「Webで学ぶフラメンコギター」第8回講座は、フラメンコギター奏法の中でも最も特徴的で使用頻度も高いラスゲアード奏法を解説いたします。
ラスゲアード奏法とは?
ラスゲアードはスペイン語で「掻き鳴らし」という意味ですが、一般的にはフラメンコギターで使うラスゲアード奏法というと、指や腕の上下動で和音を素早く連打する奏法を指します。
ここではもう少し範囲を拡げて、一般的なストローク奏法的なもの(コードをジャカジャカやるコードカッティングなど)も含めて、フラメンコギターで使用するリズム奏法全般をラスゲアード系奏法として扱います。
フラメンコギタリストの仕事としては踊り伴奏が圧倒的に多いのですが、踊り伴奏では9割以上がラスゲアード含めたリズム奏法でやる時間で占められていて、そういう意味で最も必要性・重要性が高い奏法と言えるでしょう。
ラスゲアード系のリズム奏法は、大きく分けて2つの弾きかたがあります。
指を使ったリズム奏法
i,m,aをバラバラに使って、指の上下動で弾くリズム奏法
腕を使ったリズム奏法
i,m,a(2、3本束ねる)とpを使い、腕や手首の上下動で弾くリズム奏法
基本動作としてはこの2種類ですが、指使いなどの組み合わせによって、いくつかのカテゴリーに分けて解説していきます。
セコ(ストローク)奏法
フラメンコギターで「セコ」と呼ばれているのは、いわゆるストローク奏法のことです。
指や腕の上下動でベースになるビートを刻む基本奏法ですが、指1本でやる場合と、腕や手首全体を使ってやる場合があります。
指を使ったセコ
「指を使ったセコ」は、右手の指で複数弦をダウンストローク・アップストロークして、基本的なビートを刻んだり、フレーズ間の間を取ったりするために、ほぼ無意識的に使われるテクニックです。
基本はi1本でやりますが、i,m,aを2、3本束ねてやる場合もあります。
フォームは、pを6弦上に軽く置いて支えをとるのが基本ですが、フレーズの成り行き次第で5弦上に置くこともあるし、6弦まで全部の音を鳴らしたい時は、pを6弦から離して表面板の上に置きます。
指を使ったセコはゴルペ奏法と併用するのが普通で、aの指の腹を軽く表面板に置く感じで間をとったり、ゴルペを強調するときはaの爪で表面板を強めに叩いたりもします。
前回の親指奏法解説記事のゴルペ奏法の項目も参考にしてください。基本はほとんど同じです。
指を使ったセコのフォーム
腕や手首を使ったセコ
「腕や手首を使ったセコ」は、指だけでなく手首や腕全体の上下動で行うストローク奏法で、ダウンストロークはi,m,aを2、3本束ねて、アップストロークはpの爪の背中側を使って弾くのが基本ですが、pのダウンストローク等が絡む場合もあります。
フォークギターなどでジャカジャカやるコードカッティング奏法に近いもので、iだけでやるセコに比べて音量が出せるのが特徴です。
ゴルペとの併用も多いですが、i,m,aを2、3本束ねた形のまま「表面版に触れていく」感じです。
腕や手首を使ったセコのフォーム
セコで出す細かい音符
セコ(ストローク奏法)は、8分音符などの一番基本になるビートを刻む用途がほとんどですが、素早く上下させて細かい音符(例えば16分音符)を出したりもします。
セコで細かい音符を出す場合は、一般的なラスゲアードより均質でガシャガシャした感じになるので、場面よって使い分けましょう。
指をバラバラに使うラスゲアード奏法
「指をバラバラに使うラスゲアード奏法」は、右手を握って小指側から1本ずつ広げて弦を連打する奏法で、一般的にラスゲアード奏法といえば、この奏法のことを指しているのではないでしょうか。
最もベーシックな指使いは以下の通りです。
- aのダウンストローク
- mのダウンストローク
- iのダウンストローク
- iのアップストローク
i,m,aに加えて右手小指(ch)を使うこともあり、さらに人によってはm,aのアップストロークやpのストロークを絡めることもあってバリエーションは豊富です。
このタイプのラスゲアードを連続させる時は、iのアップストロークの時に他の指も一緒に握りこんで、また小指側から広げて切れ目なくダウンストロークを弾いていきます。
基本的には「指を使ったセコ奏法」と同じフォームで演奏しますが、強い音が欲しい時はpを内側に向けてやや曲げて、そこにi,m,aを引っ掛けるようにして勢いよく弾きます(下段のフォーム写真)。
指をバラバラに使うラスゲアード奏法のフォーム
親指を内側に曲げたフォーム
アバニコ奏法
アバニコ奏法は、アバニコ(扇子)で扇ぐように、i,m,a(2、3本束ねる)とpを使って、腕や手首全体で大きくストロークしながら細かい音符を連打する奏法です。
弦に指を当てる順番は以下の通り。
- pのアップストローク
- i,m,a(m,a二本でもok)のダウンストローク
- pのダウンストローク
これが基本ですが、2.から入る場合も多いです。
最後に抜ける(弾き終える)指は1.のpのアップストロークが基本ですが、フレーズによって1. 2. 3.全ての指で抜けるケースがあります。
指使い的に3連符・6連符・9連符などの3連符系が基本になりますが、敢えて4連符系でやってニュアンスを複雑化したり、あまり綺麗な割り方にせず、5連符・7連符などで詰め込むように弾くことも多いです。
3連符系以外の変則的な連符で弾く場合は、入るときや最後に抜けるときの指使いも基本通りにはならないので、上記指使いの1.2.3.のどこから入って、どこで抜けてもスムーズに弾けるように練習しておきましょう。
アバニコ奏法のコツとしては、手首のスナップ(上下動)と回転を使って手首を素早く振りつつ、腕全体も動かして手首の振りをサポートします。
指が弦に上手く当たるように指も少し動かすことがありますが、あまり指の動きに頼るとスピードが出しにくかったり、音が均質にならなかったりするので、あくまで主役は肘・手首の上下動と回転です。
逆に、肘から先の回転だけで弾こうとする人もいますが、これも音量やスピード的に不利になるので、上下動と回転を同時にやるのがポイントになります。
アバニコ奏法の分解写真
1. pのアップストローク
2. i,m,aのダウンストローク
3. pのダウンストローク
指を使ったアバニコ奏法
「指を使ったアバニコ奏法」は、pのアップストロークに「指をバラバラに使うラスゲアード」を組み合わせて細かい音符を弾きます。
普通のアバニコ奏法に比べて音量は出しにくいですが、独特のニュアンスがあるので、使い分けることが出来ると演奏も一味上がるでしょう。
この奏法は色んな指使いが考えられますが、一番基本的なパターン以下のようになります。
- pのアップストローク
- ch,a,mのダウンストローク(ストローク回数は指使いにより変化)
- iのダウンストローク
3.のiのダウンストロークと一緒にpも高音弦のほうに移動させて、次のアップストロークを準備するのがコツです。
やや変則的な指使いとしては、pのダウンストロークやi,m,aのアップストロークを絡める場合もあり、バリエーションの個人差が大きいテクニックと思います。
これもアバニコ奏法同様に変則的な連符で弾くこともあるし、フレーズの成り行き次第でpのアップストロークから入れない場合もあるので、どの指で始まって、どの指で終わっても大丈夫なように練習しておきましょう。
指を使ったアバニコ奏法のフォーム
変則的なゴルペ奏法
ゴルペ奏法は前回の親指奏法のときにも解説しましたが、ラスゲアード系奏法との組み合わせも多用されます。
一般的なゴルペ奏法とラスゲアード系奏法との併用は、親指奏法の記事で解説した内容に準じますが、ストローク奏法やアバニコ奏法と併用される変則的なゴルペ奏法があるので、ここで紹介しておきましょう。
ボディの上側を叩くゴルペ
ダウンストロークと同時に、iかmの爪の背中側で6弦の上方のゴルペ板を叩く奏法があります。
ガツーンと、とにかくデカイ音が出せますが、使いすぎるとうるさいので、ここぞという所でピンポイントで使いましょう。
デコピンの要領で勢いよくはじくんですが、爪を補強しておかないと一発で爪が割れたりするので要注意です。
コツとしては直前のアップストロークなどの準備動作の時に、かなり上の方まで手首を引き上げておいて、6弦の上方3cmくらいのところを狙って打撃して、その勢いでそのままダウンストロークしますが、打撃音がほんの少しだけ正テンポより前に来る感じで弾かないとモタっとしてしまいます。
この奏法はブリッジ側の弦高が低くないと(表面版から6弦上辺の距離が8mmから12mm位が理想)指が擦りむけてひどい目にあうので注意してください。
ボディの上側を叩くゴルペ奏法
※自分は中指でやります
親指の背中側でやるゴルペ
pのアップストローク時にボディの下側(高音弦側)のゴルペ板を親指の背中側の爪で叩く弾き方があって、これは「奏法」としてはほとんど認知されていませんが、単発のアバニコ奏法の時などに高確率で入って、プッシュ感を強調する働きをします。
ちょっと大きめのアクションでアバニコ奏法や親指アップストロークをすると、pの爪が表面板に当たって音が鳴ってしまう場合があるんですが、それを意図的にやる感じですね。
コツとしては、アバニコ奏法などのスタートアクションを大きめにして、下方から表面板ごと弦に叩きつける感じでやります。
親指の背中側でやるゴルペ奏法
細かい音符のゴルペ
i,m,aをバラバラに使って、細かい音符のゴルペを出すこともできます。
爪を使ってパリージョ(カスタネット)のような音を出せたり。
叩く場所はその時叩きやすい所でokです。
パリージョの要領で指の腹側を使っても良いし、「指をバラバラに使うラスゲアード」の要領でi,m,aの背中側を使っても良いですが、これは常用するものではなく、ちょっとした味付け程度のテクニックです。
タパ(ミュート)奏法
フラメンコギターの重要な表現に「タパ」または「タパオ」と言われるミュート奏法があります。
これは右手のテクニックではないのですが、通常は今回解説したリズム奏法と組み合わせられるものなので、ここで紹介しておきましょう。
タパは、言わばギターを完全に打楽器化する奏法ですが、左の手の平で弦に触れて(押さえない)ミュート状態にして、右手はラスゲアードやゴルペを駆使してパーカッシブな表現をします。
また、普通のリズム奏法に絡めて部分的に左手でミュートを入れることで、一般的なカッティング奏法でいうブラッシングやゴーストノートのような効果を出すことも出来ます。
タパ奏法
――今回でフラメンコギターの右手のテクニックについては一通りの解説が終わりましたので、次回からは左手のテクニックに移っていこうと思います。
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