リズム形式に入る前に、スケール・コードなどの音程関係のことを一通りやっておこうと思います。
今回の記事の基礎知識として『音楽理論ライブラリー』の記事をいくつか読んでいただくことをお勧めします。
コード機能
一般的な音楽にはコード進行があり、コードにはそれぞれ『コード機能』がついています。
コード機能についてはこちらをご覧ください。

一般的な代理コード
同じキーの中でコード機能が同じもの同士は『代理コード』と呼ばれ互換性があります。
同じキーのダイアトニック同士の互換性については以下の記事の中で解説しています。

ノンダイアトニック系の代理コードはこちらで解説しています。

同主調系コードについて
平行調(CメジャーとAマイナーとポルアリーバなど)のコードやスケールは構成音が同じなのでほぼ完全な互換性がありますが、同主調(CメジャーとCマイナーなど、ルート音が同じもの)も完全な代理関係ではないものの『一定の』互換性があります。
例えばCメジャーキーの曲にCマイナー系のコードであるFm7などがでてくることがありますが、これ単発であれば『転調』というほどではなく『Cメジャーキーに対するサブドミナントマイナーコード』ととらえることができます。
同主調転調については以下の記事にも書いています。

フラメンコ音楽での例
フラメンコの音楽でも同主調が混在するものは多いです。
形式でいうと『タンギージョ・デ・カディス』など、メジャーとマイナーを混ぜて歌われますが、ああいうイメージです。
特筆すべきはメジャー・マイナーだけでなく、フラメンコ的同主調転調としてミの旋法も加わるので、例えばタンギージョでよく使うAのキーだと
- Aメジャー
- Aマイナー
- Aスパニッシュ=ポルメディオ
さらには、Aマイナー平行調のEスパニッシュ=ポルアリーバといったキーが入り乱れることになります。
タンゴやブレリアでもこういう転調遊びが多いですが、場合によっては上記に加えて、Aメジャー平行調のC♯スパニッシュなども入ってきたりします。
転調を絡める歌は以外と多いので、そういう歌の伴奏は注意が必要です。
以下にフラメンコの『ミの旋法』におけるコード機能・代理コード・コードスケールなどを包括的にまとめてみます。
ミの旋法にコード機能と代理コードを設定してみる
ミの旋法にコード機能を設定するとどうなるでしょうか?
前回までにやったポルアリーバのダイアトニックコードとコードスケールをベースに考えてみます。
ベースになるフィリジアンスケールはマイナー系なので、マイナー系のコード機能が中心になります。
キーはポルアリーバで書きます。
♭ⅡとⅤはドミナント7th化したものが普通に出てくるので併記します。
E7(T) Ⅰ7 スパニッシュ
Em7(DM) Ⅰm7 フィリジアン
FM7(SDM)♭ⅡM7 リディアン
F7(D) ♭Ⅱ7 リディアン7th
G7(DM) ♭Ⅲ7 ミクソリディアン
Am7(TM) Ⅳm7 エオリアン
Bm7♭5(SDM)Ⅴm7♭5 ロクリアン
B7(D)Ⅴ7 HMP5B
CM7(TM) ♭ⅥM7 イオニアン
Dm7(SDM)♭Ⅶm7 ドリアン
あくまで自分個人的な解釈ですが、実用上の代理関係などを考慮して設定してみました。
Am=トニックマイナーについて
これをやって改めて気がつきましたが、Eスパニッシュ=ポルアリーバはE7(T)とAm(TM)のダブルトニックじゃないか?と思いました。
ポルアリーバはAmから始まるパターンも多くてAmはトニックマイナーに感じます。
Amへの終止の場合、E7はドミナント的に働きます。
CM7=トニックマイナーについて
トニックマイナーのCM7については、フラメンコの原型であるソレアの歌でも、途中一旦Cコードに不完全終止してからEにもどっていくのでトニック系に設定。
F系コードについて
F系は悩みましたが、FM7はサブドミナントマイナー、F7と裏コードのB7はEに向けて完全なドミナントモーションがかかるのでドミナントとしました。
つまりF→Eの進行はドミナント進行をはらんだサブドミナントマイナー進行、となります。
実用上のF代理になるDm7とBm7♭5もサブドミナントマイナーに設定。
G7とEm=ドミナントマイナーについて
G7とEm7は実用上の代理関係にあるように思います。
ですのでこの二つはセットでドミナントマイナーとしました。
G7はCへの、Em7はAmへの五度進行を想定したドミナントマイナー機能です。
EmはⅠmコードですが、フラメンコのコード進行の中で出てくるとあまり終止感がなくて、どちらかというとE7よりG7と互換性が強いように思うのでこうしました。
――フレーズによってはトニックマイナーっぽい場合もありますが。
ミの旋法での各種代理コード
ミの旋法上でも、今回の講座の前半に取り上げた
裏コード・パッシングdimなどの代理コードは普通に利用可能です。
同ルートのメジャー・マイナーへの一時的転調を考慮すればメジャー・マイナーのダイアトニック系コードの使用も可能でしょう。
ただし、ミの旋法に限らず、構成音変化を伴うコードの使用は、いつでもどこでも、というわけにはいかないので注意が必要です。
特にアンサンブルでどうしても使いたいなら、打ち合わせが必要になる場合があります。
フラメンコ音楽特有のコードボイシング
以上でフラメンコ音楽で使われるコードとスケールの基本部分をほぼ網羅したと思います。
あとは半音ぶつかりや異弦同音の多用といったフラメンコギター独特のコードボイシングや、一般の理論に当てはまらないテンションノートなどの問題が残ります。
『フラメンコ・テンション』
最初のほうに少し解説しましたが、カンテでは昔からスパニッシュスケールのM3音を遊びでいろんなところに入れるので、結果的に半音ズレたようなオルタード系テンションになったりします。
ギターの半音ぶつかり・異弦同音
フラメンコギターでは、ストレッチフォームやハイポジション+解放弦といっためんどくさいコードのおさえかたをしてまで、半音ぶつかり(一般音楽理論ではNGとされてたりします)や異弦同音を作りにいきます。
ギターでの響きにこだわったコードボイシングですが、これがフラメンコ音楽の大きな特徴となっています。
そのあたりは全部一気に解説はできませんので、今後、形式解説とともに個別に扱っていきたいです。
ここでは予備知識として、ここ数回でやった一般理論とは異なる発想の響きが多用されて、それが『フラメンコらしさ』を形づくっている、ということをおぼえておいていただければ、と思います。
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