていて音の広がりが聴ける
- 解像度もあって全パートのエフェクトのかかり具合まで判別できる
こんなところですが、上手く機種を選定すれば録音モニター・ミキシング・マスタリング全てを1本でまかなうことも可能でしょう。
逆に色んな特性のヘッドホンやイヤホンを持っていると、音作りの参考になるし、それだけ幅が広がりますが。
密閉型と解放型
ヘッドホンには密閉型と解放型の二種類があります。
密閉型は耳とハウジングの間に音を閉じ込めて、音を外に漏らさないタイプで、録音モニターに使うなら、密閉型であることが絶対条件です。
もう一方の解放形はハウジングが密閉されておらず、外にシャカシャカと音が漏れるタイプですが、密閉型に比べると音の抜けが良く、耳への負荷も少ないので、長時間聴いても疲れにくいのが利点です。
録音モニター以外の用途なら解放型でもいいと思います。
イヤホンじゃダメなの?
イヤホンでも別にいいと思います。
プロでも録音モニターはイヤホン使う人もいますし、音漏れという面ではカナル型のイヤホンはヘッドホンより優れています。
見た目も目立たないので、ライブのモニターなどは今はイヤホン一択ですよね。
ただ構造上、イヤホンとヘッドホンでは、解像度と定位感の面でヘッドホンのほうが有利なので、イヤホンでヘッドホンと同等のモニター環境を得ようと思うと、不自然な聴こえ方になったり、かなり音量を上げないといけなかったり、何かを犠牲にしなければいけません。
自然な聴こえかた、ということを考えると
スピーカー>>>ヘッドホン>イヤホン
くらいと思いますが。
あと、これも重要なんですが、イヤホンはすぐ断線したりして、耐久性の面で長期間、制作で使い倒すには心許ないんですよね。
そんな理由から音楽制作用途では、まだまだヘッドホンが主流です。
自分ももっぱらヘッドホンです。
自分が使っているヘッドホン
今、制作用に使っているヘッドホンは3機種、4本です。
全ての機種が密閉型のモニター用ヘッドホンです。
リスニング用やミキシング参考用のイヤホン・ヘッドホンは色々持ってますが、ここでは現役使用している制作用途のものを紹介します。
ヘッドホンに関してオーディオマニア的な知識があるわけではないんですが、自分の用途である生楽器収録と、自宅でのミキシング・マスタリング作業をするために、必要十分かつローコストなものをチョイスしたつもりです。
以下、自分が使用しているヘッドホンのレビューをしてみますが、自分の主観で書くので、人によって感じ方は違うと思うし、参考程度にしておいてください。
SONY MDR-CD900ST レビュー
日本では定番の機材で、どこのスタジオに行っても置いてありますよね。
このヘッドホンは音質云々より、業界標準なので音楽制作者としてこの音を知っておくのは重要なんです。
スタジオで録音する場合なんかも、高確率でモニター用にこれを渡されるので、900STの聴こえ方に慣れておくのはプレイヤーとしても重要なことです。
そんな900STですが、実際の使い心地は?というと、オリジナルの状態だと自分には合いませんでした。
イヤーパッドがぺったんこで、すぐに耳が痛くなる時点で長時間使うのはしんどいです。
ですが、これはイヤーパッドを交換することで改善できましたので、そのことも含めて書きます。
MDR-900ST 音の傾向と使用感
音のほうは、録音モニターとしては大変優秀です。
中域の分解能に特化した音で、クリックと自分の音が凄く聴きやすく、とくにギターや歌を録るにはいいと思います。
色んなところで言われている通り、低音は弱めです。
これは、イヤーパッドが薄くて耳とドライバーがほぼ密着してる造りのせいっていうのが大きいかと。
そんな感じで、かなりキツい音色&耳が痛くなる装着感で、長時間使用はキツイわけです。
900STのイヤーパッド交換
前述の通り、オリジナルの状態では自分には合わなかったのですが、このまま眠らせておくものも勿体ないので、イヤーパッドを厚手のものに交換して積極活用することにしました。
交換用に使ったのはSHUREのSRH240(これも以前使ってました)用のパッドなんですが、耳がすっぽり入るタイプなので、めちゃめちゃ楽になりました。
パッド交換後は、ハウジングと耳のスペースが広くなったぶん、やや低音が強くなって、音のキツさも少しマイルドに。
ぴったりフィットするようになったので密閉性も上がって、音漏れもさらに少なくなってるし、このヘッドホンの命である中域の分解能もそれほど劣化していない(と思う)ので、いい感じです。
サウンドハウスで購入
SHURE ( シュアー ) / HPAEC240
900STはミキシングに使えるか?
では、900STをミキシング用途にも使えるか?というと、『あら探し&エフェクトかかり具合チェック専用ヘッドホン』ですね。これは。
なにしろ全部の音が近くて、定位感や広がりは皆無なので、これ一本で本格的なミキシングまで、というのは厳しそうです。
サウンドハウスで購入
SONY MDR-CD900ST
ClassicPro CPH7000 レビュー
CPH7000は、音響機材専門店のサウンドハウス(通称、音家)が独自に開発・販売しているヘッドホンです。自分は2本持っています。
録音モニターとしてはなかなか優秀で、装着感がいいので演奏動画撮影などの普段使いでは、こればかり使っていました。
これを買ったきっかけは、以前、とある録音の仕事で録音モニターヘッドホンを何本か揃えないといけない、ということがありました。
でも、900STとかだと何本も買うのは高くつきます。
そこで色々調べて浮上したのがCPH7000でした。
スペック表を見る限りかなり良いものだし、まず試しに一本買ってみたんですが、結果としては確実に価格以上の価値はあると思います。
最初は低音が出ないし、中音域がガチャガチャしていていたんですが、二週間くらい使い倒していたら、低音が厚くなって、中音域のガチャガチャ感もとれていい感じになってきました。
他のヘッドホンと比較しながら確認したので、耳の慣れだけではないと思います。
それを確認して、二本目を買ったんですが、一本目ほどいい感じになりませんでした。うーん。
CPH7000 音の傾向
音の傾向は、CPH7000は面白い特性と思います。
解像度は900STよりは少し落ちますが、各社から出ている5000円クラスのモニターヘッドホンより数段上です。
低音(ローエンド)の量は900STと同様に控えめなんですが、ベースパートの音量は無いけど、輪郭はクッキリしていて音程やフレージングは聴きやすい、っていう不思議な状態。
これ、多分ですが、ミッドハイが良く出るヘッドホンなので、丁度そこがベースパートの輪郭部分の倍音に当たってるのかな。
モニター用途にわざとこういうチューニングにしてるっぽいですが。
全体的にはハイ上がりで、少しガチャついた音質で、シンバルやハイハットがうるさく感じる事もあります。
そして、定位感と広がりは結構あるんですよね。
なので、ハイ上がりでローエンドが弱いということをしっかり計算に入れられるなら、900STよりはミキシングもいけると思います。
遮音性・装着感は優秀
録音モニターとして重要なのが音漏れですが、CPH7000はかなり少ないほうだと思います。
パッド交換後の900STと同程度かな。優秀です。
そして、この機種の最大の長所なんですが、装着感が抜群に良くて、長時間着けても全く疲れません。
総合的に見て、低価格で録音モニターヘッドホンを調達するなら、これを買っておいて間違いないと思います。
サウンドハウスで購入
CLASSIC PRO ( クラシックプロ ) / CPH7000
オーディオテクニカ ATH-M40x レビュー
現在、自分がミキシング・マスタリングに使用しているのが、オーディオテクニカのATH-M40xです。
日本ではMDR-CD900STがスタンダードですが、欧米では現在、オーテクのATH-M50xが最もスタンダードなモニターヘッドホンと思われます。
ATH-M40xはそれの一つ下のラインナップの製品です。
では、何故スタンダードのM50xにしなかったか?というと、色々と考えた末なんですよね。
ATH-M50xとATH-M40xの比較
M40xにするかM50xにするか?は結構悩んで、某専門店に試聴しにいったりもしました。
めんどくさがりの自分にしては珍しいことですw
比較結果は以下の感じです(自分の主観)
- M40xもM50xもフラットって言うけど、実際はややドンシャリ気味と思う
- 定位感や解像度・音の傾向は両機種ともよく似ていて、あまり差が感じられなかった
- M50xのほうが低音域が強くてズンズン来る。逆に言うと低音が盛られてる感がある。多分ドライバーの口径が5mm大きいから
- M40xのほうが軽量なので長時間作業は楽かも
- M40xはM50xの6割ほどの値段で買えるので金額差が大きい
自分の使い方はアコースティック楽器中心のミキシング用途だし、M40xですら低音強めに感じたので、M50xのズンズン感は逆に邪魔かな、と思ったわけです。
M40xでもベードラとベースはしっかり分離して聴こえるし、ズンズンがそんなに強くない分、全帯域が俯瞰しやすそうだったんですよね。
まぁ、この2機種は値段が同じだったとしても一長一短で互角に思えたので、だったらとコストを節約してみました。
ATH-M40x 音の傾向
今回紹介したモニターヘッドホンの中では一番バランスがとれていて、音の広がりもしっかり聴けるし、再生帯域幅と解像度もかなりあるので、上から下まで全部の音がクリアに聴こえます。
そしてリスニング用ヘッドホンばりに耳ざわりの良い音がします。
この音がフラットなのか?は一考を要しますが、今はこういう感じにチューニングされた再生環境が主流なのは感じます。
実際に、とくに海外音源はM50xで調整されたものも沢山あると思うので、それとほぼ同じ音の出方をするM40xをミキシング・マスタリング用に使うのは、全く見当外れではないでしょ?と考えます。
ATH-M40xは録音モニターとして使えるか?
では、ATH-M40xは録音モニターとしてはどうなのか?というと、全然普通に使えますね。
ただ、見た目に反して少し音漏れが大きいのと、やはり『それ用』に特化した900STと比べると、録音しやすさは違いを感じます。
ATH-M40xは自分の使ってきた中では一番万能型のモニターヘッドホンですので『ヘッドホンは録音からミキシング・マスタリングまで全部一本で完結したい』という人にもお薦めできます。
サウンドハウスで購入
audio technica ( オーディオテクニカ ) / ATH-M40x
――今回はモニターヘッドホンについて、自分の考えと機材の紹介をさせていただきました。
また機材に関する記事も書いていきますので、参考にしていただけたら嬉しいです!
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