フラメンコで使われる音階とコード【フラメンコ音楽論04】

リズム形式に話を進めようと思っていましたが、リズム形式に行く前に、フラメンコ音楽で使われる音階やコードについて触れておきたいです。

今回は音楽家・楽器プレイヤー向けの内容となりますが、専門知識が無くても理解しやすいよう書いてみようと思います。

ここで使われる表記については『音楽理論ライブラリー』にて解説していますので、そちらをご覧ください。

基礎知識・インターバル【音楽理論ライブラリー01】
新連載『音楽理論ライブラリー』第1回は、基礎知識とインターバル(度数、ディグリー)の解説です。インターバルは全ての音楽理論の基礎になるものです。

フラメンコで使われる音階

フラメンコの形式(曲目)で使われる調性は

  • メジャーキー(長調)
  • マイナーキー(短調)
  • ミの旋法(=ポルメディオ、ポルアリーバなど)

以上の三種類に大別されますが、メジャーキー、マイナーキーは一般的な音楽と共通の部分が多いので、ここではフラメンコ音楽特有の『ミの旋法』についてお話します。

『ミの旋法』はモードでいうとフィリジアンに近いもので、コードスケールでいうと、スパニッシュスケールになります。

ミの旋法は教会旋法でいうフィリジアン=ミから始まる音階がベースですが、フラメンコで実際に使われる、ポルアリーバやポルメディオなどの調ではフィリジアンの音に加えてメジャー3rd(長三度、以下M3)の音も入ってきます。

このM3の絡め方が、フラメンコらしいフレージングということに繋がっていきます。
ブルース・ジャズ系音楽のブルーノートの使い方とちょっと似ています。

このフィリジアン+M3の音階は、スパニッシュスケールとも呼ばれます。

別のとらえかたをすると、ハーモニックマイナー・パーフェクト5thビロウに♯9が入った音階ともいえます。

ミの旋法=スパニッシュスケールの構成音は以下の通りになります。

1(ルート音。ポルアリーバならE、ポル・メディオならA、ポル・タラントならF♯)
♭2(フラット2nd、減二度)
m3(マイナー3rd、短三度)
M3(メジャー3rd、長三度)
P4(パーフェクト4th、完全四度)
P5(パーフェクト5th、完全五度)
m6(マイナー6th、短六度)
m7(マイナー7th、短七度)

このうち、特殊なのがやはりM3の使い方です。

ポル・アリーバで解説すると、ルートコードであるEコードのM3rdにあたるG♯音がEコード以外のコード上でも使われたりして、結果的にちょっと変わったテンションノートみたいになったりします。

これ、多分ですが歌い手が遊びでコードの先取りとかやって伴奏とズラして歌って、それがフラメンコ的なテンション使いとして定着したものと思います。

そういう半音ズレたような響きがモデルノ系ギターのコードボイシングでもかなり使われるんですよね。

ミの旋法で使うコード

コードボイシングの話が出ましたので、ミの旋法で使われるコードについてお話します。

一般的なダイアトニックコードについて

メジャーキー、マイナーキーにはいわゆるダイアトニックコードという概念があります。

これもゲーム音楽論のほうで簡単な解説をしていますが、その調性の主音階から生成されるコードで、西洋音階は7音階なので一つのキー・スケールに対して7つ存在します。
これらはメジャーキー、マイナーキーの基礎的な構成要素です。

CメジャーキーならCメジャースケールの音からできています。

マイナーキーはやや複雑です。

Aマイナーキーなら
Aナチュラルマイナースケール
Aハーモニックマイナースケール
Aメロディックマイナースケール

以上の3種があるので、ダイアトニックコードも多数存在します。

ミの旋法にダイアトニックコードを設定してみる

今までちゃんと理論化されていませんが、ミの旋法にもダイアトニックコードは設定できます。

調号無しのCメジャーキーの平行調であるEのスパニッシュ調=ポル・アリーバで説明します。

まず、ルートコードEのM3であるG♯音を含まないもの。
これはCメジャー、Aナチュラルマイナーと平行調になるため、ダイアトニックコードもそれらと共通です。
四和音で書きます。

Ⅰm7=Em7(フラメンコの場合、下で出てくるⅠ7のほうを主に使います)
♭ⅡM7=FM7
♭Ⅲ7=G7
Ⅳm7=Am7
Ⅴm7♭5=Bm7♭5
♭ⅥM7=CM7
♭Ⅶm7=Dm7

となります。
ノーマルな響きですね。

次にG♯音を含むものです。

Ⅰ7=E7
♭ⅡM7=FM7(G#音を3rdにとる♭ⅡmM7=FmM7)
Ⅲdim7=G♯dim7
ⅣmM7=AmM7
Ⅴm7♭5=Bm7♭5
♭ⅥM7♯5=CM7♯5
♭Ⅶm7=Dm7

こちらはAハーモニックマイナーの平行調になりますが、G♯音を含まないものに比べて

Ⅰ7=E7
♭ⅡmM7=FmM7
Ⅲdim7=G♯dim7
ⅣmM7=AmM7
♭ⅥM7♯5=CM7♯5

これらのコードが変化していますね。
かなり不協和音ぽいのもあります。

この中で伝統的なフラメンコで使われるのはⅠのE/E7のみです。

他のコードは可能性としてはありえますが、モデルノ系だったとしても使われる場面は限られます。

自分的にはこれらに凄く面白い可能性を感じますが、前項目で触れたフラメンコ的な半音ぶつかり系のテンションも、使われる形というのが大体決まっています。

詳しくはまた次の機会にやろうと思います。

セカンダリー・ドミナント、あらゆるコードのドミナント7th化

ダイアトニックコード以外のコードをノンダイアトニック・コードと呼びます。
譜面上で臨時記号が付くことになります。

フラメンコで出てくるノンダイアトニック・コードですが、ポルアリーバでよく使われるのは、B7(Ⅴ7)とかD7(♭Ⅶ7)とかC7(♭Ⅵ7)あたりです。

これらはセカンダリー・ドミナントと呼ばれ、次のコードを五度上(=四度下)のドミナント7thコードで補強・強調するもので、あらゆる音楽ジャンルに出てきます。

ポルアリーバなら、例えばB7→E、D7→G7、C7→F、A7→Dmなどです。

ちなみにジャズの常套句のⅡm7 Ⅴ7 Ⅰは、フラメンコだとⅡ7 Ⅴ7 Ⅰという形のほうが多いです。

フラメンコではブルースやジャズみたいにあらゆるコードをドミナント7th化して演奏したりするんですが、とくにF7(♭Ⅱ7)のE♭音を強調するのはEへの進行でよくやる形で、フラメンコぽいと思います。

E♭音からⅠコードのルートであるE音に半音進行できるため、♭Ⅱコードのドミナント的働きを強化する音です。

ミの旋法系で最も重要な進行

音階やコードの理論的な話はあまり深入りするとどんどん難しくなるので、今回はこれぐらいにしますが、最重要なことを。

ミの旋法で最も重要な進行であり、一番力点を置くべき場所、それは

♭ⅡからⅠ(ポルアリーバならFからE)への解決のさせかたです。

途中の展開は全てそこに持っていくための過程、というのがミの旋法上の音階、コード進行の特色です。

ここのフレージングがダサいと全て台無しなので、一番のポイントと言えます。

フラメンコ音楽論 前回

フラメンコの基本的発想【フラメンコ音楽論03】
フラメンコ音楽論 第3回です。フラメンコには独自の演奏フォーマットがありますが、今回は他の音楽ジャンルと発想が異なっている部分を重点解説します。

フラメンコ音楽論 次回

コードスケールのフラメンコへの応用【フラメンコ音楽論05】
フラメンコ音楽論 第5回。前回まででフラメンコで使うコードやスケールの基本的なことを解説しましたが、今回は『コードスケール』のフラメンコへの応用というテーマです。