コードスケールのフラメンコへの応用【フラメンコ音楽論05】

前回、フラメンコで使われる音階とコードについてやりましたが、あれだけだとちょっと大雑把で中途半端な感じがするので、もう少し掘り下げておきたいです。

メジャー・マイナーのキーのものに関しては『音楽理論ライブラリー』を参照していただくとして、今回も『ミの旋法』中心の話になります。

今回も音楽系以外のかたにとっては退屈かもしれませんが、考え方だけでもくみ取っていただければ、と思います。

フラメンコで求められる即興性

フラメンコギターでは譜面はほとんど使いません。

とくに伴奏では歌のコード変化や踊りのリズム変化・展開変更に即応しなければならず、手持ちのネタをその場で作りかえたり、アドリブで合いの手を入れたりする必要が出てきます。

ギターが二本いるときに、もう一人のコードプレイに乗っかって、インプロビゼーションをとる場面もあるでしょう。

フラメンコはモダンジャズ等ほどの専門的なインプロビゼーションは必要とされませんが、その場でフレージング・簡易的作曲をする能力はかなり重要です。

モードとコードスケール

今回はまだリズム要素には触れずに、コードや曲展開の変化(ファルセータの長さが急に変わったり)に対応するやり方を考えます。

具体的には『モード(旋法)』と『コードスケール』の応用です。

これは即興演奏だけでなく、リハーサルの現場でファルセータを指定サイズにつくりかえたり、自分で一からファルセータを作ったりするのに必ず役立つと思います。

モードとコードスケールについては以下の記事で解説していますので、ご覧になってください。

モードとダイアトニックスケール【音楽理論ライブラリー09】
音楽理論ライブラリー第9回。今回からスケール(音階)の学習に入ります。まずはスケールの基本として、モード(旋法)とダイアトニックスケールを解説いたします。

ミの旋法にコードスケールを設定してみる

ミの旋法ではどうでしょうか?

前回解説したポルアリーバを例にすると、まずG♯音を含まないほうのダイアトニックコードについて考えます。

臨時記号がつかない範囲ということですが、これはCメジャー・Aナチュラルマイナーと平行調なので、7つのモードスケールがそのまま適用できます。

『ミの旋法』はミから始まるので以下の通りになります。四和音で書きます。

Em7(Ⅰm7)Eフィリジアン
FM7(♭ⅡM7)Fリディアン
G7(♭Ⅲ7)Gミクソリディアン
Am7(Ⅳm7)Aエオリアン
Bm7♭5(Ⅴm7♭5)Bロクリアン
CM7(♭ⅥM7)Cイオニアン
Dm7(♭Ⅶm7)Dドリアン

ルート音が違うだけで、Cメジャー、Aナチュラルマイナーと全く同じものです。

Ⅰ,Ⅰ7の扱い

では、ミの旋法のルートコードであるE,E7はというと、ここは前回やったEスパニッシュスケールとなります。
フィリジアン+M3です。

通常の五線紙の感覚だとE,E7コードも臨時記号が発生するので、ノンダイアトニックコードと感じるかもしれませんが、フラメンコ的感覚ではEm,Em7ではなくE,E7がルートコード=『通常コード』じゃないでしょうか。

これに対するコードスケールを考えると、構成音的にはハーモニックマイナー・パーフェクト5thビロウ(1,♭2,M3,P4,P5,m6,m7)(以下HMP5B)でも間違いではありませんが、やはり感覚的に『Eコード=Ⅰ,ルート』ので、Ⅰmへの解決を前提としたⅤ7解釈のHMP5Bのと、ルート解釈のスパニッシュスケールではフレージングが違うんですよね。

ただし、ポルアリーバのE7でも次のコードがAmの場合、HMP5B的な動きになります。

基本的にはⅠコードに留意すれば、他のダイアトニックコードは平行調のメジャーキー・マイナーキーと同様にとらえてokということになります。

前回解説したフラメンコ的テンション使いの問題は残りますが、そのあたりはまたの機会にやりますので、今回はコードスケールのフラメンコへの応用ということで話を続けます。

ノンダイアトニックコードへの対応

Ⅰ,Ⅰ7は特殊な立ち位置なのがわかったと思いますが、ダイアトニックトニックコード以外のコード=ノンダイアトニックコードはどうでしょうか?

ポルアリーバでよく使われるノンダイアトニックのコードスケールを考えてみましょう。

フラメンコ流セカンダリードミナント

まず前回解説したセカンダリー・ドミナント系ですが、以下のようになります。

  • 次にメジャー系コードに五度進行するなら(D7→G,C7→Fなど)ミクソリディアン
  • 次にマイナー系コードに五度進行するなら(B7→E7※,A7→Dmなど)HMP5B

それぞれ次の解決先コードをⅠ,Ⅰmととらえて、そこから数えたⅤ7のコードスケールを適用します。

ちなみに上記※のB7→E7進行ですが、これだけ少し特殊です。

ルートコードのE7はM3を含みますがベースとなっているのがフィリジアン=マイナー系ですので、B7→E7はマイナー系ドミナント進行ととらえます。
弾いてみれば感覚的にわかると思います。

F7(♭Ⅱ7)は?

では、F7(♭Ⅱ7)はどうでしょう?

ミクソリディアンでも可ですが、これはFM7のリディアンが変化したものですので、リディアンの7thが半音下がったリディアン7th(1,2,M3,♯4,P5,M6,m7)が一番マッチします。

フラメンコ的なミの旋法の平行移動

そしてもう一つ、7th系ノンダイアトニックで特筆すべきは、ミの旋法の平行移動による一時転調が多用されるという点です。

例えばポルアリーバなら以下のようなものがあります。

  • A♭→Gの進行が出てきてGのスパニッシュ調(=短3度転調)に行く
  • B♭→A(またはAm7とか)がきてAスパニッシュ(ポルメディオ)(=4度転調)に行く
  • C→B7がきてBスパニッシュ(=5度転調)に行く

あとEメジャーのアレグリアスで平行調のG♯スパニッシュ調は普通に行きますが、Bスパニッシュ調(=平行調からの短3度転調)や、C♯スパニッシュ調(=平行調からの4度転調)などに行くこともあります。

ほとんどの場合、平行調・同主調・属調・下属調といった関係調がらみで以下の3種になります。

  • 短三度上(=同主調)
  • 四度上(下属調)
  • 五度上(属調)

転調してすぐに戻ることもあれば、ノンダイアトニックというより、本格的転調というべき長さの場合もあります。

コードスケールとしては該当のスパニッシュスケールを使用します。

それに付随して転調先の♭Ⅱ7が出てきたら、リディアン7thを適用します。

例えばポル・アリーバでやっていて、A♭7→G7→F7→E7となった場合のコードスケールは、A♭リディアン7th→Gスパニッシュ→Fリディアン7th→Eスパニッシュ、という感じになります。

その他ノンダイアトニックコードへの対応

その他のノンダイアトニックコードへの対応はギタリストによってまちまちなのが現状です。

一般的なノンダイアトニックコードスケールは以下の記事にまとめましたのでご一読下さい。

ノンダイアトニックコードスケール【音楽理論ライブラリー10】
音楽理論ライブラリー 第10回はノンダイアトニックなコードに使うスケールです。転調まで行かないものの、基本のキーの音から外れて♯や♭した音が含まれるケースです。

オルタードやコンディミはジャズフレーズと一体になっているので、それをそのまま応用すると、どうしてもジャズっぽくはなります。

フラメンコでのオルタードテンションや♯5,♭5の処理はスケールというより、もっとピンポイントで入れていく感じでしょうか。
このへんは自分もフレージングなど研究中です。

他にもコードスケールはたくさん存在する

コードスケールとして使える可能性のある音階は、7音階に限らず色々なものが存在しますが、一定条件が揃えば全てが利用可能です。

こちらの記事で各種特殊スケールについて解説しています。

民族音階・ブルーノート・モード奏法【音楽理論ライブラリー11】
音楽理論ライブラリー 第11回は一般的な西洋音楽理論の枠から外れる少し特殊なスケールの使い方を学習します。民族音階・ブルーノート・モード奏法などです。

究極的にはクロマチック(半音階)理論に行きつきますが、自由度が高すぎるとコードごとの色彩感が出にくくなるので難しいところです。

理論をやる意味

このようにコードスケールは『場面場面で使う音階をはっきり把握できる』というメリットがありますが、これだけで世界中全ての音楽が理解・処理できるわけではなく、あくまであくまで一つの方法であり、『一般的な音楽ジャンルで作曲やインプロビゼーションをする際に違和感のある音を出にくくする』ためのものです。

コードスケール自体もいろんな人が様々なものを考案したりしていて大量にあって、このコードには絶対このスケールが正解!というのも本当はありません。

フレーズとしてカッコ良ければ、例えばポルアリーバでAmに対してAドリアンとかAフィリジアンを使ったり、さらには、それらをミックスして弾いてもぜんぜん構わないわけです。

ただ、あまりたくさんの可能性を意識すると、考えることが増えて反応が遅れたりするので、敢えて使うスケールを限定しておこう、という方向の理論体系ですね。
コードスケールやモードは。

全ての音楽理論は『音楽』を演奏・作曲するのに、多くの人が自然の流れと感じることを最大公約数的に皆が共有できるように体系化してあるものです。

理論がわかったからといって、それだけでいい音楽が作れたり、素晴らしい演奏ができるわけではありません。

しかし、音楽を論理的に把握するのに他に方法が無いのも事実で、中でも汎用性が高いコードスケールやモードの考え方は大変有用と思います。

前回、今回と解説したものは、これからフラメンコ音楽の謎に挑むに当たって、『考え方の土台』として捉えていただきたいです。

フラメンコ音楽論 前回

フラメンコで使われる音階とコード【フラメンコ音楽論04】
フラメンコ音楽論 第4回はフラメンコ音楽で使われる音階(スケール・モード)と和音(コード)の基本です。フラメンコ独特の『ミの旋法』を中心にやります。

フラメンコ音楽論 次回

ミの旋法のコード機能・代理コード【フラメンコ音楽論06】
フラメンコ音楽論第6回はコードの知識をもう少し掘り下げて『コード機能』『代理コード』についてやります。『ミの旋法』にもコード機能を設定して考察しています。

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