前回まで12拍子系の形式をやってきましたが、今回から12拍子系の近縁リズム形式である変拍子系に入ります。
変拍子系のコンパスについて
ここでいう変拍子系のコンパスは12拍子の一種と考えることもできます。
変拍子系のコンパスは12拍子と同じく12拍のサイクルのなかに5つのアクセントをもつリズムですが、アクセントとアクセントの間を1拍としてカウントすることが多いです。
その場合、1拍の長さが不均等な変則5拍子ということになるので『変拍子系』というカテゴリーにしました。
変則5拍子系のコンパスは大別して2種類あります。
- 3.3.2.2.2型~グアヒーラ、ペテネーラ
- 2.2.3.3.2型~シギリージャ系
3+3+2+2+2=12
2+2+3+3+2=12
拍数を合計すると、どちらも12拍になるので12拍子のバリエーションと考えることもできますが、ソレア系の12拍子とはいろいろ異なる点があるのでカテゴリーを分けました。
今回はブレリアの一種ともとれるリズムサイクルの『』3.3.2.2.2型コンパス』をやります。
3.3.2.2.2型コンパス
フラメンコの変拍子系形式は譜面で書くと、6/8拍子と3/4拍子の複合拍子で書かれることが多いですが、今回扱う3.3.2.2.2型はブレリアのたくさんあるリズムパターンのうち、ひとつの形に固定化したようなコンパスです。
12拍子でのカウント
踊りの人は12,1,2~とブレリア式にカウントしたりします。
グアヒーラ、ペテネーラの踊りの振りは12拍子系からの流用が多いためです。
ブレリア式のカウントを書くと以下の通りです。
⑫ 1 2 ③ 4 5 ⑥ 7 ⑧ 9 ⑩ 11
リズムパターンとしては、ブレリアにも全く同一のものがありましたよね。
変則5拍子でのカウント
1拍目と2拍目が長い5拍子としてカウントするやり方です。
① ○ ○ ② ○ ○ ③ ○ ④ ○ ⑤ ○
カウント方法は主にこの二種類ですが
要するに3拍、3拍、2拍、2拍、2拍
というアクセントのサイクルを持つリズムです。
3.3.2.2.2型で演奏される形式
このコンパスで演奏される形式は以下の2つが代表的です。
- グアヒーラ(メジャーキー)
- ペテネーラ(ポル・アリーバ)
これらは起源も全然違うわけですが、例によって三拍子の歌にブレリア系のコンパスを後付けしたものと思われます。
クリスマスソングのカンパニジェーロスもこのコンパスで演奏されることがあります。
3.3.2.2.2型と12拍子系の違い
グヮヒーラとアレグリアス
ペテネーラとソレア
これらは似ていますが、最大の違いはコンパスへのメロディーの乗せ方です。
12拍子系は1または12から入って、10に解決するフレージングが基本ですが、3.3.2.2.2型はブレリア式カウントで言うと、12から入って6に解決するフレージングが主体です。
従ってコードの変わり目も12拍目と6拍目となります。
3拍目で経過コードが入ることも多いです。
メロディは6拍目に解決しますが、締めくくりはブレリアと同様10拍目です。
ジャマーダも10で止まります。
12拍子系ではコンパスもメロディも多彩な変化がありますが、3.3.2.2.2型はそれに比べると固定的です。
以下に3.3.2.2.2型コンパスの形式の中で演奏頻度が高いグアヒーラをご紹介します。
グアヒーラ形式概要
単数形 Guajira
複数形 Guajiras
グアヒーラは中南米風のメロディーをもち、逆輸入系形式と呼ばれています。
逆輸入系形式はグアヒーラの他に、コロンビアーナ、ミロンガなどがありますが、これらは共通の慣用句や節回しがあります。
逆輸入系形式の起源は、中南米のスペイン植民地からの引き上げ移民が伝えたメロディがフラメンコに取り入れられたものと言われています。
グアヒーラとコロンビアーナの関係
グアヒーラとコロンビアーナは同じような節回しなんですが、3拍子で演奏すればグアヒーラ、2拍子で演奏すればコロンビアーナとなります。
注意したいのは踊りの後歌(マチョ)のブレリアです。
コンパスは12拍子・3拍子系ですが、コロンビアーナの歌詞・メロディーを使うことが多く、ここで歌われるブレリアは習慣的に『コロンビアーナ』と呼ばれます。
グアヒーラのキー
キーは主にAメジャーで演奏されます。
カポタストの位置は
女性~4カポ(実音C♯メジャー)
男性~カポ無し(Aメジャー)
あたりが多いです。
グアヒーラのテンポ
グアヒーラのテンポですが、歌のソロの場合は速めのテンポの演奏が多く、130~200BPMあたりが中心です。
アレグリアスからゆっくりしたブレリアくらいですね。
踊りが入るとレトラの部分はゆっくりやることが多いです。
100~150BPMくらいが中心で、ソレアからアレグリアスくらいです。
踊りの後歌はブレリアのコンパスになりますが、リズムパターンはやはり3.3.2.2.2型が中心になります。
グアヒーラのコードワーク
グアヒーラのコードワークの特長をあげると
- ルートコードでのM6→m6の落ちの付け方(潜在的にⅣ→Ⅴ♭9の動きが入る)
- 3コード以外の代理コードやパッシングディミニッシュの多用
だいたいこんな傾向があり、3コード中心のカンティーニャス系より柔らかい音使いになります。
グアヒーラの歌
グヮヒーラの歌はだいたい決まった展開をしますが、それなりにバリエーションもあります。
コードは3コードのⅣの代理としてⅡm7が用いられます。
2節目のF♯7→Bm7のところですね。
最も代表的なパターンをあげておきます。
変則5拍子の1拍目=ブレリアでいう12拍目を頭にした3拍子で記載、1段で1コンパスです。
○はコードチェンジ無しの拍です。
キーはAメジャーキーで書きます。
|A ○ ○|E7 ○ ○|A ○ ○|○ ○ ○|
コンテスタシオン(無い場合もある)
|A ○ ○|F♯7 ○ ○|Bm7 ○ ○|○ ○ ○|
|○ ○ ○|F♯7 ○ ○|Bm7 ○ ○|○ ○ ○|
|E7 ○ ○|○ ○ ○|A ○ ○|○ ○ ○|
|○ ○ ○|F♯7 ○ ○|Bm7 ○ ○|○ ○ ○|
|E7 ○ ○|○ ○ ○|A ○ ○|○ ○ ○|
このあと2~4コンパス程度のエストリビージョがつくこともあります。
ディグリー(度数)表記版
|Ⅰ ○ ○|Ⅴ7 ○ ○|Ⅰ ○ ○|○ ○ ○|
コンテスタシオン(無い場合もある)
|Ⅰ ○ ○|Ⅵ7 ○ ○|Ⅱm7 ○ ○|○ ○ ○|
|○ ○ ○|Ⅵ7 ○ ○|Ⅱm7 ○ ○|○ ○ ○|
|Ⅴ7 ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ ○ ○|○ ○ ○|
|○ ○ ○|Ⅵ7 ○ ○|Ⅱm7 ○ ○|○ ○ ○|
|Ⅴ7 ○ ○|○ ○ ○|Ⅰ ○ ○|○ ○ ○|
このあと2~4コンパス程度のエストリビージョがつくこともあります。
踊りの後歌のコロンビアーナでは、本歌ではあまり使用しないⅣコード=Dが頻繁に使われます。
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