フラメンコ音楽論第26回は、港町マラガのタンゴであるタンゴ・デ・マラガをご紹介します。
タンゴ・デ・マラガは一般的なタンゴと異なり、マイナーキーを基調に演奏されるのが特徴です。
タンゴ形式の解説はこちらをご覧下さい。
タンゴ・デ・マラガ形式概要
単数形:Tango de Malaga
複数形:Tango de Malaga
主な調性:Aマイナーキー
テンポ(歌):100BPMから140BPM
テンポ(踊り):70BPMから100BPM
タンゴ・デ・マラガは踊りの形式としてかなりの演奏頻度がありますが、ティエント同様に女性向けの踊りとされています。
「マイナーキーのゆっくりした2拍子」ということで、ファルーカと似ていますが、ファルーカは男性向けの踊りとされていて、コンパスの感じも少し違います。
なんというか、ファルーカのほうが男性的な四角いコンパスで、タンゴ・デ・マラガはそれに比べると丸みのある柔らかい印象です。
タンゴ・デ・マラガとファルーカの違いはファルーカの記事で詳述していますので、そちらもご一読下さい。
タンゴ・デ・マラガの調性
タンゴ・デ・マラガは主にAマイナーキーで演奏されますが、歌(Aマイナーキーの場合)はAメジャーキーやポルメディオ(Aスパニッシュ調)が混じることがあります。
Aマイナーキーの場合、カポタストの位置は、女性歌手なら4カポか5カポ(実音C♯マイナーキーからDマイナーキー)、男性歌手なら1カポから2カポ(実音B♭マイナーキーからBマイナーキー)あたりが中心です。
タンゴ・デ・マラガのコンパス
タンゴ・デ・マラガは、基本的にはティエントに近いコンパスで演奏されますが、ティエントに比べるとリズムを粘らせる度合(リズムの粘りについてはティエントの記事を参照)いは少ないです。
また、ファルーカと較べるとタンゴ・デ・マラガはタンゴがベースとなっているため偶数拍(2,4,6,8拍目、バックビート)が強い傾向があり、ファルーカより柔らかく立ち上がるコンパスになります。
テンポはティエントとほぼ同じくらいで、踊りが入る場合、70BPMから100BPMくらいの粘りの無い正テンポで演奏されますが、カンテソロだとテンポが少し速くなって(100BPMから140BPMくらい)、ティエントのように粘るリズムが増える感じです。
①1コンパス8拍、②7拍目が締めくくり、③フレーズやコードは1拍目と5拍目で変わる、という基本は他のタンゴ系形式と同様で、ギターのマルカールは下のように弾かれます。4/4拍子で2小節で1コンパス(8拍)です。
|E7|Am|
タンゴ・デ・マラガの歌
タンゴ・デ・マラガの歌は、マラガの歌い手、エル・ピジャージョ(El Piyayo)が創唱したものが代表的です。
歌の構成やコード進行は、タンゴの時に解説したタンゴ・デ・トリアーナのうち、Aマイナーキー+Aメジャーキーで演奏されるタイプのものに類似しますが、こうした事からも、タンゴ・デ・カディス(カディス)→タンゴ・デ・トリアーナ(セビージャ)→タンゴ・デ・マラガ(マラガ)と、アンダルシア西端のカディスから東へと伝播してきたタンゴの系譜が見てとれますよね。
タンゴ・デ・マラガの歌のコード進行
以下に、タンゴ・デ・マラガの代表的な踊り歌の進行を紹介します。書式は次の通り。
- 4拍子(1小節4拍)で記載
- 1行で1コンパス(8拍)
- 1小節に複数のコードが入る場合は半角スペースで区切る
- ()内のコードは省略されることもある
- キーはAマイナーで記載
- コンテスタシオン(合いの手)は歌が休みになる部分で、普通は0コンパス(コンテスタシオン無し)から2コンパス
- 半コンパス(4拍)単位でサイズが変わる事がある
|Am E7|Am|
コンテスタシオン
|Am A7|Dm|
|Dm A7|Dm|
エストリビージョ
|(Dm) E7|Am|
|(B7) E7|Am|
|(Dm) E7|Am|
|(B7) E7|Am|
()が付いている所は最初からE7で弾くこともあるし、DmやB7やFでモーションをかける場合もあって、そのあたりは歌い手の歌い方にもよります。
ディグリー(度数)表記版
|Ⅰm Ⅴ7|Ⅰm|
コンテスタシオン
|Ⅰm Ⅰ7|Ⅳm|
|Ⅳm Ⅰ7|Ⅳm|
エストリビージョ
|(Ⅳm) Ⅴ7|Ⅰm|
|(Ⅱ7) Ⅴ7|Ⅰm|
|(Ⅳm) Ⅴ7|Ⅰm|
|(Ⅱ7) Ⅴ7|Ⅰm|
後歌のタンゴ
タンゴ・デ・マラガの後歌はタンゴのコンパスになりますが、踊りの後歌では大体決まったものが歌われます。
以下に、踊りの後歌で良く使われる歌のコード進行を2パターン書いておきます。書式は上に書いたものと同様です。
スタンダードな後歌①
踊りのレトラ(本歌)に繋げる形で歌われる事が多い歌です。
|Am E7|Am|
|Am A7|Dm|
|Dm A7|Dm|
|Dm A7|Dm|
エストリビージョ
|Dm E7|Am|
|E7|Am|
|(Dm) E7|Am|
|E7|Am|
ディグリー(度数)表記版
|Ⅰm Ⅴ7|Ⅰm|
|Ⅰm Ⅰ7|Ⅳm|
|Ⅳm Ⅰ7|Ⅳm|
|Ⅳm Ⅰ7|Ⅳm|
エストリビージョ
|Ⅳm Ⅴ7|Ⅰm|
|Ⅴ7|Ⅰm|
|(Ⅳm) Ⅴ7|Ⅰm|
|Ⅴ7|Ⅰm|
スタンダードな後歌②
こちらも良く歌われる後歌で、最後に「アイレレレレ~」というリフレインが入ったりします。
|Am E7|Am|
|E7|Am|
コンテスタシオン
|Am E7|Am|
|E7|Am|
|E7,Am|Am|
エストリビージョ
|Dm|Am|
|E7|Am|
|E7|Am|
|E7|Am|
ディグリー(度数)表記版
|Ⅰm Ⅴ7|Ⅰm|
|Ⅴ7|Ⅰm|
コンテスタシオン
|Ⅰm Ⅴ7|Ⅰm|
|Ⅴ7|Ⅰm|
|Ⅴ7,Ⅰm|Ⅰm|
エストリビージョ
|Ⅳm|Ⅰm|
|Ⅴ7|Ⅰm|
|Ⅴ7|Ⅰm|
|Ⅴ7|Ⅰm|
同主調転調について
上に挙げた3つの歌は、全て「基本型」ということで、同主調転調が無いパターンで書いてますが、歌い手の歌い方によっては同主調の転調が入る場合があります。
Aマイナーキーの場合だと、Am(Ⅰm)の部分がAメジャーキーに転調してA(Ⅰ)に変化したり、ポルメディオ(Aスパニッシュ調)が絡む場合は、E7(Ⅴ7)がB♭(♭Ⅱ)に変化したり、といった感じですね。
こういう同主調転調は、マイナー/メジャー型のタンゴ・デ・トリアーナと共通の特徴ですが、どちらの歌も同主調転調のパターンもあるという事を知らないと、初めて聴く歌に耳だけで対応するのは難しいものです。
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