音楽理論ライブラリーでは前回、楽曲分析=アナライズを学習しました。
今回は理論応用編の第2弾として、リハーモナイズ(コードのつけ直し)のテクニックを解説します。
リハーモナイズと一言でいっても、コード構成音を少し変えたり、代理コードに差し替えたりする程度のものから、大幅な曲の改変を伴うものまで幅広いです。
自分のリハーモナイズの用途は主にギターへのアレンジのためですが、ここではそういう楽器演奏用途でのリハーモナイズを中心に考えます。
リハーモナイズとアナライズは表裏一体
リハーモナイズは前回やったアナライズと表裏一体であり、同じ知識をそのまま転用可能で、ざっくり言うと以下のようになります。
- 既存の進行を解釈→アナライズ
- 既存の進行を変更→リハーモナイズ
今回リハーモナイズ手法として取り扱う、セカンダリードミナント、Ⅱ-Ⅴ、裏コード、パッシングディミニッシュ、ディミニッシュコードの短3度ずらし、オーギュメントコードの全音ずらし、半音アプローチ、同系統機能の同主調コードの活用などは、こちらのノンダイアトニックコード解説記事で一通りやっておりますので、ご一読いただければと思います。
今回は、リハーモナイズという観点からこれらのことを解説していきます。
基礎的なリハーモナイズ
以下にリハーモナイズの具体的な手法を曲の改変の度合いが少ない基本的なものから順に解説していきます。
同ルートの同タイプのコードへの差し替え
例えば、CメジャーキーのⅠコードであるCを例にすると、C、Csus4、C6、CM7などはCのトライアドをベースとしたダイアトニックトーンで構成されるコードなので、同タイプのコードと捉えることができ、無条件に差し替えが出来ます。
基本的に同ルートで原曲のメロディーに使われているスケールの構成音から外れた音が入っていなければ、同タイプコードとして差し替え可能ですが、これはリハーモナイズと言うより、単にコードボイシングや付加テンションを組み替えているだけとも言えます。
同一ルートのコードでも、CがCmやC7に変化すると、コードタイプが変わって、はっきりとリハーモナイズと言うことになりますが、コードタイプが変わるということはコード機能も変わったりして、多少なりとも曲の内容が変わるので注意が必要です。
コードタイプの変更を伴うリハーモナイズについては後述します。
同じキーのダイアトニック代理コード
代理コードはリハーモナイズの基本です。
とくに同じキー内のダイアトニックコードで、コード機能が同じもの同士は高い互換性があります。
ただし、トニック系コードの差し替えはイメージ変化が大きいので注意してください。
Cメジャーキーの例をあげると、以下のようなものは、ほとんどの場合で差し替え可能です。
- サブドミナントのFM7とDm7
- ドミナントのG7とBm7(♭5)
トニックコードに関しては、キールートのCコードを変えてしまうとまずい場合が多いですが、CとEmとAmには一定の互換性があります。
マイナーキーでも同じように、以下のようなコード差し替えが可能です。
- ドミナントマイナー同士
- サブドミナントマイナー同士
- トニックマイナー同士(条件による)
ここまでが、原曲の構成音に対して♯や♭などの臨時記号が発生しないリハーモナイズです。
以下に、臨時記号が発生する可能性のあるリハーモナイズのうち、よく使用されるものを解説していきます。
ドミナント7th化
あらゆるタイプのコードをドミナント7thコード化することが可能です。
代表的な使用法がセカンダリードミナントです。
セカンダリードミナントは、あるコードを強調するために、直前に「強調したいコードをⅠとして数えたⅤ7コード」を挿入するものですが、既存のコードをセカンダリードミナント化する場合は、コード機能もドミナントへと変化します。
ドミナント7th化は、ドミナントモーションとは関係のない場合もあり、たとえばブルース進行のように、トニックをドミナント7th化したり、ⅣやⅣmをⅣ7にしたりしますが、そういう場合はコード機能は変わらないことが多いです。
多重ドミナントモーションとⅡ-Ⅴ(ツーファイブ)
ノンダイアトニックコードの解説のときにやった、多重ドミナントモーションとⅡ-Ⅴ(ツーファイブ)はセカンダリードミナントの拡張版となり、リハーモナイズの常套手段でもあります。
ドミナント機能のドミナント7thコードをⅤ7と捉えて、そのコードを2分割してⅡ→Ⅴという形にします。
例えば「G7→C」を「Dm7→G7→C」とか「D7→G7→C」にしたり、「A7→Dm」を「Em7(♭5)→A7→Dm」とか「E7→A7→Dm」にしたりですね。
これらは大きく分けると3パターンあります。
- メジャー型Ⅱ-Ⅴ
Ⅱm7→Ⅴ7の形。次にⅠメジャーコードが来ることを示唆する - マイナー型Ⅱ-Ⅴ
Ⅱm7(♭5)→Ⅴ7の形。次にⅠmコードが来ることを示唆する - 多重ドミナント型Ⅱ-Ⅴ
Ⅱ7→Ⅴ7の形。メジャーマイナーの調性感は希薄なニュートラルな形で、メジャーマイナーどちらにも転べる
多重ドミナントモーションとⅡ-Ⅴを使ったリハーモナイズの実例をあげてみます。
CメジャーキーでCM7→Fという進行があったとして、CM7をドミナント化してC7→Fにしたとします。
このC7をさらにⅡ-Ⅴに分割する場合、以下の3パターンが考えられます。
- メジャー系
「Gm7→C7→F」となり、下属調Fメジャーを感じさせる - マイナー系
「Gm7(♭5) C7 F」となり、Fマイナーキーへの一時的転調となってかなり強い転調感を伴う - 多重ドミナント
「G7 C7 F」となる。この場合はこれが一番素直。
ちなみにですが、ⅡコードはⅣコードで代理できたりするので、Ⅳ→Ⅴ(メジャー型)またはⅣm→Ⅴ(マイナー型)とすることも可能です。
上と同じCM7→FのをⅣ→Ⅴ→Ⅰでリハーモナイズすると、メジャー型なら「B♭M7→ C7→F」、マイナー型なら「B♭m7→C7→F」となって、Cメジャーキーからみると♭Ⅶコードが登場することになります。
一見、変わったコード進行に見えますが、これもⅡ-Ⅴ(ツーファイブ)をベースにしたリハーモナイズの結果です。
裏コード
ドミナント機能をもつドミナント7thコードを半オクターブ上(半オクターブ下でも同じ)のドミナント7thコードで代理するのが裏コードです。
例えば「G7→C」という進行を「D♭7→C」に変換できます。
裏コードへのリハーモナイズは、5度進行と半音進行の変換になり、変換後のコードの構成音は元のコードから見るとオルタードテンションの集合体になります。
半音アプローチ
セカンダリードミナントと同じような使い方ですが、あるコードを強調・修飾したいとき、このコードと全く同じ構成の半音上又は半音下のコードを挿入することがあります。
こういう半音アプローチコードはギターだと演奏が容易なため、ギターアレンジではとくに多用されます。
半音アプローチの実質的なコード機能はドミナントになりますが、使われ方によってはサブドミナントマイナーなどになる場合もあります。
ナポリコード
ナポリコードは、一時ナポリの作曲家の間で大流行したコード進行で、あるコードを強調・修飾したいときに、半音上のメジャー7thコードを挿入するものです。
ちなみに裏ドミナントコードだと♭Ⅱ7ですが、これのメジャー7th版です。
ナポリコードもセカンダリードミナントの変化球として活用されます。
ディミニッシュコードでの代理
半音上のディミニュシュコードでドミナント7thコードを代理できるのは、ノンダイアトニックコード解説の時にやりました。
また、トニックディミニッシュといって、Ⅰコード、ⅠmコードをⅠdim7に変えるのも慣用句的に良く使われるものです。
パッシングディミニュシュ
パッシングディミニッシュもリハーモナイズでよく使用します。
使い方としては、ディミニュシュコードを使ってベースラインを滑らかにしたりする用途が大半です。
典型的な例としては、「CM7→Dm7」という進行を「CM7→C♯dim7→Dm7」として、長2度の順次進行にディミニュシュコードを半音で割り込ませたりしますが、このC♯dim7はDm7のセカンダリードミナントであるA7の代理として働きます。
ディミニッシュコードの平行移動
ディミニュシュコードは短3度音程のみで構成されているので、短3度での平行移動が可能です。
例えば、CメジャーキーでG7の代理やG7→Amの経過コードとしてA♭dim7を使いたいとすると、A♭dim7のほかにBdim7、Ddim7、Fdim7の3つのコードでも代用できるため、コード進行の可能性は大きく広がります。
あらゆるコードのディミニッシュ化
少し強引な手法になりますが、理論上は他のあらゆるタイプのコードをディミニッシュコードに変える事が出来ます。
こういう事が可能なのは、パッシングディミニッシュや、ディミニッシュコードでのドミナント代理、トニックディミニッシュ、さらにそれらの転回形などを考慮すると、ほぼ全てのディミニッシュコードに対して何らかの解釈を付けられるためです。
オーギュメントコードの活用
ディミニッシュコードが短3度間隔でずらす事が出来るように、オーギュメントコード及びオーギュメント7thコードを全音(長2度)間隔でずらせる事は何度か解説しました。
この性質を利用して、例えばCメジャーキーのⅤ7をGaug7とすれば、G7のかわりにAaug7、Baug7、C♯aug7、D♯aug7、Faug7の5つのコードが使えることになります。
これはセカンダリードミナントに対しても可能なので、ディミニッシュコードとオーギュメントコードを活用すると、リハーモナイズの可能性はどんどん広がります。
やや高度なリハーモナイズ
ここまてで、曲の骨組みは変えずにバリエーションを豊かにする基礎的なリハーモナイズ手法を解説しました。
今度は少し応用的なリハーモナイズ手法を解説しますが、ここから先は「曲の改変」という度合いが強まるので、挑戦的なアレンジになってきます。
同系統機能の同主調コードへの差し替え
これもノンダイアトニックコードの解説のときにやりましたが、トニック系同士とかサブドミナント系同士とか「同系統コード機能の同主調コード」には一定の代理関係があり、条件が合えば差し替えが出来ます。
「同系統コード機能の同主調コード」とは、具体的には、TとTM、SDとSDM、DとDMという組み合わせです。以下によく使う例を挙げます。
- SD→SDM
全ての音楽ジャンルで非常によく使われる。例えばCメジャーキーで
「F→C」という進行を「Fm7(またはDm7(♭5))→C」とするなど - TM→T
マイナー進行で最後だけメジャー終止にするという形。例えばCマイナーキーの曲の最後で「B♭→Cm」となっているのを「B♭→C」とするなど
同一キー内で機能が異なるコードへの差し替え
例え同一キーの範囲であっても、コード機能が異なるコードへのリハーモナイズは音楽の内容の改変を伴うので、注意が必要です。
コード機能の系統は3つあります。
- トニック系
- サブドミナント系
- ドミナント系
このうちドミナント系とサブドミナント系は一定の互換性がありますので、その2つは差し替えをしても、曲の構造が全く変わってしまうということはそんなにありません。
問題はトニック系とその他の差し替えでしょうか。
例えば、SDからT、TからSDMなど、トニック系がらみの機能コードの差し替えは、曲の構造を大きく改変することになるので、その曲が良くなるのであれば、それを理解した上で敢えてやることになります。
リハーモナイズの可能性は無限
ここまでやってきて「これって、もしかして、なんでもアリなんでは?」と思われるかたもいるかもしれません。
そうなんです。
リハーモナイズはやろうと思えば、「解釈」によって何でも可能で、最終的には作曲と同じことになります。
調をまたいだリハーモナイズもダメということはありません。
重要なのはリハーモナイズの目的をはっきりさせて、その目的にあった最適なコードを導き出す、ということです。
答えも一つではなく、全ては編曲者の感性次第です。
アドリブ(即興演奏)でのリハーモナイズ
アレンジ=編曲の用途以外では、アドリブ=即興演奏においてもリハーモナイズが活用されます。
例えば「G7→C」というコード進行があって、その上で少し複雑な聴かせかたをしたい、といった場合、アドリブをしている奏者は頭の中でリハモして「A7→Dm7→D♭7→C」とか「FM7→F♯dim7→G7→G♯dim7→Am7」などのフレーズを弾くことが可能なわけです。
一般的にはセカンダリードミナントなどを使って細分化したり、メジャー系のドミナントにオルタード系のスケールをぶつけていくと、調性感が曖昧になってジャズ寄りの雰囲気になっていく傾向があります。
――今回でコードやスケールなどの「音程」に関わる学習は一段落とします。
次回からは今まで解説してこなかった、音楽の「リズム要素」についてやろうと思います。
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