ピカード奏法【Webで学ぶフラメンコギター06】

「Webで学ぶフラメンコギター」第6回講座をお届けします。

前回はアルペジオ奏法をやりましたが、今回は主に音階を弾くための「ピカード奏法」の解説です。

一般的にはピカードというと、鋭い音で弾くフラメンコ独特の速弾きの事を指しますが、ここではもう少し解釈を広げてフラメンコギターで使う音階奏法全般をピカード系テクニックとしてご紹介します。

狭義のピカード奏法

ピカードはスペイン語で「引っ掻く」とか「突き刺す」という意味です。

上で書いた通り、狭義のピカード奏法というのはフラメンコギター独特の速弾きの事で、それなりのスピードと音の鋭さがある音階を「ピカード」と表現します。

典型的なピカードは、ブリッジ寄りの位置で強いアポヤンドのタッチで弾くもので、右手の指使いはmi交互弾弦が基本ですが、aiで弾く人もいます。

セラニート(Victor Monge “Serranito”)はスピードを追及してamiの3指でピカードを弾くのがトレードマークでした。

amiのピカードは自分も一時かなり練習しましたが、左手との連携が難しく、少しフレーズを変えたり右手の指の入り方が変わるだけで全然弾けなくなったりするので、結局miに戻しました。

ピカードのフォーム

ピカードのフォームは人によって異なりますが、大雑把に2タイプに分けられます。

第2関節を曲げるフォーム

右手指の第2関節を曲げるピカードフォームは、パコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)などがやっていたフォームで、iとmの長さが不揃いな人、指を動かす筋肉が強い人に向いています。

このフォームは、右手miの第2関節を曲げて第3関節は伸ばし、右の手の平を弦に近付けるような形で弾きます。

指の長さの不揃いを吸収して均等な強い音で弾くことができますが、右の肩と肘を張って右手を上に引き上げるようにしないと右の手首が不自然に曲がってしまうのでスムーズな動きができません。

ピカード1

この形でスムーズにピカードを弾くコツは、miの第2関節を柔らかく使って弾くことです。

欠点としては、アルペジオ奏法や親指奏法など他の奏法と混ぜて使う時にフォームチェンジが大きくなってしまう点と、スピードを出すために筋力に頼ることになるので、かなりの修練を必要とする点でしょうか。

自分は10年くらい前まではこのフォームで全てのピカードを弾いていましたが、今はフレーズや欲しい音によって、フォームを変えています。

第2関節を伸ばすフォーム

もう一つ、右手miの第2関節は伸ばし気味にして、第3関節を内側に曲げて手の平と弦の間に空間を空けて弾くピカードフォームがあって、iとmの長さが比較的揃ってる人、指の力が弱い人に向いています。

ビセンテ・アミーゴ(Vicente Amigo)やモライート・チコ(Moraito Chico)、チクエロ(Chicuelo)などはこちらのフォームですよね。

ピカード2

このフォームは右上腕をギターに密着させたまま弾けるので右腕が安定して脱力しやすく、速度も出しやすいです。

そして、アルペジオ奏法のフォームとそれほど変わらない形で弾けるので、他の奏法と混ぜて使ってもフォームチェンジが少なく済むのもメリットです。

ただし、指の長さが不揃いだと左右に指を傾けて爪の端のほうでタッチすることになって、しっかりした音で均等に弾くのが難しくなります。

このフォームで綺麗な音を出すコツは、第3関節の動きをメインにしつつ第1間接と第2間接も柔らかく保って柔軟なタッチをする事です。

――これら2つのフォームは一長一短ありますが、中間的フォームを追及するのも良いと思います。

ちなみに、ビセンテ・アミーゴは基本的には「第2関節を伸ばすフォーム」ですが、より強い音を出すために肩と肘を張って右腕を浮かせて「第2関節を曲げるフォーム」との中間的なフォームで弾きますよね。

2つのフォームに共通して言えることですが、弦をタッチするときに第1関節を柔らかく使って指先を少し反らせるように弾くと、しっかりアポヤンド出来て太い音が出せます。

右手の甲の安定がポイント

ピカード奏法の最大のポイントは、どんなフォームで弾いたとしても右手の甲をグラグラさせずに安定させることで、そのためには「右手親指の置き方」がポイントになります。

右手親指は6弦と6弦のすぐ上方の表面板に軽く触れている状態を基本型にして、miで低音弦を弾く時は、その形のまま上方にずらしていきます。

この時、肘と肩で右手を上に引っ張り上げる感じになりますが、親指は6弦から放れて表面板に接触したまま上方にスライドさせる感じですね。

これが一番安定感のある基本形なのですが、いつでもこの形で弾けるとは限りません。

ピカードと同時に親指でベース音を弾いたりもするし、前後のフレーズとの関係によって5弦や4弦の上に親指を乗せた状態や親指を完全に浮かせた状態からピカードを弾く場面もありますので。

練習の仕方としては、まず表面版に親指を置く基本フォームで練習して、右手の甲が安定したら、親指を4弦上・5弦上に置いたり、完全に浮かせた状態で弾く練習もする、という感じで段階的に取り組むのが良いでしょう。

ピカードに親指でベース音を加える

ピカードにpでベース音を入れる場合がありますが、その際のpのタッチはアルライレとアポヤンド、両方のパターンがあります。

pをアルライレで弾く場合は、pを弾き終わったらすぐにpを6弦上方の表面板に軽く付けて支えをとるのが基本ですが、フレーズによってはそれが出来ない時もあるので、その場合は親指を浮かせたままピカードします。

pをアポヤンドで弾く場合は、pを弾いた後、そのまま高音側の隣の弦(6弦を弾いたら5弦、5弦を弾いたら4弦)に乗せて支えをとります。

ただし、このままだと親指を置いている弦は鳴らせないので、必要に応じて親指を浮かせたり、表面板に置き直したりするんですが、このあたりの処理は個人の癖やフレーズにより変わってきます。

ピカードを弾く時は、なるべくpでどこかに支えをとるようにして、pが宙に浮いた状態の時間を短くすることが重要であり、そうすることで右手の甲が安定してスピードと音量を出しやすくなるのです。

一般的なアポヤンド音階奏法

ここまで、フラメンコで特徴的な「狭義のピカード奏法」を解説しましたが、ここからは一般的な音階奏法を解説していきます。

狭義のピカードほどスピードも鋭さも要らない「一般的な音階奏法」はフラメンコギターでも高頻度で使われますが、テクニック的にはクラシックギターのアポヤンドによる音階奏法とそれほど変わりません。

スピードやタッチがピカードほどシビアではないし、ピカードがマスター出来ていれば問題なく弾けるでしょう。

フォームはピカードと同じフォームでも良いですが、第2関節・第3関節を軽く曲げた自然な形で、指の柔軟性を保ちながら丁寧にタッチすれば良い音が出ると思います。

この形のほうが他のテクニックとの併用がやりやすいし、普段はこちらのフォームをベースにしてスピードと音圧が欲しい時だけ、上で解説した「狭義のピカード」のフォームに移行すれば良いのではないでしょうか。

アルライレの音階奏法

アルペジオなどと音質を揃えたい時や、アポヤンドで弾きにくいフレーズの時、音量よりもアルライレ特有の煌びやかな倍音が欲しい時など、アルライレで音階を弾くこともあります。

アポヤンドの音階は上から弦を押さえる感じでタッチしますが、アルライレの音階は主に第2関節を使って水平に素早く擦るようにタッチするのがコツです。

アルライレの音階奏法はpやコードプレイとの併用にも適しているし、スピードも出しやすいですよね。

アルライレとアポヤンドの中間のタッチ

フラメンコギターでは狭義のピカードを含め、アルライレとアポヤンドの中間的なタッチの音階奏法を多用するように思います。

この弾き方は、フォームも音質もアポヤンド音階奏法とアルライレ音階奏法の中間的な感じになりますが、なんというか、ぎりぎりアポヤンドになってるような浅いアポヤンドのタッチで、スペイン人の演奏でよく聴く「軽いピカード」です。

慣れればスピードも出しやすいのですが、最適なフォームが本当に微妙なので、アルライレとアポヤンドの両方のタッチの感覚をしっかりマスターしてから取り組むのが良いと思います。

4種の音階奏法の習得と統合

今回は、音階奏法を「狭義のピカード」「一般的なアポヤンド音階奏法」「アルライレ音階奏法」「アポヤンドとアルライレの中間的な音階奏法」という4つのカテゴリーに分けて解説しましたが、最終的にはそれらを統合して、欲しい音質に合わせて無意識レベルで弾き分けが出来るように訓練していくことになります。

そのためには、まずは4つの基本奏法をそれぞれ単独でしっかりマスターしてから自分なりにミックスして応用していく、というのが音階奏法上達の早道だと思います。

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