音楽理論ライブラリーでは前回、ダイアトニックコードとドミナントモーションなどの基本的なコード進行をやりました。
今まで、ハーモニックマイナー・メロディックマイナーという例外はありましたが、臨時記号や転調を含む内容は扱ってきませんでした。
実際の曲では臨時記号が付いたり転調したりして、ダイアトニックから外れる音やコードが頻繁に出てきますが、これらをノンダイアトニックトーン、ノンダイアトニックコードと呼びます。
このノンダイアトニックな音をどう解釈するかが、音楽を理解する上で重要かつ難しいポイントです。
臨時記号入りのコードの解釈
臨時記号として♯や♭がついた音を含むコードの解釈ですが、大別すると以下の2つになります。
- 「本格的転調」=他のキーのダイアトニックコードという解釈
- 「一時的転調」=そのキーの範囲でのノンダイアトニックな代理コード・経過コードという解釈
この2つのどちらでも解釈できる場合が多いですが、臨時記号が入る部分の長さ(一般的には長いと本格的転調として調号をふり直す)や前後の関係で判断します。
今回は、1.の本格的転調は考慮せず、2.の同じキーの中でのノンダイアトニックコードということを学習しましょう。
以下に、よく使われるノンダイアトニックコードをあげていきます。
セカンダリードミナント
ノンダイアトニックコードで代表的なのがセカンダリードミナントです。
前回、ドミナントモーションを解説しましたが、セカンダリードミナントはⅠコード以外のコードに対してドミナントモーションをかけるものです。
次のコードを5度上(=4度下)のドミナント7thコードで補強・強調する効果があります。
例えばCメジャーキーなら以下のようなものがあります。
- D7→G7のD7(Ⅱ7)
- A7→Dm7のA7(Ⅵ7)
- E7→Am7のE7(Ⅲ7)
解決先のコードをⅠと数えてⅤ7がセカンダリードミナントになります。
多重ドミナントモーション
ドミナントモーションの拡張版として、二重三重にドミナントモーションをかけることもあります。
例えば、上で挙げたセカンダリードミナントでの例を二重ドミナントモーションにするとこんな感じになります。
- A7→D7→G7
- E7→A7→Dm7
- B7→E7→Am7
解決先のコードをⅠと数えてⅡ7→Ⅴ7となります。
ツーファイブ進行
ジャズ系の音楽ではあるコードを修飾・強調するとき、二重ドミナントモーションになるⅡ7→Ⅴ7も使いますが、いわゆるツーファイブ(Ⅱ-Ⅴ)と呼ばれる形を多用します。以下のような形です。
- Ⅱm7→Ⅴ7(メジャーツーファイブ)
- Ⅱm7(♭5)→Ⅴ7(マイナーツーファイブ)
Cメジャーキーを例にすると、解決先がG7なら、Am7→D7→G7。
解決先がDm7なら、Em7(♭5)→A7→Dm7。
解決先がAm7なら、Bm7(♭5)→E7→Am7という形になります。
同種調コードの活用
これは今回やっている「一時的転調」と次回学習する「本格的転調」とのボーダーライン上のものと思いますが、同じルートを持つ同主調のダイアトニックコードなどを活用するのは非常によくやられる常套手段です。
例えばCメジャーキーで、E♭M7、Fm7、Gm7、A♭M7、B♭7といったコードがかなりの頻度で出てきますよね?一瞬切ない感じになるアレです。
同主調コードの活用もあまり長いサイズだと「本格的転調」として調号を変えてしまったほうが良い感じになってきますが、数小節くらいまでのサイズだと「一時的転調」と言えます。
同主調コードの活用について「同系統のコード機能のコード」は完全な代理コードでは無いものの、一定の互換性があって、差し替えることで曲に広がりが出たりします。
ちなみに「同系統のコード機能」というのは以下の組み合わせになります。
- トニック(T)とトニックマイナー(TM)
- ドミナント(D)とドミナントマイナー(DM)
- サブドミナント(SD)とサブドミナントマイナー(SDM)
同主調コードはメジャーキーの中で同ルートのマイナーキーのコードが出てくる場合が圧倒的に多いですが、逆にマイナーキーの中で同ルートのメジャーキーのコードが出てくると、独特の浮遊感があって面白い効果を生みます。
ディミニッシュコードの活用
ディミニッシュコードは短3度音程のみで構成される特殊コードで、短3度で平行移動が可能です。
例えば、Cdim7=E♭dim7=G♭dim7=Adim7という感じで、これらの中身は同じコードになります。
また、ドミナント7thコードのルート音を半音上げると、ディミニッシュコードになるので、ドミナント代理として使われます。
パッシングディミニッシュ
パッシングディミニッシュは、ディミニッシュコードのこういう特性を利用して、ドミナント進行(5度進行)などをディミニッシュで代理して半音進行に置き換えるものです。
例えば、CM7→Dm7→Em7という順次進行をCM7→D♭dim7→Dm7→E♭dim7→Em7として半音進行にできます。
また、ドミナント代理の働きを利用して5度進行にも適用可能です。
例えば、G7→E7→Amという進行を、G7→G♯dim7→Amというふうに置き換えることができます。
トニックディミニッシュ
ディミニッシュコードを活用したノンダイアトニックコードの一つに、トニックディミニッシュというのがありますが、これはⅠコード、Ⅰmコードをディミニッシュコードに置き換えてⅠdim7とするものです。
先ほど解説した通り、ディミニッシュコードは半音下のドミナント7thコードの代理として働くので、トニックディミニッシュはⅡ7、Ⅳ7、♭Ⅵ7、Ⅶ7の代理コードと捉える事も出来ます。
コード機能としては、前後との関係により変わってくると思います。
トニック(またはトニックマイナー)のままとする場合もありますが、構成音的に考えるとサブドミナント・ドミナント系ですよね。
――このように、ディミニッシュコードは転回形やドミナント7th代理、コンビネーションオブディミニッシュ(あるディミニッシュコードと、その半音上のディミニッシュコードの組み合わせでドミナントの働きをする)まで考慮すると、結局ほぼ全てのディミニッシュコードが何らかのノンダイアトニックコードとして解釈可能になります。
オーギュメントコード(♯5コード)の全音ずらし
上に書いたように、ディミニッシュコードは短3度間隔でずらす事が可能ですが、オーギュメント(またはオーギュメント7th)コードは全音(長2度)間隔でずらす事が可能です。
まず、オーギュメントコードは全ての構成音が長3度間隔で構成されているので、キーを変えずに長3度間隔でずらすことが可能です。
例えば、C(♯5)=E(♯5)=G♯(♯5)ということで、この3つは同じコードになります。
さらに、長3度を2等分した全音(長2度)に細分化して「ホールトーン(全音階)で構成されたコード」であると解釈すると、キーを変えずに全音(長2度)間隔でずらすという事が可能になります。
例えば、C7(♯5)=D7(♯5)=E7(♯5)=F♯7(♯5)=G♯7(♯5)=A♯7(♯5)となります。
裏コード
ドミナント7thコードには「裏コード」と呼ばれる代理コードが存在します。
これは半オクターブ上(♭5・♯11の音程で、下に行っても同じ音程)のドミナント7thコードで、Cメジャーキーでいうと、G7(Ⅴ7)とD♭7(♭Ⅱ7)などが裏コード関係になります。
G7とD♭7はどちらもCコード(Ⅰ)に対するドミナントになります。
G7→Cという5度進行をD♭7→Cという半音下降進行に置き換えるわけですね。
逆に、半音進行→5度進行という変換も可能です。
裏コードは、セカンダリードミナントなど、ドミナント進行しているドミナント7thコードには全て適用可能なので、裏コードを考慮に入れると、そのキーで利用できるコードの範囲は一気に広がります。
ドミナント7th化されたコード
あらゆるタイプのコードをドミナント7th系コードに変換することができます。
ドミナント7th化は、セカンダリードミナントとして使われる場合が多く、その場合はコード機能はドミナントになりますが、ブルースで使うⅠ7(T)、Ⅳ7(SD)や、マイナーキーのⅣ7(SD)など、使われ方によっては他のコード機能になることもあります。
半音アプローチコード
半音アプローチはドミナントモーションに似た働きのものですが、強調したいコードの半音上または半音下からアプローチしているコードです。
普通は目標コードと同じコードタイプの半音上か下のコードを使い、その直後に半音で目標コードに解決させます。
例えばAm7に半音アプローチする場合、上から行く場合はB♭m7→Am7、下から行く場合はG♯m7→Am7となります。
ギターだと、同じ形でフレットずらせば良いので楽ちんですよね。
その他のノンダイアトニック代理コード
上にあげたようなノンダイアトニックコード以外にも、慣用句的にそのキー内の代理コードとして使われるノンダイアトニックコードがあるので、一般的なものを挙げておきます。
♭ⅡM7=SDM ※いわゆるナポリコード
Ⅲm7(♭5)=SD
ⅣmM7=SDM
♯Ⅳm7(♭5)=SD
♭Ⅵ7=SDM
♭Ⅵm7=SDM
♭ⅦM7=SDM
――今回は臨時記号が付くコードの解釈を学習しましたが、次回は今回扱わなかった「本格的転調」についてやります。
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