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フラメンコで使われる音階とコード【フラメンコ音楽論04】

リズム形式に話を進めようと思っていましたが、リズム形式に行く前に、フラメンコ音楽で使われる音階やコードについて触れておきたいです。

今回は音楽家・楽器プレイヤー向けの内容となりますが、専門知識が無くても理解しやすいよう書いてみようと思います。

当企画で使用する表記について

当企画ではスケールやコードを説明するのに略号を使用しますが、これをまず解説しておきます。

音名

C,D,Eとかのアルファベットは絶対音の『音名』をあらわします。

あとメジャートライアッド(三和音)コードのことを指す場合もありますが、紛らわしい場合はCコード、Dコードという呼び方をします。

階名

ド,レ,ミはメジャースケール・ナチュラルマイナースケールの何番目の音か、という『階名』をあらわします。

Cメジャースケールなら『ド』はC音、Eマイナースケール(マイナーはラから始まる)なら『ド』はG音になります。

当企画では紛らわしさを避けるためにあまり使わないと思います。

調性名

キー(調性)は英語表記します。

(例)
ハ長調=Cメジャーキー
変ホ短調=E♭マイナーキー

今回説明する『ミの旋法』は
ポル・メディオ(Aスパニッシュ調)
ポル・アリーバ(Eスパニッシュ調)
ポル・タラント(F♯スパニッシュ調)

上記以外のスパニッシュ調は『音名+スパニッシュ調』という表記をします。

インターバル表記

音と音がどれくらい離れているか、ということをインターバル(=度数)といいます。

1とか2とかのアラビア数字はコードやスケールの中で何番目の『音』か?ということをあらわします。

テンションノートとして扱うものは9,11,13などのオクターブ上の数字になります。

紛らわしいときは3rd,7th,13thなどの表記をします。

ⅠとかⅡとかのローマ数字はそのキー(調性)の中で何番目の『コード』か?ということをあらわします。

当企画でローマ数字が出てきたらコードのことを言っていると思ってください。

このローマ数字表記を『ディグリー表記』という言い方をすることもあります。

大文字Mと小文字m

メジャーの略は大文字のM
マイナーの略は小文字のm

mとMはコード名に付加されます。
例えばFメジャー7thコードなら FM7
Aマイナーメジャー7thコードなら AmM7

Am7→A-7みたいに、マイナーを『-』で表記する場合もありますが、当企画ではmで統一します。

mとMはインターバル表記にも使います。

長三度(メジャー3rd)→M3
短六度(マイナー6th)→m6

という具合です。

シャープとフラット

シャープは♯
フラットは♭

これらもインターバル名に付いたりします。

減5度は♭5
増4度は♯4

完全4度と完全5度

完全4度と完全5度の音程に関しては、P4、P5と表記します。
パーフェクト4th、パーフェクト5thの略です。

――では本題に入りたいと思います。

フラメンコで使われる音階

フラメンコの形式(曲目)で使われる調性は

  • メジャーキー(長調)
  • マイナーキー(短調)
  • ミの旋法(=ポルメディオ、ポルアリーバなど)

以上の三種類に大別されますが、メジャーキー、マイナーキーは一般的な音楽と共通の部分が多いので、ここではフラメンコ音楽特有の『ミの旋法』についてお話します。

『ミの旋法』はモードでいうとフィリジアンに近いもので、コードスケールでいうと、スパニッシュスケールになります。

ミの旋法は教会旋法でいうフィリジアン=ミから始まる音階がベースですが、フラメンコで実際に使われる、ポルアリーバやポルメディオなどの調ではフィリジアンの音に加えてメジャー3rd(長三度、以下M3)の音も入ってきます。

このM3の絡め方が、フラメンコらしいフレージングということに繋がっていきます。
ブルース・ジャズ系音楽のブルーノートの使い方とちょっと似ています。

このフィリジアン+M3の音階は、スパニッシュスケールとも呼ばれます。

別のとらえかたをすると、ハーモニックマイナー・パーフェクト5thビロウに♯9が入った音階ともいえます。

ミの旋法=スパニッシュスケールの構成音は以下の通りになります。

1(ルート音。ポルアリーバならE、ポル・メディオならA、ポル・タラントならF♯)
♭2(フラット2nd、減二度)
m3(マイナー3rd、短三度)
M3(メジャー3rd、長三度)
P4(パーフェクト4th、完全四度)
P5(パーフェクト5th、完全五度)
m6(マイナー6th、短六度)
m7(マイナー7th、短七度)

このうち、特殊なのがやはりM3の使い方です。

ポル・アリーバで解説すると、ルートコードであるEコードのM3rdにあたるG♯音がEコード以外のコード上でも使われたりして、結果的にちょっと変わったテンションノートみたいになったりします。

これ、多分ですが歌い手が遊びでコードの先取りとかやって伴奏とズラして歌って、それがフラメンコ的なテンション使いとして定着したものと思います。

そういう半音ズレたような響きがモデルノ系ギターのコードボイシングでもかなり使われるんですよね。

ミの旋法で使うコード

コードボイシングの話が出ましたので、ミの旋法で使われるコードについてお話します。

一般的なダイアトニックコードについて

メジャーキー、マイナーキーにはいわゆるダイアトニックコードという概念があります。

これもゲーム音楽論のほうで簡単な解説をしていますが、その調性の主音階から生成されるコードで、西洋音階は7音階なので一つのキー・スケールに対して7つ存在します。
これらはメジャーキー、マイナーキーの基礎的な構成要素です。

CメジャーキーならCメジャースケールの音からできています。

マイナーキーはやや複雑です。

Aマイナーキーなら
Aナチュラルマイナースケール
Aハーモニックマイナースケール
Aメロディックマイナースケール

以上の3種があるので、ダイアトニックコードも多数存在します。

ミの旋法にダイアトニックコードを設定してみる

今までちゃんと理論化されていませんが、ミの旋法にもダイアトニックコードは設定できます。

調号無しのCメジャーキーの平行調であるEのスパニッシュ調=ポル・アリーバで説明します。

まず、ルートコードEのM3であるG♯音を含まないもの。
これはCメジャー、Aナチュラルマイナーと平行調になるため、ダイアトニックコードもそれらと共通です。
四和音で書きます。

Ⅰm7=Em7(フラメンコの場合、下で出てくるⅠ7のほうを主に使います)
♭ⅡM7=FM7
♭Ⅲ7=G7
Ⅳm7=Am7
Ⅴm7♭5=Bm7♭5
♭ⅥM7=CM7
♭Ⅶm7=Dm7

となります。
ノーマルな響きですね。

次にG♯音を含むものです。

Ⅰ7=E7
♭ⅡM7=FM7(G#音を3rdにとる♭ⅡmM7=FmM7)
Ⅲdim7=G♯dim7
ⅣmM7=AmM7
Ⅴm7♭5=Bm7♭5
♭ⅥM7♯5=CM7♯5
♭Ⅶm7=Dm7

こちらはAハーモニックマイナーの平行調になりますが、G♯音を含まないものに比べて

Ⅰ7=E7
♭ⅡmM7=FmM7
Ⅲdim7=G♯dim7
ⅣmM7=AmM7
♭ⅥM7♯5=CM7♯5

これらのコードが変化していますね。
かなり不協和音ぽいのもあります。

この中で伝統的なフラメンコで使われるのはⅠのE/E7のみです。

他のコードは可能性としてはありえますが、モデルノ系だったとしても使われる場面は限られます。

自分的にはこれらに凄く面白い可能性を感じますが、前項目で触れたフラメンコ的な半音ぶつかり系のテンションも、使われる形というのが大体決まっています。

詳しくはまた次の機会にやろうと思います。

セカンダリー・ドミナント、あらゆるコードのドミナント7th化

ダイアトニックコード以外のコードをノンダイアトニック・コードと呼びます。
譜面上で臨時記号が付くことになります。

フラメンコで出てくるノンダイアトニック・コードですが、ポルアリーバでよく使われるのは、B7(Ⅴ7)とかD7(♭Ⅶ7)とかC7(♭Ⅵ7)あたりです。

これらはセカンダリー・ドミナントと呼ばれ、次のコードを五度上(=四度下)のドミナント7thコードで補強・強調するもので、あらゆる音楽ジャンルに出てきます。

ポルアリーバなら、例えばB7→E、D7→G7、C7→F、A7→Dmなどです。

ちなみにジャズの常套句のⅡm7 Ⅴ7 Ⅰは、フラメンコだとⅡ7 Ⅴ7 Ⅰという形のほうが多いです。

フラメンコではブルースやジャズみたいにあらゆるコードをドミナント7th化して演奏したりするんですが、とくにF7(♭Ⅱ7)のE♭音を強調するのはEへの進行でよくやる形で、フラメンコぽいと思います。

E♭音からⅠコードのルートであるE音に半音進行できるため、♭Ⅱコードのドミナント的働きを強化する音です。

ミの旋法系で最も重要な進行

音階やコードの理論的な話はあまり深入りするとどんどん難しくなるので、今回はこれぐらいにしますが、最重要なことを。

ミの旋法で最も重要な進行であり、一番力点を置くべき場所、それは

♭ⅡからⅠ(ポルアリーバならFからE)への解決のさせかたです。

途中の展開は全てそこに持っていくための過程、というのがミの旋法上の音階、コード進行の特色です。

ここのフレージングがダサいと全て台無しなので、一番のポイントと言えます。

フラメンコ音楽論 前回

フラメンコの基本的発想【フラメンコ音楽論03】
フラメンコ音楽論 第3回です。フラメンコには独自の演奏フォーマットがありますが、今回は他の音楽ジャンルと発想が異なっている部分を重点解説します。

フラメンコ音楽論 次回

コードスケールのフラメンコへの応用【フラメンコ音楽論05】
フラメンコ音楽論 第5回。前回まででフラメンコで使うコードやスケールの基本的なことを解説しましたが、今回は『コードスケール』のフラメンコへの応用というテーマです。

コメント

  1. ドリアン より:

    Cメジャースケールの平行調がAマイナースケール、Aマイナースケールの平行調がCメジャースケールというのが平行調という言葉の定義ですがこの場合はフリジアンスケールも平行調というのでしょうか?

  2. 後藤 晃 より:

    >>ドリアンさん
    メジャーキー、マイナーキーのみの一般的な概念だと
    フィリジアンスケールは転回形=コードスケールの一つということになりますが
    拡大解釈してIII、IIIm7(マイナーならV,Vm7)をI,I-7ととらえると
    Eフィリジアン=Eスパニッシュ=Aマイナー=Cメジャー
    つまり平行調としてとらえることが可能と思います。
    一般的にはこのあたりはしっかり理論化されていないので、これは自分の解釈です。
    この解釈は他のモードスケールでも成り立つので
    音楽の可能性は一気に広がると思っているんですが。

  3. ドリアン より:

    返信ありがとうございます。
    つまりフリジアン、スパニッシュ含め、イオニアンからロクリアンまで全てを平行調とみなすということでしょうか?

  4. 後藤 晃 より:

    >>フリジアン、スパニッシュ含め、イオニアンからロクリアンまで全てを平行調とみなすということでしょうか?
    そういうことになります。
    フラメンコはフィリジアンベースですが、
    例えばブルースなどブルーノート系の音楽は
    ドリアン・ミクソリディアンをベースにした調性ととらえることもできます。
    ブルース系の音楽まで拡大解釈するなら
    Cメジャー=Dマイナーブルース(ドリアン)=Eスパニッシュ=Gメジャーブルース(ミクソ)=Aナチュラルマイナー
    となります。
    コードの並び方やメロディのフレージングでルートに感じる音が変化します。
    ブルースでドリアンやミクソリディアンを使うときはm3とM3併用で、b5なんかも入ってきます。
    ブルースメジャーをドリアン寄りで弾くかミクソ寄りで弾くか、ということになります。
    ちなみにスパニッシュもm3とM3併用ですし、そのへん本気で解析するとかなり大変ですが
    この考え方はモードスケール以外にも適用できるし
    とくに民族音楽系の分析に役立つと思います。