宅録(ホームレコーディング)の基本【DTM・機材解説08】

DTM・機材解説では前回、DAWでの音楽制作の流れを解説しましたが、DTMの基礎的な事はご理解いただけたのではないでしょうか。

これからDTMの各プロセスごとに解説をしていきますが、今回は自宅でのレコーディングについてです。

宅録とは?

ミュージシャン用語で「宅録」というのがありますが、自宅録音=ホームレコーディングということで、自宅で歌や楽器の演奏をレコーディングすることを指します。

DTMが普及するまでは、レコーディングというとレコーディングスタジオに行ってプロのエンジニアにやってもらうというのが普通で、目玉が飛び出るようなコストがかかったものです。

一方で、宅録=ホームレコーディングという制作スタイルは1980年代頃から普及してきたもので、前世紀までは宅録と言えば主にアマチュアがカセットMTR(マルチ・トラック・レコーダー。市販のカセットテープに多重録音が出来た)を使って自宅でデモ音源などを制作するようなイメージでした。

その頃(1980年代から1990年代前半)は宅録機材も、4chカセットMTR、ダイナミックマイク、リズムマシーン、電子キーボードというのが標準でしたよね。

その時代はレコーディング用のコンデンサーマイクは非常に高価だったし、そもそもカセットMTRの環境では、そんなものを持っていたとしても、全く活かせなかったです。

ちなみに、MIDI音源とシーケンサーが一般に普及したのは1990年代からで、ローランドのSC-88(通称ハチプロ)はこの時代の象徴といえます。

打ち込みに関しては、ハチプロが普及したあたりから自宅で作れる物のクオリティーが急激に上がってきましたが、宅録に関してはスタジオ録音のクオリティーには遠く及びませんでした。

そういう状況が変わってきたのは2000年代に入って、PCでのレコーディングが一般化して以降です。

2000年代からは、①PCの高性能化②DAWの進化とDTMの普及③オーディオインターフェースの高音質化④普及価格帯のコンデンサーマイクの品質向上、というような事があって宅録のクオリティーはどんどん向上し、現在では、それなりの録音技術があればスタジオレコーディングに肉薄できるレベルにまでなってきています。

今までレコーディングスタジオを使って高いコストをかけていたプロアーティストも、昨今のコロナ禍をきっかけに自宅での制作を経験することで、一気に宅録派が増えるのではないでしょうか。

宅録のメリット

宅録の最大のメリットは、場所代を気にせずに、自分が納得するまで、自分のペースで作業できる事です。

一方、宅録のデメリットとしては以下のようなものがあります。

  • 機材や技術がショボいと良い音質は望めない
  • 雑音や部屋鳴りが入りやすい
  • 原則セルフオペレーティングなので、DAWの操作に習熟しないと演奏に集中出来ない
  • 手軽に録音できるので、やたらとテイク数が増えてしまう
  • 自宅という環境のせいで集中力の維持が難しい場合もある

しかし、コストを気にせずに制作に没頭できるというのは、これらのデメリットを一瞬で打ち消す魅力があるし、これからも機材の低価格化と高音質化は進むと思うので、宅録派はどんどん増えていくでしょうね。

マイク録りとライン録り

レコーディングの方法は大きく分けると、マイク録りとライン録りの2種類があります。

マイク録り
歌や生楽器の演奏をマイクで集音してPCに録音

ライン録り
エレキギター、エレアコなどを含む電気楽器・電子楽器や外部機器など、電気的な出力が出来る機器をインターフェースに直接繋いでPCに録音

ライン録りのほうは接続方法とか入力レベルの調整に気を使うくらいで、そこまで技術的な差は出ませんが、マイク録りは録音技術の差が顕著に出ますので、ここではマイク録りを中心に解説します。

宅録に必要な機材

次に、PCを使った宅録に必要な機材について解説していきます。

パソコン

まず、PCが無ければ始まりませんよね。

宅録自体はタブレットやスマホのみでも不可能ではありませんが、使える機材・ソフトウェアが大幅に制限される上に作業効率も落ちるので、本格的にDTMをやるならPCは必須です。PCの選び方はこちらの記事を参考にしてください。

DAW

自宅での音楽制作の中核を担うDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)と呼ばれる音楽制作ソフトです。DAWの選び方はこちらの記事を参考にしてください。

オーディオインターフェース

PCに音を取り込んだり、高音質で再生するのに必要な機材です。オーディオインターフェースの選び方はこちらの記事を参考にしてください。

モニター用ヘッドホン

PCから出る音を聴いたり、レコーディング時にクリック音やオケをモニターするために必須です。モニターヘッドホンの選び方はこちらの記事を参考にしてください。

接続ケーブル

機材同士を接続するケーブルも必要です。

接続端子には色々種類があるので、適合する端子が付いているものを揃えます。

ケーブルの長さについてですが、長すぎるとノイズが大きくなったり出力が落ちたりすることもあるので、取り回しに困らない範囲でなるべく短いものを選びましょう。

また、芯線の絶縁が甘かったりコネクター部分の作りが雑だとノイズを発生したりするので、信頼できるブランドのものを買うのが無難です。

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CLASSIC PRO ケーブル・コネクター各種 一覧
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――ここまでは宅録をやらなかったとしても、DTMをやるには絶対に必要な機材で、ここまで揃えれば打ち込みとライン録りによる音楽制作は出来ます。マイク録りをするなら、さらに以下の機材を揃えます。

コンデンサーマイク

宅録するなら、楽器や歌を集音するマイクは最重要な機材です。コンデンサーマイクの選び方はこちらの記事を参考にしてください。

マイクスタンド

マイクを演奏しやすい位置に固定するマイクスタンドは、しっかりしたものを用意しましょう。

宅録だと座った状態での録音が多いだろうし、スペースの関係であまり大きなものは邪魔になるので、ショートブームタイプやデスク固定型などのコンパクトなものがお奨めです。

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マイクスタンド 一覧
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――ここからは、必須ではないけれど持っていた方が良い機材です。

リフレクションフィルター

宅録では環境によって部屋鳴りしたり雑音を拾いやすくなったりするので、そういう時に試してみたいのがリフレクションフィルターという機材です。

マイクの周囲を吸音材で囲って、レコーディングブースで録ったような残響やノイズが少ないクリアな音を実現しようというアイテムですが、効果のほうは条件によって劇的に効果ある場合と、あまり効果が感じられない場合とあります。

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リフレクションフィルター 一覧
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モニタースピーカー

モニタースピーカーはPCから音を出すのに必要な機材です。

モニターヘッドホンがあれば音を聴くことは出来ますが、ミキシング・マスタリングをする場合、スピーカーは絶対にあったほうが良いです。

他にも、例えば録音しながらアレンジを推敲したりする時、スピーカーで音を出しながら楽器を弾いて確認したい場合だとか、複数人で録音結果を確認するのにスピーカーで鳴らしたい時とか、結構あるんですよね。

モニタースピーカーについてはこちらの記事で解説しています。

録音の手順

では、宅録の基本的な流れを解説します。

なお、使用するDAWによって細かい手順は異なりますが大きな流れは同じです。

  1. 機材をセッティングしたらPCとDAWを起動する
  2. DAWを録音待機状態にしたらファントム電源を入れて、マイクの音が来ているかモニターヘッドホンと画面のレベル表示で確認
  3. マイクセッティングと録音レベルを調整する
  4. 録音したいトラックを選択して、クリック音やバックトラックをモニターしながら録音する
  5. プレイバックして録音を確認する

後は4.と5.を繰り返してどんどん録音していきますが、セッティングを変えたい時は3.に戻ります。

レコーディングで目指すべき音とは?

ここで、レコーディングで目指すべき音というのを定義しておきましょう。

これは一言でいうと「ノイズや残響などを排除して、原音の成分のみを、なるべく大きなレベルで録る」ということです。

よく勘違いされる方がいるんですが、市販のCDなどはエフェクトなどで加工して盛ってある状態なので、そういう音をイメージされると大分違うことになってしまいます。

レコーディング段階ではリバーブ成分などは邪魔にしかならないので「なるべくドライでシャープな音」「あとでエフェクト加工しやすいフラットな音」「その楽器本来の音色が脚色なく録れている」というのが理想です。

市販のCD等の音を想像されていると、地味でショボい音に感じるかも知れませんが、この段階ではそのほうが良いのです。

音を豪華に、煌びやかにするのは、後でエフェクトでいくらでも加工できるし、調整のしやすさを考えると残響や干渉成分は極力無いほうが良いです。リフレクションフィルターを使うのも、ノイズと残響の低減という目的ですので。

もう一つ「なるべく大きな録音レベルで録音する」という事も重要ですが、これについては、この後の「録音レベル調整」の項目で解説します。

マイクの立て方

宅録においてマイクのセッティングは一番難しいところです。

録音対象やマイクの機種によってベストのマイキングは変わってくるので耳を頼りに試行錯誤するしかないのですが、ここでは最低限知っておくべきことを解説します。

まず、マイクスタンドのネジなどはしっかり締めて、演奏中にグラグラしたり、振動によるノイズを発生させないようにしましょう。

マイクの向きは、ダイアフラムの正面に音源が来るようにするのが基本です。

サイドアドレスのコンデンサーマイクの場合、ダイアフラムが横向きに付いているため、普通はマイクを縦に立てるか、上から吊り下げる形で、マイクの真横から音が入るようにします。前と後ろを間違えると感度が悪くなるので注意してください。

スモールダイアフラムのコンデンサーマイクはほとんどが先端部にダイアフラムが入っていて正面から音を拾うようになっているので、普通のダイナミックマイクと同様にマイクの先端を音源に向けて正面から録ります。

ラージダイアフラムでもスモールダイアフラムでも、録音対象によっては少し角度をつけたほうが自然な音で録れたりする事もあるので、距離や角度、狙う場所など色々試してみてください。

マイクとの距離については、次の「近接効果」の章で詳しくやります。

近接効果

マイク録音では「近接効果」に注意を払ってください。

近接効果とは、音源がマイクに近付くほど低音域が強く録音されるというものです。

音源とマイクが近すぎると近接効果で低音域が強調されて、耳で直接聴いた音とかなり違った音になってしまいます。

逆に音源とマイクが遠すぎると、締まりの無いボヤけた音になる上、マイク入力レベルを上げなければならないため、周囲のノイズも拾いやすくやります。

録音対象とマイクの機種によりますが、一般的にレコーディング用のコンデンサーマイクはダイナミックマイクより近接効果が強く出るので、音源との距離は20cmから50cmくらいとるのが良い結果になると思います。

ただし、空気感や残響成分も録りたい場合は1mくらい離す場合もありますが。

マイクにローカットスイッチが付いている場合は、オンにすることで近接効果とフロアノイズを軽減できるので、その分、音源とマイクを近付けて、より繊細なニュアンスを拾ったり、迫力ある音圧感で録ることもできます。

ギターやボーカルはローカットが有効なことが多いですが、ベースや低音系の打楽器はローカットを使うとスカスカになるので近接効果だけで調整します。

録音レベルの調整

録音のクオリティーを上げるためには録音レベルの調整もかなり重要です。

録音レベルが大きいとS/N比(原音とノイズの比率)やダイナミックレンジ(最小音と最大音の音量差)で有利になります。

原音が十分な音量で録れていないと、ミキシング時に音量を上げなければならないんですが、その時にノイズも一緒に大きくなってしまって、そういうパートが増えると全体のサウンドが濁ってきてしまうんですよね。

録音レベルの調整は、オーディオインターフェースのマイク入力のゲイン調整ツマミで行います。

その時、PCの画面やオーディオインターフェースのレベルメーター(付いていれば)で確認しながら調整するのですが、録音レベルが大きすぎるとクリッピングといって、音割れが発生します。

クリッピングするとPC画面やオーディオインターフェースのレベルメーターが振り切れて赤く表示されたりするので、クリッピングしたら入力レベルを少し下げましょう。

理想は最大音量時にぎりぎりクリッピングしないレベルに調整することですが、演奏姿勢の変化などからマイクとの距離や角度が変わったりするので、少し余裕をもったレベルにしておくのが良いと思います。

――原則的には今言った通りに調整するのですが、マイクや楽器によっては録音レベルを抑え気味にしたほうが聴覚上良い結果になる場合も多々あるので、なかなか難しいものです。

録音レベルの再調整について

当然のことながら、録音対象やマイクセッティングが変われば録音レベルも再調整が必要になってきますが、少し演奏位置が変わる度に再調整というのも大変なので、どれくらいの条件変化があったら録音レベルの再調整をするか?というのは、再調整の手間と欲しい録音クオリティーを天秤にかけて判断することになります。

自分の場合、演奏動画制作の時はかなりアバウトです。

あらかじめ録音レベルを少し小さ目に調整しておいて、マイクとの距離も大体決めておいて、マイクセッティングしたらレベル調整無しでいきなり録音したりしていますが、そんなやり方でも今までそんなに酷いことにはなってません(と思う)。

音源作品として聴かせるようなもののレコーディングだと、もっと神経を使いますが……。

宅録で良い音を録るポイントとしては、今書いたようにマイクセッティングと録音レベルが最重要ですが、他にも幾つか気を付けるべきポイントがあるので書いておきます。

スピーカーへの出力を確認

レコーディング時にはスピーカーへの出力を必ず切っておきましょう。

録音時にスピーカーから音が出ていると、それも一緒に録音してしまって音が濁ります。

ヘッドホンを付けっぱなしで作業してると気が付かないこともあるので、必ず確認する癖をつけましょう。

演奏姿勢

演奏中は、なるべく演奏姿勢を一定に保ってマイクとの距離や角度が一定になるように気を付けましょう。

高感度なコンデンサーマイクは少し距離や角度が変わるだけで音質・音量が変わってしまうので、後から編集する場合も考えて、なるべく均等な音質で録音できるのがベストです。

足を踏みながらの演奏

これは自分も悩んでいる問題ですが、足でリズムを取りながら演奏すると、足の音をマイクが拾ってしまったり、足を踏んだ振動がマイクスタンドの支柱を伝って録音に悪影響を及ぼしたりすることがあるので、録音クオリティーに拘るなら足は踏まずに演奏したほうが良いです。

ただ、足を踏まないとリズムが取りづらくなったりというのは多々ありますよね。

対策としては、足元とマイクスタンドの下に毛布などを敷くとかして、さらにマイクのローカットスイッチやEQなどで、そのパートの超低域をばっさりカットしてしまえば、かなり目立たなくはなります。

逆に、演奏動画などで足を踏んでいるのに、足の音が全く入っていない、というのも違和感があるだろうから、演奏時に足を踏むか?踏むとしたらどれくらい対策するか?という事はケースバイケースで判断しましょう。

マイク録音の奥深い世界

宅録に限らず、マイク録音というのは録音対象の音源によって最適なマイクの機種やマイキングが変わってきたりして、とても奥深い世界です。

今回は「単一の音源をマイク1本でモノラル録音する」という最もシンプルな形を前提としましたが、マイクを2本使ってステレオ録音したり、複数のパートを同時録音したりとか、特性の異なるマイクを数本使ってミックスするなどのテクニックもありますし。

そういう事まで文章化するのはとんでもない物量になりそうなので、今回はこれくらいで止めておこうかと。

宅録の基礎的な知識としては今回書いた事で十分かと思いますが、この先は今回の知識をもとに、各自の目的に応じてマイク選びやマイキングの研究をしていっていただけたら嬉しいです。

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