カーニャ(La Caña)【フラメンコ音楽論13】

フラメンコ音楽論ではここまでで、ソレア及びソレア・ポル・ブレリア、アレグリアスを含むカンティーニャス系、そしてブレリアと、代表的な12拍子形式をやってきました。

今までやってきた12拍子系の形式は、色々なものの影響はあるにしろ、フラメンコのオリジナルなものです。

一方で、今まで紹介してきたようなフラメンコオリジナルな形式以外にも12拍子で演奏される形式は存在していて、その多くは土着の民謡などがフラメンコ化したものです。

今回はそうした民謡系12拍子形式の一つであるカーニャをご紹介します。

カーニャ形式概要

単数形:Caña、La Caña
複数形:あまり使われません
主な調性:ポルアリーバ(Eスパニッシュ調)
テンポ:100BPMから170BPM

カーニャは複数形は使わないです。定冠詞をつけて、ラ・カーニャとも呼ばれます。

カーニャの起源は古く、もともとはロンダ、マラガあたりの民謡だったのが、フラメンコに取り込まれてソレアファンダンゴのコンパスで歌われるようになったようです。

カーニャは19世紀に最盛期を迎えた後に一旦下火になりますが、その後、カンテのコンクールを中心に再び歌われるようになり、カルメン・アマジャ(Carmen Amaya)が踊りのレパートリーとして確立して以降は、踊り曲としてメジャーな形式に返り咲いています。

音楽的には、ラメントと呼ばれるリフレインがカーニャの最大の特徴です。

ギターのフレージングはソレアとの共通部分が多いですが、カーニャのような民謡系の12拍子派生形式は、民謡のメロディーをカンテ化したものにソレアやブレリアやファンダンゴ系の伴奏パターンを後付けする形で成立したものと考えられます。

カーニャの調性

カーニャは主にポルアリーバ(Eスパニッシュ調)で演奏され、カポタストの位置はソレアと同じか、やや低いくらいで、女性歌手は6カポか7カポ(実音B♭かBスパニッシュ調)、男性歌手なら3カポか4カポ(実音GかG♯スパニッシュ調)あたりのキーです。

カーニャのコンパス

カーニャのコンパスは速めのソレアからソレア・ポル・ブレリアくらい(100BPMから170BPMくらい)で演奏されることが多く、リズムパターンはソレア、ソレポルと同様です。

ちなみに、速いテンポで演奏していたとしても、ラメント部分だけはテンポを落としたりリブレにしたりするのですが、ラメントについては後述します。

カーニャの伴奏パターン

カーニャのギター伴奏はソレア系のパターンも使われますが、ソレアやソレポルでは出てこないカーニャ独自の慣用句がいくつかあります。

  • ラメントをコード弾きにしたレマーテ
    E F G F E……という進行で、イントロや区切りのレマーテに使われる
  • Eコードでミ、ファ、ミ、ファから始まるエスコビージャ伴奏パターン
    カーニャとポロ(後述)のラインがミックスされたバイレ伴奏のパターン
  • CとG7の2コードのエスコビージャ伴奏パターン
    ポロのラインがベースとなったバイレ伴奏パターン。平行調のCメジャーキーに寄った展開で、最後E7に落とす所以外はCメジャーのカラコレス等とほぼ同じ動き

カーニャの歌の構成

カーニャの歌は数種類しか無いのですが、歌手の裁量によるサイズ変化が多く、メディオコンパスも頻繁に出てきます。

ラメントについて

カーニャの最大の特徴としてラメントと呼ばれる、E→F→G→F→Eの音程で演奏される独特のリフレインがあります。

ラメント部分はテンポを落としたり、自由リズムになったりもしますが、それまでの歌のテンポのまま演奏することもあります。

ラメントのリズムは、ソレアでいう1拍目から入って、6拍でひとかたまりですが、繰返し回数は踊り手と歌い手がやりたい長さになるので、6拍単位で伸び縮みします。

ポロについて

カーニャに類似したポロ(Polo)という歌があります。

ポロのコード進行は、ポルアリーバならC・F・GというCメジャーキーの3コードが中心となり、最後にF→Eへと落ちていく展開になります。

ポロは本来は独立した形式の歌ですが、現在はポロは単体ではなくカーニャとセットで演奏される事のほうが多いです。

ラメント後半にポロのセクションがついた場合、ラメントが引き伸ばされてロングバージョンになる感じです。

カーニャの歌のコード進行

カーニャの歌は何種類かありますが、1節目でAmに行くのが最も一般的なものですので、そのコード進行を掲載します。コード進行表の書式は以下の通り。

  • 12拍子の1拍目を頭にした3拍子で記載
  • 1行でメディオコンパス(6拍)
  • ○はコードチェンジ無しの拍
  • ()内のコードは省略される場合もある
  • キーはポルアリーバ(Eスパニッシュ調)で記載
  • コンテスタシオン(合いの手)は歌が休みになる部分で、普通は0コンパス(コンテスタシオン無し)から2コンパス
  • ※マークが付いている行は省略されることもある
  • 半コンパス単位でサイズが変わる事がある

|E ○ ○|○ ○ ○|
|○ ○ ○|Am ○ ○|

コンテスタシオン

|○ ○ D7|○ ○ ○|
|○ ○ ○|G ○ ○|

コンテスタシオン

|○ ○ D7|○ ○ ○|※
|○ ○ ○|G ○ ○|※

コンテスタシオン

|○ ○ D7|○ ○ G|
|○ ○ ○|F ○ ○|

|(Am) (G) F|○ ○ ○|
|○ ○ ○|E ○ ○|

|○ ○ F|○ ○ ○|※
|○ ○ ○|E ○ ○|※

ラメント
|E F G|F E ○|
|E F G|F E ○|

|E F G|F ○ ○|
|F (E) C7|F ○ ○|

|F (E) C7|F ○ ○|
|Am G F|E ○ ○|

ディグリー(度数)表記版

|Ⅰ ○ ○|○ ○ ○|
|○ ○ ○|Ⅳm ○ ○|

コンテスタシオン

|○ ○ ♭Ⅶ7|○ ○ ○|
|○ ○ ○|♭Ⅲ ○ ○|

コンテスタシオン

|○ ○ ♭Ⅶ7|○ ○ ○|※
|○ ○ ○|♭Ⅲ ○ ○|※

コンテスタシオン

|○ ○ ♭Ⅶ7|○ ○ ♭Ⅲ|
|○ ○ ○|♭Ⅱ ○ ○|

|(Ⅳm) (♭Ⅲ) ♭Ⅱ|○ ○ ○|
|○ ○ ○|Ⅰ ○ ○|

|○ ○ ♭Ⅱ|○ ○ ○|※
|○ ○ ○|Ⅰ ○ ○|※

ラメント
|Ⅰ ♭Ⅱ ♭Ⅲ|♭Ⅱ Ⅰ ○|
|Ⅰ ♭Ⅱ ♭Ⅲ|♭Ⅱ Ⅰ ○|

|Ⅰ ♭Ⅱ ♭Ⅲ|♭Ⅱ ○ ○|
|♭Ⅱ (Ⅰ) ♭Ⅵ7|♭Ⅱ ○ ○|

|♭Ⅱ (Ⅰ) ♭Ⅵ7|♭Ⅱ ○ ○|
|Ⅳm ♭Ⅲ ♭Ⅱ|Ⅰ ○ ○|

カーニャの歌のバリエーション

カーニャの歌には上記の最初にAmに行くパターンの他に、いくつかのバリエーションがありますが、以下の2つが代表的なものです。

  • 最初AmではなくCに行くパターン
    このパターンは途中でAmの中締めが入ったりする
  • AmやCを経由せずに最初からGに行くパターン

なお、踊りの後歌につくブレリアはCメジャーキーから入って、歌の間ずっとCメジャーキーで回して、最後だけF→Eに落ちていくポロ的なパターンのものが多いです。

――次回は、カーニャと同じ民謡系12拍子形式のバンベーラを取り上げようと思います。

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