前回まででフラメンコの2拍子系形式として、タンゴ系と北部起源系をやってきました。
2拍子系のほとんどは上記二つのタイプのコンパスになりますが、それ以外のコンパスも存在します。
今回はタンゴ系・北部起源系以外の『その他の二拍子系リズム』の代表としてルンバとサンブラをご紹介します。
サンブラに関してはタンゴの派生形式という側面もありますが、他のタンゴ系とかなり異なるリズム的特徴があるので、番外編的にここで取り扱います。
ルンバ
単数形 Rumba
複数形 Rumbas(あまり使いません)
フラメンコの多くの形式がもとになった歌があって成立していますが、ルンバ形式はリズムパターンから成立している形式です。
なので、他の形式のように特定の歌やコード進行、慣用句があるわけではなく、いろんなモノをルンバのリズムにのせて演奏して、それをルンバ形式としています。
要するに特定のリズムパターンを使っていれば何でもルンバと呼べるわけで、そのリズムパターンもかなり幅があったりして、実体が掴みにくい形式かもしれません。
今回は、実例をあげながらルンバのリズムバリエーションを解説していきます。
ルンバのリズムパターンも色々ありますが、まずはそれら全てに共通する特徴をあげていきます。
ルンバの拍子
リズムパターン的には一般的な4拍子と思っていただいて大丈夫です。
ルンバに関しては何拍で1コンパスとかメディオコンパスというような概念も希薄なので、普通の音楽のように4拍子の小節単位で出来ているという認識で大丈夫です。
ルンバのテンポ
テンポは速い場合が多いです。
150~240BPMくらいが中心です。
ルンバの基本的リズムパターン
ルンバの基本になるリズムパターンはラテンのルンバと同じで、符点4分音符2つ+4分音符1つで1小節=最小単位です。
8分音符に分解して書くと
●○○●○○●○
譜面で書くと
ですね。
これが全てのルンバのベースパターンになります。
では、実例とともにルンバのリズムバリエーションを見ていきます。
伝統的なルンバ・フラメンカ
ほぼ基本的アクセントそのまま演奏する場合が多いです。
フラメンコギターだとこんなパターンになります。
4拍目にミュートのアタックを入れたりします。
1970年代までのパコ・デ・ルシアなども、このパターンで演奏しています。
ジフシーキングスが広めたジプシールンバ
これは厳密にはフラメンコではありませんが、ジフシーキングスの世界的ヒットによりメジャーになったリズムで、フラメンコのアーティストも逆輸入して演奏したりします。
上記の伝統的ルンバ・フラメンカのパターンをベースにバックビートを強調したパターンも多用していきます。
こんな感じです。○1つが8分音符です。
○○●●○○●●
譜面で書くとこうなります。
1拍目や3拍目の頭にゴルペというか、指の先や手のひらでボディを叩く音を入れたりします。
クラブ・ハウス・テクノ系のアレンジとも相性が良かったりして、このリズムパターンは今や世界中に広まっています。
色んなアレンジに適合するし、非常にキャッチーな説得力があるので、お手軽に他ジャンルにフラメンコのカラーを入れたい、という時に多用されます。
モダンスタイルのルンバ
1980年代後半頃からパコ・デ・ルシア&カマロン、トマティートといったアーティストが演奏して広まったノリです。
1990年代以降は若い世代のフラメンコ側のアーティストはルンバと言えばほぼこちらのリズムで演奏しています。
ケタマやバルベリアなどのフラメンコバンドもこのリズムをベースにして多くのヒット曲を書いています。
自分がフラメンコを始めたころ、このリズムを習得したかったのですが、どうやって弾いているのかわからなかったです。
当時は日本にはこのリズムはまだ伝わっておらず、教えてくれる人もいなかったので、スペインに行って真っ先に教わったのはこれだったりします。
具体的には
- 1拍目や3拍目の頭を出さない
- 4拍目を強調して
- コードも4拍目の表か裏で変わる
というシンコペーションリズムです。
・○○●・○●●
こんなリズムですが・の部分はあまり音を出しません。
譜面で書くと
ルンバ・フラメンカ基本パターンと同様に4拍目にミュートでアタックを入れたりもするんですが、そのまま親指で4裏を弾き、次の1拍目頭はスキップ、という具合です。
慣れないと安定して弾くのが難しいリズムパターンですが、はまると凄く気持ちいいです。
このリズムは、ボサノバ・サンバカッティング的な爪弾き奏法と併用されたりして、ジプシールンバ系のガシガシしたノリに比べて、全体に洒落た印象になります。
キューバ・ブラジル系のリズムと相性抜群です。
ルンバタンゴ
タンゴ系の歌をルンバ系のコンパスで演奏しているのもを自分は『ルンバタンゴ』と呼んでいますが、一般的な呼称かはわかりません。
ルンバとタンゴのコンパス的な違いは
- 2拍目の裏を強く弾くか弾かないか
- 1サイクルが4拍か8拍か
- 7拍目でハッキリ止まるようなレマーテやジャマーダがあるか
っていうようなことと思いますが、中間的なリズムパターンもあったりで『ここからルンバ』みたいなハッキリとした線引きはないんじゃないでしょうか?
1990年代以降のフラメンコのCD作品の多くで、テンポが速いタイプのタンゴは形式名タンゴになってますが、リズムはモダンスタイルのルンバでやってるものが多いです。
カマロン以降の、ポティート、ドゥケンデ、シガーラとかはみんなそんな感じです。
ルンバタンゴの場合、レマーテなんかの締めくくりは、7拍目ではなく、8拍目の表裏で締めるパターンが多いのも特徴です。
コロンビアーナ
単数形 Colombiana
複数形 Colombianas
グアヒーラのときに解説した、逆輸入系メロディーを持つ2拍子形式のコロンビアーナも、歌の音源やギター曲ではルンバのリズムパターンが採用される場合が多いです。
踊りに入る場合はタンゴのコンパスのほうがやりやすいのでタンゴ寄りの弾き方が多いですが。
コロンビアーナのキーはグアヒーラと同じAメジャーが多いですが、他のメジャーキーでも演奏されます。
1990年代に一時、変則チューニングでのコロンビアーナが流行しました。
サンブラ
単数形 Zambra
複数形はあまりききませんが、Zambrasということもあるんでしょうか。
サンブラはグラナダを中心に歌われてきたタンゴの一種ですが、リズムのニュアンスが一般のタンゴ系と異なります(タンゴのコンパスで演奏される場合もあります)。
サンブラはグラナダ周辺の古い民謡がルーツになっていると言われています。
この形式は主に婚礼の際に歌い踊られてきましたが、その音楽的な特徴は『アラブ音楽のフラメンコ的解釈』というような趣きです。
ナスル朝最後の砦グラナダらしい形式ですよね。
一般的なタンゴより少しゆっくり演奏されますが、他のどの二拍子系形式とも異なるコンパス感です。
粘ったりしないイーブンテンポで、アクセントもわりと均等です。
一時、ギターソロ曲としてサンブラが流行したことがあって、開放弦をドローンのように鳴らしながら、アラブ音楽風のフレーズを弾いていったりします。
このようにギターソロ曲は特徴的なものがありますが、歌のコード進行はミの旋法Ⅳmからの下降進行・五度進行やⅠと♭Ⅱの循環などが骨組みになっていて、一般的なタンゴとそんなに変わりません。
近年サンブラ形式のリバイバルがあり、エストレージャ・モレンテの歌唱が話題になりました。
それに伴ってサンブラ形式への踊りの振り付けも盛んに行われるようになりました。
――今回でフラメンコの形式解説は一通り終わりました。
これでフラメンコの全てを網羅出来てるとはとても思えないし、まだ解説していないマイナー形式もありますが、あまり歴史学、分類学的な展開はこの企画の趣旨から離れていってしまうので、基本をおさえるのに止めておこうと思います。
次回からは、また『演奏する』ということに立ち戻って続けたいと思います。
今回、ルンバの解説で現代のフラメンコの実戦的な内容にも触れましたが、今後はそういう現代のフラメンコと、自分の長年の研究テーマでもある『フラメンコと他の音楽のフュージョン』『フラメンコ音楽の新たな可能性』といった事にも踏み込んでいきたいと思います!
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