「マイノリティのWeb戦略」は「ニッチジャンルの発信者がインターネットを介して新規の視聴者を獲得していく」というテーマで書いている連載です。
前回は世界最大の動画サイトであるYouTubeの攻略について書きましたが、今回は国産の老舗動画サイトで、一時はYouTubeと人気を二分していたニコニコ動画(niconico、ニコ動)の攻略を考察してみようと思います。
ニコニコ動画の特徴
ニコニコ動画(ニコ動)は、2006年創設・2007年本稼働とYouTubeに次いで長い歴史を持つ国産動画サイト(運営は株式会社ドワンゴ)で、日本国内のコンテンツ展開に特化しています。
ニコ動の最大の特徴は、リアルタイムでコメントテロップが流れるコメントシステムです。
かつては国内サブカルチャーの総本山として人気を集め、「ボカロP」「ゆっくり実況」など様々なムーブメントを巻き起こしましたが、スマホ時代に入ると徐々にYouTubeにシェアを侵食され、さらに近年は新興のTikTokなどに押されて一時期ほどの勢いは無いように思います。
とはいえ、ニコ動はアニメ・漫画・ゲーム・ボカロといった日本独自文化の発信において中心的な役割を果たしてきたサイトであり、現在もコアな視聴者が多いため、まだまだ重要な動画プラットフォームの一つと言えるでしょう。
今回はニコニコ動画の攻略について考察しますが、紹介文・投稿ペースなどの基本的な事は、第3回の「動画サイト・SNS攻略の基本」に書きましたので、そちらをご一読ください。
以下、ニコニコ動画固有の特徴・攻略法を考察していきます。
プレミアム会員制度【月額550円・720円】
これは個人的にはニコ動衰退の最大要因となっているものだと思っていますが、ニコ動には「プレミアム会員」という有料会員制度があります。
月額550円(AppleID・GooglePlayでの決済の場合720円)、年額6600円(AppleID・GooglePlayでの決済の場合6800円)という価格設定なのですが、これに課金することで以下のような機能が使えるようになります。
- 動画投稿上限数が解除されて無制限にアップロード出来るようになる
- 混雑時も優先的にアップロード出来る
- 常に高画質で視聴出来る
- 任意のサムネイルが設定出来る
- クリエイター推奨プログラム(収益化)申請の際に身分証明が不要になる
- プレミアム会員専用コンテンツにアクセス出来る
- 一部の広告を非表示に出来る
- レジューム再生、サムネイル機能の強化などプレイヤーの機能向上
- 作成可能なマイリスト数、マイリストへの登録動画数、保存履歴、非表示リストなどの数が増える
他にも色々あるようですが、現状、ニコ動を本気運用しようと思ったら、プレミアム会員登録が必須になるのはお分かりいただけるかと思います。
しかし、課金しないと動画アップロード数やサムネイル設定や視聴画質が制限されたりするというのは、この時代にいかがなものかと思うのですが。
動画サイトがYouTubeとニコ動しかなかった時代はそれでも良かったのかもしれませんが、今は選択肢が沢山ある中で、こういう無料ユーザーに対する厳しい制限がニコ動からユーザーを遠ざけていると思います。
ユーザーレベル【アップロード制限緩和】
ニコニコ動画にはユーザーレベルというものがあります。
従来は無料ユーザーは動画を1アカウントにつき50本までしかアップロード出来ないという制限があったのですが、2021年8月からユーザーレベルが一定値に達する事で、アップロード可能上限数が上がるシステムになりました。
自分のアカウントも50本までしかアップ出来なかったのが、いつの間にか90本までアップ出来るようになっていました。
ちなみに、ユーザーレベル8で上限70本、レベル13で上限90本、レベル18でアップロード無制限になるみたいですが。
ユーザーレベルは、主にプレミアムユーザーにフォローされることで上がっていきますが、手っ取り早いのはこちらからプレミアムのユーザーをフォローしてフォロー返しを狙う作戦でしょうか。
コメントテロップ【2ちゃんねるの系譜】
ニコニコ動画の最大の特徴は、コメントのシステムです。
動画にコメントが付くとリアルタイムで動画の中にテロップとして流れるようになっているのですが、一般的に「ニコ動の動画はコメントテロップも動画作品の一部である」という捉えられ方をされていますよね。
自分は2008年頃からよくニコ動を見ていたのですが、コメントのされ方とかが、なんというか「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」のノリに近いかも、なんて感じていました。
2ちゃんねるもサブカルチャーやネットスラング、アスキーアートを中心とした日本独特の文化でしたが、ニコ動はこのコメントテロップ機能によって「動画版2ちゃんねる」として、2ちゃんねるをやっていたようなユーザー層がコメントを書きに来てるんだろうな、と。
ちなみにですが、2ちゃんねるの創設者である西村ひろゆき氏はニコニコ動画の創業メンバーの一人(ドワンゴの子会社、ニワンゴの取締役)であり、2013年頃まで運営にも関わっていたようです。
この事が、どの程度ニコニコ動画の方向性に影響したかは分かりませんが、こうした事からも、2ちゃんねるとニコニコ動画は運営・ユーザー層がかなり被っているものと思われます。
話が少々長くなりましたが、ニコ動はこの視聴者直接参加型コメントシステムが大ウケして、一時はYouTubeを食ってしまうくらいの動画サイトに成長し、サブカルチャーを中心とした日本独自文化発信の中心的な存在になれたのだと思います。
このコメントシステムが無ければ、ボカロブームも「ゆっくり実況」などの文化も生まれなかったのではないでしょうか。
そんな風土がありますので、ニコ動でアクセスを伸ばそうと思ったら、面白いコメントをどれだけもらえるか?というのはかなり重要な要素になります。
マイリスト(プレイリスト)
ニコニコ動画もYouTubeと同様に再生リストを設定することが出来て、マイリスト・プレイリストという名称で呼ばれています。
マイリスト・プレイリストにはリスト番号が付与され、ニコ動サイト内ではこの番号でリンクが作れるので、コンテンツを拡散するのに大変便利です。
シリーズ
シリーズは2019年6月から追加された機能で、自分の動画をカテゴリー分け出来るものです。
マイリスト・プレイリストと似ていますが、以下の違いがあります。
- 大量(500まで)に作成出来る
- 動画投稿ページ・動画リストに自動的に反映される
- 自分の動画しか追加出来ない
- 1つの動画は1つのシリーズにしか登録出来ない
マイリストがあれば必要ないと思われる方も多いと思われますが、動画リストにカテゴリー区分が表示されるのは便利だし、視聴者も動画を探しやすくなるのではないでしょうか。
シリーズは、マイリストからワンクリックで設定する事が出来たりして、そんなに手間もかからないので、とりあえず設定しておくのが吉でしょう。
タグ
ニコニコ動画は「#」を付ける形の、いわゆるハッシュタグには非対応なのですが(2022年5月現在)、動画タグとして1つの動画につき最大11個のキーワードを設定することが出来ます。
他のサイトに比べて付けられるタグの数は少ないのですが、逆にタグの数などで迷わずに済むという利点もありますよね。
タグを付けると「百」とか「千」とかの数字がタグの横に表示されて、そのタグが付いている動画のおおよその数がわかるので、少なくとも「百」以上のタグを優先的につけるようにしましょう。
ニコニコミュニティ
ニコニコミュニティは、ニコニコ動画ユーザー同士が交流するために用意されたSNS機能で、動画・ライブ配信・イラストの投稿・閲覧・コメントが出来るほか、専用の掲示板が使えます。
自分は最初、Facebookのグループ機能みたいなものかと思っていましたが、ニコニコミュニティはコミュニティ主の個人サークル的な色彩が強く、動画投稿なども許可制だったりと、Facebookのグループほど気軽に自分のコンテンツをPR出来る感じでは無さそうですよね。
現在は、ニコ生主(ニコニコ生放送の配信者)が視聴者を集めるための用途が主流で、ライブ配信以外のコンテンツは、それほど活発にやりとりされていないように思います。
自分はそんな理由で、ニコニコミュニティをほとんど利用していないのですが、ニコニコ動画をメインサイトとして使用する場合や、ニコニコ生放送でライブ配信をする場合は、積極的に利用していくのが良いのではないでしょうか。
クリエイター推奨プログラム【アマゾンギフト券】
ニコニコ動画には「クリエイター推奨プログラム」というものがあり、これに登録することで比較的簡単に収益化出来ます。
クリエイター推奨プログラムはYouTubeパートナープログラムのような厳しい参加条件も無いし、プレミアム会員でなくても身分証を提出して審査に通れば誰でも参加する事が出来ます。
報酬は動画の再生回数に応じて「クリエイター推奨スコア」というポイントとして貯まっていくシステムです。
クリエイター推奨スコアはニコニコポイントに交換したり、一定以上貯めれば現金に換金することも可能ですが、1年間という有効期限があることに注意してください。
ちなみに、スコアで交換出来るニコニコポイント(これも最大2年間という有効期限がある)は、ニコニ広告(次に紹介)や、ニコニコ動画内の有料コンテンツ購入に利用できますが、プレミアム会員料金の支払いには充当できません。
自分の場合は、今までは換金しようにも換金条件を満たす前にスコアの有効期限が切れるので、仕方なくニコニコポイントに変えていたのですが、それも結局ニコニ広告くらいしか使い道が無かったし、名ばかりの収益化という印象でした。
しかし!です。
最近になって、クリエイター推奨スコアを1ポイント1円でアマゾンギフト券に交換出来るようになりました。これはめちゃめちゃ大きいですよね。
これによって実効性のある収益化が可能となりましたので、これからニコニコ動画を利用するならクリエイター推奨プログラムを利用しない手はないと思います。
ニコニ広告【ニコ動衰退の元凶?】
ニコニ広告は、ニコニコポイントを使ってニコニコ動画サイト内に用意された広告枠で動画を宣伝できる、という機能です。自分の動画、他の人の動画のどちらも広告可能です。
1回の広告の有効期間は1週間で、投入したポイント数に応じて、表示される場所が増えるシステムになっています。
ニコニ広告を出すと福引が引けたりして、そうすると次回広告に使える割引券がもらえたりするので、実際には思ったよりたくさん広告を出せたりということも。
ですが、このシステムもプレミアム会員制度と同様にニコ動衰退の大きな要因になっているように思うんですよね。
まず、ニコニ広告制度が始まる前に比べて、今はニコニ広告をしない動画の再正数が全然伸びなくなっていて「ニコニ広告ありき」な印象です。
結局、再生数を伸ばそうと思ったら「広告に沢山お布施しなさいよ」という事だし、正直、そういうシステムには気持ちが萎えますよね……。
このシステムは個人的には問題が大きいものだと思っていますが、現状、ニコ動で再生回数を増やそうと思ったら、ニコニコポイントを購入してニコニ広告するのが一番手っ取り早い方法となります。
被リンク効果【隠れたメリット】
ここまでで、ニコ動のシステムはだいたいご理解いただけたと思いますが、正直、自分は今のニコ動に発信用動画サイトとしての魅力をあまり感じていません。
しかし、それでもニコ動の運用を辞めないのには理由があります。
その理由というのが、今から解説するニコ動の隠れたメリット「被リンク効果」です。
被リンクとは「インターネット上のあるページのURLが、他のドメインにあるページからURLを指定されてリンクされている状態」をさします。
一般的に披リンク数が多いと、そのURLは価値が高いと見なされてGoogle検索などで上位表示されやすくなるので、自分でサイト運営している人にとってはかなり重要なものではないでょうか。
ニコニコ動画に動画を投稿すると、nicozon(ニコニコ動画保存サイト)などに転載される事があり、動画の紹介文にURLが含まれていると「被リンク」としてGoogle等の評価対象となる可能性があります。
この事はあまり知られていませんが、ニコニコ動画紹介文へのURL掲載は「はてなブックマーク」や「Pinterest」と並んで、高い被リンク効果が期待出来るものなのです。
ニコニコ動画攻略のまとめ
今回はニコニコ動画のシステムを紹介し、その長所短所について分析してみました。
自分的には、ブログURLへの披リンク効果と、(これはオマケですが)クリエイター推奨プログラム=アマゾンギフト券のために運用を続けているようなもので、コンテンツ拡散にはあまり期待していません。
ニコ動で再生数アップを意識した本気運用をしようと思ったら、プレミアム会員+ニコニ広告でかなり課金しないとダメそうですし、ニコ動に労力をかけるならYouTubeのほうに突っ込みたい、というのが正直なところです。
そして最後になりましたが、ニコ動とフラメンコとの親和性は、正直、微妙だと思います。
自分のコンテンツも、ゲーム音楽の「弾いてみた」動画はそこそこ再生されますが、フラメンコギター動画のほうはさっぱりです。ニコニ広告を打たないと、1か月経っても再生回数が1桁とか……。
ニコ動はサブカル系の視聴者が多いので、そういう層にアピール出来るコンテンツを持っているのならYouTubeより伸びる可能性はありますので、ニコニ広告前提でチャレンジしてみるのも良いかもしれませんね。
なお、今回はニコニコ生放送についてはあまり触れませんでしたが、各種ライブ配信プラットフォームについては、改めて記事を執筆する予定でいますので、その時に書きたいと思います。
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