「Webで学ぶフラメンコギター」では、前回の講座でフラメンコギターの左手のテクニックの基本について一通りの解説をしました。
その中で「フラメンコギターは伴奏楽器として発展してきたため、即応性重視という事でコードフォームをベースにした運指が多用される」ということを書きました。
今回からは、そういうフラメンコギターの左手運指の特性の一つである「コードフォームをベースにしつつ同時にメロディーも弾いていく運指」の考え方を学習していきます。
コードフォーム奏法とは?
他のジャンルのギターの奏法、例えばロックやジャズなどは、コードはコード、スケールはスケールで別々に運用するイメージで、コードバッキングとソロという具合に、場面によって運指法や指板の見方が明確に切り替わる場合が多いですよね。
しかし、フラメンコギターの場合はコードフォームを押さえながらスケールを弾くし、ファルセータもコードフォームをベースに作られることが多いので、フラメンコギターにおいてはコードフォームとスケールフォームというのは一体のもので、常に両方意識して演奏している感覚なのです。
そういうコードフォームをベースにして色んなプレイを展開していくやりかたを、ここでは「コードフォーム奏法」と呼ぶことにします。
今回はコードフォーム奏法のベースとなる基本コードフォームを学びます。
なお、この講座ではコードやスケールの基礎理論は既に理解しているものとして進めますが、音楽理論の解説は「音楽理論ライブラリー」にまとめてありますので、わからないことがあったらそちらを参照してください。
基本の5種のコードフォーム
コードフォーム奏法で使うフォームの基本型は、1つのコードタイプ(マイナーとか7thとかディミニッシュとかのコードの種別)に対してそれぞれ5種類ずつあります。
- Eフォーム(6弦ルート、上方展開)
- Aフォーム(5弦ルート、上方展開)
- Dフォーム(4弦ルート、上方展開)
- Gフォーム(6弦ルート、下方展開)
- Cフォーム(5弦ルート、下方展開)
以上の5種類ですが、オープンコードで弾く場合とそうでない場合で形が変わるので、10種類と言った方が良いかもしれませんね。
以下、メジャートライアドコードを例に、5種のコードフォームを図示します。
◎はルート音、●はコードトーン(この場合はM3とP5)です。
Eフォーム
オープンEコードを基準にした形で、6弦をルートにして、低いほうからルート→5度という形で積み上げます。
オープンEフォーム(Eコード)
セーハEフォーム(1フレットセーハ、Fコード)
Aフォーム
オープンAメジャーコードを基準にした形で、5弦をルートにして、低いほうからルート→5度という形で積み上げます。
オープンAフォーム(Aコード)
セーハAフォーム(1フレットセーハ、B♭コード)
Dフォーム
オープンDメジャーコードを基準にした形で、4弦をルートにして1、低いほうからルート→5度という形で積み上げます。
オープンDフォーム(Dコード)
セーハDフォーム(1フレット半セーハ、E♭コード)
Gフォーム
オープンGメジャーコードを基準にした形で、6弦をルートにして、低いほうからルート→3度という形で積み上げます。
オープンGフォーム(Gコード)
セーハGフォーム(1フレット半セーハ、A♭コード)
Cフォーム
オープンCメジャーコードを基準にした形で、5弦をルートにして、低いほうからルート→3度という形で積み上げます。
オープンCフォーム(Cコード)
セーハCフォーム(1フレット半セーハ、D♭コード)
CAGEDシステム
上で解説した5つのコードフォームを使った「CAGEDシステム」と呼ばれるギター学習の基本的な概念があるのですが、これはコードフォーム奏法の基礎になっているものです。
CAGEDシステムは5つの基本フォームを連結して指板全体をカバーするというものですが、各コードフォームは下の表ような順で連結されます。
Cフォーム
↓
Aフォーム
↓
Gフォーム
↓
Eフォーム
↓
Dフォーム
↓
Cフォーム
↓
……
※下に行くにしたがってハイポジション(高音側)となる。また、開始するフォーム(最も低いポジション)は押えるコードやスケールのルート音によって変わる。例えば、ルート音がEならオープンのEフォーム、B♭なら1フレットのAフォームとなる
このCAGEDシステムをマスターする事で指板全体を使えるようになり、メロディーの音程などによって必要なコードフォームを選択できるようになります。
拡張CAGEDシステム
コードフォーム奏法ではCAGEDシステムをもとにしてスケールフォームなどを展開させていきますが、実際にベース音を押さえながら弾けるスケールフォームを考えたところ、この5つの基本フォームのみでは少し大雑把すぎると感じました。
実際のポジショニングを考えると、基本の5フォームのみでは実質的に以下の2択になります。
Eフォーム・Aフォーム・Dフォーム(人指し指ベース)
人差し指でベース音を押さえて高音側のポジションに展開する
Gフォーム・Cフォーム(薬指・小指ベース)
薬指または小指でベース音を押さえて低音側のポジションに展開する(薬指ベースの場合は小指を使って1、2フレット高音側まで使用可能)
これだけでも指板全体のカバーは可能なのですが、実際にプレイしていると、かなりの頻度で中指でベースを押さえたい場面があるんですよね。
そこで、中指ベースの形をカバーするために考案したのが「拡張CAGEDシステム」です。
これは既存のCAGEDシステムの5つの基本フォームに、中指でベースを押さえることを想定した2つの拡張フォームを設定することにしました。
それが「CAフォーム」と「GEフォーム」です。
CAフォームはCフォームとAフォームの間に、GEフォームはGフォームとEフォームの間に入るフォームですね。
以下に、例としてCAフォームとGEフォームのメジャートライアドコードのコードフォームを図示します。
◎はルート音、●はコードトーン(M3とP5)です。
CAフォーム
CAフォームは、CフォームとAフォームの間に入るフォームです。
最低ルート音(基準音)を5弦上にとる形で、中指で最低ルート音を押さえて、そこから左右に展開させます。
CAフォームのメジャートライアドコードの一例
※実際の演奏では1弦2弦3弦の音は全部押さえず、選択的に1音か2音を使用する
GEフォーム
GEフォームは、GフォームとEフォームの間に入るフォームです。
最低ルート音(基準音)を6弦上にとる形で、中指で最低ルート音を押さえて、そこから左右に展開させます。
GEフォームのメジャートライアドコードの一例
※実際の演奏では2弦3弦4弦の音は全部押さえず、選択的に1音か2音を使用する
拡張CAGEDシステムのまとめ
フォームが5個から7個に増えて少しややこしくなってきたので、拡張CAGEDシステムを一覧表にまとめておきましょう。
Cフォーム(基本フォーム)
5弦薬指・小指ベースで下方に展開
↓
CAフォーム(拡張フォーム)
5弦中指ベースで左右に展開
↓
Aフォーム(基本フォーム)
5弦人差し指ベースで上方に展開
↓
Gフォーム(基本フォーム)
6弦薬指・小指ベースで下方に展開
↓
GEフォーム(拡張フォーム)
6弦中指ベースで左右に展開
↓
Eフォーム(基本フォーム)
6弦人差し指ベースで上方に展開
↓
Dフォーム(基本フォーム)
4弦人差し指ベースで上方に展開
↓
Cフォーム
↓
……
※下に行くにしたがってハイポジション(高音側)となる。また、開始するフォーム(最も低いポジション)は押えるコードやスケールのルート音によって変わる。例えば、ルート音がEならオープンのEフォーム、B♭なら1フレットのAフォームとなる
拡張CAGEDシステムでは、1つのコードやスケールに対して7種(3度音や5度音をベースにした転回形を考慮するともっと増えますが、現段階では扱いません)のポジショニングの可能性を提示できます。
しかし、実際には押さえるコードやスケールの種類によっては弾きづらいものもあるし、実用的なものは全ての可能性のうち半分くらいでしょうか。
拡張CAGEDシステムはコードフォーム奏法の基本的な考え方として理解していただきたいものですが、実用上は全フォームを網羅的に暗記する必要は無く、自分の弾きやすいものを選択しながら徐々にポジショニングのバリエーションを増やしていく、という感じで学習していくと良いと思います。
次回からは、今回学んだ拡張CAGEDシステムをもとに、実際のコードやスケールを学んでいきます。
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